2009.01.18; 19   ↑UP 


特許法2条1項(自然法則)を争点とした知財高裁判決

2009.01.18  
井 上 雅 夫   
   目   次
 
1.はじめに
2.平成16(行ケ)188「回路のシミュレーション方法事件」2004.12.21判決(拒絶審決維持)
 2.1 本願発明
 2.2 知財高裁の判断の要点
 2.3 評釈
3.平成19(行ケ)10067「宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化を理論化する方法事件」2007.06.14判決(拒絶審決維持)
 3.1 本願発明
 3.2 知財高裁の判断の要点
 3.3 評釈
4.平成19(行ケ)10239「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置事件」2008.02.29判決(拒絶審決維持)
 4.1 本願発明
 4.2 知財高裁の判断の要点
 4.3 評釈
5.平成19(行ケ)10369「コンピュータに基づいた歯科医療システム事件」2008.06.24判決(拒絶審決取消)
 5.1 本願発明
 5.2 知財高裁の判断の要点
 5.3 評釈
6.平成20(行ケ)10001「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書の段階的相互照合的引く方法事件」2008.08.26判決(拒絶審決取消)
 6.1 本願発明
 6.2 知財高裁の判断の要点
 6.3 評釈
7.おわりに

1.はじめに

 アメリカのCAFCは、2008年10月31日、Bilskiビジネスメソッド事件CAFC大法廷判決において、米国特許法101条に規定する「プロセス」を構成するかどうかを決定するテストは、「機械または変換テスト」のみであると判示した。米国特許法101条に対応する日本の条文は、特許法2条1項の「自然法則を利用した技術的思想の創作」の要件である。そこで、日本の知財高裁の特許法2条1項(自然法則)に関する最近の判決を検討してみた。

 以下、特許法2条1項(自然法則)を争点とした知財高裁判決を判決日順に検討する。前の3件では知財高裁は特許庁の拒絶審決を維持しているが、後の2件では知財高裁は特許庁の拒絶審決を取り消している。


2.平成16(行ケ)188「回路のシミュレーション方法事件」2004.12.21判決(拒絶審決維持)


2.1 本願発明
 以下に争点となった請求項と代表図面を示す(特開平8−147267号公報参照)。段落分けは筆者(井上)による。

【請求項1】
 回路の特性を表す非線形連立方程式を、BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する回路のシミュレーション方法において、
 BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、
 予測子と修正子とのなす角度φ
j+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、
 前記判定ステップにおいて、前記角度φ
j+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップと、を含む
ことを特徴とする回路のシミュレーション方法。




2.2 知財高裁の判断の要点
 特許法2条1項には、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定され、同法29条1項柱書には、「産業上利用することができる発明をしたものは、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定されている。したがって、特許出願に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないときは、その発明は特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
 そして、数学的課題の解析方法自体や数学的な計算手順を示したにすぎないものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するものでないことが明らかである。
 (1)原告は、本件審決が、本願発明について、その「処理対象は「現実の回路」ではなく、『回路の特性を表す非線形連立方程式』によって表された「回路の数学モデル」である」と判断したことを争うものではないが、「上記『BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する』は、本願発明の「シミュレーション方法」の処理手順を特定したものであるが、当該特定事項は、純粋に数学的な計算手順を明記したにすぎない」(同頁)と判断したことが誤りであると主張するので、以下検討する。
  ア …原告は、本願発明の回路シミュレーションの処理対象が、現実の回路そのものではなく、回路の数学モデルであることは認めるが、当該数学モデルは、いわゆる純粋数学モデルではなく、回路を構成する各素子の電気特性を反映した数学モデルであり、回路を構成する各素子間に成立する自然法則であるキルヒホッフの法則から得られるモデルであって、現実の回路から乖離した観念モデルとして存在するのではないと主張する。
 しかしながら、本願発明の処理対象とされる「回路の数学モデル」について、特許請求の範囲には、「回路の特性を表す非線形連立方程式」と記載されるのみであって、回路の特性を物理法則に基づいて非線形連立方程式として定式化するという以上に、当該非線形連立方程式が現実の回路を構成する各素子の電気特性をどのように反映するものであるかは全く示されておらず、しかも、定式化されたモデルは数学上の非線形連立方程式そのものであるから、このような「回路の特性を表す非線形連立方程式」を解析の対象としたことにより、本願発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」となるものでないことは明らかであり、原告の上記主張は、失当というほかない。
  イ また、原告は、本願発明における、「非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線」が、設計された回路の入力電圧に対する出力電圧や出力電流等の関係を示す特性曲線であり、回路の動作特性を示す曲線である以上、回路の物理的ないし技術的性質を反映したものとなることは当然であり、この「解曲線」をBDF法を用いて追跡することで元の非線形連立方程式の解、すなわち回路の動作特性を解析できることを理由に、本件審決の上記認定が誤りであると主張する。
 しかしながら、非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線が、設計された回路の入力電圧に対する出力電圧や出力電流等の関係を示す特性曲線であるとしても、この方程式が描く非線形な解曲線をBDF法を用いて追跡することは、原告が自認するとおり、元の非線形連立方程式の解を求めることにほかならないから、このプロセスは、一般の非線形連立方程式の解法と何ら相違するものではなく、回路の物理的、技術的性質への考察を含むものでない。言い換えれば、本願発明において、現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映されるだけであって、その解析には何ら利用されないものであり、創作自体はあくまで、ホモトピー方程式を構成し、BDF法を用いて追跡することに向けられており、一旦非線形連立方程式の形になってしまえば、その解法は数学の領域に移行し、数学的な処理により解析が行われるにすぎないものといえる。そして、原告主張のように、ホモトピー方程式の解曲線を追跡することやBDF法自体が、非線形な特性曲線を呈する回路の動作特性を解析する有効な方法の一つとして、当業者に知られているからといって、そのプロセスが数学的な解析処理にすぎないことが否定されるものでもない。
 したがって、上記解曲線を追跡することは、数学的な手法といえるものであって、「自然法則を利用した技術的思想の創作」を含むものということはできないから、原告の上記主張は採用できず、本件審決が、本願発明の「回路のシミュレーション方法」について、「純粋に数学的な計算手順を明記したにすぎない」と判断したことに誤りはない。
 (2)原告は、本件審決が、非線形性を有する解曲線の疑似解に収束してしまうことを防止するための本願発明の構成である、「予測子と修正子とのなす角度を計算し、この角度が所定値より大きい場合には、数値解析幅を縮小して再計算する」ことについて、「純粋に数学的な非線形な解曲線に対する数値解析の計算手順(「回路の数学モデル」特有の処理と認められる点はなく、対象の技術的性質に基づいた情報処理に該当しない)にすぎない。(もちろん、現実の回路の特性に応じた処理でもなく、また、回路シミュレーション固有の処理でもない)」(3頁)と判断したことも誤りであると主張するので、検討する。
  ア 原告は、本願発明の、「予測子と修正子とのなす角度φj+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて、前記角度φj+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップ」が、非線形な動作特性曲線を呈する回路の特性を解析する一手法であるBDF法の処理をさらに特定したものであって、特性曲線たる解曲線が現実の回路において種々の形態を有し、回路によっては解析不能になるという技術課題を解決する具体的手段として機能するものであると主張する。
  (ア) (明細書の引用)
  (イ) 上記記載及び図8〜10によれば、@予測子修正子法に基づく解曲線追跡法に共通した欠点としては、修正子アルゴリズムが疑似解に収束して解曲線の追跡に失敗してしまうという周知の疑似解収束現象がある、Aこのような疑似解収束現象のうち、すべての帰還現象は、その現象に陥った点で修正子方程式のヤコビ行列の行列式の符号が反転することにより検出可能であるので、その時点でステップ幅を適当に小さくすれば、このような現象に対し適切に対応することができると考えられるが、この際にステップ幅が十分に小さくないと循環現象や準安定現象に移行することがある、また、B循環現象や準安定現象の場合でも、ヤコビ行列の行列式の符号が反転する場合は同様にして対応することができるが、そのようなステップ幅を事前に予測する実用的な方法は知られておらず、ステップ幅を常に小さくしたのでは計算効率が悪化してしまう、さらに、C修正子方程式の非収束現象については、特に大規模な系ではさまざまな非収束の状況があり、単純なステップ幅制御だけではNR反復が収束しないこともたびたび発生する、という各種の問題があったこと、本願発明は、これらの問題を解決することを課題とするものであることが認められる。
 そうすると、本願発明の目的は、BDF法を用いてホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を数値解析する際に疑似解収束現象や非収束現象が生ずるという問題を解決することにあるというべきところ、それは、数学的手法を用いて解曲線を解析する際に適切な解が得られないという問題を解決しようとすることにほかならないから、本願発明に技術的な課題があるとはいえない。
  (ウ) 原告は、本願発明が、現実の回路の形態によっては解曲線が解析不能になるという技術課題を解決する具体的手段として機能すると主張するが、本願発明で採用された課題解決手段は、「予測子と修正子とのなす角度φj+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて、前記角度φj+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップ」というものであって、回路の物理的性質を考慮した解決手段とは認められず、また、回路の物理的性質に起因するような特殊な非線形連立方程式の解法を求めるものでもなく、一般の非線形連立方程式(疑似解収束現象や非収束現象を生じて解析が困難となる場合と、そうでない場合の双方を含む。)の解法に用いるものと何ら相違しないものである(このことは、本件補正前後で上記の課題解決手段には実質的な変更がないにもかかわらず、本件補正前の本願発明の名称が「連立方程式解法」とされていたことからも明らかといえる。)。
  したがって、原告の上記主張は、採用することができず、本願発明の課題解決手段に「自然法則を利用した技術的思想の創作」があるとはいうことはできない。
  (エ) また、原告は、本願発明が、上記のような具体的手段を用いることで実用的回路の動作特性を解析でき、仕様どおりの電気特性を有するか否かを検証できるという技術的効果を達成することができると主張する。
 しかしながら、本願発明を回路のシュミレーションとして用いることにより原告の主張の効果を達成できるとしても、この効果は、非線形連立方程式の解曲線をBDF法を用いて数学的に解析した結果に基づくものであって、数学的な解が得られたことにより達成されるものであるが、本願発明は、前示のとおり、このような数学的な解析手段を提供しようとするに止まるものであるから、上記の効果は、本願発明自体が有する効果ということはできず、原告の上記主張には理由がない。
  イ 原告は、本願発明における非線形な解曲線は、単なる数学上の観念的曲線ではなく回路の動作特性を規定する特性曲線であって、自然法則で記述された回路方程式の解曲線に限定されたものであり、しかも、上記解曲線の解析は、回路シミュレーションの一方法としてのBDF法を用いた解析に限定されたものであるから、非線形な解曲線を擬似解に収束することなく追跡する数学的操作が知られており、当該数学的操作が一般の非線形曲線に同様に適用できたとしても、そのことにより本願発明の発明性が否定されるものではないと主張する。
 しかしながら、本願発明における非線形な解曲線が、回路の動作特性を定式化した非線形連立方程式の解曲線に限定されたものであり、上記解曲線の解析がBDF法を用いた解析に限定されたものであるとしても、前示のとおり、当該非線形連立方程式及び解析方法自体に「自然法則を利用した技術的思想の創作」が読みとれない以上、上記の限定が付されたことにより、本願発明の発明性が肯定されるということにはならず、原告の上記主張を採用することはできない。
  ウ 原告は、本願発明においては、現実の回路から規定される境界条件として、各パラメータの値が経験的に付与されており(【0085】【0086】)、この条件の下に現実的な解曲線が追跡されることが明らかにされているから、現実の条件を無視して単なる数学的問題として純粋に数学的な操作で求解するのではないと主張する。
 しかしながら、本願発明の非線形連立方程式をどのような境界条件の下で解析するかは、本願発明の特許請求の範囲のおいて全く示されておらず、本願発明の技術的な課題であるとは、到底認められない。また、現実の回路が境界条件を有しているからといって、前示のとおり、数学的な解法を示したにすぎない本願発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」となるものでないことは明らかである。しかも、原告が経験的に付与されると主張するパラメータの値も、本願発明の特許請求の範囲において特定されておらず、現実の回路との関係も明らかでないから、いずれにしても原告の上記主張は、採用の限りでない。
  エ 以上の説示に照らして、本願発明が、当該非線形連立方程式が現実の回路を反映したものであることに鑑みて各種パラメータを設定して単なる数学解ではなく現実の回路の特性に合致する解を算出することを当然の前提としている旨の原告の主張が、採用できないことも明らかである。
 なお、原告は、回路のシミュレーション方法に関する特許が成立した事例として、特許第3491132号(甲6)及び特許第3535731号(甲7)を提示するところ、仮にこれらの特許が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると認められるとしても、特許出願が発明としての法的要件を具備しているか否かは、当該特許出願の内容に即して個別に検討すべき事柄であるから、上記両特許の事例が、本願発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないとした前記説示に影響を及ぼすものではない(なお、前者の特許は、回路を定式化して方程式とする過程に関する発明であり、後者の特許は、実際の回路要素を用いた素子のモデル化に関する発明であって、いずれも、一旦定式化された後の方程式の解法に関する本願発明とは、事案を異にするものでもある。)。
 以上のとおり、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」でなく、特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

2.3 評釈
 本件の知財高裁は、「数学的課題の解析方法自体や数学的な計算手順を示したにすぎないものは、『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するものでないことが明らかである。」と判示している。

 そして、本件について、「本願発明において、現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映されるだけであって、その解析には何ら利用されないものであり、創作自体はあくまで、ホモトピー方程式を構成し、BDF法を用いて追跡することに向けられており、一旦非線形連立方程式の形になってしまえば、その解法は数学の領域に移行し、数学的な処理により解析が行われるにすぎないものといえる。」と判示している。

 知財高裁は、「現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映される」と判示しているから、請求項1のうち前提の部分である「回路の特性を表す非線形連立方程式を、BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する回路のシミュレーション方法において、」については、「自然法則を利用した技術的思想」と判断している可能性がある。


 しかし、本願の発明者が創作した部分は、この前提部分に続く「BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、…求め直すステップを含む」であり、この部分について知財高裁は、「一旦非線形連立方程式の形になってしまえば、その解法は数学の領域に移行し、数学的な処理により解析が行われるにすぎない」として、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないとしている。

 特許法2条1項には「自然法則を利用した技術的思想の創作」と規定されているので、この要件の判断の対象は、請求項全体ではなく、本願の発明者が「創作」した部分だけであるということなのだろうか。

 しかし、請求項の技術的範囲は請求項全体で決まるのである。したがって、本願の請求項1の技術的範囲は、あくまで請求項全体で特定される「回路のシミュレーション方法」だけを含むのであり、請求項1から前提部分を除いた「BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、…求め直すステップと、を含む」の部分だけで特定される非線形連立方程式の解法の全てを含むわけではない。

 仮に、本願発明の前提部分である「回路の特性を表す非線形連立方程式を、…する回路のシミュレーション方法」を発明(創作)した発明者が、同時に、本願発明と同じ発明も発明(創作)し、次の特許請求の範囲の出願をした場合は知財高裁はどうするのだろうか。アンダーライン部分は請求項1から修正した部分である。

【請求項1’】
 回路の特性を表す非線形連立方程式を、BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する回路のシミュレーション方法
【請求項2’】
 請求項1’に記載の回路のシミュレーション方法において、
 BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、
 予測子と修正子とのなす角度φj+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、
 前記判定ステップにおいて、前記角度φj+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップと、を含む
ことを特徴とする回路のシミュレーション方法。

 この特許請求の範囲の場合、知財高裁は、請求項1’については
、本件判決で「現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映される」と判示しているから、「自然法則を利用した技術的創作」であり特許適格であると判断する可能性があるのではないだろうか。一方、請求項2’は、本件判決と同じ論法で、数学的な処理により解析が行われるにすぎず、「自然法則を利用した技術的創作」ではないから特許不適格であると断定するはずである。請求項1’は基本発明であり、その技術的範囲は広い。これに対して、請求項2’は請求項1’の改良発明であり、その技術的範囲は狭い。技術的範囲の広い請求項1’は特許適格と判断する可能性があり、技術的範囲の狭い請求項2’は特許不適格と断定するのは奇妙である。

 アメリカのBilskiビジネスメソッド事件CAFC大法廷判決は、「Diehr[事件の合衆国最高裁判決]は、クレームが基本的原理だけに関するかどうかは本質的に排他権の範囲の審理である;すなわち、クレームを許す効果が特許権者にその基本的原理の実質的に全ての使用を占有することを許すことになるであろうかどうかである、と示唆していると理解することができる。そうであるなら、そのクレームは特許適格な発明特定事項に関するものではない。」と述べている。すなわち、米国特許法101条の特許適格要件では、排他権の範囲(技術的範囲)が、「基本的原理の実質的に全ての使用」を含む場合は特許適格ではないとされるのである。このような考え方に立てば、請求項1’が特許適格と判断する可能性があり、それより狭い請求項2’が特許不適格であると断定することはあり得ないことである。


 日本とアメリカで、法律も判例も異なっているのであるから、異なった結論になること自体は全く問題がない。しかし、常識的に考えて、技術的範囲が広い請求項1’が特許適格の可能性があり、技術的範囲の狭い請求項2’が特許不適格であるという知財高裁の判断は、特許制度全体からみて合理性があるとは思えない。

 ともかく、本願発明は、人間が手作業で回路のシミュレーションを行う方法の発明ではなく、回路シミュレータや回路解析装置等の装置において使用する方法であるのであるから、純粋な方法の請求項とせずに、装置の動作方法の請求項にすればよいのである。以下に、装置の動作方法にした請求項1”を示す。請求項1から修正した部分にアンダーラインを付けている。

【請求項1”】
 回路の特性を表す非線形連立方程式を、BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する回路のシミュレーション装置における回路のシミュレーション方法において、
 前記回路のシミュレーション装置は、演算手段と判定手段と再演算手段とを備え、
 前記演算手段が、BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、
 前記判定手段が、予測子と修正子とのなす角度φj+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、
 前記再演算手段が、前記判定手段により、前記角度φj+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップと、を含む
ことを特徴とする回路のシミュレーション方法。

 100%確実というわけではないが、請求項1”なら、多くの審査官、審判官は自然法則を利用していると判断すると思う。請求項1”の技術的範囲は、請求項1の技術的範囲から、業として実施するはずがない人間が手作業で行う回路のシミュレーション方法を除いただけのものである。業として特許発明の実施をする権利を専有する範囲である技術的範囲は事実上同じであるのに、請求項1”は特許法上の発明であり、請求項1は特許法上の発明ではないというのは、理解しにくい区別だと思う。



3.平成19(行ケ)10067「宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化を理論化する方法事件」2007.06.14判決(拒絶審決維持)
 
3.1 本願発明
  以下に争点になった請求項と代表図面を示す(特開2005−37867号公報参照)。段落分けは筆者(井上)による。

【請求項1】
 宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,記号等を用いて理論化することにおいて,
 記号化した対語だけを用い,
 宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである),その記号化した対語を羅列化することで,
 限定的に,そしてコンパクトに理論化する技術。



3.2 知財高裁の判断の要点
 図1−1〜6においては,「記号化した対語」として,「丁半」,「上下」,「体用」,「伯叔」等の多くの言葉が記載されている。
 図2−1〜6においては,それらの言葉が,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分類され,分類の理由が記載されている。例えば,「丁半」は,「文明開化」に分類され,その理由について「丁半という対語が成り立つには,双六がいる。丁を偶数,半を奇数と考える事も出来るが,丁半とは双六の采の目の事である。」と説明されている。「上下」は,「人類誕生」に分類され,その理由について「上下という概念は人類の判断基準である。」と説明されている。「体用」は,「宇宙論」に分類され,「体用という対語が成り立つには,先ず事物がいる。」と説明されている。「伯叔」は,「生命誕生」に分類され,「伯叔という対語が成り立つには,先ず生命がいる。」と説明されている。図3は,図2−1〜6で分類した言葉を,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分けて記載したもの,図4は,図3で,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分けて記載された言葉を,それぞれの種類の中で順序を付けたものである。
 本願の特許請求の範囲「請求項1」の記載を,上記の【発明の詳細な説明】及び【図面】の記載をさんしゃくして解釈すると,特許請求の範囲「請求項1」の「…記号化した対語だけを用い,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである),その記号化した対語を羅列化すること」は,数多くの対語となる言葉を,その意味する内容に則って,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類の思想に当てはめて,分類し,連ね並べて整理したことを意味するということができる。
  特許法2条1項は,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定している。
 本願発明は,前記のようなものであり,数多くの対語となる言葉を,その意味する内容に則って,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類の思想に当てはめて,分類し,連ね並べて整理したものであって,その分類整理の過程において自然法則を考慮することがあったとしても,発明全体としてみた場合には,言葉(対語)を分類整理したものにすぎず,自然法則を利用しているということはできない。
 原告は,自然法則は,辞書では,「自然事象の間に成り立つ,反復可能で一般的な必然的関係。これは規範法則とは異なる存在の法則であり,因果関係を基礎とする。狭義では自然界に関する法則であるが,広義では社会法則,心理法則等のうち規範法則に属さないものを指す。」と定義されている(広辞苑[第5版]1175頁)ところ,特許法2条1項の「自然法則」は,この辞書の定義のうち広義のものを指す,と主張する。しかし,法律の条文にある用語は,必ずしも上記のような一般的辞書によって解釈しなければならないものではなく,これも含めた社会一般通念及び特許法等の当該法律全体の趣旨を踏まえて解釈すべきものである。のみならず,仮に,原告が主張するように広義に解したとしても,本願発明においては,そのような自然法則は,分類整理の過程において考慮されているにすぎず,言葉を分類整理するという発明の内容自体に自然法則の利用があるということはできない。原告の上記主張は失当である。
 また原告は,「言語,文字,記号は,人工の道具である」とか「記号活動は物理的出来事として再現可能なものである」などとも主張するが,これらの主張は,何ら上記判断を左右するものではない。
 以上のとおり,本願発明は,特許法2条1項が規定する「発明」に当たらないから,特許法29条1項柱書により特許を受けることができないとした審決の判断は正当として是認できる。

3.3 評釈
 本件の知財高裁は、「本願発明は,…,数多くの対語となる言葉を,その意味する内容に則って,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類の思想に当てはめて,分類し,連ね並べて整理したものであって,その分類整理の過程において自然法則を考慮することがあったとしても,発明全体としてみた場合には,言葉(対語)を分類整理したものにすぎず,自然法則を利用しているということはできない。」と判示している。

 知財高裁の判示のとおりだと思う。このような出願や、錬金術や永久機関のような出願を拒絶するために、特許法2条1項に、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定されているのだと私は思う。


4.平成19(行ケ)10239「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置事件」2008.02.29判決(拒絶審決維持)

 
4.1 本願発明
  以下に争点になった請求項と代表図面を示す(特開2000−122538号公報参照)。

【請求項1】ビットの集まりの短縮表現を生成する装置において,
 少なくともnビットを有するキーと,入力されたnビットの集まりとの和をとり,
 前記和を2乗して,和の2乗を生成し,
 pを,2より大きい最初の素数以上の素数として,前記和の2乗に対して,法p演算を実行して法p演算結果を生成し,
 nより小さいl(筆者注:Lの小文字)により,前記法p演算結果に対して,法2演算を実行して法2演算結果を生成し,
 前記法2演算結果を出力している,ビットの集まりの短縮表現を生成する装置。
【請求項2】ビットの集まりの短縮表現を生成する装置において,
 少なくともnビットを有する第1のキーと,入力されたnビットの集まりとの和をとって,第1の和を生成し,
 前記第1の和を2乗して,第1の和の2乗を生成し,
 前記第1の和の2乗と,少なくともnビットを有する第2のキーとの和をとって,第2の和を生成し,
 pを,2nより大きい最初の素数以上の素数として,前記第2の和に対して,法p演算を実行して法p演算結果を生成し,
 nより小さいlにより,前記法p演算結果に対して,法2演算を実行して法2演算結果を生成し,
 前記法2演算結果を出力している,ビットの集まりの短縮表現を生成する装置。
【請求項3】ビットの集まりの短縮表現を生成する装置において,
 少なくともnビットを有するキーと,入力されたnビットの集まりとの和をとり,
 前記和を2乗して,和の2乗を生成し,
 前の3つのステップを,ステップが繰り返されるごとに相異なるキーを使用して少なくとも1回繰り返して,複数の和の2乗を生成し,
 前記複数の和の2乗の和をとって総和を生成し,
 pを,2nより大きい最初の素数以上の素数として,前記総和に対して,法p演算を実行して法p演算結果を生成し,
 nより小さいlにより,前記法p演算結果に対して,法2演算を実行して法2演算結果を生成し,
 前記法2演算結果を出力している,ビットの集まりの短縮表現を生成する装置。



4.2 知財高裁の判断の要点
 (明細書の引用)
 以上によれば,本願発明1〜3における「ビットの集まりを生成する装置」とは,nビットの集まりを入力してl(筆者注:Lの小文字)ビットに短縮された演算結果を出力する装置であり,その過程においてハッシュ法,すなわち,「長い長さのデータを短い長さのデータとして表現する技術」が用いられているものである。
 ここで用いられるハッシュ法は,「n」というデータを一定の法則に従って短縮化して表現しようとする場合に不可避的に発生する短縮表現の衝突(nというデータを短縮した値mと,nというデータを短縮したmが等しくなってしまうこと)の確率を可能な限り小さくするという数学的な課題を有し,本願発明は,そのための計算手順(アルゴリズム)として,いずれも@少なくともnビットを有するキー(a)と,入力されたnビットの集まりとの和をとり,A前記和を2乗して,和の2乗を生成し,B2より大きい最初の素数以上の素数pをもって,前記和の2乗に対して,法p演算を実行して法p演算結果を生成し,Cnより小さいlにより,前記法p演算結果に対して,法2演算を実行して法2演算結果を生成し,D前記法2演算結果を出力する,という各演算を含むものである。したがって,本願発明1〜3はいずれも数学上の計算式,すなわちハッシュ関数として表現可能なものであり,実際にも,発明の詳細な説明においては,本願発明1は「h(m)=((m+a) mod p)mod 2」(数式(6)),本願発明2は「h(m)=(((m+a)+b) mod p)mod 2」(数式(7)),また本願発明3は,「h(m1・・・・・mK)= ((Σi=1(m+a) mod p) mod 2 」(数式(8))として,いずれも数学的な計算式として表現されているところである。
 ところで,上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順(アルゴリズム)そのものは,純然たる学問上の法則であって,何ら自然法則を利用するものではないから,これを法2条1項にいう発明ということができないことは明らかである。また,既存の演算装置を用いて数式を演算することは,上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順を実現するものにほかならないから,これにより自然法則を利用した技術的思想が付加されるものではない。
 したがって,本願発明のような数式を演算する装置は,当該装置自体に何らかの技術的思想に基づく創作が認められない限り,発明となり得るものではない(仮にこれが発明とされるならば,すべての数式が発明となり得べきこととなる。)。
 この点,本願発明が演算装置自体に新規な構成を付加するものでないことは,原告が自ら認めるところであるし,特許請求の範囲の記載をみても,単に「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置」により上記各「演算結果を生成し」これを「出力している」とするのみであって,使用目的に応じた演算装置についての定めはなく,いわば上記数学的なアルゴリズムに従って計算する「装置」という以上に規定するところがない。
 そうすると,本願発明は既存の演算装置に新たな創作を付加するものではなく,その実質は数学的なアルゴリズムそのものというほかないから,これをもって,法2条1項の定める「発明」に該当するということはできない。
 これに対し原告は,デジタル演算回路又はプロセッサの本来的ハードウェアの性質上,乗算回数が実質的に計算時間を決定することから,そのような計算時間を減らすことは,ハッシュ化の実際の応用(装置)にあって要望される技術的課題であるとし,本願発明の技術的作用効果は,上記課題に対応した装置において計算時間を短縮させたことにあるなどと主張する。
 しかし,原告の主張する上記技術的課題は,デジタル演算回路ないしプロセッサという装置自体が有する課題であって,演算される数式自体の有する課題ではないところ,計算装置の要する計算時間を短縮するために計算式を変更しても,当該演算装置自体の演算処理能力が改善されるものでないことは明らかである。原告の上記主張は,複雑なアルゴリズムよりも平易なアルゴリズムの方が演算時間が短かくて済むという,いわば数学的な常識を述べたものにすぎず,原告の主張する課題は依然として解決していないのであるから,失当といわなければならない。
 なお原告は,本願発明は物理的な電気回路装置であり,かつ,当該アルゴリズムはコンピュータのような有限時間で動作する物理的構造上で実行されるからこそ上記技術的作用効果を有する点で,コンピュータ構造の本来的に有するハードウェア資源の物理的性質そのものに係るとして,本願発明が自然法則を利用した技術的思想に当たることになるとも主張するが,原告の上記主張は,数学的なアルゴリズムであってもコンピュータで演算を実行することで時間が短縮されれば発明になるというに等しく,自然法則を利用しない単なる数式を発明から除外する法2条1項の趣旨を没却するものであって,採用することができない。
 また原告は,「装置」の発明としての本願発明の具体的構成は,示された演算内容に応じて規定される演算回路として特許請求の範囲に明確に記載されている旨主張する。
 しかし,特許請求の範囲には数学的なアルゴリズムと,それを実現するものとして単に「装置」と記載されているのみであって,当該数学的アルゴリズムをデジタル演算装置で演算するための具体的な回路構成が記載されているものではない。
 また原告の上記主張は,特許請求の範囲にデジタル論理演算を意味する演算内容を記載すれば,これに対応した一般的なデジタル論理演算回路(布線論理回路と蓄積プログラム論理回路)によるプログラムが特定されるというものであるが,特許請求の範囲に記載された数学的アルゴリズムがデジタル論理演算回路に置換可能であるとしても,それはプログラム可能な数式一般の持つ特性にすぎず,既存の演算装置に新たな技術的思想に基づく創作が付加されることを直ちに意味するものではない。その意味で,特許請求の範囲に原告主張のデジタル論理演算回路による演算内容が記載されたことは,前記に述べたところを左右するものではない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 さらに原告は,本願発明には実用的な応用分野があり,例えば探索や通信等の技術分野に適用される,実用的で効率的なハッシュ装置を提供するものであると主張する。
 しかし,本願発明1〜3の特許請求の範囲をみても,ハッシュ関数によるアルゴリズムのほかには,単に「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置」と記載するのみであって,当該装置がいかなる応用分野に適用されるものであるかを具体的に明らかにするところがない。また本願発明において入力されるものは「ビットの集まり」とされ,「キー」は「少なくともnビットを有する」ものとされ,「p」は「2より大きい最初の素数以上の素数」とされ,「l」は「nより小さい」ものとされているが,これらは数学的な関係を記述したにとどまり,原告の主張する応用分野におけるいかなる技術的思想に基づいてそのような数値が導き出されるかについて,何ら示唆するところがなく,それらの技術的意義を読み取ることができない。出力される「ビットの集まり」についても,衝突確率が所定以下となるという数学的な説明が与えられているにすぎない。そうすると,本願発明は,抽象的には原告の主張する分野において応用することが可能であるとしても,当該装置自体が直ちに具体的な技術的思想に基づき新たな創作を付加したものと解釈することはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

4.3 評釈
 本件の知財高裁は、「本願発明のような数式を演算する装置は,当該装置自体に何らかの技術的思想に基づく創作が認められない限り,発明となり得るものではない(仮にこれが発明とされるならば,すべての数式が発明となり得べきこととなる。)。」、「本願発明は既存の演算装置に新たな創作を付加するものではなく,その実質は数学的なアルゴリズムそのものというほかないから,これをもって,法2条1項の定める「発明」に該当するということはできない。」と判示している。

 しかし、請求項1を下記の請求項1’の表現形式に書き直せば(修正した部分にアンダーラインを付けている)、100%確実とはいえないとしても、多くの審査官、審判官は自然法則を利用した装置の発明であると判断するのではないだろうか。請求項1’の「手段」は、コンピュータとプログラムで構成してもよいし、電子回路で構成してもよいことは、当業者には明らかである。

【請求項1’】ビットの集まりの短縮表現を生成する装置において,
 少なくともnビットを有するキーと,入力されたnビットの集まりとの和をとる手段と
 前記和を2乗して,和の2乗を生成する手段と
 pを,2より大きい最初の素数以上の素数として,前記和の2乗に対して,法p演算を実行して法p演算結果を生成する手段と
 nより小さいlにより,前記法p演算結果に対して,法2演算を実行して法2演算結果を生成する手段と
 前記法2演算結果を出力する手段と
を備えるビットの集まりの短縮表現を生成する装置。

 請求項1と請求項1’は表現形式が相違するだけで、内容的には何もかわっておらず、技術的範囲は全く同じである。請求項1に対して知財高裁は「実質は数学的なアルゴリズムそのもの」と判示しているが、請求項1でも技術的範囲は「装置」だけに限定されており、請求項1の「装置」が「数学的なアルゴリズムそのもの」ではないことは明らかである。請求項1も請求項1’も数学的なアルゴリズムそのものについて特許を受けようとしているのではなく、特定のハッシュ法を用いたコンピュータとプログラムまたは電子回路で構成されたダイジェスト(ビットの集まりの短縮表現)生成装置について特許を受けようとしているのである。もちろん、請求項1や請求項1’の技術的範囲は、あらゆるダイジェスト生成装置や、あらゆるハッシュ法を用いたダイジェスト生成装置を含むわけではなく、請求項に記載された特定のハッシュ法を用いたダイジェスト生成装置のみを含むだけである。

 知財高裁は、「当該装置がいかなる応用分野に適用されるものであるかを具体的に明らかにするところがない。」とも認定しているが、本願発明は、ダイジェスト(ビットの集まりの短縮表現)生成の応用分野に属しているのである。ダイジェスト生成装置は、数学者が使用する装置ではなく、原告が主張するように「探索や通信等の技術分野」で産業上利用されている装置である。恐らく、裁判官は、ダイジェスト(ビットの集まりの短縮表現)が産業上利用されるものであることを理解できず、数学者が使用するものと誤解しているのではないだろうか。特許法2条1項の「自然法則を利用した技術的思想の創作」と特許法29条1項柱書きの「産業上利用することができる発明」は別の要件であるが、原告(出願人)としては、自然法則を利用していることを主張立証するだけでなく、産業上利用することができる発明であることも主張立証した方が、裁判官の心証を原告有利に傾けることができると思う。裁判官も、自分がパソコンでインターネットに接続してオンラインショッピングやインターネットバンキングを行うときに、知らないうちに自分のパソコンがダイジェスト生成装置として機能し、それによって安全にオンラインショッピングやインターネットバンキングができていることを知れば、本願発明(ダイジェスト生成装置)は「実質は数学的なアルゴリズムそのもの」というような間違った認定はしないと思うのである。


5.平成19(行ケ)10369「コンピュータに基づいた歯科医療システム事件」2008.06.24判決(拒絶審決取消)
 
5.1 本願発明
  以下に争点になった請求項と代表図面を示す(特表2002−528832号公報参照)。

【請求項1】歯科補綴材の材料,処理方法,およびプレパラートに関する情報を蓄積するデータベースを備えるネットワークサーバと;
 前記ネットワークサーバへのアクセスを提供する通信ネットワークと;
 データベースに蓄積された情報にアクセスし,この情報を人間が読める形式で表示するための1台または複数台のコンピュータであって少なくとも歯科診療室に設置されたコンピュータと;
 要求される歯科修復を判定する手段と;
 前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段とからなり,
 前記通信ネットワークは初期治療計画を歯科技工室に伝送し;また
前記通信ネットワークは必要に応じて初期治療計画に対する修正を含む最終治療計画を歯科治療室に伝送してなる,コンピュータに基づいた歯科治療システム。



5.2 知財高裁の判断の要点
 審決は,「請求項1には,『要求される歯科修復を判定する手段と;』と『前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段とからなり』とが発明特定事項として記載されている。」「そして,歯科医師が,その精神活動の一環として,患者からの歯科治療要求を判定したり,初期治療計画を策定するものであることは社会常識であるから,請求項1の『要求される歯科修復を判定する』,『前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する』の主体は,歯科医師であるといえる。そうすると,請求項1において,歯科医師が,その精神活動の一環として『判定する』こと,『策定する』ことを,それぞれ「手段」と表現したものと認められる。」「念のため,この点について,特許請求の範囲の記載以外の明細書の記載及び図面の記載を見ても,『要求される歯科修復を判定する手段と;』と『前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段とからなり』に関し,何らかの定義,即ち,歯科医師が主体でない,或いは歯科医師の精神活動に基づくものでないなどの定義は記載されていない。・・・」「請求項1は,当初の『双方向歯科治療方法』から『コンピュータに基づいた歯科治療システム』の発明に補正され,『判定し』,『策定し』を『判定する手段』,『策定する手段』に補正しているが,『判定する手段』,『策定する手段』に関して,上述のとおりその発明の特定事項として,歯科医師が主体の精神活動に基づく判定,策定することを,上記「手段」と表現したものであるから,請求項1に係る発明全体をみても,自然法則を利用した技術的創作とすることはできない。」「してみると,請求項1に係る発明は,特許法第2条第1項で定義される発明,すなわち,自然法則を利用した技術的創作に該当しないというほかない。」と認定判断する(8頁32行〜9頁35行)。
 そこで,審決の上記判断について,以下検討する。
 (請求項1の引用)
 この請求項1の記載から,本願発明1は,「歯科治療システム」に関するものであり,「データベースを備えるネットワークサーバ」,「通信ネットワーク」,「1台または複数台のコンピュータ」,「要求される歯科修復を判定する手段」及び「初期治療計画を策定する手段」をその要素として含み,「コンピュータに基づ」いて実現されるものである,と理解することができる。
 また,「システム」とは,「複数の要素が有機的に関係しあい,全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」(広辞苑第4版)をいうから,本願発明1は,上記の要素の集合体であり,全体がコンピュータに基づいて関係し合って,歯科治療のための機能を発揮するものと解することができる。
 ところで,特許の対象となる「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり(特許法2条1項),一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである。
 したがって,人の精神活動それ自体は,「発明」ではなく,特許の対象とならないといえる。しかしながら,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで,「発明」に当たらないということもできない。けだし,どのような技術的手段であっても,人により生み出され,精神活動を含む人の活動に役立ち,これを助け,又はこれに置き換わる手段を提供するものであり,人の活動と必ず何らかの関連性を有するからである。
 そうすると,請求項に何らかの技術的手段が提示されているとしても,請求項に記載された内容を全体として考察した結果,発明の本質が,精神活動それ自体に向けられている場合は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当するとはいえない。
 他方,人の精神活動による行為が含まれている,又は精神活動に関連する場合であっても,発明の本質が,人の精神活動を支援する,又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものである場合は,「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除すべきものではないということができる。
 これを本願発明1について検討するに,請求項1における「要求される歯科修復を判定する手段」,「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」という記載だけでは,どの範囲でコンピュータに基づくものなのか特定することができず,また,「システム」という言葉の本来の意味から見ても,必ずしも,その要素として人が排除されるというものではないことから,上記「判定する手段」,「策定する手段」には,人による行為,精神活動が含まれると解することができる。さらに,そもそも,最終的に,「要求される歯科修復を判定」し,「治療計画を策定」するのは人であるから,本願発明1は,少なくとも人の精神活動に関連するものであるということができる。
 しかし,上記のとおり,請求項に記載された内容につき,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで,特許の対象から排除されるものではないから,さらに,本願発明1の本質について検討することになる。
 そして,上記のとおり,請求項1に記載の「要求される歯科修復を判定する手段」,「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」の技術的意義を一義的に明確に理解することができず,その結果,本願発明1の要旨の認定については,特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとの特段の事情があるということができるから,更に明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
 (明細書の引用)
 以上の記載を参酌すると,本願発明は,歯科治療において,これまでは使用し得る材料及び技術の数が限られていたため,治療方式の選択が簡単だったものが,近年,新しい材料及び技術が開発され,処置の選択が劇的に増大した結果,歯科医師が個々のケースについて最適の材料及び治療方法を選択するための情報が過多となったという課題認識の下,歯科医師と歯科技工士が歯科治療計画及び最適な修復歯科治療計画を作成し,最適な材料を使用することを支援する方法及びシステムを提供するものであり,従来歯科医師や歯科技工士が行っていた行為の一部を支援する手段を提供するものであることが理解できる。
 そして,データベースには,歯科補綴材の材料,処理方法及びプレパラートに関する情報が蓄積され,ネットワークサーバには,歯科補綴材の材料や処理方法についてデータベースを照会することを可能にするプログラムが備えられ,診療室又は歯科技工室には,人間が読み取れる形式で表示する端末が置かれ,コンピュータを使用して歯科補綴材の材料若しくは処理方法を確認,確立,修正又は評価し,この照会に対するデータベースからの回答を受信するように構成されている。さらに,歯及び歯のプレパラートのカラー画像を分析する手段を有し,歯科補綴材の色を患者の歯に最も近く整合させるために必要なデジタル画像を表示できるようにされている。
 (明細書の引用)
 (エ)  以上のうち,…の記載によれば,初期治療計画は歯等のデジタル画像を含むものであり,そのデジタル画像に基づいて歯の治療に使用される材料,処理方法,加工デザイン等が選択され,その選択に必要なデータはデータベースに蓄積されており,策定された初期治療計画はネットワークを介して診療室と歯科技工室とで通信されるものと理解することができる。そして,画像の取得,選択,材料等の選択には歯科医師の行為が必要になると考えられるが,これらはネットワークに接続された画像の表示のできる端末により行うものと理解できる。
 また,…の記載によれば,本願発明は,スキャナを備え,歯又は歯のプレパラートをスキャンしてデータを入力し,データベースに蓄積されている仕様と比較することによって,治療計画の修正が必要かどうかが確認できるものであることが理解できる。もっとも,実際の確認の作業は,人が行うものと考えられる。
 以上によれば,請求項1に規定された「要求される歯科修復を判定する手段」及び「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの,明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,むしろ,「データベースを備えるネットワークサーバ」,「通信ネットワーク」,「歯科治療室に設置されたコンピュータ」及び「画像表示と処理ができる装置」とを備え,コンピュータに基づいて機能する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる。
 したがって,本願発明1は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たるものということができ,本願発明1が特許法2条1項で定義される「発明」に該当しないとした審決の判断は是認することができない。
 以上によれば,本願発明1が特許法2条1項に規定する「発明」に該当せず,本願発明が同法29条1項柱書にいう「発明」に規定する要件を満たしていないとした審決の判断は是認することができず,取消事由2は理由があることになるから,審決は違法として取消しを免れない。

5.3 評釈
 本件の知財高裁は、「人の精神活動による行為が含まれている,又は精神活動に関連する場合であっても,発明の本質が,人の精神活動を支援する,又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものである場合は,『発明』に当たらないとしてこれを特許の対象から排除すべきものではない」と判示している。

 そして、知財高裁は、本件について、「請求項1に規定された『要求される歯科修復を判定する手段』及び『前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段』には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの,明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,…コンピュータに基づいて機能する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる。」と認定している。

 結局、知財高裁は、請求項1の「要求される歯科修復を判定する手段」、「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」は、文言上、人の行為により実現される手段であるが、特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとの特段の事情があったので、明細書を参酌して、歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものであると解釈しているのである。

 請求項1を下記の請求項1’に修正すれば(修正した部分にアンダーラインを付けている)、文言上も、歯科治療を支援するための技術的手段と解釈できるから、
100%確実というわけではないが、多くの審査官、審判官は、自然法則を利用するものであると判断するのではないかと思う。

【請求項1’】歯科補綴材の材料,処理方法,およびプレパラートに関する情報を蓄積するデータベースを備えるネットワークサーバと;
 前記ネットワークサーバへのアクセスを提供する通信ネットワークと;
 データベースに蓄積された情報にアクセスし,この情報を人間が読める形式で表示するための1台または複数台のコンピュータであって少なくとも歯科診療室に設置されたコンピュータと;
 要求される歯科修復を判定するための手段と;
 前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定するための手段とからなり,
 前記通信ネットワークは初期治療計画を歯科技工室に伝送し;また
前記通信ネットワークは必要に応じて初期治療計画に対する修正を含む最終治療計画を歯科治療室に伝送してなる,コンピュータに基づいた歯科治療システム。

 本件の知財高裁は、人の精神活動による行為等が明確に含まれている請求項について自然法則を利用していると判示しているわけではないが、明細書の記載を参酌して、結果的に請求項を原告(出願人)有利に解釈して、自然法則を利用していると判示しているのである。ソフトウェア関連発明の出願を扱っていると、「理由1:自然法則を利用していない、理由2:記載不備(実質的には理由1と同じ内容)、理由3:29条2項(容易)」、のような拒絶理由を受けることが多い。当然のことながら、出願人としては、コンピュータによって実現される発明について特許を受けようしているのであり、明細書もコンピュータによって実現される実施例を記載しているのである。しかし、審査官は、請求項は人間が実行するものも含むと解釈して、上記のような拒絶理由が来ることが少なくないのである。この判決により、このような請求項の読み方が少しでも減ってくれればよいと思う。



6.平成20(行ケ)10001「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書の段階的相互照合的引く方法事件」2008.08.26判決(拒絶審決取消)

6.1 本願発明
  以下に争点になった請求項と代表図面を示す(特開2004−355496号公報参照)。段落分けは筆者(井上)による。

【請求項3】
 音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書の段階的相互照合的引く方法。
 対訳辞書の引く方法は,以下の三つの特徴を持つ。
 一,言語音の音響物理的特徴を人間視覚の生物的能力で利用できるために,英語の音声を子音,母音子音アクセント,スペル,対訳の四つの要素を横一行にさせた上,さらに各単語の子音音素を縦一列にローマ字の順に排列(判決注「配列」の誤記と認める。誤記であることにつき審決も同じ。)させた。
 二,英語音声を音響物理上の特性から分類した上,情報処理の文字コードの順に配列させたので,コンピュ−タによるデータの処理に適し,単語の規則的,高速的検索を実現した上,対訳辞書を伝統的辞書のような感覚で引くことも実現した。
 三,辞書をできるだけ言語音の音響特徴と人間聴覚の言語音識別機能の特徴に従いながら引くようにする。すなわち,まずは耳にした英語の音声を子音と母音とアクセントの音響上の違いに基づいて分類処理する。次に子音だけを対象に辞書を引く。同じ子音を持った単語が二個以上有った場合は,さらにこれら単語の母音,アクセントレベルの音響上の違いを照合する。この段階的な言語音の分類処理方法によって,従来聞き分けの難しい英語音声もかなり聞き易くなり,英語の非母語話者でも,英語の音声を利用し易くなった。
 以下ではさらに詳しく説明する。
 英語の一単語に四つ以上の要素(基本情報)を持たせ,辞書としての本来の機能を果すだけでなく,これらの基本情報の段階的相互照合的構造によって,調べたい目標単語を容易に見つける索引機能も兼ねる。
 探したい目標単語の音声(音素)に基づいて,子音音素から母音音素への段階的検索する方法の他に,目標単語の前後にある候補単語の対訳語,単語の綴り字内容を相互に照合する方法という二つの方法によって目標単語を見つける。まずは目標単語の音声から子音音素を抽出し,その子音音素のロ?マ字転記列(判決注「ローマ字転記列」の誤記と認める。誤記であることについて審決も同じ。)のabc順に目標単語の候補を探す,結果が一つだけあった場合は,その行を目標単語と見なし,この行にあったすべての情報を得る。子音転記の検索結果が二つ以上あった場合は,さらに個々候補の母音音素までを照合する。もしくは,前後の候補の対訳語と単語の綴り字までを参照しながら,目標単語を確定する。



6.2 知財高裁の判断の要点
 当裁判所は,本願発明が,人の精神活動又は人為的取り決めであり,自然法則を利用したものといえないとした審決の論理及び結論には誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりである。
 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定する。したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,自然法則を利用した手段が何ら含まれていない場合には,そのような技術的思想の創作は,特許法2条1項所定の「発明」には該当しない。
 ところで,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在であり,通常は,人の行動に対して,反復類型性を予見したり,期待することは不可能である。したがって,人の特定の精神活動(社会活動,文化活動,仕事,余暇の利用等あらゆる活動を含む。),意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえないから,特許法2条1項所定の「発明」に該当しない。
 他方,どのような課題解決を目的とした技術的思想の創作であっても,人の精神活動,意思決定又は行動態様と無関係ではなく,また,人の精神活動等に有益・有用であったり,これを助けたり,これに置き換える手段を提供したりすることが通例であるといえるから,人の精神活動等が含まれているからといって,そのことのみを理由として,自然法則を利用した課題解決手法ではないとして,特許法2条1項所定の「発明」でないということはできない。
 以上のとおり,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,その構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様を含んでいたり,人の精神活動等と密接な関連性があったりする場合において,そのことのみを理由として,特許法2条1項所定の「発明」であることを否定すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察し,かつ,明細書等の記載を参酌して,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合には,同項所定の「発明」に該当するというべきである。
 この観点から,本願発明が,特許法2条1項所定の「発明」に当たるか否かについて検討する。
 (特許請求の範囲の引用)
 (発明の詳細な説明の引用)
 上記「本願発明の特許請求の範囲」の記載によれば,本願発明の内容は,以下のとおり整理することができる。すなわち
 (ア) 対象とする対訳辞書について,英語の単語を,@子音,A母音子音アクセント,Bスペル,C対訳の四つの要素を横一行にさせた上,さらに各単語の子音音素を縦一列にローマ字の順に配列させたこと,そして,英語音声を音響物理上の特性から分類した上,情報処理の文字コードの順に配列させたことを構成要素としている。
 (イ) 対訳辞書の引き方について,@耳にした英語の音声を,子音と母音とに,アクセントの音響上の違いに基づいて分類処理する,A目標単語の音声から子音音素を抽出する,Bその子音音素のローマ字転記列のabc順に目標単語の候補を探す(子音だけを対象に辞書を引く。),C結果が一つだけあった場合は,その行を目標単語とみなし,この行にあったすべての情報を得る,D子音転記の検索結果が二つ以上あった場合は,さらに個々候補の母音,アクセントレベルの音響上の違いを照合する,E子音の他,母音,アクセントが同じであった場合は,目標単語の前後にある候補単語の対訳語,単語の綴り字内容を相互に照合する方法によって目標単語を見つけるとの手順を踏み,できるだけ言語音の音響特徴と人間聴覚の言語音識別機能の特徴に従いながら対訳辞書を引くこと,探したい目標単語の音声(音素)に基づいて,子音音素から母音音素への段階的検索をすることを構成要素としている。
 (ウ) 機能上の特徴について,@言語音の音響物理的特徴を人間視覚の生物的能力で利用できること,Aコンピュ−タによるデータの処理に適し,単語の規則的,高速的検索を実現したこと,B対訳辞書を伝統的辞書のような感覚で引くことも実現したこと,C段階的な言語音の分類処理方法によって,従来聞き分けの難しい英語音声もかなり聞き易くなり,英語の非母語話者でも,英語の音声を利用し易くなったこと,D英語の一単語に四つ以上の要素(基本情報)を持たせ,辞書としての本来の機能を果すこと,Eこれらの基本情報の段階的相互照合的構造によって,調べたい目標単語を容易に見つける索引機能も兼ねることを挙げている。
 特許法2条1項所定の「発明」への該当性について前記の認定を基礎に,本願発明の特許法2条1項の「発明」該当性について判断する。
 本願発明の特徴は,以下のとおりである。
 すなわち,英語においては,発音のパタンが多く,文字と発音の「ズレ」も著しいため,発音から文字の綴り字を推測することは難しい。その点を解決するための手段として,本願発明は,非母語話者であっても,一般に,音声(特に子音音素)を聞いてそれを聞き分け識別する能力が備わっていることを利用して,聞き取った音声中の子音音素を対象として辞書を引くことにより,綴り字が分からなくても英単語を探し,その綴り字,対訳語などの情報を確認できるようにし,子音音素から母音音素へ段階的に検索をすることによって目標単語を確定する方法を提供するものである。
 そして,子音を優先抽出して子音音素のローマ字転記列をabc順に採用している点からすると,本願発明においては,英語の非母語話者にとっては,母音よりも子音の方が認識しやすいという性質を前提として,これを利用していることは明らかである。そうすると,本願発明は,人間(本願発明に係る辞書の利用を想定した対象者を含む)に自然に具えられた。能力のうち,音声に対する認識能力,その中でも子音に対する識別能力が高いことに着目し,子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるから,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されており,特許法2条1項所定の「発明」に該当するものと認められる。
 この点につき,審決は,特許法2条1項所定の「発明」に該当しない根拠を,概要,以下のとおり述べる。
 (ア) 「一,言語音の音響物理的特徴を人間視覚の生物的能力で利用できるために,英語の音声を子音,母音子音アクセント,スペル,対訳の四つの要素を横一行にさせた上,さらに各単語の子音音素を縦一列にローマ字の順に配列させた。」との記載は,対訳辞書の引く方法の特徴というよりは,引く対象となる対訳辞書の特徴というべきものであって,本願発明の「辞書を引く方法」は,人間が対訳辞書を引く方法を特許請求するものであると解釈可能であるから,対訳辞書の特徴がどうであれ人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めに留まるものである。
 「二,英語音声を音響物理上の特性から分類した上,情報処理の文字コードの順に配列させたので,コンピュ−タによるデータの処理に適し,単語の規則的,高速的検索を実現した上,対訳辞書を伝統的辞書のような感覚で引くことも実現した。」との記載は,この特徴もやはり対訳辞書の引く方法の特徴というよりは,引く対象となる対訳辞書の特徴というべきものであって,本願発明の「辞書を引く方法」は,人間が対訳辞書を引く方法を特許請求するものであると解釈可能であるから,対訳辞書の特徴がどうであれ人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めに留まるものである。
 「三,辞書をできるだけ言語音の音響特徴と人間聴覚の言語音識別機能の特徴に従いながら引くようにする。すなわち,まずは耳にした英語の音声を子音と母音とアクセントの音響上の違いに基づいて分類処理する。次に子音だけを対象に辞書を引く。同じ子音を持った単語が二個以上有った場合は,さらにこれら単語の母音,アクセントレベルの音響上の違いを照合する。」との記載は,人間の聴覚で識別された言語音の音響特徴にしたがって分類処理し,人間が対訳辞書を引く方法を記述しているものであり,人間の聴覚で識別された言語音の音響特徴を分類処理することは,専ら人間の精神活動を規定したものにすぎず,人間の精神活動である分類処理の結果にしたがって,人間が辞書を引く動作は,人間が行うべき動作を特定しており,人為的取り決めそのものといえ,やはり,自然法則を利用しているものとはいえないなどの理由を述べる。
 しかし,審決の判断は,以下のとおり失当である。
 前記のとおり,出願に係る特許請求の範囲に記載された技術的思想の創作が自然法則を利用した発明であるといえるか否かを判断するに当たっては,出願に係る発明の構成ごとに個々別々に判断すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察すべきである(明細書及び図面が参酌される場合のあることはいうまでもない。)。そして,この場合,課題解決を目的とした技術的思想の創作の全体の構成中に,自然法則の利用が主要な手段として示されているか否かによって,特許法2条1項所定の「発明」に当たるかを判断すべきであって,課題解決を目的とした技術的思想の創作からなる全体の構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様からなる構成が含まれていたり,人の精神活動等と密接な関連性を有する構成が含まれていたからといって,そのことのみを理由として,同項所定の「発明」であることを否定すべきではない。
 そのような観点に照らすならば,審決の判断は,@「対訳辞書の引く方法の特徴というよりは,引く対象となる対訳辞書の特徴というべきものであって,・・・対訳辞書の特徴がどうであれ人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めに留まるものである」などと述べるように,発明の対象たる対訳辞書の具体的な特徴を全く考慮することなく,本願発明が「方法の発明」であるということを理由として,自然法則の利用がされていないという結論を導いており,本願発明の特許請求の範囲の記載の全体的な考察がされていない点,及び,Aおよそ,「辞書を引く方法」は,人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めであると断定し,そもそも,なにゆえ,辞書を引く動作であれば「人為的な取り決めそのもの」に当たるのかについて何ら説明がないなど,自然法則の利用に当たらないとしたことの合理的な根拠を示していない点において,妥当性を欠く。したがって,審決の理由は不備であり,その余の点を判断するまでもなく,取消しを免れない。
 のみならず,前記のとおり,本願の特許請求の範囲の記載においては,対象となる対訳辞書の特徴を具体的に摘示した上で,人間に自然に具わった能力のうち特定の認識能力(子音に対する優位的な識別能力)を利用することによって,英単語の意味等を確定させるという解決課題を実現するための方法を示しているのであるから,本願発明は,自然法則を利用したものということができる。本願発明には,その実施の過程に人間の精神活動等と評価し得る構成を含むものであるが,そのことゆえに,本願発明が全体として,単に人間の精神活動等からなる思想の創作にすぎず,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとすべきではなく,審決は,その結論においても誤りがある。
 そうすると,審決が,本願発明について,自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく,特許法2条1項に定義する「発明」ということはできず,同法29条1項柱書きの規定により特許を受けることができないと判断した点は誤りである。

6.3 評釈
 本件の知財高裁は、「構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様を含んでいたり,人の精神活動等と密接な関連性があったりする場合において,そのことのみを理由として,特許法2条1項所定の『発明』であることを否定すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察し,かつ,明細書等の記載を参酌して,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合には,同項所定の『発明』に該当するというべきである。」と判示している。

 本件の知財高裁は、請求項が、人の精神活動、意思決定又は行動態様を含んでいるとしても、そのことだけで、自然法則を利用していないとはいえないとしており、前述の「コンピュータに基づいた歯科医療システム事件」よりも、さらに一歩進んでいる。

 知財高裁は、人の精神活動等を含んだ請求項の場合、明細書等の記載を参酌して、自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合は自然法則を利用しているとしている。特許法2条1項には、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と規定されているのであり、請求項が人間の精神活動等を含み、かつ人間の精神活動等自体が自然法則を利用していないとしても、せいぜい請求項の一部が自然法則を利用していないだけであり、そのことだけで、請求項全体が自然法則を利用していないと結論することはできないから、本件の知財高裁は、特許法2条1項を文言通り解釈したものと考えられる。

 また、
前述のように、回路のシミュレーション方法事件」では、知財高裁は、本願の発明者が「創作」した部分だけを、特許法2条1項の「自然法則を利用した技術的思想の創作」の審理の対象と考えたようにみえるが、本件の知財高裁は、「請求項全体が自然法則を利用していないと結論することはできないから」と述べており、発明者の創作した部分ではなく、請求項全体をこの要件の審理の対象としている。特許法2条1項は、「この法律で『発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定しているのであり、特許法に規定される「発明」は、請求項のうち本願の発明者が創作した部分だけでなく、請求項全体をいうのであるから、「発明」を定義づける 「自然法則を利用した技術的思想の創作」も請求項全体のことであり、この点でも、本件の知財高裁は特許法2条1項を文言通り解釈したと考えられる。

 知財高裁は、本件について、「本願発明は,人間(本願発明に係る辞書の利用を想定した対象者を含む。)に自然に具えられた能力のうち,音声に対する認識能力,その中でも子音に対する識別能力が高いことに着目し,子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるから,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されており,特許法2条1項所定の『発明』に該当するものと認められる。」と判示している。

 本件の「対訳辞書の引く方法」は人間が実行する方法であると考えられ、人の精神活動等を含んだ請求項の場合であると考えられるが、知財高裁は、子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるとして、自然法則を利用する技術的思想であると判示しているのである。


 これは画期的な判決であり、この判決は、特許庁の「コンピュータソフトウェア関連発明」の審査基準の事例2−2「ネットワーク配信記事保存方法(ビジネス分野)」の請求項1の事例を否定していると思う。審査基準には次のように記載されている(アンダーラインは原文による)
 【請求項1】に係る発明は、
 「受信手段が、通信ネットワークを介して配信される記事を受信するステップ、
 表示手段が、受信した記事を表示するステップ、
 ユーザが、該記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した場合に保存指令を記事保存実行手段に与えるステップ、
 前記記事保存実行手段が、保存指令が与えられた記事を記事記憶手段に記憶するステップから構成されるネットワーク配信記事保存方法。」
である。
 【請求項1】に係る発明は、「ユーザが、該記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した場合に保存指令を記事保存実行手段に与えるステップ」を含んでいるために、記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した記事を保存するという、人間の精神活動に基づいて行われる処理である。そのために、【請求項1】に係る発明はコンピュータの通信ネットワークを利用しているものの、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することにより構築された情報処理システムの動作方法とはいえないので、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているとはいえない。
 したがって、【請求項1】に係る発明は、「発明」には該当しない。
 そして、審査基準は、請求項1の「ユーザ」を「記事保存判断手段」と書き換えた請求項2に対しては、「保存判断手段、記事保存実行手段及び記事記憶手段という、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって実現されたものであるから、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているといえる。」(アンダーラインは原文による)として、「【請求項2】に係る発明は、「発明」に該当する。」としているのである

 この事例の発明の効果は、「本発明によれば、ネットワークを介して配信された記事のうち、保存する必要がある記事のみを保存することができるので、記事を取っておくための記憶容量が削減できる。」であり、請求項1のようにユーザ(人間)が「記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断」しても、請求項2のように保存判断手段(コンピュータ)がこの判断を行っても、「記事を取っておくための記憶容量が削減できる」という一定の効果を反復継続して実現する方法を提供する点で変わりはない。したがって、本判決に従えば、請求項2だけでなく、請求項1も自然法則を利用しているということになる。

 本判決の判示は、前述のように、特許法2条1項の「自然法則を利用した技術的思想の創作」を文言通りに解釈したものであり、正しい判示であると思う。逆に審査基準は、「人間の精神活動に基づいて行われる処理」が含まれいるという理由だけで、「発明」に該当しないとしているのであり、これは本判決の判示に反するばかりでなく、論理的にも誤りである。

 審査基準は「2.2.1 基本的な考え方」において、「『ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている』場合、当該ソフトウエアは『自然法則を利用した技術的思想の創作』である」としている。つまり、基本的な考え方としては、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている場合は、当該ソフトウエアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるとしているだけであり、そうではない場合、すなわちハードウエア資源を用いて具体的に実現されていない場合は、当該ソフトウエアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないとは記載していないのである。

 ところが、事例2−2では、「ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することにより構築された情報処理システムの動作方法とはいえないので」「【請求項1】に係る発明は、「発明」には該当しない。」としているのである。審査基準は、基本的考え方では、AであればBであるとしているだけなのに、事例2−2の請求項1では、AでないからBでない、としているのであり、論理的に誤りである。AであればBであるが、AでなければBであるのかBでないのかを、一般基準である「産業上利用することができる発明
」に基づいて再検討しなければならないのである。

 この事例があるために、ソフトウェア関連発明の場合、発明の内容をできるだけ損なわないように細心の注意を払いながら、装置(システム)または装置(システム)の動作方法として
請求項を記載する必要であったのである。しかし、この判決により、現代の高度なコンピュータ技術を、より柔軟に、より的確に、請求項に表現できるようになったのではないだろうか。ただし、特許庁が審査基準を明確に変更するまでは、従来通りに請求項を記載する方が無難だと思う。


7.おわりに
 以上のとおり、前の3件は特許庁の拒絶審決を維持しているが、後の2件は特許庁の拒絶審決を取り消している。しかも、「コンピュータに基づいた歯科医療システム事件」では、知財高裁は結果的に請求項を原告(出願人)有利に解釈し、また、「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書の段階的相互照合的引く方法事件」では、請求項が通常の出願の請求項とは全く異なった記載方法であるにもかかわらず、特許庁の拒絶審決を取り消しているのである。ソフトウェア関連発明の出願を扱っていると、特許庁の厳しい審査に耐え続けなければならないのであるが、最近の2件の知財高裁の判決が特許庁の拒絶審決を取り消していることがわかり、少しは希望が見えてきたような気がするのである。

 2009年1月5日の日本経済新聞朝刊の「特許 ソフトも保護対象」という見出しの記事には、「特許庁は特許法の大幅見直しに向けた検討に入る。」「特許法見直しの主な検討項目:保護の対象となる『発明』の定義の見直し、…」「保護対象として検討する無形資産の代表例がソフトウェア。ソフト構築にあたり必要なコンピュータの計算方法などは現行法で想定されておらず、保護の是非があいまいになる恐れもあった。」と記載されている。この記事に記載された特許法の改正後には、「回路のシミュレーション方法事件」や「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置事件」のような発明が明確に特許保護の対象になるのではないかと推測する。ようやく正しい方向の動きが始まったようである。



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