翻訳 井上雅夫 2000.05.05; 07.06.12 インターネットと属地主義  ↑UP  KSR判決を考慮した自明性の審査基準

米国特許法(1999年法)抜粋

    目     次
第II部 発明の特許性及び特許の許可
 第100条 定義
 第101条 特許性のある発明
 第102条 特許要件:新規性及び特許を受ける権利の喪失
 第103条 特許要件:非自明性
 第112条 明細書
第III部 特許及び特許権の保護
 第271条 特許権侵害
 第273条 先発明者による侵害に対する抗弁
 第281条 特許権侵害の救済
 第282条 有効性の推定;抗弁
 第283条 差止
 第284条 損害賠償
 第285条 弁護士費用
 第288条 無効なクレームを含む特許の侵害訴訟
特許規則
 第1.56条 特許性に重要な情報を開示する義務
訳注

インターネットと属地主義

  
第II部 発明の特許性及び特許の許可

第100条 定義

 本法において、他に定めがない限り −

(a)用語「発明」は発明又は発見を意味する。

(b)用語「方法<process>」は方法、技法又はメソッド<process, art or method>を意味し、既知の方法、装置、生産品、組成物、又は材料の新規な用途を含む。

(c)用語「合衆国」及び「この国<this country>」はアメリカ合衆国、その準州及び属領<its territories and possessions>を意味する。

(d)用語「特許権者」は特許が発行された特許権者ばかりでなく特許権者の法的権利の継承人を含む。

(e)用語「第三者請求人」は第302条に基づく一方当事者系再審査を請求する者又は第311条に基づく当時者系再審査を請求する特許権者でない者を意味する。[訳1]

   
第101条 特許性のある発明

 いかなる新規かつ有用な方法、装置、生産品、組成物<any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter>、又はそれらのいかなる新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は、本法の条件及び要件に基づいて、特許を受けることができる。

   
第102条 特許要件:新規性及び特許を受ける権利の喪失

 人は、以下の場合でない限り、特許を受ける権利を有する −

(a)発明が、特許出願人の発明前に、この国において他人によって知られ若しくは使用され、又はこの国若しくは外国において特許され若しくは印刷された刊行物に記載されたものである場合[訳2]、又は

(b)発明が、合衆国における特許出願日より1年以上前に、この国又は外国において発明され若しくは印刷された刊行物に記載され、又はこの国において公然使用され若しくは販売されたものである場合[訳3]、又は

(c)発明を放棄した場合、又は

(d)発明が、この国における特許出願日前に、出願人、法的代理人若しくは譲受人によって、外国において、合衆国における出願より12月以上前になされた特許出願若しくは発明者証について、最初に特許され若しくは特許がもたらされ、又は発明者証の対象であった場合、又は

(e)発明が下記(1)又は(2)に記載されていた場合

(1)特許出願人による発明前に他人によって合衆国で出願され第122条(b)項[訳4]に基づき公開された特許出願(ただし、第351条(a)項で定義された条約〔PCT〕に基づいて出願された国際特許出願は、合衆国を指定する国際出願が条約第21(2)(a)条に基づいて英語で公開されているときに限り、第122条(b)項に基づいて公開された国内出願の本項における効力を有するものとする);

(2)特許出願人による発明前に他人によって合衆国で出願された特許出願に基づく許可された特許(ただし、本項においては、第351条(a)項で定義された条約に基づいて出願された国際出願の出願に基づいて、特許が合衆国で出願されたものとはみなさないものとする);又は

(f)特許を求める発明を自分で発明しなかった場合、又は

(g)(1)第135条若しくは第291条に基づいて行われるインターフェアランスの手続き中に、その者の発明前に、関与する他の発明者が、第104条〔外国でなされた発明〕で認められた範囲で、他の発明者によって発明がなされ、放棄されず、削除されず、若しくは秘密にされなかったたことを立証した場合、又は(2)その者の発明前に、放棄せず、削除せず、若しくは秘密にしない他の発明者によってこの国でなされていた場合。本項において発明が先になされたことを決定する時は、発明の着想及び実施のそれぞれの日付だけではなく、他の者による着想以前からの、最初に考え最後に実施した者の合理的な勤勉さも考慮するものとする。

  
第103条 特許要件:非自明性

(a)本法第102条〔新規性〕に規定されているように発明が全く同一に開示又は記載されていないとしても、特許を求める発明と先行技術との相違が発明がなされた時に発明の属する技術における通常の技術者にとって全体として自明であったであろう場合は、特許を受けることはできない。特許性は発明がなされた方法によって否定されないものとする。

(b)バイオテクノロジーに関する規定 《翻訳省略》

(c)本法第102条(e)、(f)及び(g)項にのみ基づき先行技術として資格がある他人によって開発された技術は、その技術とクレームされた発明が発明がなされたときに同一の者によって所有されていた場合又は同一の者への譲渡の義務があった場合は、本条に基づいて、特許性が妨げられることはないものとする。

  
第112条 明細書

 明細書は、発明が属する技術又は最も関係する技術における技術者が同じものを製造し使用するができる程度に、十分に、明瞭に、詳細に、かつ正確な用語で、発明並びにそれを製造及び使用する方法及び手順の説明の記載<written description>を含むものとし、かつ、発明をなした発明者によって熟考された最善の態様<best mode>を明らかにするものとする。

 明細書は、出願人が発明とみなす発明を特定し明瞭に請求する1又は2以上のクレームで終わるものとする。

 クレームは独立形式、又は、必要であれば、従属形式若しくは複数項従属形式で記載することができる。

 次のパラグラフを前提として、従属形式クレームは前に記載されたクレームの引用を含むものとし、その後、クレームされた発明の更なる限定を特定するものとする。従属形式クレームは引用するクレームの全ての限定が引用によって合体されるものと解釈される。

 複数項従属形式クレームは前に記載された1以上の択一的な引用を含むものとし、その後、クレームされた発明の更なる限定を特定するもとのとする。複数項従属クレームは他の複数項従属クレームの基礎として使うことはできないものとする。複数項従属クレームは関係する特定のクレームの全ての限定が引用によって合体されるものと解釈される。

 組み合わせのクレームにおける構成要素は、それらを支持する構造、材料、又は行為の記載なしに、特定の機能を実現するための手段又はステップとして記載することができる、そして、そのようなクレームは明細書に記載された対応する構造、材料、又は行為<structure, material, or acts>及びその均等物に及ぶものと解釈する。


   
第III部 特許及び特許権の保護

第271条 特許権侵害

(a)本法において他に規定されている場合を除き、特許された発明を、特許の存続期間中に、許可なく、合衆国内で製造、使用、販売の申出、若しくは販売した者又は合衆国に輸入した者は特許を侵害する。

(b)特許権侵害を積極的に引き起こした者は侵害者として責任があるものとする。

(c)特許された装置、生産品、組み合わせ<combination>若しくは組成物、又は特許された方法の実施に使用する材料若しくは器具の発明の重要な部分を構成する構成要素を、同構成要素がその特許の侵害に使用するために特に製造又は適合されたものであり、かつ、かなりの非侵害の使用に適した主要商品又は日用品ではないことを知って、合衆国内で販売の申出若しくは販売を行い又は合衆国へ輸入した者は、間接侵害者として責任があるものとする。

(d)特許の侵害又は間接侵害の救済の権利を有する特許権者は、以下の1又は2以上を行ったことを理由にして、救済を否定されないものとし、また、特許権のミスユース又は不法な拡張であるとして有罪とされないものとする:

(1)同意なく他人によって行われるとすれば特許の間接侵害を構成するであろう行為から収入を得ること;

(2)同意なく行われるとすれば特許の間接侵害を構成するであろう行為を行うことを他人にライセンス又は許可すること;

(3)侵害又は間接侵害に対して特許権の行使を求めること;

(4)特許権のライセンス又は使用を拒否すること;又は

(5)状況からみて、他の特許権のライセンスの取得又は別の製品の購入を条件として特許権のライセンス又は特許品の販売のライセンスを行うこと。ただし、ライセンス又は販売に条件を付けられた特許又は特許品に関連するマーケットにおいて特許権者がマーケット力を有している場合を除く。

(e)医薬に関する規定 《翻訳省略》
   
(f)
(1)特許された発明の構成部分の全て又は相当な部分を合衆国内で又は合衆国から許可なく供給する又は供給させる者は、その構成部分が全体又は一部が結合していないとしても、もし結合が合衆国内で起こったとしたら特許を侵害するであろう方法で、合衆国の外部で構成部分の結合を積極的に引き起こすような場合は、侵害者として責任を負うものとする。

(2)発明において使用するため特に製造され又は特に採用され、実質的に非侵害の使用に適した主要商品又は日用品ではない、特許された発明のいかなる構成部分をも合衆国内で又は合衆国から許可なく供給する又は供給させる者は、その構成部分が全体又は一部が結合していないとしても、もし結合が合衆国内で起こったとしたら特許を侵害するであろう方法で、合衆国の外部で構成部分が結合されるように製造され又は適合されることを知り、かつ意図している場合は、侵害者として責任を負うものとする。

(g)合衆国で特許された方法によって製造された製品を許可なく合衆国内に輸入、又は合衆国内で販売の申出、販売、若しくは使用する者は、もし製品の輸入、販売の申出、販売、又は使用がその方法特許の権利期間中に起こったとすれば、侵害者として責任を負うものとする。方法特許の侵害訴訟においては、その方法によって製造された製品の輸入又はその他の使用、販売の申出、若しくは販売を根拠とする本法に基づく侵害に対するいかなる適切な救済もない場合でない限り、非商業的使用又は製品の小売りを根拠として侵害に対する救済が認容されることはない。特許された方法によって製造された製品は、本法においては、以下に示す時の後には考慮されない −
(1)その後の方法によって実質的に変更された時;又は

(2)他の製品の些細な非本質的な構成部分になった時。

(h)本条において、用語「者」は州、州の機関、及び州の官吏若しくは従業員又は公的に活動する州の機関を含む。州、機関、官吏、又は従業員は非政府の者と同じように同じ程度に本法の条文に従うものとする。

(i)本条において、特許権者又は特許権者が指名する者以外の者による「販売のための申出」又は「販売の申出」は、特許期間の満了前に販売がなされたものである。

  
第273条 先発明者による侵害に対する抗弁

(a)定義。
 本条において

(1)用語「商業的に使用された」及び「商業的使用」は、公衆にアクセス可能又は他の方法で知られているかどうかにかかわらず、その使用が有用な最終結果の内部的商業使用又は実際の腕のとどく距離の販売若しくはその他の腕のとどく距離の商業的移転に関連している範囲で、合衆国内における方法<method>の使用を意味する。ただし、その商業的市販又は使用が安全又は効能を確証するための市販前規制審査期間(第156条(g)条〔存続期間の延長〕に規定された期間を含む)におけるものはそのような規制審査期間中に「商業的に使用された」及び「商業的使用」にあったとみなすものとする;

(2)非営利研究所又は大学、研究センター、又は病院のような非営利団体によって行われた活動の場合において、公衆が意図された恩恵を受ける使用は(1)号に規定された使用であると考えられるものとする、ただし、その使用は

(A)研究所又は非営利団体により且つその中での継続的使用だけについて本条に基づく抗弁として主張でき;

(B)そのような研究所又は非営利団体の外でそれに引き続いて行われる商業化又は使用に関しては抗弁として主張できない;

(3)用語「方法」はビジネスを行う又は経営する方法<a method of doing or conducting business>を意味する[訳5];そして

(4)特許の「有効な出願日」は特許出願の実際の出願日又は本法第119条〔外国出願に基づく優先権〕、第120条〔合衆国先出願による出願日の遡及〕、若しくは第365条〔PCTに基づく優先権〕に基づく権利の根拠となる先行する合衆国、外国、国際出願の出願日の早い方である。

(b)侵害に対する抗弁
(1)一般。
 ある者に対して主張されている特許の方法クレームの1又は2以上がそうでなければ侵害となるであろう場合に、その者が特許の有効な出願日より1年以上前に善意で実際に実施していたときは、そのことが本法第271条〔特許権侵害〕に基づく侵害訴訟に対する抗弁であるものとする。

(2)権利の消尽。
 有用な最終結果に関する本条に基づく抗弁を主張する権利を有する者による、特許された方法による有用な最終製品の販売又はその他の処分は、もしそのような販売又はその他の処分が特許権者によってなされた場合に権利が消尽するであろう範囲で、特許権者の特許権を消尽させるものとする。

(3)抗弁の制限及び能力。
 本条に基づく侵害に対する抗弁は以下に従う:

(A)特許。抗弁が主張される発明が方法に関するものであるときに限り、本条に基づく抗弁を主張することができる。

(B)由来。抗弁が根拠とするものが特許権者又は特許権者に内々に関与した者から由来したときは、本条に基づく抗弁を主張できない。

(C)非全般的ライセンス。本条に基づく者によって主張された抗弁は、問題の特許の全てのクレームに基づく全般的ライセンスではなく、本章に基づく抗弁を主張できる点に関するその特許の特定のクレームされたものだけに及ぶ。ただし、その抗弁はクレームされたものの質又は量のバリエーションに及び、その特許の追加的に明確にクレームされたものを侵害しない限りクレームされたものの改良にも及ぶものとする。

(4)立証責任。
 本条に基づく抗弁を主張する者は明確で説得力のある証拠でその抗弁を立証する責任を負うものとする。

(5)使用の放棄。
 商業的使用を放棄した者は、その放棄の日後に行われた活動に関する本条に基づく抗弁を立証する時に、その放棄の日前の行われた活動を根拠とすることはできない。

(6)本人の抗弁。
 本条の抗弁は抗弁を立証する必要がある行為を行った者だけが主張でき、特許権者に移転する場合を除き、抗弁を主張する権利の他の者へのライセンス又は譲渡又は移転は、その抗弁が関係するビジネスの事業又は仕事の全体の他の理由による善意の譲渡又は移転の付随的かつ従属的な部分である場合を除き、できないものとする。

(7)場所の制限。
 本条に基づく抗弁は、その抗弁が関係するビジネスの事業又は仕事の全体の善意の譲渡又は移転の一部として獲得した場合は、特許の有効な出願日又はビジネスの事業又は仕事の譲渡又は移転の日の遅い方より前にそうでなければ1又は2以上のクレームを侵害していたであろうものを使用していた場所で使用するために主張できるだけである。

(8)抗弁の主張の失敗。
 本条に基づく抗弁が特許を侵害すると認定され、続いてその抗弁を主張する合理的な根拠を立証することに失敗した者によって弁明された場合は、裁判所は本条第285条〔弁護士費用〕に基づく弁護士費用を与えられる例外的な場合と認定するものとする。

(9)無効。
 本条に基づく抗弁が提起され立証されただけの理由で、特許は第102条〔新規性〕又は第103条〔非自明性〕に基づく無効であるとはみなされないものとする。

  
第281条 特許権侵害の救済

 特許権者は特許権の侵害に対して民事訴訟によって救済を受けるものとする。

  
第282条 有効性の推定;抗弁

 特許は有効であると推定されるものとする。特許の各々のクレーム(独立、従属、又は複数項従属形式であることにかかわらない)は他のクレームの有効性に独立して有効であると推定されされるものとする;従属又は複数項従属クレームは無効なクレームに従属するものであったとしてもそれとは独立して有効であると推定するものとする。前の文にかかわらず、組成物のクレームが無効であり、かつ、そのクレームの非自明性の決定の根拠が第103条(b)項(1)号〔バイオテクノロジーに関する規定〕に基づく場合は、その方法は第103条(b)項(1)号に関しては非自明であるとすることはできないものとする。特許又はそのクレームの無効の立証責任はその無効を主張する当事者が負担するものとする。

 以下は特許の有効性又は侵害を含むあらゆる訴訟において抗弁であるものとし、弁論されるものとする。

(1)非侵害、侵害の責任の不存在又は行使不能、

(2)特許要件として本法第II部〔発明の特許性〕に規定された理由による本件特許又はクレームの無効、

(3)本法第112条〔明細書〕又は第251条〔瑕疵のある特許の再発行〕の要件に従うことに失敗したことによる本件特許又はクレームの無効、

(4)本法によって抗弁とされたその他の事実又は行為。

 特許の有効性又は侵害を含む訴訟において、無効又は非侵害を主張する当事者は訴答又はその他の書面において他方当事者に対してトライアルの少なくとも30日前に、本件特許に先行するものとして又は合衆国請求裁判所における訴訟を除き技術水準を示すものとして、〔無効の根拠となる〕特許の国名、番号、日付、及び権利者名、刊行物の名称、日付、及び頁、並びに先行する発明者の氏名及び住所、又は、本件特許の先行技術を知っている者又は以前に使用した者若しくは販売の申出をした者の氏名及び住所を通知するものとする。そのような通知がない場合は、裁判所が求める条件にあう場合を除き、その事項に関する立証はトライアルにおいて行うことができない。

 以下、医薬特許に関する規定 《翻訳省略》

  
第283条 差止

 本法に基づき事件の管轄を有する裁判所は、特許によって保証された権利に対する違反を防止するためにエクイティ〔衡平法〕の原則に従い、裁判所が合理的と考える条件で、差止を認容することができる。

  
第284条 損害賠償

 原告を支持する事実認定に基づき、裁判所は侵害を補償するに適切な賠償額を裁定するものとする、だたし、侵害者による発明の使用に対する合理的なロイヤリティに裁判所が決定する利益及び費用を加算した額を下らない。

 陪審によって損害額が認定されたかったときは、裁判所が決定するものとする。どちらの場合においても、裁判所は損害額を認定又は決定した額の3倍まで増額することができる[訳6]本パラグラフに基づく損害額の増額は本法第154条(d)項〔仮の権利〕[訳7]に基づく仮の権利には適用しないものとする。

 裁判所は損害額の決定又は状況に基づく合理的なロイヤリティの決定の助けとして専門家の証言を聴取することができる。

  
第285条 弁護士費用

 裁判所は例外的な場合は勝訴した当事者に合理的な弁護士費用を裁定することができる。[訳8]

  
第288条 無効なクレームを含む特許の侵害訴訟

 特許のあるクレームが、詐欺的な意図なしに[訳9]、無効であるときは、その特許の有効であるクレームの侵害について訴訟を維持することができる。特許権者は、訴訟開始前に無効クレームの削除が特許商標庁に登録されていない限り、費用を回収することはできない。


  
特許規則
(2002.08.04翻訳修正)
  
第1.56条 特許性に重要な情報を開示する義務

(a)特許権は、まさにその性質によって、公衆の利益により影響を受ける。その公衆の利益に最もかない、かつ、最も効率的な特許審査がなされるのは、出願が審査される時点で、特許性に重要な全ての情報を庁が知り、かつ、その内容を評価できる場合である。一つの特許出願の出願および手続に関係する各個人<each individual associated with the filing and prosecution of a patent application>は、庁とのやりとりにおいて正直と誠実の義務を負い、その義務には本条の定義に従い、特許性に重要であると前記個人によって認識される全ての情報<all information known to that individual to be material to patentability>を、庁に開示することが含まれる。情報開示義務は、継続中の各クレームに関して、そのクレームが削除され又は審理から取り下げられるまで、又は出願が放棄されるまで、存在する。削除されまたは審理から取り下げられたクレームについての特許性に重要な情報は提出する必要はない。どの現存するクレームの特許性にも重要でない情報は提出する義務はない。もし、その特許のどれかのクレームの特許性に重要であると認識されている全ての情報が庁によって引用されたか、第1.97条(b)〜(d)項及び第1.98条に規定された方法で庁に提出された場合は、特許性に重要であると認識される全ての情報を開示する義務は、果たされたものと判断される。しかしながら、庁に対する詐欺が行われまたは試みられ、又は、不誠実若しくは意図的違反行為によって開示義務が破られた出願には特許が付与されることはない。庁は、出願人がそのなかに含まれる全ての重要な情報が庁に対して提出されていることを確かめるために、下記(1)(2)を注意深く調べることを奨励する:

(1)対応出願についての外国特許庁の調査レポートに引用された先行技術、及び

(2)特許の出願および手続に関係する個人が継続中のクレームに最も近いと信じる情報

(b)本条において、次の場合に情報は特許性に重要であるという。
 その情報が、その出願に関してすでに記録された情報または記録されたものから作成された情報と重複せず、かつ、

(1)その情報が、それだけでまたは他の情報との組合せによって、あるクレームの不特許性を一応証明するケース<prima facie case>を確立する場合、又は、

(2)その情報が、次の(i)(ii)の時に出願人がとる立場に反しまたは矛盾する場合。

(i)庁によって拠り所とされた不特許性の論拠に反論する時、又は、

(ii)特許性の論拠を主張する時。

 不特許性を一応証明するケースが確立されるのは次の場合である。証拠の優越(立証責任の基準)のもとで、そのクレームの各用語に明細書と一致する最も広い合理的な解釈を与え、かつ、特許性に関する逆の結論を確立する試みにおいて提出されるかもしれない証拠を考慮することがなされる前に、あるクレームが特許できないという結論に、その情報が導く場合。

(c)本条において、一つの特許出願の出願および手続に関係する個人<individuals associateded with the filing and prosecution of a patent application>は、

(1)その出願に氏名が記載された各発明者、

(2)その出願の準備又は手続を行った各弁護士又は弁理士<attorny or agent>、及び

(3)あらゆるその他の、その出願の準備又は手続きに実質的に関与した人、および、発明者、譲受人、又はその出願を譲り受ける義務のある誰でも、と提携した人Each other person who is substantively involved in the preparation or prosecution of the application and who is associated with the inventor, with the assignee or with anyone to whom there is an obligation to assign the application

である。

(d)弁護士、弁理士又は発明者以外の個人<individuals>は情報を弁護士、弁理士、又は発明者に開示することによって本条に従うことができる。

(e) 《翻訳省略



  
訳注

(訳1)アンダーライン部分は1999年法改正部分である。第302条に基づく一方当事者系再審査請求は従来からあったものであるが、第311条に基づく当時者系再審査請求は1999年法で追加されたものである。なお、1999年改正法全体については山口洋一郎「1999年米国特許法改正法の概要」AIPP1 (1999) Vol.44 No.12 P.708-715、事務局(訳)「1999年米国特許法改正」AIPPI (2000) Vol.45 No.3 P.148-179、旧法の全体の条文及び判例についてはヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説(第3版)」を参照してください。

(訳2)「出願前」であれば先願主義であるが、米国特許法では「発明前」であるから先発明主義である。

(訳3)米国特許法は先発明主義ではあるが、発明から1年以上遅れて出願した場合は、(b)項により、出願日から1年以上前の刊行物等に同一発明が記載されていれば、拒絶されることになる。
  
(訳4)第122条(b)項は1999年法で新設された条文で、出願から18月で出願公開することを規定している。ただし、出願後18月で出願公開が義務づけられている国へ出願しない場合は、出願時点で申請すれば非公開となるようである(前掲事務局(訳)156頁参照)。

(訳5)一見、この条文は「ビジネス方法」のために特別に新設されたように見えるが、実際は、大企業団体が全般的な先使用権の立法を試みたが、個人発明家団体の反対で、ビジネス方法に関してだけ骨抜きの先使用権が認められただけのようである(前掲山口第713頁参照)。なお、日本では特許法第79条(JPO)に全般的な先使用権が規定されている。
  
(訳6)賠償額を増額されるのは意図的に侵害した場合(侵害であることを認識していて侵害した場合)である。

(訳7)出願公開制が導入されたことにより公開日から特許の発行日までの合理的な実施料を受ける権利が設けられた。

(訳8)「例外的な場合」は、勝訴者に自己の弁護士費用を負担させるのが著しく公正を欠くと認められる場合(ヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説第3版」317頁〜319頁参照)。
  
(訳9)一般にはあるクレームが無効と判断されたとしても、同じ特許のその他の有効なクレームについてはこの条文により権利行使できる。しかし、あるクレームが詐欺的な意図を理由として無効となった場合、例えば、開示義務違反によって無効になった場合は、その特許の全てのクレームについて権利行使不能となる。開示義務は判例に基づいて発展してきたものであり、米国特許法には規定されておらず、特許規則第1.56条に規定されている。最近の開示義務違反についてのCAFC判決としては、Semiconductor Energy Laboratory v. Samsung Electronics (Fed. Cir. 2000)(Georgetown Univ.)がある。この事件はビジネスモデル特許に関するものではないが、ビジネスモデル特許の場合は審査官が先行技術を知らないため、通常の技術に関する特許以上に開示義務違反に問われる可能性が高いと考えられる。したがって、米国にビジネスモデル特許を出願するときには開示義務に違反しないように十分注意すべきである。逆に、侵害訴訟の被告としては開示義務違反を立証できれば原告の特許全体を行使不能にできるので強力な抗弁となる。なお、日本には開示義務はないが、最近、東京地裁で開示義務を予感させるような判決があった。




  
インターネットと属地主義
2000.05.05 井上雅夫
          目     次
1.はじめに
2.合衆国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマース
3.合衆国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマース
4.日本国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマース
5.日本国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマース
6.日本国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマースであるが、ドメイン名に「.com」を使用する場合
7.日本国内のサーバーによる全世界の消費者向けのeコマース
8.おわりに

  
1.はじめに

 ビジネスモデル特許が注目されてくるにつれて、インターネットには国境がないことから一つの問題が生じてきた。例えば、日本で日本の消費者向けにeコマースのサイトを経営していても、アメリカからもアクセスすることができ、アメリカの消費者が注文することもできるから、米国特許を侵害しているとしてアメリカの裁判所に訴えられるのではないかという問題である。

 これまでの常識では、米国特許は合衆国内だけで効力を有し、その効力が外国に及ぶことはない。実際、米国特許法271条(a)項には、「特許の存続期間中に、許可なく、特許された発明を合衆国内で製造、使用、販売の申出、若しくは販売した者、又特許された発明を合衆国に輸入した者は特許を侵害する。」と規定されており、米国特許を侵害するのは、合衆国内で使用等を行った場合だけである。同じ発明を日本で使用等を行っても米国特許を侵害することはあり得ない。これは米国特許法だけでなく、どの国の特許法でも同じであり、特許は特許された国の中だけでしか効力がない。もし、多くの国で特許権を主張したいのであれば、それぞれの国の特許庁に出願し、それぞれの国で特許を受けなければならないのである。これを属地主義という。

 ところが、インターネットには国境がなく、また、ビジネスモデル特許が特許されるようになったことにより、この属地主義がこれまでどおり成り立つかどうかわからなくなってしまったのである。この問題に対して確実な答えを得るためには、今後、インターネットを利用したビジネスモデル特許に関する様々な訴訟が起こり、判例が蓄積されることによって、271条(a)項の「特許された発明を・・・合衆国内で・・使用・・・した者・・・は特許を侵害する。」の解釈が明確になるのを待つ以外にない。

 しかし、271条(a)項を合理的に解釈すれば、アメリカの裁判所が今後なすであろう判決をある程度予想することができると考える。そこで、現時点での私の予想を述べてみたいと思う。したがって、以下に述べることは、あくまで「予想」であり、確実なものではない。また、このサイトに記載した他のことと同様に、以下に述べることに対しても、一切の責任を負いません。
 
     
2.合衆国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマース

 その他の要件が満たされれば、米国特許の侵害であることは明らかである。特許のクレームがシステム(装置特許)であれば、そのクレームで規定されたシステムを使用することが侵害となる。また、クレームがメソッド(方法特許)であれば、そのクレームで規定された方法を使用することが侵害となる。
 
   
3.合衆国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマース

 サーバーは合衆国内にあるがeコマースを利用するのは日本にいる日本人であるから、クライアントは日本にあることになる。これをAmazon.comの1クリック特許(米国特許5960411号(USPTO))のクレーム1(方法)、クレーム6(クライアントシステム)、及びクレーム9(サーバーシステム)を例にして検討してみよう。

(1)クレーム1(品目を注文する方法)
 クレーム1は方法(メソッド)に関するものであり、翻訳すると以下のようになる。

 クライアントシステムの制御のもとに、
 その品目を識別する情報を表示すること;及び

 シングルアクションが行われるのに対応して、その商品の購入者の識別子と一緒にその品目の注文の要求をサーバーシステムへ送信すること;

 サーバーシステムのシングルアクション注文構成部分の制御のもとに、
 要求を受信すること;

 受信した要求内の識別子によって識別された購入者のために以前に保存された付加的な情報を検索すること;及び

 受信された要求中の識別子によって識別された購入者のために検索された追加的な情報を使用して要求された品目を購入する注文を生成すること;及び

 品目の購入が完了するように生成された注文を実行すること

 からなり、それによって品目がショッピングカート注文モデルを使用することなしに注文される

 品目を注文する方法。

 このクレーム1は方法クレームであるが、クレーム内にクライアントシステムとサーバーシステムの両方を含んでいる。そうすると、クレームのクライアントが実行する構成要素は日本で使用され、サーバーが実行する構成要素は合衆国内で使用されることになる。また、「要求」は日米間の通信回線を伝達されることになる。

 一般に、侵害が成立するためにはクレームの構成要素の全てを実施していなければならず、クレームの一部しか使用していない場合は侵害ではない。これをオール・エレメント・ルールという(ヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説(第3版)」278頁参照)。したがって、侵害訴訟の被告としては合衆国内で使用したのはクレーム中のサーバーシステムに関する構成要素だけであり、クレームの全ての構成要素を合衆国内で使用してはいないから、非侵害であると主張することができる。これに対して特許権者がこのような場合でも侵害であるとする判例等を提出できなければ、裁判所は非侵害と判断する可能性が高いのではないだろうか。

(2)クレーム6(品目注文用クライアントシステム)
 クレーム6はクライアントシステム(装置)に関するものであり、翻訳すると次のようになる。

 顧客を識別する識別子;

 品目を識別する情報を表示する表示構成部分;

 サーバーシステムが注文を完了するために必要なローカルな付加的情報の位置を突き止めることができ、その結果サーバーシステムが品目の購入を完了させるため生成された注文を実行することができる識別子を要求が含んでおり、シングルアクションだけの実行に応答して、識別された品目をサーバーシステムに注文する要求を送信するシングルアクション注文構成部分;及び

 ショッピングカートへの追加行為の実行に応答してショッピングカートに品目を追加する要求をサーバーシステムに送信するショッピングカート注文構成部分

 からなる品目注文用クライアントシステム。

 このクレームはクライアントシステムであるから、このシステムは日本に存在することになり、このクライアントシステムの使用は日本であって合衆国内ではない。したがって、このクレームの場合は、侵害訴訟の被告に有利であるようにみえる。

 しかし、271条(f)項(1)号には、「特許された発明の構成部分の全て又は相当な部分を合衆国内で又は合衆国から許可なく供給する又は供給させる者は、その構成部分が全体又は一部が結合していないとしても、もし結合が合衆国内で起こったとしたら特許を侵害するであろう方法で、合衆国の外部で構成部分の結合を積極的に引き起こすような場合は、侵害者として責任を負うものとする。」という規定がある。この規定は例えば、テレビを部品の状態で合衆国から輸出し、日本の業者がテレビに組み立てたような場合に、合衆国の輸出業者の米国特許の侵害を問うために設けられた条文のはずであり、現在のインターネットを予想して制定されたとは考えられない。しかし、このクレーム6の場合、ブラウザの部分を除けば、全て合衆国内のサーバーから送信されてきたプログラムとデータによって動作するクライアントシステムであるから、この条文を適用して侵害であるとされる可能性もあるのではないかと考える。

(3)クレーム9(注文生成用サーバーシステム)
 クレーム9はサーバーシステム(装置)に関するものであり、翻訳すると次のようになる。

 ショッピングカート注文構成部分;及び

 以下を含むシングルアクション注文構成部分

 複数のユーザーの情報を保存するデータ記憶媒体;

 要求は複数のユーザーの1名の指示を含み、要求はシングルアクションが実行されたことにだけ応答して送信される、品目を注文する要求を受信する受信構成部分;及び

 データ記憶媒体から、指示されたユーザーのための情報を検索し、検索された情報を、指示されたユーザーのために品目の注文に使用する注文構成部分;及び

 シングルアクション注文構成部分によってなされた注文に対応してその品目の購入を完了させる注文実行構成部分

 からなる注文生成用サーバーシステム。

 このクレームはサーバーシステムであり、要求は日本から送信されてくるものの、サーバーは合衆国内にあるのであり、合衆国内で使用されるのであるから、その他の要件が満たされるとすれば、米国特許を侵害すると判断される可能性が極めて高いと考えられる。
 
   
4.日本国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマース

 上記3.の場合と逆であり、サーバーが日本にあり、クライアントが合衆国内にあることになる。これを同様にAmazon.comの1クリック特許(米国特許5960411号)のクレーム1(方法)、クレーム6(クライアントシステム)、及びクレーム9(サーバーシステム)を例にして検討してみよう。

(1)クレーム1(品目を注文する方法)
 クレーム1はクレーム内にクライアントシステムとサーバーシステムの両方を含んでいる方法に関するものであるから、クレームのクライアントが実行する構成要素は合衆国で使用され、サーバーが実行する構成要素は日本で使用されることになる。また、「要求」は日米間の通信回線を伝達されることになる。

 したがって、上記3.と同様に、侵害訴訟の被告としては合衆国内で使用したのはクレーム中のクライアントシステムに関する構成要素だけであり、クレームの全ての構成要素を合衆国内で使用してはいないから、非侵害であると主張することができる。これに対して特許権者がこのような場合でも侵害であるとする判例等を提出できなければ、裁判所は非侵害と判断する可能性が高いのではないだろうか。
  
(2)クレーム6(品目注文用クライアントシステム)
 クレーム6はクライアントシステムであり、要求は日本のサーバーへ送信されるものの、クライアントは合衆国内にあるのであり、合衆国内で使用されるのであるから、その他の要件が満たされるとすれば、米国特許を侵害すると判断される可能性が極めて高いと考えられる。
  
 この場合、クレーム6のクライアントシステムは合衆国内の消費者が使用しているが、271条(b)には、「特許権侵害を積極的に引き起こした者は侵害者として責任があるものとする。」と規定されているから、日本国内にサーバーを設置してeコマースを行っている者が、侵害者として責任が問われる可能性が高いと考えられる。

(3)クレーム9(注文生成用サーバーシステム)
 クレーム9はサーバーシステムに関するものであり、このサーバーは日本に存在することになり、このサーバーシステムの使用は日本であって合衆国ではない。したがって、このクレームの場合は、非侵害の可能性が高いと考えられる。

 しかし、インターネットではサーバーがどの国にあろうがユーザーにとっては全く同じであるから、もし、これが非侵害になるとすると、eコマース企業はサーバーを特許権のある国を避けて特許権のない国に設置するようになるだろう。そうすると、特許制度によって、サーバーが外国に逃げていくことになり、不合理である。したがって、このような場合に非侵害とする判決が頻発するとすれば、合衆国向けの使用を侵害とするように米国特許法の改正が行われるかもしれない。

     
5.日本国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマース

 この場合はサーバーもクライアントも日本国内にあるのであるから、合衆国内で使用されることはなく、米国特許を侵害することはあり得ない。もし、米国から米国特許を侵害したとして訴えられることが不安であれば、合衆国からの注文は受け付けない旨表示し、合衆国内の住所が入力されたときは注文できないようにシステムを設計すればよいと考えられる。

  
6.日本国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマースであるが、ドメイン名に「.com」を使用する場合

 かつては、銀座に店を出すとか、ニューヨーク支店を開設することが一流企業のステータスであったが、現在は、ドメイン名を「.com」とすることがeコマース企業のステータスのようである。そこで問題になるのが、ドメイン名が「.com」であれば、日本国内にサーバーを設置した日本の消費者向けのeコマースでも、米国特許を侵害するとして訴えられることがあるのだろうかということである。

 この問題を解くには、インターネットで使われているドメイン・ネーム・システム(DNS)について理解する必要がある。eコマースのサイトをアクセスするときに、消費者は自分のパソコンのブラウザにそのサイトのurl例えば「http://www.abcdef.com/」を入力するが、そのうち「abcdef.com」がドメイン名である。ところが、インターネットに接続されている機器を特定するために実際に使用されているアドレスは「IPアドレス」であり、例えば、「100110111110101111101011010011」というような32ビットの数字である(これを8ビットづつ区切り10進数で表記すると「155.235.117.83」のような数字になり、これがダイアルアップのTCP/IP設定のDNS指定の時に入力する数字である)。そこで、インターネットにはドメイン名をIPアドレスに変換するシステムが備えられているのである。そのため、入力された「abcdef.com」はプロバイダのDNSサーバーに送られ、更にそこからたぶん合衆国内にある「abcdef.com」とそのIPアドレスの対照表を記憶しているDNSサーバーに送られ、対応するIPアドレスが送り返されてきて、そのIPアドレスを使って目的の「abcdef.com」にアクセスし(ここまでをブラウザとインターネットのドメイン・ネーム・システムが瞬時に行う)、その後、買い物をすることができるのである。

 通常の商店と対応づけるとすれば、ドメイン名は店名であり、IPアドレスは電話番号であり、DNSサーバーは電話番号案内である。店名だけは知っているが電話番号がわからない店に電話で注文したいときに、まず電話番号案内に電話して電話番号を聞き、その電話番号を使って目的の店に電話をして、注文するのと同じことである。「.com」のドメイン名(店名)を使っていればDNSサーバー(電話番号案内)は合衆国内にある可能性が高いが、実際のeコマースは返送されてきたIPアドレス(教えてもらった電話番号)を使って日本国内にあるそのeコマースのサイト(店)にアクセス(電話)し、そこで注文するのであるから、eコマースの仕組みに関するビジネスモデル特許、例えば前記Amazon.comのクレーム1(方法)、クレーム6(クライアントシステム)、及びクレーム9(サーバーシステム)を合衆国内で使用してはいない。したがって、米国特許を侵害することはあり得ないと考えられる。

 しかし、「.com」を使用していれば、eコマースのサイトも合衆国内のサーバーに設けられていると誤解される可能性もあるから、eコマースのサイトが設けられたサーバーは日本国内にあり、また日本の消費者向けのeコマースであることを立証するために必要な文書等を準備しておいた方がよいだろう。もしその文書が日本語であれば、英語に翻訳する必要があり、また、アメリカの裁判官にインターネットやDNSの仕組みを理解させるための英文のわかりやすい解説書も準備しておけば、アメリカから警告状や訴状が送られてきたとしても落ち着いて対応できると考えられる。

  
7.日本国内のサーバーによる全世界の消費者向けのeコマース

 全世界向けであるから、合衆国内の消費者にもeコマースで販売するのであり、米国特許を侵害するとして訴えられることがあるかもしれない。しかし、もし、特許権者が全世界におけるeコマースの差止を請求したら、米国特許を侵害するのは合衆国内での使用に限られるから、仮に差止が課せられるとしても、合衆国内だけの差止であると主張する必要がある。そして、実際に差止が命令されたとしたら、合衆国からの注文は受け付けない旨表示し、合衆国内の住所が入力されたときは注文できないようにシステムを設計変更すればよいと考えられる。そうすれば合衆国以外の全世界に対するeコマースは続けられるはずである。

 また、全世界向けの販売額を根拠にして損害賠償を請求された場合は、米国特許を侵害するのは合衆国内における使用だけだから、仮に損害賠償を課せられるとしても、合衆国内での販売額だけに対する損害賠償であると主張する必要がある。ただし、アメリカでは意図的な侵害については第284条第2パラグラフにより3倍賠償が課せされるから、侵害していると自ら認識した場合は、侵害していると認識した範囲の行為を、直ちに止めるべきである。

 なお、裁判管轄権、裁判地等については、電脳空間法律(インターネットをめぐる法律問題)、「インターネットをめぐる米国判例・法律100選」を参照してください。

  
8.おわりに

 以上述べたように、合衆国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマースはその他の要件が満たされれば、米国特許を侵害することは明らかである。合衆国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマース、あるいは、日本国内のサーバーによる合衆国の消費者向けのeコマースは、米国特許を侵害していると判断される場合も、非侵害であると判断される場合もあると考えられる。しかし、日本国内のサーバーによる日本の消費者向けのeコマースは、たとえドメイン名が「.com」であったとしても、米国特許を侵害することはないと考えられる。しかし、これはあくまで私の「予想」であり、また、ここで述べたことが全てのビジネスモデル特許に適用できるかどうかもわからない。アメリカは判例法主義の国であるから、ビジネスモデル特許に関する特許法の解釈は今後の判例の蓄積によって明確化されていくことになる。

 十数年前のパソコン通信の時代から、パソコン通信を使って商品を購入することは可能ではあった。しかし、本格的にeコマースが行われ始めたのはごく最近のことである。したがって、eコマースの分野はフロンティアであり、かつてのアメリカの西部開拓時代のようなものと考えるべきだろう。インターネット上にeコマースのサイトを開くということは、法秩序が確立していなかった西部劇時代に、ゴールドラッシュで沸き返る町のなかに店を開くのと同じようなことである。したがって、現時点では、自分のサイト(店)は自分の力で、ただし拳銃やライフルの力ではなく、「法務力」によって、守る以外にないのである。
   


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