翻訳 井上雅夫 2008.06.26; 07.03; 0705; 0706  ↑UP    KSR事件合衆国最高裁判決


KSR判決を考慮した米国特許商標庁の自明性の審査基準
2007.10.10公表


   目        次

プレスリリース


KSR International Co. v. Teleflex Inc最高裁判決を考慮した米国特許法103条に基づく自明性を決定するための審査基準

 I.KSR判決および自明性の法の原則
 II.Graham v. John Deere Coの基本的な事実審理
  事実認定者としての庁職員
  A.従来技術の範囲と内容の決定
  B.クレームされた発明と従来技術の相違点の確認
  C.通常の技術者のレベルの決定
 III.米国特許法103条に基づく拒絶を支持する論理付け
  論理付け
  A.予想できる結果を得るための知られた方法による従来技術の要素の組み合わせ
  B.予想できる結果を得るための一つの知られた要素のもう一つのものへの単なる置換
  C.同様な装置(方法、または製品)を同じやり方で改良する知られた技術の使用
  D.予想できる結果を得るために改良の準備ができている知られた装置(方法、または製品)への知られた技術の適用
  E.「試みることが自明」−成功が合理的に期待される、限られた数の特定された予想できる解決策からの選択
  F.一つの努力している分野で知られている製品は、そのバリエーションが通常の技術者に予想できたであろうならば、設計インセンティブまたはその他のマーケットの力に基づいて、同じ分野または他の分野において、そのバリエーションを促すことができる
  G.クレームされた発明に到達するために通常の技術者を従来技術文献の修正または従来技術文献の教示の組み合に導いたであろう従来技術における何らかの教示、示唆、または動機付け
 IV.出願人の応答
 V.出願人の反駁証拠の考慮
 脚注

審査官研修用スライド
  1.KSR International Co. v. Teleflexを考慮した米国特許法103条に基づく自明性の決定
  2.KSR v. Teleflex基準
  3.KSR v. Teleflex基準
  4.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
  5.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
  6.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
  7.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
  8.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
  9.Graham v. John Deereテストの助言
 10.Graham v. John Deereテストの助言
 11.Graham v. John Deereテストの助言
 12.Graham v. John Deereテストの助言
 13.A−知られた方法による従来技術の要素の組み合わせ
 14.B−一つの知られた要素のもう一つのものへの単なる置換
 15.C−同様な技術を同じやり方で改良する知られた技術の使用
 16.D−改良の準備ができている知られた技術への知られた技術の適用
 17.E−限られた数の特定された解決策の中で試みることが自明
 18.F−バリエーションを促す設計インセンティブまたはマーケットの力
 19.G−組み合わせの教示、示唆または動機付け
 20.KSR後の許可
 21.KSR後の許可
 22.KSR後の許可
 23.KSR後の許可
 24.KSR後の許可
 25.KSR後の許可
 26.おわり


MPEP2145 X.A.「容認できない後知恵」

訳注




プレスリリース

問い合わせ先:Brigid Quinn or Ruth Nyblod (571) 272-8400または
brigid.quinn@uspto.govまたはruth.nyblod@uspto.gov
 2007年10月10日
#07-43        

USPTOは KSR v Teleflex最高裁判決を考慮した自明性を決定するための審査基準を公表する

 商務省の米国特許商標庁(USPTO)は、KSR International Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. __, 82 USPQ2d 1385 (2007) (KSR)最高裁判決を考慮したクレームされた発明の自明性の適切な決定をUSPTOの審査官が行うのを助けるために、審査基準(基準)を公表した。

 「この基準は、遙か以前のGraham v. John Deere Co., 383 U.S. 1, 148 USPQ 459 (1966)最高裁判決によって表明されたよく知られた事実審理が自明性のあらゆる決定のための基礎であり続けることを強調している。」とJohn Doll特許局局官は書き留めている。「すなわち、特許審査官は、(1)従来技術の範囲と内容、(2)従来技術とクレームされた発明の間の相違点、(3)関連する技術における通常の技術者のレベル、および(4)自明性の問題に関する客観的な証拠、を検討し続けることになる。」

 また、この基準は、特許審査官は自明性を理由にクレームを拒絶する時に自明性の法的結論に導く推論<reasoning>を説明し続けなければならないとも書き留めている。その推論は、クレームされた発明をなすための従来技術の教示、示唆、動機付け(TSM)を審査官が確認した場合にクレームされた発明は自明とし得るという確立された連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の基準を依然として含み得る。しかしながら、KSR判決に調和して、この基準は、特許審査官が適切な自明性の拒絶を行うためにTSMアプローチを使用することは必要条件ではない<no requirement >と説明している[訳1]。さらに、この基準は、クレームされた発明にTSMアプローチを適用できない場合でも、その発明が自明であると認定し得ることを指摘している。

 適切な事実と推論により支持された自明性の拒絶を審査官が行うのを助けるために、この基準は、KSR最高裁判決によって示唆されたかなりの数の論理付け<rationales>を明らかにしている。各論理付けのために、この基準は、基礎となる事実認定を説明し、その事実から自明性の法的結論へ推論する方法についてのガイダンスを提供している。しかしながら、この基準は、明らかにされた論理付けは例示に過ぎず、Graham審理に基づく事実および推論のいかなる説明も自明性の拒絶を支持するために使用することができることを強調している。

 この審査基準はhttp://www.uspto.gov/web/offices/com/sol/notices/72fr57526.pdfで入手できる。



商務省
特許商標庁
[Docket No.: PTO-P-2007-031]

KSR International Co. v. Teleflex Inc最高裁判決を
考慮した米国特許法103条に基づく
自明性を決定するための審査基準


政府機関:米国特許商標庁、商務省。

アクション:告知。

要約:米国特許商標庁(USPTO)は、KSR International Co. v. Teleflex Inc. 最高裁判決を考慮した米国特許法103条に基づく自明性を決定するための審査基準を公表する。この基準はUSPTOの職員が米国特許法103条に基づく自明性の適切な決定を行うのを助け、適切に支持する論理付け<rationale>を提供する。

日付:この基準は2007年10月10に効力を発する。

更なる情報の問い合わせ先:Contact either Kathleen Kahler Fonda,
Legal Advisor (telephone (571) 272-7754; e-mail
kathleen.fonda@uspto.gov) or Pinchus M. Laufer, Patent Examination
Policy Analyst (telephone (571) 272-7726; e-mail
pinchus.laufer@uspto.gov), of the Office of the Deputy Commissioner for
Patent Examination Policy. Alternatively, mail may be addressed to Ms.
Fonda or Mr. Laufer at Commissioner for Patents, attn: KSR, P.O. Box
1450, Alexandria, VA 22313-1450.

補足情報:この基準は、庁職員が米国特許法103条に基づく自明性の適切な決定を行うのを助け、最近のKSR International Co. v. Teleflex Inc. (KSR)最高裁判決[1]を考慮して適切に支持する論理付けを提供することを意図している。この基準は、庁による現在の法の理解に基づいており、最高裁の拘束力のある先例[2]と完全に一致していると信じられている。

 この基準は、実質的なルール作成を構成せず、それゆえ法の効力を有さない。この基準は、庁の内部管理の問題として作成されたものであり、実体的にも手続的にも、当事者が庁に対して強制できる権利または利益を作り出すことは意図されていない。拒絶は実体法に基づいてなされ続け、審判請求できるのはこれらの拒絶である。したがって、庁職員がこの基準に従わないことは審判請求できず、出訴することもできない。

 庁の以前の基準(現在の特許審査手続マニュアル(MPEP)のいくつかのセクションを含む)がここに明らかにされた基準に矛盾する限りにおいて、庁職員はこの基準に従う。MPEPの次のバージョンはこれに従いアップデートされる。

I.KSR判決および自明性の法の原則
 Teleflexは、自動車のアクセルに関する有用な技術をクレームする特許を所有していた。KSRにおいて争われた発明は異なった身長のドライバーに便宜をはかるために調整することができるペダル組立体であった。電子ペダル位置センサーがペダル組立体の支持体上に位置しており、ペダルのピボットポイントはペダル組立体が調整されるにもかかわらず固定されたままであった。調整可能なペダルの固定されたピボットポイントと支持体上の固定されたセンサー位置の組み合わせは、より簡単で、より軽量で、よりコンパクトな設計をもたらした。

 TeleflexはKSRを侵害で訴えた。地裁は、調整可能なペダルとセンサーを別々に教示する複数の文献を引用し、Teleflex の特許は自明により無効であるとするサマリ判決を下した。控訴審において、CAFCは地裁の判決を取り消し、この事件を差し戻した。CAFCは、自明性の認定に到達する際に「地裁の分析は不完全な教示−示唆−動機付けテストを適用した」と判示した[3]

 CAFCの判決の再審理を求めるKSRの上告受理申立事件において、最高裁は、本件特許は自明により無効であると地裁は正しく決定したと結論して、[CAFC判決を]破棄した。最高裁は、Graham v. John Deere Co.において明らかにされた自明性を決定するためのよく知られた枠組みを再確認したが、CAFCは教示−示唆−動機付け(TSM)テストを過度に硬直的で公式的な方法で適用することによって誤ったと判示した[4]。特に、最高裁は、CAFCは4つの方法:(1)「裁判所および特許審査官は特許権者が解決しようとした課題だけを見なければならないと判示することによって」[5]、(2)「ある課題を解決しようとする通常の技術者は同じ課題を解決するために設計された従来技術の要素のみに導かれるだろう」と仮定することによって[6]、(3)「要素の組み合わせを「試みることが自明」であったことを単に示すだけによっては特許クレームの自明性を証明することはできない」と結論することによって[7]、および(4)「裁判所と特許審査官が後知恵の先入観に陥るリスク」を過度に強調し、その結果として「事実認定者が常識に頼ることを否定する硬直した予防的なルール」を適用することによって、誤ったと判示した[8]

 KSRにおいて、最高裁は「従来技術において見つかった要素の組み合わせに基づいて特許を付与する場合の慎重さ[9]」を特に強調し、特許が自明であると決定されるであろう状況を論じている。重要なことは、最高裁が「知られた方法によるよく知られている要素の組み合わせは、予想できる結果<predictable results>[訳2をもたらすに過ぎない場合、自明となりやすい。」という自身の先例に基礎をおいた原則を再確認したことである[10]。最高裁は「Graham後に判決された3つの事件が、この方針の適用を例証している[11]」と判示している。(1)「United States v. Adams…において、…本最高裁は、特許が、一つの要素をその分野において知られた他のものに単に置き換えることにより変更された従来技術において既に知られた構造をクレームするときは、その組み合わせは予想できる結果以上のものをもたらすものでなければならないことを認めた[12]。」(2)「Anderson's-Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co.…において、…組み合わされた二つ[の既に存在する要素]は、分離して引き続いて実施した場合において行われるであろうこと以上のことは何も行わなかった[13]。」(3)「Sakraida v. AG Pro, Inc.…において、…本最高裁は、特許が知られていた機能と同じ機能をそれぞれ果たす従来の要素を単に配置し、そのような配置から期待されるであろう以上のものを生み出さない場合は、その組み合わせは自明であるという結論を…導いた[14]。」(内部の引用符は省略)。これらの事件の基礎をなす原則は、従来技術の複数の要素の組み合わせをクレームする特許が自明であるかどうかが問題である場合に有益である。さらに、最高裁は次のように判示している:
 ある製品が一つの努力している分野で利用可能である場合、設計インセンティブおよびその他のマーケットの力が、同じ分野または他の分野において、そのバリエーションを促すことができる。通常の技術者が予測可能なバリエーションを実施することができる場合は、103条はその特許性を妨げやすい。同じ理由で、ある技術が一つの装置を改良するために使用され、その技術の通常の技術者がその技術を用いて同様に類似した装置を改良できるであろうと認識するであろう場合は、その実際の応用が通常の技術者の技術を超えていない限り、自明である[15]。知られた要素の組み合わせの自明性を検討する場合、最も大切な質問は、要するに「その改良が確立された機能による従来技術の要素の予想できる使用以上かどうか」である[16]

II.Graham v. John Deere Coの基本的な事実審理
 発明がなされた時に通常の技術者にとって自明であったであろう発明は特許を受けることができない[17]。KSRにおいて最高裁が何回も述べているように、米国特許法103条に基づく自明性の決定の客観的な分析のための枠組みはGraham v. John Deere Co.において述べられている[18]。自明性は基礎となる事実審理に基づく法律問題である。裁判所によって明言された事実審理は次の通りである:
 (1)従来技術の範囲と内容が決定される;
 (2)クレームされた発明と従来技術の相違点が確認される;そして、
 (3)関連する技術における通常の技術者のレベルが決定される。
 自明性の問題に関連する客観的な証拠は庁職員によって評価されなければならない[19]。そのような証拠(時々「二次的考慮」として言及される)は、商業的成功、長期間感じされていたが解決されなかったニーズ、他者の失敗、および予期しない結果の証拠を含み得る。その証拠は、出願された明細書の中に含まれているかもしれず、出願に付随しているかもしれず、あるいは出願経過の何らかの他の適時に提供されるかもしれない。客観的証拠に与えられる重み付けはケースバイケース・ベースで決定される。出願人が証拠を提出したという単なる事実はその証拠が自明性の問題に決定的であることを意味しない。各事件は異なっており、それ自身の事実に基づいて決定されなければならないが、Grahamファクター<Graham factors>(二次的考慮が存在するときはそれを含む)はあらゆる自明性の分析において確認する<controlling>審理事項である[20]。KSRにおいて最高裁が述べたように、「これらの一連の問題は特定の事件においては整理し直し得るかもしれないが、[Graham]ファクターは確認する審理事項を定め続ける。[21]

事実認定者としての庁職員
 庁職員はGraham審理<Graham inquiries>を分析する時に事実認定者の決定的な役割を遂行する。自明性の最終的な決定は法的決定であるが、基礎となるGraham審理は事実に関することを、庁職員は覚えておかなければならない。それゆえ、自明性の拒絶を行う時、庁職員は書面の記録が従来技術の状態および適用される文献の教示に関する事実認定を含むことを保証しなければならない。ある状況においては、通常の技術者が従来技術の教示をいかに理解したであろうか、または通常の技術者が知ったまたは行ったであろうものに関する明示的な認定を含むことも重要であり得る。庁職員による事実認定は自明性を確立するために必要な土台である。

 事実認定が明瞭に表現されたら、庁職員は米国特許法103条に基づく自明性の拒絶を支持するための説明を行わなければならない。米国特許法132条は、出願人が最もよい手続きを行うのを決定することができるように、出願人にクレームの拒絶の理由が通知されることを要求している。オフィスアクションの中に拒絶を支持する事実認定および論理付けを明確に明らかにすることが特許性に関連する問題の解決に導く[22]。要するに、自明性の決定を行うときの焦点は、関連する技術における通常の技術者が発明の時に知っていたであろうもの、および通常の技術者がその知識から見て無理なく行うつもりであったであろうものに合わせられるべきである。これは、その知識および能力のソースが文献の従来技術、その技術における一般的知識、または常識であるかどうかにかかわらず、そうである。以下はGraham事実審理の検討である。

A.従来技術の範囲と内容の決定
 従来技術の範囲と内容の決定において、最初に庁職員は、出願人が発明したものを理解するためにクレームを含む明細書を読むことによる審査に基づいて出願の中に開示された発明およびクレームを完全に理解しなければならない[23]。クレームされた発明の範囲が、クレームに「明細書と整合する最も広い合理的な解釈」を与えることによって明確に決定されなければならない[24]。クレームされた発明の範囲が決定されると、庁職員は、何をサーチするのか、どこをサーチするのか、を決定しなければならない。

 1.何をサーチするのか:サーチはクレームされた発明特定事項<the claimed subject matter>をカバーすべきであり、合理的にクレームされることが予期されるかもしれない開示された特徴もカバーすべきである[25]。拒絶が組み合わせることの教示または示唆に基づく必要がない場合でも、好ましいサーチはそのような教示または示唆を提供する文献がもし存在すれば見つけ出すことに向けられるだろう。

 2.どこをサーチするか:庁職員は、従来技術のサーチに関するMPEP § 904から§ 904.03で明らかにされた一般的なサーチガイドラインに従い続けるべきである。庁職員は、米国特許法103条の目的のために、従来技術は、出願人が努力する分野の中にあるものあっても、その出願人が関係している特定の課題に合理的に関連するものであっても、よい。さらに、出願人が努力している分野以外の努力している分野の中にある従来技術[26]、または出願人が解決しようとする課題とは異なった課題を解決する従来技術も米国特許法103条の目的のために考慮し得る[27]。何が従来技術を構成するのかの検討のために、MPEP § 901から§ 901.06(d)および§ 2121から§ 2129参照。

B.クレームされた発明と従来技術の相違点の確認
 クレームされた発明と従来技術の相違点の確認には、クレームの文言の解釈[28]、および発明と従来技術の両方の全体としての検討[29]が必要である。

C.通常の技術者のレベルの決定
 あらゆる自明性の拒絶は、適用される従来技術に明示的にまたは暗黙に、通常の技術者のレベルを示すものを含むべきである。通常の技術者のレベルに関する認定は自明性の問題の解決の根拠の一部として使用されることができる。

 通常の技術者は、発明の時の関連する技術を知っていたであろうと仮定される仮想上の人物である。その技術の通常の技術のレベルの決定において考慮されるべきファクターは以下を含むことができる:(1)「その分野で直面する課題の種類」、(2)「課題に対する従来技術の解決策」、(3)「イノベーションがなされる早さ」、(4)「技術の洗練度<sophistication>」、および(5)「その分野において実際に働く人の教育レベル。与えらた事例において、全てのファクターは存在しなくてもよい、また一つまたはそれ以上のファクターが優位を占めてもよい。[30]

 「通常の技術者は通常の創作力を有する者であり、自動機械ではない[31]。」「多くの場合、通常の技術者はパズルの小片と同じように複数の特許の教示を合わせてはめ込むことができるだろう[32]。」庁職員は、「通常の技術者が行うであろう推論およびクリエイティブステップ」を考慮することができる[33]

 上記のファクターに加えて、庁職員は通常の技術者の技術および知識を記述する自分自身の技術的な専門知識に頼ることができる[34]

III.米国特許法103条に基づく拒絶を支持する論理付け
 Grahamファクターの審理が解決されると、庁職員はクレームされた発明が通常の技術者に自明であったであろうかどうかを決定しなければならない。

 自明性の分析は…刊行された論文および発行された特許の明示的な内容の重要性を過度に強調することにより制限されてはならない。多くの分野において、自明な技術または組み合わせについての論文はほとんど存在しないかもしれず、科学的著述よりも、むしろマーケットの需要が設計トレンドを決める場合がしばしばかもしれない[35]

 従来技術は適用される文献だけに限定されず、通常の技術者の知識を含む。従来技術文献(または組み合わされた場合の複数の文献)はクレームの限定の全てを教示または示唆する必要はない;しかしながら、庁職員は、従来技術とクレームされた発明の相違点が通常の技術者に自明であったであろう理由を説明しなければならない。「従来技術と発明の相違点が単に存在するだけではその発明の非自明性は証明されない[36]。」従来技術とクレームされた発明の間のギャップが「その技術における合理的な技術者に[クレーム]を非自明にさせるほど大きく」はないかもしれない[37]。自明性を決定する場合、クレームされた発明をなすための特定の動機付けも、その発明者が解決しようとした課題も、制約するものではない。適切な分析は、全ての事実の検討後にクレームされた発明が通常の技術者に自明であったであろうかどうかである[38]。引用された従来技術の開示以外のファクターがそのギャップを埋めるために通常の技術者に自明であったであろうことを結論づけるための根拠を提供することができる。以下で検討する論理付け<rationales>がそのような場合に自明を認定するために適用できる推論<reasoning>を概説する。

 従来技術のサーチとGrahamファクターの審理の解決の結果、自明性の拒絶がよく知られた教示−示唆−動機付け(TSM)論理付けを使用してなされ得ることが明らかになった場合、TSM論理付けを使用した拒絶を今までどおり行うことができる。KSRにおける最高裁はTSMの過度に硬直した適用に対して警告しているが、TSMは自明性を決定するために使用され得るかなりの数の有効な論理付けの一つであることも認めている[39][訳1]。庁職員は以下に明らかにされる1またはそれ以上の他の論理付けが自明の結論を支持するかどうかも検討すべきである[40]。以下の論理付けのリストは全てを含んだリストを意図していないことに注意せよ。庁職員は自明性の結論を支持する他の論理付けに頼ることができる。

 米国特許法103条に基づく拒絶を支持するための解決の鍵は、クレームされた発明が自明であったであろう理由の明確な表現である。KSRにおける最高裁は、米国特許法103条に基づく拒絶を支持する分析は明示的になされるべきであると書き留めている。最高裁は、In re Kahn[41]を引用して、「『自明性を理由とする拒絶は単なる結論の表明だけによっては維持されない;その代わりに、自明性の法的結論を支持するいくらかの合理的な基礎を有するいくらかの明瞭に表現された論理付けがなければならない。』」と述べている[42]

論理付け
 (A)予想できる結果を得るための知られた方法による従来技術の要素の組み合わせ;
 (B)予想できる結果を得るための一つの知られた要素のもう一つのものへの単なる置換;
 (C)同様な装置(方法、または製品)を同じやり方で改良する知られた技術の使用;
 (D)予想できる結果を得るために改良の準備ができている知られた装置(方法、または製品)への知られた技術の適用;
 (E)「試みることが自明」−成功が合理的に期待される、限られた数の特定された予想できる解決策からの選択;
 (F)一つの努力している分野で知られている製品は、そのバリエーションが通常の技術者に予想できたであろうならば、設計インセンティブまたはその他のマーケットの力に基づいて、同じ分野または他の分野において、そのバリエーションを促すことができる;
 (G)クレームされた発明に到達するために通常の技術者を従来技術文献の修正または従来技術文献の教示の組み合に導いたであろう従来技術における何らかの教示、示唆、または動機付け。

 以下のサブセクションは、列挙された論理付けがどのように自明性の認定を支持するために使用し得るのかを説明する例を加えた各論理付けの検討を含む。引用された事件(事実はその事件に由来する)は、その特定の論理付けがその裁判所の自明性の判示の基礎であることを必ずしも表すものとはいえないかもしれない。いくつかの例において、一つの事件が自明性の認定を支持する一つ以上の論理付けの使用を例示するために異なったサブセクションにおいて使用されていることに注意せよ。一度Graham審理が満足のいくように解決されると、自明性の結論は一筋の推論以上によって支持されるかもしれない事件がしばしばあるかもしれない。

A.予想できる結果を得るための知られた方法による従来技術の要素の組み合わせ
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)従来技術がクレームされた各要素を含んでおり、必ずしも一つの従来技術文献の中である必要はないが、一つの従来技術文献の中の複数の要素の実際の組み合わせについて開示されていないことがクレームされた発明と従来技術の唯一の相違点があることの認定;
 (2)通常の技術者が知られた方法でクレームされたように複数の要素を組み合わせることができたであろうこと、および組み合わせにおいて各要素はそれが別々であったと同じ機能を単に果たしたであろうことの認定;
 (3)通常の技術者がその組み合わせの結果は予想できたものであることを認識していたであろうという認定;および
 (4)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームが自明であったであろうという結論を支持するための論理付けは、クレームされた全ての要素が従来技術の中で知られていた、通常の技術者が複数の要素を知られた方法でそれぞれの機能に変更なくクレームのように組み合わせ得たであろうこと、およびその組み合わせは発明の時に通常の技術者に予想できる結果以上のものは生み出さないこと、である[43]。「クレームされた新しい発明がするように要素を組み合わせることをその技術における通常の技術者に促したであろう理由を確認することは重要であり得る[44]。」これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:Anderson’s-Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co.[45]におけるクレームされた発明は、いくつかのよく知られた要素を一つのシャシーに組み合わせた舗装装置であった。標準的な従来技術の舗装装置は概してアスファルトを広げて形を与える装置を一つのシャシーに組み合わせたものであった。その特許のクレームは、連続ストリップ舗装中にジョイントが冷たくなるのを防ぐ目的で、舗装装置の側面に取り付けられたよく知られた放射加熱バーナーの要素を含んでいた[46]。全ての構成要素は従来技術中で知られていた。唯一の相違点は一つのシャシー上に搭載することにより一つの装置の中に「古くからの要素」を組み合わせることであった。裁判所は、加熱器の作動は他の装具の作動に少しも依存しておらず、分離した加熱器も同じ結果を達成するために標準的な舗装装置に結合して使用され得ると認定した。裁判所は、「一つの装置の中に他の要素と加熱器を寄せ集めることの便利さは、ことによると大いに便利であったとしても、『新しい』または『異なった機能』を生み出してはいない[47]」、通常の技術者にとって古くからの要素を組み合わせて使用することは自明であったであろうと結論した。

 結果が通常の技術者に予想できなかったであろう場合は、知られた従来技術の組み合わせはクレームされた発明を自明にするには十分ではない[48]ことに注意せよ。「従来技術がある知られた複数の要素を組み合わせることから遠ざかることを教示している場合、それらの組み合わせの成功する方法の発見は非自明になりやすい[49]。」

 例2:Ruiz v. AB Chance Co.[50]におけるクレームされた発明は、既に存在する土台を補強するねじ固定装置と、建物の重量をねじ固定装置に伝えるための金属製ブラケットを使用するシステムに関する。従来技術(Fuller)は既に存在する土台を補強するねじ固定装置を使用している。Fullerは土台の重量をねじ固定装置に伝えるためにコンクリート製のハンチを使用している。従来技術(Gregory)は既に存在する構造上の土台を補強するために押し角柱を使用している。Gregoryはブラケットを使用する重量を伝える方法、特に、金属製ブラケットが土台の重量を押し角柱に伝えることを教示している。角柱は重量を支持するために地面の中に打ち込まれる。どちらの文献もクレームされた発明の2つの要素−ねじ固定装置と金属製ブラケット−を一緒に使用することは示していない。裁判所は、「土台補強システムは土台を重量支持部材に接続する手段を必要とすることを職人は知っていた」と認定した[51]

 解決すべき課題−不安定な土台を補強すること−の性質は、目的を達成するために部材を土台に接続する必要性と同様に、通常の技術者に適切な重量支持部材および適合する付属物を選択するようにさせたであろう。それゆえ、(Gregoryに示されているように)金属製ブラケットを不安定な土台を補強するために(Fullerに示されているように)ねじ固定具と組み合わせて使用することは自明であったであろう。

B.予想できる結果を得るための一つの知られた要素のもう一つのものへの単なる置換
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)クレームされた装置からいくつかの構成要素(ステップ、要素、等)を他の構成要素へ置換したことが相違している装置(方法、製品、等)を従来技術が含むことの認定;
 (2)置換された構成要素およびその機能がその分野において知られていたことの認定;
 (3)通常の技術者が一つの知られた要素を別の要素に置換したであろう、かつその置換の結果は予想できたであろうことの認定;および
 (4)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームが自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、一つの知られた要素の別の要素への置換が発明の時に通常の技術者にとって予想できる結果をもたらしたであろうことである。これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:In re Fout[52]におけるクレームされた発明は、コーヒーまたはティーからカフェインを取り除く方法に関する。従来技術(Pagliaro)の方法は、カフェインが取り除かれた植物材料を生産するものであり、(油のような)脂肪質の材料の中にカフェインを捕らえる。その後、カフェインは水を含む抽出プロセスにより脂肪質の材料から除去される。出願人(Fout)は水を含む抽出ステップの代わりに蒸留ステップを用いた。従来技術(Waterman)は油の中にコーヒーをつるし、その後その油からカフェインを直接蒸留した。裁判所は、「PagliaroとWatermanは油からカフェインを分離する方法を教示しているから、一つの方法の代わりに別の方法を用いることは一応自明であったであろう。一つのものの代わりに別の同等なものを用いることの明示された示唆はこのような置換を自明にするために必要ではない。」と認定した[53]

 例2:O’Farrell[54]における発明は、ホスト種に固有な遺伝子の代わりに異種の遺伝子を用いる変換バクテリアホスト種におけるタンパク質を合成する方法に関する。一般的に、生体内の<in vivo>タンパク質合成はDNAからRNAへタンパク質へのパスに従う<the path of DNA to RNA to protein>。従来技術Poliskyの論文(本願の3名の発明者のうちの2名が著者である)は、タンパク質合成のために表現された方法を用いて、この論文に例示された挿入された異種の遺伝子は、通常はタンパク質生産ステップへどこまでも進むことはなく、そのかわりにRNAと共に終わるものであることを明示的に示唆している。Bahlの第2の文献は化学的に合成されたDNAをプラスミドの中へ挿入する一般的な方法を記述している。したがって、従来技術の遺伝子をタンパク質生産に導くことが知られていた別の遺伝子に取り替えることは通常の技術者にとって自明であったであろう、なぜなら、通常の技術者はそのような置換を成し遂げることができたであろうし、その結果は合理的に予想できたからである。

 発明の時の分子生物学分野においては、著しく予想できないものであったという出願人の主張に答えて、裁判所は、技術のレベルは極めて高く、Poliskyの教示は、それだけでも、詳細な実施可能にさせる方法論を含んでいると述べ、その修正はタンパク質合成のために成功するであろうことを示唆していると結論した。

 これは、拒絶が、「試みることが自明」であったであろうということだけを述べている状況ではない。ここにおいては、成功の合理的な期待が存在する。「自明は完全な成功の予測は必要としない[55]。」

 例3:Ruiz v. AB Chance Co.[56]における事実の態様はサブセクションIII.Aにおける例2において明らかにされたものである。

 従来技術は、異なる重量支持部材とその部材へ土台を取り付ける異なる手段を示している。Fullerのコンクリート製ハンチの代わりにGregoryに教示された金属製ブラケットを用いることは、通常の技術者に自明であったであろう。

 例4:Ex parte Smith[57][訳3]におけるクレームされた発明は、閉じたポケットの輪郭を定める連続した2層継ぎ目を形成するように紙製のベースシートとポケットシートを接着して製造されたバインダー本のためのポケット挿入部<a pocket insert>である。従来技術(Wyant)は、1枚のシートを折り、何らかの都合のよい接着方法で内側の余白に沿って固定することによって形成された少なくとも一つのポケットを開示している。従来技術(Wyant)は連続した2層継ぎ目を形成するようにシートを接着することは開示していない。従来技術(Dick)は、4番目の縁に沿って開口を有する閉じたポケットの輪郭を定めるために、2枚のシートを4つの縁のうち3つの縁に沿って縫うまたは他の方法により固定することによって製造されたポケットを開示している。

 審判合議体はWyantとDickの教示を検討して、「(1)クレームの要素の各々は従来技術の範囲と内容の中に認定される;(2)通常の技術者は発明がなされた時に知られた方法によってクレームされたように複数の要素を組み合わせることができたであろう;かつ(3)通常の技術者は発明の時にこの組み合わせの性能または機能は予想できたと認識できたであろう、と認定した。」審判合議体はKSRを引用して「したがって、Wyantの折った継ぎ目の代わりに、Dickの連続した2層継ぎ目を用いることは『別のものに代えて一つの知られた要素の単なる置換または改良が準備ができている従来技術の一つへの知られた技術の単なる適用』以上のものではない」と結論した。

C.同様な装置(方法、または製品)を同じやり方で改良する知られた技術の使用
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)クレームされた発明が「基本」装置に対する「改良」と見なしえる「基本」装置(方法、または製品)を従来技術が含んでいるという認定;
 (2)クレームされた発明と同様な方法で改良された「類似する」装置(方法、または基本装置と同じでない製品)を従来技術が含んでいるという認定;
 (3)通常の技術者がその知られた「改良」技術を同様な方法で「基本」装置(方法、または製品)に適用できたであろう、かつその結果は通常の技術者に予想できたであろうという認定;および
 (4)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームは自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、特定の種類の装置(方法、または製品)を改良する方法が、他の状況におけるそのような改良の教示に基づて、その技術の技術者の通常の能力の一部によってなされることである。通常の技術者はこの知られた改良方法を従来技術の「基本」装置(方法、または製品)へ適用する能力があったであろう、かつその結果は通常の技術者に予想できていただろう。KSRにおける最高裁は、技術の実際の応用が通常の技術者の技術を超えていただろうならば、その技術を使用することは自明ではなかったであろうと書き留めている[58][訳4]。これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:In re Nilssen[59]におけるクレームされた発明は、「電力線で動作するインバータ型蛍光灯安定器における自己発振インバータを、そのインバータからの出力電流が予め定められた閾値レベルを極めて短時間以上超えた場合に、停止させる手段」[60]に関する。すなわち、電流出力がモニタされ、電流出力が特定された短時間の間、閾値を超えると、制御信号が送られ、被害から保護するためにインバータは停止される。

 従来技術(USSRの証明書)には、制御手段を経由する開示されない方法でインバータ回路を保護する装置が記載されている。その装置は制御手段の方法による高負荷条件を示しているが、過負荷保護の特定な方法を示していない。従来技術(Kammiller)は、高負荷電流条件の際にインバータ回路を保護するためにインバータを停止することを開示している。すなわち、カットオフスイッチ手段によるインバータの停止によって過負荷保護が達成される。

 裁判所は、「Kammillerによって教示されたようにインバータを停止するために、USSRの装置で発生された閾値信号をカットオフスイッチを動作させるために使用することは、通常の技術者に自明であったであろう[61]。」すなわち、USSR文献のインバータ回路において望まれる保護を提供するために、回路を保護するカットオフスイッチの知られた技術を使用することは、通常の技術者にとって自明であったであろう。

 例2:Ruiz v. AB Chance Co.[62]における事実の態様はサブセクションIII.Aにおける例2において明らかにされたものである。

 解決すべき課題の性質が、その課題を解決可能な解決策に関連する引用文献を、発明者に見るようにしむけるかもしれない[63]。それゆえ、不安定な土台を支持するために、(Fullerに示されたように)ねじ固定装置と共に(Gregoryに示されたように)金属製ブラケットを使用することは自明であったであろう。

D.予想できる結果を得るために改良の準備ができている知られた装置(方法、または製品)への知られた技術の適用
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)クレームされた発明がそれに対する「改良」と見なすことができる「基本」装置(方法、または製品)を含む従来技術の認定;
 (2)基本装置(方法、または製品)に適用できる知られた技術を含む従来技術の認定;
 (3)通常の技術者が、その知られた技術を適用することは予想できる結果をもたらしその結果改良されたシステムになることを認識したであろうという認定;
 (4)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、ある知られた技術がその技術の技術者の通常の能力の一部と認識されていることである。通常の技術者は、改良の準備ができた知られた技術を知られた装置(方法、または製品)に適用することができたであろう、かつその結果は通常の技術者に予想できたであろう。これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:Dann v. Johnston[64]におけるクレームされた発明は、銀行の小切手と貯金の自動記録のためのシステム(すなわちコンピュータ)に関する。このシステムにおいて、顧客は各小切手または貯金伝票に数字のカテゴリーコードを付ける。その小切手処理システムは、金額および口座情報と同様に、これらを磁気インクでその小切手に記録する。このシステムが設置されると、銀行は各カテゴリー別に小計を与えるように分類した銀行口座計算書を顧客に提供することができる。クレームされたシステムにより、銀行は顧客から要求されたスタイルに従ってレポートをプリントできる。裁判所によって記述されたように、「被上告人の発明に基づいて、汎用コンピュータは顧客の好みに合わせた分類された取引の明細を提供するようにプログラムされる[65]。」

 基本システム−銀行産業におけるデータ処理装置およびコンピュータソフトウェアの現在の効用の性質は、多数の自動的な記録を日常的に行っていることである。日常的な小切手処理において、システムは口座を特定し探し出すために何らかの磁気インク文字を読み取っている。また、システムは多数の小切手を読み取り、小切手の指定された領域にその値をプリントする。その後、小切手は、適切な取引記録を生成し適切な口座に入れるために磁気インクを使う更なるデータ処理ステップに送られる。これらのシステムは、各口座のための定期的な計算書(例えば小切手口座の顧客に送られる月間計算書)を生成することを含む。

 改良されたシステム−クレームされた発明は、このシステムにカテゴリーによって支出を追跡するために利用することができるカテゴリーを記録することを付け加えたものである。再び、カテゴリーコードは小切手(または貯金伝票)上に記録された数であり、読み取られ磁気インク図形に変換され、その後、カテゴリーコードを含むデータシステムの中で処理される。これにより、口座番号によってだけレポートするのとは対照的に、カテゴリーによってデータをレポートすることができる。

 知られた技術−これは、従来技術からの技術−経費をより詳細に説明するために支出のカテゴリーをいかに追跡するのかの課題を解決するための(個人の全取引を追跡するために一般的に使用される)口座番号の使用の適用である。すなわち、(自動データ処理システムにおける処理を可能とするデータを特定する)口座番号は異なった顧客を識別するために使用される。さらに、銀行は長い間、何らかの与えられ分離された口座内で手数料に起因する借方を区別し、これらの料金の小計を顧客に提供してきた。以前は、各カテゴリーのために分離された口座を作る必要があった。口座情報に追加的な数字(カテゴリーコード)を補うことにより、サービスを追跡しレポートするための複数の別個の口座として取り扱うことが可能な一つの口座を効果的に作り出すことによって、課題を解決する。すなわち、カテゴリーコードは、以前は分離された複数の口座であったものを、一つの口座(ただし、レポート中に示された多数のサブアカウントを有する)として扱えるようするものであるに過ぎない。

 標準的なソート、サーチ、およびレポートを可能とするデータ上にしるしを付ける基本的な技術は、通常の技術者がこの商業の共通のツールで達成することを予期できたであろう予想できる結果以上のものをもたらさなかったであろう、それゆえ自明な手段であった。裁判所は、「従来技術と被上告人のシステム間のギャップはそのシステムをその技術の合理的な技術者に非自明であるとするほど断じて大きくはない[66]。」と判示した。

 例2:In re Nilssen[67]における事実の態様はサブセクションIII.Cにおける例1において明らかにされたものである。

 裁判所は、「Kammillerによって教示されたようにインバータを停止するために、USSR装置において生成された閾値信号をカットオフスイッチを動作させるために使用することは、通常の技術者にとって自明であったであろう[68]。」カットオフスイッチを使用する知られた技術は予想どうりにインバータ回路を保護するという結果を生じさせたであろう。それゆえ、インバータを保護するための制御信号に応動するようにカットオフスイッチを使用することは通常の技術者の技術内であったであろう。

E.「試みることが自明」−成功が合理的に期待される、限られた数の特定された予想できる解決策からの選択
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)発明の時に、その技術において認識された課題またはニーズ(ある課題を解決するための設計ニーズまたはマーケットの力を含み得る)が存在していたという認定;
 (2)認識されたニーズまたは課題に対して、限られた数の特定された、予想可能な潜在的解決策が存在していたという認定;
 (3)通常の技術者が合理的な成功の期待をもって知られた潜在的解決策を追究し得たであろうという認定;および
 (4)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームが自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、「通常の技術者が自分の技術的把握内で知られた選択肢を追究する相当な理由を持っている。これが予期された成功に導くのであれば、発明の産物ではなく、通常の技術および常識の産物になりやすい。その場合、組み合わせることを試みることが自明であるという事実はそれが米国特許法103条に基づいて自明であることを証明するかもしれない[69]。」これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:Pfizer, Inc. v. Apotex, Inc.[70][訳5]におけるクレームされた発明は、商標Norvasc (R)で合衆国内で錠剤として市販されているアムロジピンベシレート<amlodipine besylate>薬品に関する。

 発明の時、アムロジピンはベシレートアニオンとして使用されることが知られていた。アムロジピンは、アムロジピンベシレートのクレームにあるのと同様に治療特性を有していることが知られていたが、Pfizerはベシレート形態が製造上よりよい特性(例えば「粘着性」の減少)を有することを発見した。

 Pfizerは、アムロジピンベシレートを形成する結果は予想できなかったであろう、それゆえ非自明であると主張した。裁判所は、特性を改良するためにテストされる薬学的に受け容れられる塩は限定された数(53)しか存在しないから、本件において予想できないことは非自明と同等視することができるという意見を拒絶した。

 裁判所は、アムロジピンの加工性に課題を有していた通常の技術者はその組成物の塩を形成することに目を向けていたであろうし、潜在的な塩形成物のグループを、薬学的に受け容れられる塩を形成することが知られた53のアニオンのグループに狭めることができたであろうし、それは「成功の合理的な期待」を形成するために受け容れられる数であったであろう、と認定した。
[訳7][訳8]

 例2:Alza Corp. v. Mylan Laboratories, Inc.[71]におけるクレームされた発明は、24時間以上特定のレートで放出される薬オキシブチニン<oxybutynin>の持続放出性製剤<sustained-release formulations>に関する。オキシブチニンは高い水溶性を有していることが知られており、明細書はそのような薬の持続放出性製剤の発展は特定の課題を提出したことを指摘している。

 Morellaの従来技術特許は、モルヒネの持続放出性製剤を例示して、高い水溶性の薬の持続放出性組成物を教示している。また、Morellaはオキシブチニンを高い水溶性の薬の種類に属するとしている。Baichwal従来技術特許はクレームされた発明とは異なった放出レートのオキシブチニンの持続放出性製剤を教示している。最後に、Wong従来技術特許は24時間以上薬を放出する一般的に適用できる方法を教示している。Wongは開示された方法をオキシブチニンの属するいくつかの薬のカテゴリーに適用できることを述べているが、Wongはオキシブチニンに適用できることは特に述べてはいない。

 裁判所は、オキシブチニンの吸収特性は発明のときに合理的に予想できたであろうから、クレームされたようにオキシブチニンの持続放出性製剤の成功する開発の合理的な期待があったであろうと認定した。従来技術は、明細書によって証拠立てられているように、高い水溶性の薬の持続放出性製剤の開発において打ち勝つべき障害物を認識していたのであり、これらの障害に打ち勝つ有限の数の方法を示唆していた。成功の合理的な期待を持って持続放出組成物を調合する知られた方法を試みることは自明であったであろうから、クレームは自明である。裁判所は確実な予想の欠如の主張によっては意見が揺らぐことはなかった。

 例3:Ex parte Kubin[72]のクレームされた発明は、分離された核酸分子<an isolated nucleic acid molecule>に関する。このクレームは、核酸が特定のポリペプチドをエンコードすることを記述している。エンコードされたポリペプチドはクレームの中で部分的に具体的に記述された配列および具体的に記述されたタンパク質と結びつく能力によって特定されている。

 Valianteの従来技術特許はクレームされた核酸によってエンコードされたポリペプチドを教示しているが、ポリペプチドの配列もクレームされた分離された核酸分子も開示していない。しかしながら、Valianteは、例えば従来技術のSambrookによる実験室マニュアルによって開示されているような一般に行われている方法を用いることによって、ポリペプチドの配列を決定することができ、核酸分子は分離することができることを開示している。Valianteのポリペプチドの開示、並びにポリペプチドを配列するおよび核酸分子を分離する決まり切った従来技術の方法を考慮して、審判合議体は通常の技術者はクレームされた範囲の核酸分子は成功裏に得ることができたであろうことを合理的に期待していたであろうと認定した。

 In re Deuelにおける応答で、出願人は、庁が構造的に同様な核酸分子を開示または示唆する引用文献を提示することなく、具体的な核酸分子が記載されたクレームを拒絶するために、Valiante特許のポリペプチドをSambrookに記載された方法と一緒に使用するのは不適切であると主張した。審判合議体は、KSRを引用して、「課題を解決する動機付けがあり特定された予想できる解決策が限定された数である場合、通常の技術者が自分の技術的把握内で知られた選択肢を追究する相当な理由を持っている。これが予期された成功に導くのであれば、発明の産物ではなく、通常の技術および常識の産物になりやすい」と述べた。審判合議体は、その技術において直面する課題は具体的な核酸を分離することであった、そうすることが可能な方法は限定された数であったと書き留めている。審判合議体は、技術者は少なくとも一つが成功するであろうという合理的な期待を持ってこれらの方法を試みる理由を有していただろう。したがって、クレームされた具体的な核酸分子を分離することは「イノベーションではなく通常の技術または常識の産物」であった。

F.一つの努力している分野で知られている製品は、そのバリエーションが通常の技術者に予想できたであろうならば、設計インセンティブまたはその他のマーケットの力に基づいて、同じ分野または他の分野において、そのバリエーションを促すことができる
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)出願人の発明と同じ努力する分野であるか異なった努力する分野であるかにかかわらず、従来技術の範囲と内容が同様なまたは類似した装置(方法、または製品)を含んでいるという認定;
 (2)その知られた装置(方法、または製品)の改良を促したであろう設計インセンティブまたはマーケットの力があったことの認定;
 (3)クレームされた発明と従来技術の相違点が従来技術の知られたバリエーションまたは知られた原理の中に包含されるという認定;
 (4)通常の技術者が、特定された設計インセンティブまたは他のマーケットの力を考慮して、クレームされた従来技術のバリエーションを実施できたであろうこと、およびクレームされたバリエーションは通常の技術者に予想できたであろうことの認定;および
 (5)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームが自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、設計インセンティブまたは他のマーケットの力が、クレームされた発明を結果的にもたらすために、通常の技術者に予想できる方法で従来技術を変更することを促したということである。これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームが通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 例1:Dann v. Johnston[73]における事実の態様はサブセクションIII.Dにおける例1において明らかにされたものである。

 裁判所は、出願人によって述べれらた課題−取引のカテゴリーによるより詳細な分類を与えるニーズ−は個人のビジネス単位の取引ファイルを追跡し続けるという仕事と極めて類似していると認定した[74]。したがって、データ処理分野の技術者は同様な種類の課題と従来技術の知られた解決策を認識していただろう、そしてそれは異なった環境においてシステムをインプリメントする通常の技術レベル内であったであろう。裁判所は、「従来技術と被上告人のシステム間のギャップはそのシステムをその技術の合理的な技術者に非自明であるとするほど断じて大きくはない[75]。」と判示した。

 例2:Leapfrog Enterprises, Inc. v. Fisher-Price, Inc.[76]におけるクレームされた発明は小さな子供が声を出して読むのを助ける学習装置に関する。

 クレームは次のとおりである:
 複数のスイッチを含むハウジング;
 プロセッサおよびメモリを含み複数のスイッチと通信する音声生成装置;
 各文字が一つのスイッチに関連づけられている一続きの複数の文字の少なくとも一つの記載;および
 プロセッサに記述の識別<identity>を通信するように設計された読み取り装置;
 を備え、
 記載された一つの文字の選択が関連づけられたスイッチをプロセッサと通信するように作動させ、それにより音声生成装置が選択された文字に関連した音声に対応する信号を発生し、一続きの複数の文字の中の文字の位置によって音声が決定されるインターラクティブ学習装置。

 裁判所は、クレームされた発明は、2つの従来技術、(1)Bevan(音声学習のための電子機械おもちゃを示している)、(2)the Super Speak & Read device (SSR)(電子読み取りおもちゃ)、および通常の技術者の知識の組み合わせを考慮して自明であったであろうと結論した。

 裁判所は、SSR装置に示された技術を超える技術的前進は存在しないことを明確にした。裁判所は、「子供の学習おもちゃの通常の技術者は、サイズの縮小、信頼性の向上、操作の単純化、およびコストダウンのような一般的に理解されている恩恵を受けるために現代の電子部品を使ってアップデートするためにBevan装置をSSR装置と組み合わせることが自明であったことを認めただろう。SSRは一つの語の最初の文字に対応する音声を生成できるだけであるが、電子手段を使用してそうしている。したがって、その組み合わせは、その技術(SSR装置)において一般的に利用可能であり知られた新しい技術を使用した古いアイディアまたは発明(Bevan)の改良である」ことを明らかにした。

 裁判所は、クレームされた発明は既に知られた子供のおもちゃのバリエーションに過ぎないと認定した。このバリエーションは他のおもちゃを超えた非自明の前進をもたらすものではない。裁判所は、SSR装置に示された技術を超える技術的前進は存在しないことを明確にした。裁判所は、「その目的を達成する従来技術の機械的装置を現代的な電子工学に適応させることは子供の学習装置を設計する通常の技術者に合理的に自明であったであろう。現代の電子工学を古い機械装置に適用することは近年ありふれたことである。」と認定した。

 例3:KSR International Co. v. Teleflex Inc.[77]におけるクレームされた発明は、固定されたピボットポイントと組立体の支持体に取り付けられた電子ペダル位置センサーを備えた調整可能ペダル組立体に関する。固定されたピボットポイントは、ピボットがペダルが調整された場合でも変わらないことを意味する。組立体の支持体上にセンサーを配置することによりペダルが調整されてもセンサーは固定され続ける。

 従来のアクセルペダルは、セット位置からのペダルの行程に基づいてスロットルを調整する機械的リンクによって作動した。そのスロットルが燃焼プロセスおよびエンジンによって発生する利用可能なパワーを制御した。より新しい車は、センサーがペダルの位置を検出しスロットルを調節するために信号をエンジンに送るコンピュータ制御スロットルを使用した。発明のときに、マーケットは機械式ペダルを電子式ペダルに変更する強いインセンティブを与え、そうする多数の方法を従来技術が教示していた。従来技術(Asano)は機械式スロットル制御で固定されたピボットポイントを有する調整可能なペダルを開示している。従来技術(Bylerの'936特許)はペダル組立体の中のピボットポイント上に配置された電子ペダルセンサーを教示し、エンジンの中ではなく、ペダルメカニズムの中でペダルの位置を検出するのが好ましいことを教示している。従来技術(Smith)は、センサーをコンピュータに繋ぐワイヤが擦れて摩滅しないように、ペダルのフートパッドの中または上に配置するよりも、ペダル組立体の固定部分にセンサーを配置すべきであることを教示している。従来技術(Rixon)は、電子センサーを有する調整可能なペダル組立体(センサーはフートパッド内)を開示している。ペダルを調整してもピボットポイントが固定され続けるペダル組立体と組み合わせる電子スロットル制御は従来技術にはなかった。

 裁判所は、「問われるべき正しい問題は、努力している分野における発展によって生み出された幅広いニーズに直面している、通常の技術を有するペダルの設計者がAsanoをセンサーでアップグレードすることによる利点に気づいたであろうかどうかである[78]」と述べた。裁判所は、自動車設計における技術の発展はAsanoを電子センサーでアップグレードすることを設計者に促したであろうと認定した。従来技術に基づいて、設計者はペダルの構造の動かない部分にセンサーを配置することを知ったであろう、そしてセンサーがペダルの位置を簡単に検知できる最も明白な動かないポイントはピボットポイントである。裁判所は、スロットル制御のための機械式組立体を電子式スロットル制御に置き換え電子センサーをペダル支持構造上に搭載することによって、Asanoの固定されたピボットポイントを調整可能なペダルにアップグレードすることは自明であったであろうと結論した。

 例4:Ex parte Catan[79]におけるクレームされた発明は、通信ネットワーク上で予め定められた最大サブクレジット限度まで注文するために、認証されたクレジット口座のサブユーザを認証するために生体認証を使用する消費者電子装置に関する。

 従来技術(Nakano)は、セキュリティが生体認証装置ではなくパスワード認証装置によって提供されていることを除き、クレームされた発明に類似する消費者電子装置を開示している。従来技術(Harada)は、生体認証情報(指紋)を提供するために消費者電子装置(リモートコントロール)に生体認証装置(指紋センサー)を用いることは発明のときに従来技術において知られていたことを開示していた。また、従来技術(Dethloff)は、発明のときに、ユーザーが消費者電子装置を経由してクレジットにアクセスするためのPIN認証を生体認証に置換することはその技術において知られていたことを開示している。

 審判合議体は、従来技術は「発明のときに消費者電子装置技術にける通常の技術者は、ユーザを認証するためにPINと交換してまたは代わり生体認証情報を使用することを熟知していたであろう」と認定した。審判合議体は、消費者電子装置の技術において通常の技術者は従来技術のパスワード装置を現代的な生体認証部品にアップデートし、それによりそのような改良の一般に理解されていた恩恵すなわちセキュアで信頼できる認証手続きを、予想されるように、手に入れることは自明であると認めていたであろうと結論した。

G.クレームされた発明に到達するために通常の技術者を従来技術文献の修正または従来技術文献の教示の組み合に導いたであろう従来技術における何らかの教示、示唆、または動機付け
 この論理付けに基づいてクレームを拒絶するためには、庁職員はGrahamファクターの審理を解決しなければならない。その後、庁職員は以下を明瞭に表現しなければならない:
 (1)引用文献自身またはその分野の通常の技術者に一般的に利用できる知識のいづれかに、引用文献を修正するためのまたは引用文献の教示を組み合わせるための、何らかの教示、示唆、または動機付けがあるという認定;
 (2)成功の合理的な期待があるという認定;および
 (3)自明性の結論を説明するために、検討している事件の事実からみて、Graham事実審理に基礎を置くどのような追加的な認定が必要あってもよい。
 クレームが自明であったであろうという結論を支持する論理付けは、「その分野の通常の技術者がクレームされた発明を達成するために従来技術を組み合わせる動機があったであろうこと、および成功の合理的な期待があったであろうことである[80]。これらの認定の全てをなすことができなかった場合、クレームがその分野の通常の技術者に自明であったであろうという結論を支持するためにこの論理付けを使用することはできない。

 裁判所は、教示、示唆、または動機付けテストは柔軟であり、従来技術を組み合わせる明示的な示唆は必要ではないことを明らかにした。組み合わせる動機付けは暗黙であってもよく、その分野の通常の技術者の知識の中に見いだすことができてもよく、いくつかの場合は解決する課題の性質から見いだすことができてもよい[81]。「組み合わせの暗黙の動機付けは、示唆が従来技術全体から収集される場合だけでなく、『改良』が技術に依存せず、引用文献の組み合わせによってより望ましい(例えば、より強力、より安く、より清潔、より早く、より軽く、より丈夫、より効率的である)製品またはプロセスが生じる場合にも存在する。製品またはプロセスを改良することによって商業上の機会が増大するという願いは普遍的なものである(常識的ですらある)から、引用文献自体の中にはいかなる示唆のヒントもない状況においても従来技術文献を組み合わせる動機付けが存在すると我々は判示する。そのような状況において、正しい問題は、従来技術文献を組み合わすことができる知識と技術を通常の技術者が持っているかどうかである。[82]

IV.出願人の応答
 庁職員がGrahamファクターの認定を確立しクレームされた発明は自明であったであろうと結論した場合、(1)庁が認定において誤ったことを示す、または(2)クレームされた発明特定事項は非自明であったであろうことを証明する他の証拠を提出する責任が出願人に移る[訳8_2008.07.03]。37 CFR 1.111(b)は、オフィスアクションにおける誤りを明示的に明確に指摘し、オフィスアクションにおける異議および拒絶の全ての理由に応答することを出願人に要求する。応答においては、全ての適用された引用文献に対してクレームは特許性があると考える明確な相違を指摘する主張を提出しなければならない。

 出願人が庁による事実認定と意見が異なる場合は、そのような認定に全面的または部分的に基づく拒絶に対する効果的な反駁は、庁が事実認定に関して実質的に誤ったと出願人が信じる理由を説明する論理的な主張を含まなければならない。庁は自明性の一応の証明を確立しなかった、または庁が頼った常識は書証によって支持されていないという単なる主張または意見は、拒絶を反駁するには実質的に十分である、または37 CFR 1.111(b)に基づく拒絶に対する効果的な反駁であるとは考えられないだろう。この状況を扱う庁職員は前のオフィスアクションによってなされた拒絶を繰り返すことができ、次のオフィスアクションを最後のオフィスアクションとすることができる。MPEP § 706.07(a)参照。

V.出願人の反駁証拠の考慮
 庁職員は、自明性の決定を再評価する時に、出願人から適時に提出された全ての反駁証拠を検討すべきである。反駁証拠は「商業的成功、長期間感じされていたが解決されなかったニーズ、および他者の失敗」[83]のような「二次的考慮」の証拠を含むことができ、予期しない結果の証拠も含むこともできる。上記セクションIII.で明らかにしたように、庁職員は自明性の拒絶において、論理付けを支持する事実認定を明確に表現しなければならない。その結果として、出願人は庁職員によってなされた事実認定を反駁する証拠を提出することがありそうである。例えば、組み合わせに対する主張の場合、出願人は次のことを証明する証拠または意見を提出するかもしれない:
 (1)その分野の通常の技術者は(例えば、技術的困難性のため)知られた方法でクレームされた要素を組み合わせることができなかったであろう;
 (2)組み合わされた複数の要素は各要素が別々に果たす機能を単に果たすものではない;または
 (3)クレームされた組み合わせの結果は予期できなかった。
 出願人が反駁証拠を提出すると、庁職員は記録全体を考慮して最初の自明の決定を再検討すべきである[84]。全ての記録上の拒絶または提案された拒絶およびその根拠は依然として存続可能であること<continued viability>を確認するために再審理されるべきである。オフィスアクションは、いかに結論が認定によって支持されているのかを明確に表現して、庁の認定および結論を明確に伝えるべきである。MPEP § 706.07(a)で明らかにされた手続きは、アクションが最後とすることができるかどうかを決定するために守られなければならない。[訳6]

 出願人の反駁証拠の検討に関してMPEP § 2145を参照せよ。拒絶に対する反駁の根拠の目的で37 CFR 1.132に基づいて提出された宣誓供述書または宣言書に関してMPEP § 716から§ 716.10も参照せよ。

日付:2007年10月3日
Jon W. Dudas,
知的財産担当商務次官兼米国特許商標庁長官
[FR Doc. E7-9973 Filed 10-9-7; 8:45 am]
BILLING CODE 3510-16-P




脚注
[1]550 U.S.  - , 82 USPQ2d 1385 (2007).
[2]自明性の法(判例法)のさらなる発展がKSRに照らして期待されるべきである。したがって、CAFCがこれらの[先例の]存続可能性<viability>を維持するであろうことは明らかではない。
[3]Teleflex Inc. v. KSR Int'l Co., 119 Fed. Appx. 282, 288 (Fed. Cir. 2005).
[4]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1391.
[5]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1397.
[6]Id.
[7]Id.
[8]Id.
[9]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1395.
[10]Id.
[11]Id.
[12]Id.
[13]Id.
[14]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1395-96.
[15]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1396.
[16]Id.
[17]35 U.S.C. 103(a).
[18]383 U.S. 1, 148 USPQ 459 (1966).
[19]Id. at 17-18, 148 USPQ at 467.
[20]GrahamファクターはKSRにおいて提出された事実の状況における自明性の検討および決定において最高裁によって再確認され信頼された、550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1391。最高裁はGraham事件以来、自明性の決定の各々においてGrahamファクターを利用してきた、425 U.S. 273, 189 USPQ 449, reh'g denied, 426 U.S. 955 (1976); Dann v. Johnston, 425 U.S. 219, 189 USPQ 257 (1976); and Anderson's-Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co., 396 U.S. 57, 163 USPQ 673 (1969)。
[21]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1391.
[22]この基準は自明性の拒絶の正しい内容に焦点を合わせており、特定の書式を指示するものと解釈されるべきではない。
[23]See MPEP  904 (8th edition, revision 5, August 2006).
[24]See Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303, 1316, 75 USPQ2d 1321, 1329 (Fed. Cir. 2005) and MPEP  2111.
[25]See MPEP  904.02.
[26]KSRにおける最高裁によって書き留めれらたように、「ある製品が一つの努力している分野で利用可能である場合、設計インセンティブおよびその他のマーケットの力が、同じ分野または他の分野において、そのバリエーションを促すことができる。」(強調付加)550 U.S. at - , 82 USPQ2d at 1396。
[27]KSRにおける最高裁は、「本件における…第一の誤りは、裁判所および特許審査官は特許権者が解決しようとした課題だけを見なければならないと判示していることである。CAFCは、特許権者を動機付けた課題がその特許の発明特定事項が述べる多くのものの一つだけかもしれないことを認識できなかった。…第二の誤りは、ある課題を解決しようとする通常の技術者が同じ課題を解決するために設計された従来技術の要素のみに導かれるだろうということである。」と説示している。550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1397. KSRにおける最高裁判決以前のCAFCの判例法はKSR最高裁によるこれらの説示と一般的に一致している。See, e.g., In re Dillon, 919 F.2d 688, 693, 16 USPQ2d 1897, 1901 (Fed. Cir. 1990) (en banc)(「クレームと従来技術の混合物(または組成物の鍵となる構成部分)の両方に構造上の類似性が示され、かつクレームされた混合物または組成物が出願人によって新たに発見されたものと同じまたは類似した効用を有していただろうことが従来技術の中の示唆または従来技術からの期待が存在することは、自明性の一応の証明を確立するために必要ではない。」);In re Lintner, 458 F.2d 1013, 1018, 173 USPQ 560, 562 (CCPA 1972)([出願人が]砂糖を別の目的のために使用しているという事実は、従来技術の組成物における使用が引用文献に開示された目的から一応自明であったという結論を変更しない。)。
[28]See MPEP  2111.
[29]See MPEP  2141.02.
[30]In re GPAC, 57 F.3d 1573, 1579, 35 USPQ2d 1116, 1121 (Fed. Cir. 1995); Custom Accessories, Inc. v. Jeffrey-Allan Indus., Inc., 807 F.2d 955, 962, 1 USPQ2d 1196, 1201 (Fed. Cir. 1986); Envtl. Designs, Ltd. v. Union Oil Co., 713 F.2d 693, 696, 218 USPQ 865, 868 (Fed. Cir. 1983).
[31]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1397.
[32]Id.
[33]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1396.
[34]CAFCは、審査官および審判官は「彼らが働く分野における自然科学の能力を有する者」であり、通常の技術者への従来技術文献の意味についての彼らの認定は「彼らの自然科学の知識によって」なされたものであると述べている。In re Berg, 320 F.3d 1310, 1315, 65 USPQ2d 2003, 2007 (Fed. Cir. 2003).
[35]KSR, 550 U.S. at - , 82 USPQ2d at 1396.
[36]Dann v. Johnston, 425 U.S. 219, 230, 189 USPQ 257, 261 (1976).
[37]Id.
[38]35 U.S.C. 103(a).
[39]最高裁によれば、自明性の問題へのTSMアプローチの創設は「役に立つ洞察をとらえた。」550 U.S. at  - , 82 USPQ2d 1385, 1396 (citing In re Bergel, 292 F.2d 955, 956-57, 130 USPQ 206, 207-08 (1961)). さらに、最高裁は、「TSMテストとGrahamの分析の間に必要な不一致は存在しない。」と説明している。KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1396. また、最高裁は、CAFCは「CAFCは疑いもなく多くの事件においてこれらの[KSRにおいて明らかにした]原則に一致してこれを適用してきた。」とコメントしている。Id. at  - , 82 USPQ2d at 1396.[訳1]
[40]KSRにおける最高裁は、Grahamにおいて定められたように自明性の決定への正しい「機能的アプローチ<functional approach>」と一致した自明の結論を支持するかなりの数の論理付けを確認している。Id. at  - , 82 USPQ2d at 1395-97.
[41]441 F.3d 977, 988, 78 USPQ2d 1329, 1336 (Fed. Cir. 2006).
[42]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1396.
[43]Id. at  - , 82 USPQ2d at 1395; Sakraida v. AG Pro, Inc., 425 U.S. 273, 282, 189 USPQ 449, 453 (1976); Anderson's-Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co., 396 U.S. 57, 62-63, 163 USPQ 673, 675 (1969); Great Atl. & Pac. Tea Co. v. Supermarket Equip. Corp., 340 U.S. 147, 152, 87 USPQ 303, 306 (1950).
[44]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1396.
[45]396 U.S. 57, 163 USPQ 673 (1969).
[46]従来技術は、つぎあてをつくるためにアスファルトを柔らかくする放熱ヒーターは使用していたが、連続ストリップ舗装を達成するための放熱ヒーターは使用していない。
[47]Id. at 60, 163 USPQ at 674.
[48]United States v. Adams, 383 U.S. 39, 51-52, 148 USPQ 479, 483 (1966). Adamsにおいて、クレームされた発明は、乾いた状態で蓄積でき、普通の水または塩水の追加によって作動する一つのマグネシュウム電極と一つの塩化白銅電極を備える電池であった。マグネシュウムおよび塩化白金は電池の部品として個々に知られていたが、最高裁はクレームされた電池は非自明であると結論した。最高裁は、「Adamsの電池の要素の各々は従来技術においてよく知られていたにもかかわらず、Adamsが行ったようにそれらを組み合わせることは通常の技術者が「そのような電池は非実用的であり、水−動作電池はマグネシュウム電極の使用に有害な電極と組み合わせた場合にだけ成功するという従来技術の遠ざかることの教示<teaching away>」を無視しなければならないことを要求すると述べた。Id. at 42-43, 50-52, 148 USPQ at 480, 483.
[49]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1395.
[50]357 F.3d 1270, 69 USPQ2d 1686 (Fed. Cir. 2004).
[51]Id. at 1276, 69 USPQ2d at 1691.
[52]675 F.2d 297, 213 USPQ 532 (CCPA 1982).
[53]Id. at 301, 213 USPQ at 536.
[54]853 F.2d 894, 7 USPQ2d 1673 (Fed. Cir. 1988).
[55]Id. at 903, 7 USPQ2d at 1681.
[56]357 F.3d 1270, 69 USPQ2d 1686 (Fed. Cir. 2004).
[57]83 USPQ2d 1509 (Bd. Pat. App. & Int. 2007).
[58]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1396.
[59]851 F.2d 1401, 7 USPQ2d 1500 (Fed. Cir. 1988).
[60]Id. at 1402, 7 USPQ2d at 1501.
[61]Id. at 1403, 7 USPQ2d at 1502.
[62]357 F.3d 1270, 69 USPQ2d 1686 (Fed. Cir. 2004).
[63]Id. at 1277, 69 USPQ2d at 1691.
[64]425 U.S. 219, 189 USPQ 257 (1976).
[65]Id. at 222, 189 USPQ at 259.
[66]Id. at 230, 189 USPQ at 261.
[67]851 F.2d 1401, 7 USPQ2d 1500 (Fed. Cir. 1988).
[68]Id. at 1403, 7 USPQ2d at 1502.
[69]KSR, 550 U.S. at  - , 82 USPQ2d at 1397.
[70]480 F.3d 1348, 82 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 2007).
[71]464 F.3d 1286, 80 USPQ2d 1001 (Fed. Cir. 2006).
[72]83 USPQ2d 1410 (Bd. Pat. App. & Int. 2007).
[73]425 U.S. 219, 189 USPQ 257 (1976).
[74]Id. at 229, 189 USPQ at 261.
[75]Id. at 230, 189 USPQ at 261.
[76]485 F.3d 1157, 82 USPQ2d 1687 (Fed. Cir. 2007).
[77]550 U.S. - , 82 USPQ2d 1385 (2007).
[78]Id. at - , 82 USPQ2d at 1399.
[79]83 USPQ2d 1569 )Bd. Pat. App. & Int.
[80]DyStar Textilfarben GmbH & Co. Deutschland KG v. C.H. Patrick Co., 464 F.3d 1356, 1360, 80 USPQ2d 1641, 1645 (Fed. Cir. 2006).
[81]Id. at 1366, 80 USPQ2d at 1649.
[82]Id. at 1368, 80 USPQ2d at 1651.
[83]Graham v. John Deere Co., 383 U.S. at 17, 148 USPQ at 467.
[84]See, e.g., In re Piasecki, 745 F.2d 1468, 1472, 223 USPQ 785, 788 (Fed. Cir. 1984); In re Eli Lilly & Co., 90 F.2d 943, 945, 14 USPQ2d 1741, 1743 (Fed. Cir. 1990).




審査官研修用スライド[訳9]

1.KSR International Co. v. Teleflexを考慮した米国特許法103条に基づく自明性の決定  
TC3600
ビジネスメソッド[訳9]
2008年1月
2.KSR v. Teleflex基準
・KSR International Co. v. Teleflex Inc., 82 USPQ2d 1385 (2007)

・米国特許商標庁の「KSR International Co. v. Teleflex Inc最高裁判決を考慮した米国特許法103条に基づく自明性を決定するための審査基準」はthe Federal Register, Vol. 72, No. 195, pages 57526-57535において公表された。


・MPEP 2141, Eight Edition, Revision 6 (September 2007)も参照せよ
3.KSR v. Teleflex基準
・KSRにおいて、最高裁は:
−Graham v. Deereにおいて確立された自明性テストを再確認した

−CAFCは「教示−示唆−動機付け」(TSM)テストを硬直した公式的な方法で適用することによって誤ったと述べた

4.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
・Graham v. John Deereの基本的な事実審理
−・従来技術の範囲と内容を決定する;

−・クレームされた発明と従来技術の相違点を確認する;

−・関連する技術における通常の技術者のレベルを決定する。
5.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
・自明性の問題は事実の決定に基づいて決定されなければならない。

・審査官は事実認定者の決定的な役割を遂行する。

・審査官は書面の記録が従来技術の状態および適用される文献の教示に関する事実認定を含むことを保証しなければならない。
6.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
・事実認定が明瞭に表現されたら、審査官は米国特許法103条に基づく自明性の拒絶を支持するための説明を行わなければならない。

・これは、その知識および能力のソースが文献の従来技術、その技術における一般的知識、または常識であるかどうかにかかわらず、そうである。
7.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
・多くの分野において、自明な技術または組み合わせについての論文はほとんど存在しないかもしれず、著述よりも、むしろマーケットの需要が設計トレンドを決める場合かもしれない

・従来技術は適用される文献だけに限定されず、通常の技術者の知識を含む。従来技術文献(または組み合わされた場合の複数の文献)はクレームの限定の全てを教示または示唆する必要はない。
しかしながら、庁職員は、従来技術とクレームされた発明の相違点が通常の技術者に自明であったであろう理由を説明しなければならない
8.KSR v. Teleflex 82 USPQ2d 1385
・自明性を決定する場合、クレームされた発明をなすための特定の動機付けも、その発明者が解決しようとした課題も、制約するものではない。

・適切な分析は、全ての事実の検討後にクレームされた発明が通常の技術者に自明であったであろうかどうかである。

従来技術の開示以外のファクターがそのギャップを埋めるために通常の技術者に自明であったであろうことを結論づけるための根拠を提供することができる。
9.Graham v. John Deereテストの助言
・従来技術の範囲と内容を決定する:
−サーチはクレームされた発明特定事項をカバーすべきであり、合理的にクレームされることが予期されるかもしれない開示された特徴もカバーすべきである。(MPEP 904.02)

−審査官は、従来技術のサーチに関するMPEPのセクション904から904.03で明らかにされた一般的なサーチガイドラインに従い続けるべきである。

−従来技術は、出願人が努力する分野の中にあるものあっても、その出願人が関係している特定の課題に合理的に関連するものであっても、よい。

−出願人が努力している分野以外の努力している分野の中にある従来技術、または出願人が解決しようとする課題とは異なった課題を解決する従来技術も米国特許法103条の目的のために考慮されるべきである。
10.Graham v. John Deereテストの助言
・クレームされた発明と従来技術の相違点を確認する。
−クレームされた発明と従来技術の相違点の確認には、クレームの文言の解釈、および発明と従来技術の両方の全体としての検討が必要である。(MPEP 2141.02)
11.Graham v. John Deereテストの助言
・関連する技術における通常の技術者のレベルを決定する。
−多くの場合、通常の技術者はパズルの小片と同じように複数の開示の教示を合わせてはめ込むことがしばしばできるだろう。

−加えて、審査官は通常の技術者の技術および知識を記述するために自分自身の技術的な専門知識に頼ることができる。
12.Graham v. John Deereテストの助言
・Graham事実分析を行った後、審査官は教示−示唆−動機付け論理付け(TSM)が依然として適用できると結論した場合は、依然としてTSMを使用した拒絶を行うことができる。
−TSMは依然として有効であるが、Graham分析を行ったとき、米国特許法103条に基づく自明性の結論を支持する唯一の論理付けではない。
・審査官は以下に明らかにされる論理付けの1またはそれ以上も検討しなければならない。
13.A−知られた方法による従来技術の要素の組み合わせ
印刷物の2−5頁参照。

・論理付けAのキーポイント:
−クレームのように組み合わせること以外、全ての要素が知られている。

−クレームのように複数の要素を組み合わせる技術的能力が存在し、組み合わせの結果は予想できる。

−組み合わされたとき、複数の要素がそれらが別々に実行していた機能と同じ機能を実行する
14.B−一つの知られた要素のもう一つのものへの単なる置換
印刷物の6−8頁参照。

・論理付けBのキーポイント:
−いくつかの構成要素の置換により従来技術がクレームから相違している。

−置換された構成要素が知られていた

−クレームのように構成要素を置換する技術的能力が存在し、置換の結果が予想できる。
15.C−同様な技術を同じやり方で改良する知られた技術の使用
印刷物の9−12頁参照。

・論理付けCのキーポイント:
−クレームされた発明がある引用文献に教示された「基本」装置(または方法、製品)に対する「改良」を有する。

−従来技術は同様な方法で改良された類似する装置」も教示している。

−基本装置を同様な方法で改良する技術的能力が存在し、改良の結果は予想できる。
16.D−改良の準備ができている知られた技術への知られた技術の適用
印刷物13−17頁参照。

・論理付けDのキーポイント:
−論理付けCと類似するがより広い

−クレームされた発明がある引用文献に教示された「基本」装置(または方法、製品)に対する「改良」を有する。

−従来技術が基本装置に適用できる知られた技術を教示している

−その技術における者が、その知られた技術を適用することは改良をもたらし予想できたことを認識したであろう。

17.E−限られた数の特定された解決策の中で試みることが自明
印刷物の18−20頁参照。

・論理付けEのキーポイント:

−マーケットの力または設計ニーズを含むその技術において認識された課題またはニーズ

限られた数の特定された予想できる解決策。

−通常の技術者が合理的な成功の期待をもって知られた解決策を追究し得たであろう。
18.F−バリエーションを促す設計インセンティブまたはマーケットの力
印刷物の21−23頁参照。

・論理付けFのキーポイント:
−従来技術がクレームと同様なまたは類似した基本装置(または方法、製品)を教示している。

設計インセンティブまたはマーケットの力が基本装置に変更を促したであろう。

−知られたバリエーションまたは知られた原理がクレームされた発明と従来技術の相違点を満たし、その実行は予想できたであろう。
19.G−組み合わせの教示、示唆または動機付け
印刷物の24−27頁参照。

・論理付けGのキーポイント:
−これは、組み合わせの教示、示唆または動機付けが引用文献または通常の技術者が一般的に利用できる知識の中に出現する場合のよく知られた「動機付け」拒絶である。
20.KSR後の許可[訳9]
・KSRは自明性の拒絶の力強い支持を提供し得るが、クレームは依然として以下の理由で許可できるだろう
−不十分な事実、または1もしくはそれ以上の事実認定を論駁する出願人による説得力のある主張。

−考えよ:
・クレームに最も広い合理的な解釈を与えたか? 特別な定義はあるか?

・サーチに確信はあるか? 欠けている特徴自体のサーチをしたか?

・引用文献が正しく解釈され、常識の結論およびその技術における者に教示するであろうものが考慮されたか?

21.KSR後の許可
・ …クレームは以下の理由で許可することができる(つづき):
−二次的考慮、例えば、商業的成功、長期間感じされていたが解決されなかったニーズ、および予期しない結果。
・KSR論理付けは「予想できる結果」または「成功の期待」に信頼を置いている。二次的考慮はこれを述べるために使用し得る。

・二次的考慮の説得力を評価することに関する助言を得るためにMPEP716から716.04を参照せよ。

・132宣誓供述書のプラックティスに関する更なる研修がまもなく行われる。
22.KSR後の許可
・ …クレームは以下の理由で許可することができる(つづき):
−クレームされた複数の要素は知られた方法で組み合わせることができなかった
・例えば、技術的困難性のために。これは動機付けが欠けているから組み合わせることが「できなかったであろう」とは異なる。

・「遠ざかることを教示する」および「教示を打ち砕く」に関する主張は適用することができる、ただし注意せよ。

−MPEP2141.02および2143.01だけでなく、MPEP2145セクションX.D.「引用文献が発明から遠ざかることを教示するまたは従来技術を意図された目的のための要求を満たさなくする」を参照せよ。
23.KSR後の許可
・ …クレームは以下の理由で許可することができる(つづき):
−クレームされた複数の要素は知られた方法で組み合わせることができなかった。
・「後知恵」に関する主張は依然として適用することができる、ただし注意せよ。[訳9][訳10]
MPEP2145セクションX.A.「容認できない後知恵」を参照せよ。後知恵の主張は、論理付けの中に表現された事実認定および結論に打ち勝たなければならないであろう。
・「成功の期待」に関する主張は依然として適用することができる、ただし注意せよ。
−MPEP2143.02「合理的な成功の期待が要求される」を参照せよ。「成功の期待」は予想できない技術、例えばいくつかの化学分野、において一つのファクターで有り得る、しかし電気分野はより予想でき、この問題はまれであろう。
24.KSR後の許可
・ …クレームは以下の理由で許可することができる(つづき):
−クレームされた複数の要素が各要素が別々に実行する機能を単に実行するものではない。
・例えば、相乗作用を引き起こす効果、MPEP716.02(a)、セクションIを参照せよ。
・これは網羅的なリストではない。

・もし、明細書または従属クレームに許可できる特徴を認めたのであれば、出願人にそれを提案せよ。
25.KSR後の許可
・注:出願人による単なる陳述または主張:
−1)庁は自明性の一応の証明を確立していない、または

−2)庁の常識への依存は書証によって支持されていない
は、実質的に適切な反駁または拒絶の効果的な答弁とは見なされないだろう

 37 CFR 1.111(b)を参照せよ。

26.おわり





MPEP2145 出願人の反駁主張の考慮[R−6]
X.複数の引用文献を組み合わせるための適切な論理付けを主張する
A.許容できない後知恵
 出願人は、審査官の自明性の結論が不適切な後知恵の推論に基づいていることを主張できる。しかしながら、「自明性に関する判断はある意味で必然的に後知恵の推論に基づいて再構築されたものであるが、クレームされた発明がなされた時に通常の技術者のレベル内にある知識だけを考慮に入れ、かつ出願人の開示のみから収集された知識を含まない限り、そのような再構築は適切である。」In re McLaughlin 443 F.2d 1392, 1395, 170 USPQ 209, 212 (CCPA 1971)。また、出願人は、複数の引用文献を組み合わせる「明示された」動機付けが欠けているから、2またはそれ以上の引用文献の組み合わせが「後知恵」であると主張することができる。しかしながら、「自明性の認定の前に、組み合わせるための明示された、記載された動機付けが従来技術文献に出現しなければならないことは必要条件ではない。」See Ruiz v. A.B. Chance Co., 357 F.3d 1270, 1276, 69 USPQ2d 1686, 1690 (Fed. Cir. 2004). **>自明性の一応の証明の確立に関するガイダンスとしてMPEP § 2141 and § 2143を参照せよ。<



訳注
[訳1]米国特許商標庁は、「TSMアプローチを使用することは必要条件ではない」(プレスリリース)、「TSMは自明性を決定するために使用され得るかなりの数の有効な論理付けの一つである[39]」(基準III.)と述べている。そして、論理付けとして(A)〜(G)を挙げているが、(A)〜(F)はTSMアプローチを使用しない論理付けであり、最後の(G)においてTSMアプローチの論理付けを、これだけ例題なしに、記載している。米国特許商標庁は、TSMアプローチを必要条件の地位から追い落としただけでなく、TSMアプローチを嫌っているようにも見える。

 私としては、KSR合衆国最高裁判決を読んだときに、バランスの取れた優れた判決であると感じると共に、合衆国最高裁はこの事件でCAFCが採用した狭く硬直したTSMアプローチを否定しただけで、TSMアプローチは必要条件ではないとか、かなりの数の有効な論理付けの一つと認めたとは夢にも思っていなかったのである。つまり、合衆国最高裁がCAFCに対して、TSMテストをこれまでの最高裁判例と一致するように柔軟性のあるものにせよ、と命じたと思っていたのである。KSR判決は「役に立つ洞察[TSMテスト]が、硬直した選択を許さない公式である必要はない<Helpful insights … need not become rigid and mandatory formulas>」と述べている。もし、これが「硬直した『または』選択を許さない公式である必要はない<need not become rigid `or' mandatory formulas>」であれば、米国特許商標庁が述べるとおり、TSMアプローチは必要条件ではないことになる。しかし、実際には「or」ではなく「and」であるから、「硬直した公式であり、かつその硬直した公式から外れれば必ず非自明となるような公式である必要はない」という意味であると考える。したがって、KSR判決のこの部分から米国特許商標庁が述べていることが導き出せるとは思えない。実際、米国特許商標庁は、この部分ではなく、脚注[39]を根拠としている。しかし、脚注[39]を読んでも合衆国最高裁が米国特許商標庁が述べていることを判示しているとは思えない。

 この基準が公表される前に、日本の知的財産高等裁判所調査官の相田義明氏は「発明の進歩性・非自明性について−KSR米国連邦最高裁判決に接して」ジュリスト、(No.1339)2007.8.1−15、143頁〜150頁において次のように述べておられた。
 本判決で連邦最高裁が指摘するように、非自明性(進歩性も同じ)は、事実認定に基づく法律判断であり、法的評価である。このことは、つとGraham判決で指摘されていたことである。CAFCのTSMテストは、いわば、認定事実を代入すれば直ちに自明・非自明の結果が出てくるような方程式であり、法的判断の余地を極力排除したものであったため、連邦最高裁は本件でこの点を確認したのである。

 本判決が出される直前に、CAFCのMichel長官は、Pfizer, Inc. v. Apotex, Inc.(2007.5.22)事件の判決において、(1)通常の試験により単一のパラメータを最適化することは自明である、(2)特許権者は、予想できない効果を主張して相手方の自明性の主張に反論するときは、従来技術からどこまで予測できるのかを証明する必要がある、(3)合理的成功の期待は、確実に予測されるものである必要はなく、通常の試験により得られる期待で足りる、と述べ、事実上、TSMテストを放棄した。…[訳8]

 CAFCがアイデンティティを回復し、均質な判断ができるようになるまでには、まだ時間がかかりそうである。TSMテストのような厳格な一本道の手法は進歩性・非自明性の判断にはなじまない。グラハム・アナリシスに基づく判断をある程度を類型化して予見可能性を高めつつ、事案に即した判断を可能とする方向に向かうものと考えられる。
 これを読むと、米国特許商標庁は、KSR合衆国最高裁判決だけではなく、CAFCの長官の考え方も考慮して、「TSMアプローチを使用することは必要条件ではない」としたのではないかと考えられる。CAFCのプロパテント派の裁判官はこの基準に対して怒るかもしれないが、CAFCの長官や多数の裁判官はこの基準を支持すると予想したのだろう。しかし、この基準の論理付けは、相田氏の表現を借りれば、どれか1つの方程式に認定事実を代入すれば直ちに自明の結果が出てくる7つの方程式といえるのではないだろうか。KSR事件のCAFCが採用したTSMテストは合衆国最高裁が述べるように狭く硬直した(特許権者、出願人に甘すぎる)ルールであったが、この新しい基準は逆に、広く硬直した(特許権者、出願人に厳しすぎる)審査に米国特許商標庁の審査官を誘導する恐れもあるかもしれないのである。

 この基準が公表された後、竹中俊子氏(ワシントン大学ロースクール教授、早稲田大学大学院法務研究科教授)は「米国特許法における非自明性:KSR最高裁判決の歴史的意義」知財管理、Vol.58、No.1、2008、5頁〜20頁において次のように述べておられる。
…日本では、知財高等裁判所…が適用する進歩性の基準が高すぎるとの批判が高まり、見直しが求められている。このため、この判決の結果が日本の進歩性の現在の基準を維持するための理由に使われるのではないかと、一部の特許関係者の懸念を招いた。

…2007年10月10日にUSPTOが出したKSR判決を反映した改正非自明性審査基準は、公知構成要素の組合せ発明を差別的に表現する部分や発明を自明と判断した最高裁の事例を引用し、組合せの論理付けは必要であるが、KSR判決以前のようにTSMテストによる理由付けに限らないとしている。その上で、KSR判決で示された自明発明の事例を、これらに限られないと前置きした上で、6つ列挙し、最後の7つ目の論理付けとしてTSMテストを掲げている。これは、単なる公知構成要素の組合せや設計変更等の自明発明の典型例を列挙した後で、動機付けによる論理付けを説明する日本特許庁の進歩性の審査基準に非常に似通っている。一方、これらの事例は、1952年特許法改正以前に発明性否定のテストのもとで使われたある種の発明を差別する分析手法で、改正前のアンチパテントな時代に逆行する危険も含んでいる。このような基準の変更は、最高裁の意図したものとは異なるというべきであろう。

…KSR判決によって組み合わせ発明に厳格な日本の実務に近づいたという点では間違いはなかろう。日本においても、昨今、知財高裁の判例は、組合せとしての論理付けを丁寧に行う傾向にあるようである。その意味で、日米双方から歩み寄る調和の大きな潮流が存在することは間違いないように思われる。
 私としては、この基準を翻訳していて、この翻訳文を公表すると、既に進歩性の基準が高すぎる日本の知財高裁や特許庁が現在の基準を維持したり、更に厳しくしたりしないかと思い、公表はやめようかとさえ思ったほどである。私は、かつて日本特許庁で審査官として働いていたが、審査官には(出願人に)厳しい審査官も、(出願人に)甘い審査官もいるのである。厳しい審査官は、厳しくすべきであるという意見を聞くと、自分の信念通りであるから、自分の考えが正しいとして、より厳しくなってしまう傾向があるように思う。一方、甘い審査官は、厳しくすべきであるという意見を聞いても、自分の信念と異なるので、特に変わらない傾向があるように思えるのである。これは裁判官でも同じではないかと推測する。実際、竹中氏によれば「CAFCのレイダー判事は、KSR判決によるCAFCの非自明性基準への影響はほとんど無いと公言している」ということである。レイダー判事はCAFCの(特許権者、出願人に甘い)プロパテント派の裁判官であるから、KSR判決を読んでも、何も変更するつもりはないのだろう。竹中氏によれば「日米双方から歩み寄る調和の大きな潮流が存在することは間違いない」ということであるが、それだけでなく、厳しすぎる裁判官、審査官と、甘すぎる裁判官、審査官が歩み寄る調和の大きな潮流も存在してもらいたいものである。

[訳2]「predictable results」を「予想できる結果」と訳したが、日本の審査基準で使用されている用語を用いれば、「予想できる効果」となる。

[訳3]この審判事件については、21世紀知的財産研究会(担当:弁理士 立花顕治)「新判決例研究第73回 KSR v.Teleflex最高裁判決を参酌した初の米国特許商標庁の審判事件」知財ぷりずむ2007年9月号、vol.5、No.60、7頁〜14頁において、検討されている。

[訳4]「KSRにおける最高裁は、技術の実際の応用が通常の技術者の技術を超えていただろうならば、その技術を使用することは自明ではなかったであろうと書き留めている。<The Supreme Court in KSR noted that if the actual application of the technique would have been beyond the skill of one of ordinary skill in the art, then using the technique would not have been obvious.>」は誤記であると考えられる。この基準では、出願人に有利なことは一切記載していないにもかかわらず、この記載だけは出願人に有利な記載である。また、文脈的にも、この部分は自明であることの要件を記載する部分であるので、この部分に出願人に有利な記載があるのは不自然である。これは実際のKSR最高裁判決の「ある技術が一つの装置を改良するために使用され、通常の技術者がその技術を用いて同様に類似した装置を改良できるであろうと認識するであろう場合は、『その実際の応用が通常の技術者の技術を超えていない限り、自明である』。<if a technique has been used to improve one device, and a person of ordinary skill in the art would recognize that it would improve similar devices in the same way, using the technique is obvious unless its actual application is beyond his or her skill.>」の『 』内の文章を誤って逆にして引用してしまったものと考えられる。あるいは、最初の執筆者は、この基準が出願人に厳しくなりすぎないように、出願人に有利な注意事項も記載していたが、監督する立場の人が、出願人に有利な記載を全て削除し、この部分だけ削除を忘れたのかもしれない。

[訳5]この事件のPfizerの特許のクレーム1は「アムロジピンのベシレート塩。<The besylate salt of amlodipine.>」というだけの1行(1フレーズ)クレームである。この事件については、吉田哲他「米国進歩性判断に対するKSR判決判決の影響と進歩性主張の留意事項」パテント2007、Vol.60、No.11、1頁〜10頁、スコット・ダニエルズ他「医薬品発明に対するKSR判決の適用について」パテント2008、Vol.61、No.5、3頁〜8頁において紹介されている。

[訳6]日本でもアメリカでも、審査官は、拒絶理由を出願人に通知し、出願人から提出された意見書、補正書を見て、特許/拒絶の判断を行う。私は、かつて日本特許庁で審査官をしていた時に、これを刑事訴訟になぞらえて考えていた。刑事訴訟では、警察官が捜査をして容疑者を見つけ出し、証拠を収集する。それに基づいて法律家である検察官が起訴を行う。被告人には弁護人(弁護士)がつき、検察官側に立証責任がある(疑わしきは罰せず)という前提で裁判官がどちらが勝ちかを判断する。刑事訴訟では被告人に刑罰を科すかどうかを争うのであるから、極めて公正でなければならないので、警察官、検察官、裁判官を別の人が行っているが、特許の審査はそれ程でもないので、1人の審査官が警察官、検察官、裁判官の3者を兼ねていると考えたのである。しかし、警察官と検察官と裁判官の仕事は全く異なった仕事である。そこで、サーチを行う場合は警察官のように、拒絶理由通知の起案を行うときは検察官のように、出願人が提出した意見書、補正書を見て特許/拒絶の判断を行うときは裁判官のように、すれば適切な審査ができるのではないかと考え、実行していたのである。

 サーチを行うときに、裁判官のように公正中立の立場で行ったのでは、良い引用文献が見つかるはずがない。警察官のように、証拠を見つけ出す執念や、見込み捜査も必要である。サーチを行うときは、本願発明を理解した上でそれを拒絶できる引用文献を捜すのであるから、後知恵を使うのは当然である。それどころか、本願発明を拒絶しようという強い信念を持って(すなわち偏見を持って)捜さなければ、良い引用文献は見つからないのである。広大なデータベースの中を端から端まで調べるわけにはいかないから、できるだけ引用文献がありそうな場所を探さなければならない。そこで、私は拒絶するために必要な引用文献を予測し、それをサーチするようにしていた。本願発明はこのような引用文献とこのような引用文献の組み合わせで拒絶できると予想し、それらの引用文献にはどのようなFI、Fターム、フリーワードが付されるのかを予想し、その予想にしたがって検索式を作成する。検索式によってある程度の文献数に絞り込まれたら、今度は、それらの引用文献にはどのような図面が記載されているのかを予測して、図面を見ながら、引用文献を捜すのである。

 引用文献が見つかったら、次は、拒絶理由通知の起案であるが、これは検察官の立場で行う。検察官は法律家であるから、警察官のように執念や見込みや偏見に基づくのではなく、法律に基づかなければならない。特許法29条2項には「特許出願前に…容易に発明をすることができたときは…特許を受けることができない」と規定されている。特許出願前には、本願明細書は無かったのであるから、本願明細書は見ていないという前提で、当業者が引用文献に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたと判断できた場合に、拒絶理由通知を起案するのである。サーチを行う段階では後知恵を活用して、できるだけ良い引用文献を捜し出すが、拒絶理由通知の段階では特許法に従い、できるだけ後知恵とならないように注意しながら起案するのである。

 出願人から意見書、補正書が提出され、特許/拒絶の判断を行う場合は、裁判官の立場で行う。拒絶理由通知を起案したのも自分であるが、中立的な立場で、29条2項の場合は審査官側に立証責任があるという前提で、どちらが勝ちかを決めるのである。拒絶理由通知が正しいといえる場合は審査官側の勝ちで拒絶査定であり、そうとはいえない場合は出願人側の勝ちで特許査定となる。もちろん、この段階でも後知恵にならないように注意しなければならないのは当然である。それぞれの段階に応じて、警察官、検察官、裁判官の立場で精一杯の仕事をすれば、良い引用文献を見つけることができ、かつ、なるべく後知恵を使わない審査ができるであろうと考えたのである。

 進歩性の審査が難しいのは、明細書を読まなければ審査はできないから、必然的に後知恵にならざるを得ないにもかかわらず、法律は後知恵を許さないことである。KSR事件のCAFCは、後知恵を徹底的に排除するために、TSMテストを(特許権者、出願人に甘すぎる)狭く硬直したルールに変質させてしまったのである。これではほとんど全ての出願が特許になってしまうだろう。しかし、その反対に後知恵を徹底的に用いる(特許権者、出願人に厳しすぎる)広く硬直したルールを適用すれば、ほとんど全ての出願は拒絶となってしまうのである。適切なのは、狭く硬直したルールと広く硬直したルールの間にある柔軟性のあるルールである。KSR事件の合衆国最高裁が述べるように、「事実認定者は、もちろん、後知恵の先入観による歪曲に気づくべきであり、事後の動機付けに頼る主張に用心深くなければならない。しかしながら、事実認定者が常識に頼ることを否定する硬直した予防的なルールは、我々の判例法に基づいて必要なことでもなく、一致もしてもいない。」のである。

[追記]以上を書き終わってから、米国特許商標庁のTrainig Materalsの「Patent Corps-Wide Training: Determining Obviousness Under 35 U.S.C. § 103 after KSR International Co. v. Teleflex Inc. [PPT] 」を見たところ、8枚目のスライドに「米国特許法103条に基づいて拒絶を起案する場合、論理付けは従来技術の状態に基づくべきであり、容認できない後知恵、例えば出願人の開示に基づくべきでない。<In formulating a rejection under 35 U.S.C. § 103, the rationale should be based on the state of the art and not impermissible hindsight, e.g. applicant’s disclosure>」と記載 されていたので、安心した。

[訳7]
[2008.06.27追記]この基準のIII.E.「試みることが自明」の例1には、「裁判所は、…通常の技術者は…潜在的な塩形成物のグループを、薬学的に受け容れられる塩を形成することが知られた53のアニオンのグループに狭めることができたであろうし、それは「成功の合理的な期待」を形成するために受け容れられる数であったであろう、と認定した。<The court found that one of ordinary skill in the art … would have been able to narrow the group of potential salt-formers to a group of  53 anions known to form pharmaceutically acceptable salts, which would be an acceptable number to form "a reasonable expectation of success.">」と記載されている。この基準の書き方では、米国特許商標庁の審査官を、53以下の選択肢の場合は全て自明である、と誤解させてしまうように思う。しかし、CAFCはそのような乱暴な認定をしているわけではない。Pfizer事件CAFC判決のpdfファイルの29頁下から8行〜5行には、「Wells博士の証言およびCarabateas特許が証明するように、通常の技術者は53のアニオンのリストを、合理的な成功の期待を持って、ベンゼンスルホン酸塩を含むもっと小さなグループにさらに狭めることができた。」と記載されているのである[訳8]。なお、この判決の3頁の脚注1によれば、「ベシレートはこの技術において交換可能にベンゼンスルホン酸塩、…として言及される。」とのことである。もしかすると、米国特許商標庁のこの基準の執筆者は脚注1に気がつかずに、上記の「ベンゼンスルホン酸塩」は本発明の「アムロジピンベシレート」とは無関係と誤解し、53からさらに狭めることができたという重要な裁判所の認定を無視してしまったのではないだろうか。

[訳8][2008.06.28追記][訳1]の引用部分で、知財高裁調査官の相田氏は
次のように述べておられる
 本判決が出される直前に、CAFCのMichel長官は、Pfizer, Inc. v. Apotex, Inc.(2007.5.22)事件の判決において、(1)通常の試験により単一のパラメータを最適化することは自明である、(2)特許権者は、予想できない効果を主張して相手方の自明性の主張に反論するときは、従来技術からどこまで予測できるのかを証明する必要がある、(3)合理的成功の期待は、確実に予測されるものである必要はなく、通常の試験により得られる期待で足りる、と述べ、…
 この事件についてCAFCは、KSR最高裁判決の前の3月22日と後の5月21日の2つの判決を出しているが、相田氏が引用されたのはKSR判決の前の3月22日の判決であると考えられる。この判決はこの基準のIII.E.「試みることが自明」の例1であるが、[訳7]に記載したように米国特許商標庁はかなり大雑把な要約引用をしている。上記の相田氏の引用も、判決を見てもどこに記載されているのかわかりにくい。相田氏が要約引用された(1)〜(3)は恐らく次の部分に基づくのではないかと推測する。以下は、KSR最高裁判決が出される直前に出されたPfizer事件CAFC判決のpdfファイルの27頁〜34頁に記載された「Obvious-to-Try」の項の全訳である。ただし、引用する先例の判示事項の翻訳は省略し「…」を記載している。

Pfizer事件CAFC判決
2007.03.22判決
「試みることは自明」

 確かに、「従来技術が複数のパラメータのどれが重要であるという見通も与えず、多数の可能な選択のどれが成功しそうであるという見通も与えない場合、成功の合理的期待を持つためには、もしかすると成功する結果に到達するまで、単に全てのパラメータを変えるまたは多数の可能な選択の各々を試みること以上をする動機が与えられなければならない。」Medichem, S.A. v. Rolabo, S.L., 437 F.3d 1157, 1165 (Fed. Cir. 2006) (internal quotations omitted)。Pfizerは、いずれにせよ、ビシレート塩形態におけるアムロジピンは、せいぜい「試みることが自明<obvious to try>」であったに過ぎない、換言すれば、せいぜい成功した結果を得るかどうかを知るために全てのパラメータを変えることまたは多数の可能な選択をすることが自明であったに過ぎないと主張する。

 本裁判所における当事者らは、時々、自明性の判断は、容認できない「試みることが自明」基準に基づいていると不満を言う、それによって本裁判所は、米国特許法103条に基づき、「試みることが自明」は自明性を評価する適切な基準ではない、In re Antonie, 559 F.2d 618, 620 (C.C.P.A. 1977)、一方、O’Farrellおよび他の先例に基づき、成功の完全な予測は要求されない、という見かけ上矛盾する公理の間のバランスを取ることに、もがいてきた。853 F.2d at 903。本件のような製剤が予期される特性を変えるために慣例となっている<routine>手順によってテストされなければならないという状況においては、この二つを一致させることが特に適切である。それゆえ、問題は、技術者がテストしなければならないとき、その者は非自明の結論を支持する方向にどのくらいテストのために行く必要があるのか?になる。

 以前に我々が述べたように、「あらゆる事件、特に米国特許法103条に基づく自明性の問題が提起された事件は、必然的にその事件自身の事実に基づいて決定されなければならない。」In re Jones, 958 F.2d 347, 350 (Fed. Cir. 1992)。その結果として、裁判所は代理特許クレーム<a patent claim by proxy>の自明または非自明の決定は行うことができない。事実に関係を持たない、「試みることが自明」のような、わずかな法的格言の機械的適用に過度に依存することは確実に誤りを招く、自明性の判断はそれぞれの個別の事件の事実に詳しく適合されなければならないからである。我々はDyStarにおいて次のように述べた。
 自明性は精密な分析を必要する複雑な問題であり、どんな一つの事件も法的テストの全ての面をレイアウトすることはない。関連する一群の先例のフルテキストを、それらが決定的であるという全てのものおよびそれらが判示する全てのものを得るために、注意深く読むことにより特定領域の法を収集するのではなく、孤立した意見に焦点を当てるのは生来の危険性[がある]。当事者らが…このような注意深い、率直な、かつ完全な法的分析に従事しない時は、法に関する多くの混乱が生じ、時間とともに、一層ひどくなることがある。
464 F.3d at 1367。しかしながら、この事件の事実に基づいて、我々は、明確で説得力のある証拠が、ベンゼンスルホン酸を試みることが単に自明であったであろうだけでなく、実際にアムロジピンベシレートをつくることが自明であったであろうことを証明していると確信している。

 第一に、本件は試みるべき「多数のパラメータ」が存在する事件ではない。むしろ、変化されるべき一つのパラメータはアムロジピン酸付加塩をつくるアニオンである。塩形成のある程度の予測できなさを我々は認めるが、see, e.g., Sanofi-Synthelabo v. Apotex, Inc., 470 F.3d 1368, 1379 (Fed. Cir. 2006)、いくつかの塩が形成できないことによって、[塩形成を]行う者が必然的に非自明であるという結論<a conclusion that those that do are necessarily non-obvious>が得られるわけではない。これは、(1)上述のように、技術者はアムロジピンベシレートが形成されるだろうという合理的な(保証されたものではないが)期待を持っていた;(2)Pfizerは以前の訴訟で、塩の種類は活性因子アムロジピンの治療上の効果に関して何の効果もなく、実用的に交換可能であることを認めていた、Pfizer v. Dr. Reddy’s Labs., 359 F.3d at 1365-66;および(3)(上記の)多数の他の文献は、重要なことに、別のdihydropyridine調剤調合物のベシレート酸付加塩形態を教示するCarabateas特許を含めて、明らかにベンゼンスルホン酸からつくられる薬学的に受け容れられる酸付加塩を通常の技術者に注目させた、という本件において特に真実である。

 第二に、本件は、従来技術が「将来有望な実験分野であるように見えるという一般的なアプローチ」を追求することだけを教示している、あるいは「クレームされた発明またはそれを達成する方法の特定な形態に関する一般的なガイダンスを与えている」という事件ではない。O’Farrell, 853 F.2d at 903; Medichem, 437 F.3d at 1167。本件においては、Davison氏が認めたように、酸付加塩製剤の選択において、その技術の技術者は、FDAによって以前に推奨された塩を見つけるために、また医薬産業の中で成功裏に使用するために、薬局方および[薬学]概論を見た。Bergeは1974年時点で薬学的に受け容れられる53のアニオンを技術者に明瞭に示した。Wells博士の証言およびCarabateas特許が証明するように、通常の技術者は53のアニオンのリストを、合理的な成功の期待を持って、ベンゼンスルホン酸塩を含むもっと小さなグループにさらに狭めることができた。[訳注:「ベンゼンスルホン酸塩」については[訳7]の後半の記載参照]

 最後に、Pfizerは、試行錯誤の手順の使用を通して得たのであるからアムロジピンベシレートは自明であるという結論は、その「発見」を無視していると抗議している。医薬産業は「試みることは自明」分析の適用によって特に不利に影響を受けるかもしれないが、see, e.g., In re Merck, 800 F.2d at 1100 (Baldwin, J., dissenting)、Pfizerが各酸付加塩の期待される特性をテストすることを通して確かめなければならなかったことは重要ではない、本件において非自明の結論を強いることがないからである。この結論への到達において、我々は特許性は発明がなされた方法によって否定されるべきではないという事実も無視しなかった。35 U.S.C. § 103(a)。「慣例となっているテスト<routine testing>」または「慣例となっている実験<routine experimentation>」への言及は嫌われるという事実も我々は無視しない。See, e.g., In re Yates, 663 F.2d 1054, 1056 n.4 (C.C.P.A. 1981) (…).

 しかしながら、この事件の詳細に述べられた事実に基づくと、Pfizerによってなされた「慣例となっているテスト」の検討は適切である、なぜなら、従来技術は、酸付加塩を作成する手段を提供しただけでなく、Pfizerが慣例となっているテストを通して実証しなければならなかったに過ぎない結果も予測しているからである。Merck, 874 F.2d at 809。新しい酸付加塩の作成において、溶解性、pH、安定性、吸湿性、および粘着性を含む各塩の期待される物理化学特性を確認することはその技術において慣例となっていたこと、およびPfizerの科学者はそうするための標準的な技術を使用したことを、証拠が証明している。各塩の物理化学的特性を確認するためにPfizerの科学者によって使用されたこれらの種類の実験は、従来技術が新しい調剤物をつくる動機付けや示唆も成功の合理的な期待も与えない場合に新しい調剤物を発見するために時々使用される試行錯誤の手順と等価ではない。これは、使用された期間、費用、および技術の困難性が方向を決定するということではない、なぜなら、膨大な時間、金、および成し遂げる努力を必要とする多くの技術がそれにもかかわらず通常の技術者にとって間違いなく「慣例」であり得るからである。むしろ、本件における我々の結論は、発明がなされたときに技術者が合理的な成功の期待を持っていただろう、そしてその期待を単に確かめなければならなかったという事実に信頼を置いている。Cf. Velander v. Garner, 348 F.3d 1359, 1368 (Fed. Cir. 2003) (…)。簡単に言うと、アムロジピンベシレートが自明であったと結論するためには、「通常の技術者の目を通して見た従来技術、通常の知識、または課題の性質」が、単に、ベシレート酸付加塩を形成するためにアムロジピン塩基をベンゼンスルホン酸と反応させること、およびその酸付加塩形態が意図された目的のために効き目があることを示唆しなければならないということである。DyStar, 464 F.3d at 1361。彼らは行った。See O’Farrell, 853 F.2d at 904。

 我々は、この事件が「既に一般的に知られたものを改良する科学者または技術者の通常の希望」から生じたクレーム内の範囲または他の変数の最適化に類似することを認める。In re Peterson, 315 F.3d 1325, 1330 (Fed. Cir. 2003) (…)。In re Aller, 220 F.2d 454, 456 (C.C.P.A. 1955)において、我々の前身の裁判所が知られた方法におけるある変数<a variable>の最適値の発見は通常は自明であるというルールを明らかにした。See also In re Boesch, 617 F.2d 272, 276 (C.C.P.A. 1980) (…)。同様に、我々は、本件のように酸付加塩製剤が活性材料の治療上の有効性に効果がなく、かつ従来技術が特定のアニオンを示唆している場合は、活性調剤材料のための酸付加塩製剤の最適化は自明であったであろうと判示する。Cf. In re Geisler, 116 F.3d 1465, 1470 (Fed. Cir. 1997) (…)。実際、テストの論理的な道筋は、ベンゼンスルホン酸を塩の存在を確証するためにアムロジピンと反応させることであり、その後、アムロジピンベシレートの物理化学的特性、特に十分な非粘着性の特性が適切であることを確認することであった。303特許にクレームされた発明特定事項に到達するのにそのとき必要であった実験は、よく知られた課題解決手法の「慣例となっている」適用「以上のものでなかった」、Merck, 874 F.2d at 809、そして、我々は、「通常の技術者の仕事であり、発明者の仕事ではない」と結論する。DyStar, 464 F.3d at 1371; see also In re Luck, 476 F.2d 650, 652-53 (C.C.P.A. 1973) (…); In re Esterhoy, 440 F.2d 1386, 1389 (C.C.P.A. 1971) (…); In re Swentzel, 219 F.2d 216, 219 (C.C.P.A. 1955) (…); In re Swain, 156 F.2d 246, 247-48 (C.C.P.A. 1946) (…)。

 したがって、発明の特許性はそれがなされた方法によって否定されることはないが、「逆は同様に真実である:『このプロセスは達成されるべきであり、成功の合理的な見込みがあったであろうことを従来技術が通常の技術者に示唆していたであろう』場合は、特許性は授けられない。」Merck, 874 F.2d at 809 (quoting In re Dow Chem. Co., 837 F.2d 469, 473 (Fed. Cir. 1988))。これらの理由により、我々は、発明がなされた時に技術者がアムロジピンのビシレート塩形態に成功の合理的な期待を持っていたであろうという明確で説得力のある証拠をApotexが提出したと判示する。したがって、我々は、303特許のクレームに関して自明性の一応の証明が確立されたという点で、異なった理由であるにもかかわらず、地裁に同意する。
 以上の判示事項から、どうして相田氏が要約引用された(1)〜(3)がでてくるのか理解できない。(1)については、最初の方に記載された「第一に、本件は試みるべき『多数のパラメータが存在する事件ではない。むしろ、変化されるべき一つのパラメータはアムロジピン酸付加塩をつくるアニオンである。」と、後ろの方に記載された「我々の前身の裁判所が知られた方法におけるある変数<a variable>の最適値の発見は通常は自明であるというルールを明らかにした。」を組み合わせれば出てきそうであるが、ニュアンス的には全く違うと思う。相田氏が要約引用された「(1)通常の試験により単一のパラメータを最適化することは自明である」は、最適化するパラメータが1個しかなければ具体的な事実を検討するまでもなく自明である、ことを意味しているようにみえる。しかし、この判決からそのようなことは出てこないと思う。

 この判決で、CAFCのMichel長官が言いたかったことは、相田氏が要約引用された(1)〜(3)とは正反対のことであると思う。Michel長官は、「あらゆる事件、特に米国特許法103条に基づく自明性の問題が提起された事件は、必然的にその事件自身の事実に基づいて決定されなければならない。…事実に関係を持たない、『試みることが自明
のような、わずかな法的格言の機械的適用に過度に依存することは確実に誤りを招く、自明性の判断はそれぞれの個別の事件の事実に詳しく適合されなければならないからである。」と述べているのである。そして、Michel長官は本件における様々な具体的な事実を丹念に認定して、結論を導いているのである。

 [2008.07.06追記]相田氏が要約引用された「(2)特許権者は、予想できない効果を主張して相手方の自明性の主張に反論するときは、従来技術からどこまで予測できるのかを証明する必要がある」は、もしかすると次の部分から要約引用されたのかもしれない。以下はPfizer判決のpdfファイルの「二次的考慮」の項の37頁下から5行〜38頁11行の翻訳である。
 地裁の推論におけるもう一つの欠点は、定義により、非自明性の証拠として考慮されるためには何かの優れた性質<any superior property>が予期しないものでなければならない<must be unexpected>ということを認識するのに失敗したことである。In re Chupp, 816 F.2d 643, 646 (Fed. Cir. 1987)。したがって、優れた性質が予期されなかったかどうかを正しく評価するために、裁判所はどんな性質が予期されたのかを考慮すべきであった。Merck, 874 F.2d at 808。本件において、Pfizerの証拠は失敗に違いない<Pfizer’s evidence must fail>、なぜなら記録には通常の技術者が予期していたであろうものの一つの証拠<any evidence>もないからである。我々は、アムロジピンベシレートがアムロジピンマレイン酸塩と同様な特性を有していたであろうことを通常の技術者が期待したであろうことを単純には仮定しないだろう、なぜならPfizerが主張するように、その性質はまったく予測できなかったからである。さらに、Wells博士の証言は、彼がアムロジピンベシレートがアムロジピンマレイン酸塩の課題を解決するであろうと信じたという事実を示している。Apotexの専門家の反駁なしの証言は、Bergeによって開示された53のアニオンの範囲が与えられれば、通常の技術者はこれらのアニオンがある範囲の性質(そのいくつかは優れ、そのいくつかは劣るだろう)を有する塩を提供することを予期したであろうということの証拠となる。Pfizerは結果が予期できないことを証明することに単に失敗したのである。
 この部分は「二次的考慮」の項で、CAFCが地裁が認定した「優れた性質」について判示している中の1つの段落である。確かに、CAFCは「優れた性質が予期されなかったかどうかを正しく評価するために、裁判所はどんな性質が予期されたのかを考慮すべきであった。…Pfizerの証拠は失敗に違いない、なぜなら記録には通常の技術者が予期していたであろうものの一つの証拠もないからである。」と述べている。この部分は地裁判決を批判している部分なので、内容の理解が難しいが、要約すると、優れた性質は予期しないものでなければならない、裁判所はどんな性質が予期されたのかを考慮すべきであった、Pfizer原告の証拠には予期した性質は一つもないアムロジピンベシレートがアムロジピンマレイン酸塩と同様な特性と通常の技術者が期待したとは仮定しない、Apotex(被告)の証人によれば通常の技術者はこれらのアニオンがある範囲の性質であると予期した、Pfizerは結果が予期できないことを証明することに単に失敗した、ということになる。CAFCが言いたいのは、予期した性質を証明しているのはApotex(被告)の反駁なしの証言だけであり、地裁がそれを考慮すればアムロジピンベシレートの優れた性質が予期しないものであったとはいえないと認定できたはずだということではないだろうか。

 相田氏が要約引用されたように「(2)特許権者は、…、従来技術からどこまで予測できるのかを証明する必要がある
とは、この判決は判示していないと思う。なぜなら、CAFCは、この「二次的考慮」の項で、様々な観点から検討し、「本件においては、記録が自明性の一応の証明を非常に強く確立しているので、Pfizerが主張する予期されない優れた結果[性質]は最終的には不十分である」という結論を導いているからである。CAFCはこの段落だけの検討で二次的考慮を否定しているのではなく、様々な検討の中の一つとしてこの段落の検討があるのであるから、この段落から出てくることは二次的考慮の要件ではなく、せいぜい二次的考慮の一つの要素である。したがって、この段落からいえることは、「特許権者は、…証明する必要がある」ではなく、せいぜい特許権者は、…証明する方がよい」であると考える

 私としては、通常の裁判のように、両当事者がそれぞれ自分に有利な事実を主張立証すればよいのではないかと考える。つまり、特許権者は結果が予期できないことを主張立証し、被告は結果が予期できることを主張立証すればよいのではないかと考える。もちろん、特許権者は被告の証人の予期したという証言には必ず反駁すべきだろう。そうしておけば特許権者の証拠に予期した性質の証拠が一つもないといわれることもないだろう。最終的には、裁判所が、本件発明は自明であることを証明する責任が被告にあるという前提で、全ての証拠を考慮して本件発明は自明であったであろうかどうかを認定することになる。(証明責任については[2008.07.03追記]参照)

 なお、KSR審査基準の論理付けA〜Gの中でA〜D、Fは、証明責任を負う者(特許庁、侵害訴訟の被告)が一応の証明を確立するための要件に「予想できる結果<predictable results>」が含まれているから、出願人や特許権者は、この「予想できる結果」を打ち砕くことを第一に考えるべきだと思う。論理付けE(試みることが容易)と
論理付けG(TSM)では要件として「合理的な成功の期待<reasonable expectation of success>」が含まれているのであるから、出願人や特許権者は、この「合理的な成功の期待」を打ち砕くことを第一に考えるべきだと思う。この判決のこの項で扱われている「予期しない結果<unexpected results>」は、商業的成功、長期間感じされていたが解決されなかったニーズ、他者の失敗等と同列に二次的考慮とされるものであり、事実認定者のこれについての考慮も二次的であると考えられるから、出願人や特許権者の二次的考慮に関する主張は、あくまで二次的に行うものだろうと思う。

 相田氏が要約引用された「(3)合理的成功の期待は、確実に予測されるものである必要はなく、通常の試験により得られる期待で足りる」については、前半の「合理的成功の期待は、確実に予測されるものである必要はなく…」はこの判決に明瞭に記載されているが、後半の「合理的成功の期待は…通常の試験により得られる期待で足りる」は記載されているとは思えない。相田氏が「通常の試験」といわれているのは、私が「慣例となっているテスト<routine testing>」と訳したものと同じと思う。これが問題になるのは、米国特許法103条に「特許性は発明がなされた方法によって否定されないものとする」と規定されているからである(これに対応する規定は日本の特許法29条2項にはない)。もちろん、この判決は、「慣例となっているテスト」でなされたから自明としているのではなく、この事件の詳細に述べられた事実に基づいて、従来技術が手段を提供しかつ結果も予測していると認定できるから、自明としているのである。

 
 [2008.07.03追記]ところで、このPfizer判決のpdfファイルの16頁8行〜17頁16行には、証明責任についてわかりやすく説示されているのでその翻訳文を以下に示す。
…特許権者が有効性を証明しなければならないというように証明責任が転換することは決してない。Hybritech Inc. v. Monoclonal Antibodies, Inc., 802 F.2d 1367, 1375 (Fed. Cir. 1986)。「[有効性]の推定はそのまま残り、[証明責任は]訴訟を通して挑戦者[訳注:特許に対する挑戦者、侵害訴訟の被告]に[残る]…。」Id。

 挑戦者が無効の一応の証明<a prima facie case>を確立すると、特許権者が反駁証拠を提出する責任を負うことは事実である。See Mas-Hamilton Group v. LaGard, Inc., 156 F.3d 1206, 1216 (Fed. Cir. 1998) (…); Cable Elec. Prods. Inc. v. Genmark, Inc., 770 F.2d 1015, 1022 (Fed. Cir. 1985) (…)。しかし、それが意味する全ては、裁判官または陪審による特許は有効であるという結論を支持する証拠を特許権者が提出しなければならないというのでは決してないのだけれども、無効の結論に導き得るだろう証拠(我々が一応の証明と呼ぶもの)を挑戦者が提出すると、特許権者は「挑戦者の証拠を反駁するに十分な証拠を提出するように十分な勧めを受けることになるであろう」ということである。Orthokinetics, Inc. v. Safety Travel Chairs, Inc., 806 F.2d 1565, 1570 (Fed. Cir. 1986).

 しかしながら、この[特許権者の反駁証拠提出の]必要性が「実質的に説得責任を転換する」ことはない、Cable Elec., 770 F.2d at 1022、なぜなら「有効性の推定はそのまま残っており、無効を証明する最終的な責任は訴訟を通して挑戦者に残るからである。」Mas-Hamilton Group, 156 F.3d at 1216; see also Innovative Scuba Concepts, Inc. v. Feder Indus., Inc., 26 F.3d 1112, 1115 (Fed. Cir. 1994); Ashland Oil, Inc. v. Delta Resins & Refractories, Inc., 776 F.2d 281, 287 (Fed. Cir. 1985)。地裁は、特許権者によって提出された反駁証拠を含めて、証拠全体を検討することによって、挑戦者が明確で説得力のある証拠でその[証明]責任を果たしているかどうかを決定する責任がある。Stratoflex, Inc. v. Aeroquip Corp., 713 F.2d 1530, 1534 (Fed. Cir. 1983).
 証明責任(立証責任)が訴訟を通じて転換しないのは日本も同じである。米国特許法103条(日本国特許法29条2項)については、自明である(容易である)と証明する責任が、特許庁や侵害訴訟の被告にあるのであり、これが変わることは絶対にない。特許庁や侵害訴訟の被告が自明である(容易である)と証明できたときは、拒絶(無効)となるが、自明であるとはいえない(容易であるとはいえない)ときは証明責任がある側が負けで、特許(有効)となるのである。したがって、進歩性があれば当然に特許(有効)であるが、自明である(容易である)かどうかはっきりしない場合も特許(有効)なのである。

 米国では、一応の証明というのがあるので、わかりにくくなってしまうが、上記の説示のとおり証明責任(立証責任、説得責任)が転換することはないのである。[2008.07.05追記]ボクシングのタイトルマッチにたとえると、わかりやすいことに気がついた。挑戦者がチャンピオンベルトを奪い取るためには、チャンピオンに勝たなければならない。挑戦者が勝てなければ(チャンピオンが勝つか引き分けの場合)、チャンピオンベルトはチャンピオンが保持し続けるのである。この挑戦者の立場は試合中に入れ替わることは絶対にない。これが証明責任に対応する。訴訟中に証明責任を負担する立場が入れ替わることは絶対にないのである。試合中に挑戦者が強力なパンチをあびせチャンピオンがダメージを受けこのままではジャッジは挑戦者勝ちの判定を下すだろうという状況が、一応の証明が確立したときに対応する。一応の証明は挑戦者(証明責任を負担する者)有利の一時的な状況である。この場合、チャンピオンとしては必勝するために強烈なパンチを繰り出さなければならないというのでは決してないのだけれども、一応の証明を打ち砕くに十分なパンチを繰り出し、悪くとも引き分けに持ち込めない限り、チャンピオンベルトを失うのである。一応の証明が確立しても証明責任は転換しないから、チャンピオンは勝か引き分けでタイトル防衛ができるのである。

 米国特許商標庁の審査官が、自明性の拒絶理由を通知するのは、このKSR審査基準に記載されている論理付けA〜Gの1以上に基づいて一応の証明<a prima facie>を確立した場合(拒絶の結論に導き得るだろう証拠と論理付けができた場合)である。例えば、論理付けE(試みることが自明)の場合は、「その技術において認識された課題またはニーズ」、「限られた数の予想できる解決策」、「通常の技術者が合理的な成功の期待をもって知られた解決策を追究し得たであろう」の3つの認定の全てができた場合に初めて、審査官は拒絶理由を通知することができるのである。侵害訴訟の場合は、上記の3つの認定が全てなされたときに無効の一応の証明がなされたことになる。一応の証明がなされた後は、出願人や特許権者が、一応の証明を打ち破るに十分な反駁証拠と主張を提出しなければ、拒絶(無効)となるのである。

 しかし、審査官が「限られた数の予想できる解決策」の認定だけしかできないのに、そのまま拒絶理由を通知し、出願人に「通常の技術者が合理的な成功の期待をもって知られた解決策を追究し得なかった」ことを証明する責任が転換するいうことは、法律上は
(審査官が法律を知っていれば)、絶対にないのである。正しくは、審査官が上記の3つの認定の全てを拒絶理由で通知して、これに対して出願人が3つの認定の少なくとも一つが正しいかどうかはっきりしなくなるような反駁証拠と主張を提出できれば、法律上は(審査官が法律を知っていれば)、特許になるのである。

[訳9][2008.07.01追記]米国特許商標庁における審査官研修用スライドと見られる資料(TC3600)を翻訳した。スライド1にビジネスメソッドと記載されているが、スライドの内容自体はどの技術分野でも利用できるものである。スライド13〜19で参照する印刷物にビジネスメソッド関係の例題が記載されている。このKSR審査基準を翻訳していたときには、(出願人に)厳しすぎるいわれている日本の審査基準よりも厳しくなったのではないかと不安になったが、もちろんそうではなかった。スライド23に記載されているように、MPEP2145 X.A.「容認できない後知恵」の規定は依然として有効であるからであるKSR審査基準には拒絶するための要件しか記載されていなかったが、スライド20〜25には特許する場合についても記載されているので、米国特許商標庁が厳しくなりすぎたわけではないようで、安心した。[訳10]

[訳10]
[2008.07.01追記]日本の進歩性の審査基準は平成5年に作成されたが、その時は、次のように記載されていた。
進歩性の判断の基本的な考え方
…論理付けは…起因ないし契機(動機付け)となりえるものがあるかどうかを主要観点とし、…
その他の留意事項
(1)…審査においては、本願発明の知識を得た上で引用発明を理解することから、引用発明が請求項に係る発明の構成に近いものと錯覚し、相違点を見逃すことがある。…
(2)本願の明細書から得た知識を前提にして事後的に分析すると、当業者が容易に想到できたように見える傾向があるので、注意を要する。…
 平成5年の審査基準の「起因ないし契機(動機付け)となりえるものがあるかどうか」を硬直的公式的に解釈すると、KSR事件のCAFCの裁判官と同様に、(特許権者、出願人に)甘すぎる判断となる。そこで、日本では、平成12年に次のように審査基準が改正された。
進歩性判断の基本的な考え方
…論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことが可能である。例えば、請求項に係る発明が、引用発明からの最適材料の選択あるいは設計変更や単なる寄せ集めに該当するかどうか検討したり、あるいは、引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかを検討する。…
進歩性の判断における留意事項
後知恵に関連する注意事項を全て削除。
 「進歩性の判断の基本的な考え方」の方の改正は、今回の米国のKSR審査基準と同様なものであり、良い方向の改正であったと思う。しかし、「その他の留意事項」の後知恵に関する注意事項の全面削除は、今回の米国のKSR審査基準とは大きく異なっている。米国では、スライド23に示されているように、「注意せよ」という「ただし書き」はついたけれども、KSR後も、MPEPの後知恵に関する規定は依然として有効である。MPEP 2145 X.A.「許容できない後知恵」の規定は審査官に対してそれほど強い規制をかけているわけではないが、後知恵を徹底的に使用すれば、ほとんど全ての出願を拒絶できるのであるから、審査基準に「容認できない後知恵」についての記載があるかないかは決定的である。今回の米国のKSR審査基準により、日米の審査基準は類似したものとなったが、「容認できない後知恵」の有無が決定的に相違するのである。



トップページhttp://www.venus.dti.ne.jp/~inoue-m/ 独禁法 著作権 プログラムの特許権 利用条件 参考文献      

since 2008.06.26