翻訳 井上雅夫 2006.06.25     ↑UP 


eBay差止事件合衆国最高裁判決
2006.05.15
 目 次
判決要旨
判     決
 裁判所の意見
 ROBERTS首席裁判官の賛成意見
 KENNEDY裁判官の賛成意見
 脚注
訳注



判決要旨

合衆国最高裁判所


上告人 EBAY INC. ET AL.
被上告人 MERCEXCHANGE, L. L. C.

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に対する上告受理申立

No. 05-130 2006年3月29日口頭弁論−2006年5月15日判決

 上告人らは、個人的な売り手が、売ろうとする品目をリストに載せることを可能とする人気のあるインターネットウェブサイトを運営している。被上告人は上告人らにビジネス方法特許をライセンスしようとしたが、合意に達することができなかった。その後の被上告人の特許権侵害訴訟において、陪審は、特許は有効であり、上告人らはその特許を侵害したとして、損害賠償を与えるのが適切であると認定した。しかし、地裁は被上告人の本案差止救済[訳1]の申し立てを却下した。CAFCは、これを覆す際に、「裁判所は例外的な事情がない特許権侵害に対して本案差止を命じるという」CAFCの「一般的なルール」を適用した。401 F. 3d 1323, 1339.  

 判示事項:勝利した原告に本案差止救済を与えるかどうかを審理するエクイティ〔衡平法〕裁判所[訳2]によって適用される伝統的な4要素テストは、特許法に基づいて提起された紛争に適用される。このテストは原告に次のことの立証を要求する:(1)原告が回復不能の損害を受けていること;(2)金銭的損害賠償のような法[注3]に基づいて得られる救済がその被害を償うには不適切であること;(3)原告と被告間の困難性のバランスを考慮して、エクイティ〔衡平法〕による救済が正当であること;および(4)本案差止によって公衆の利益が損なわれないこと。そのような差止救済を認容または却下する決定は、地裁によるエクイティ〔衡平法〕上の裁量であり、裁量の濫用に対して控訴審において再審理可能である。この原則は特許法の紛争に対して同じ効力で適用される。「エクイティ〔衡平法〕の運用の長期間の伝統からの大幅な離脱は軽率にほのめかされるべきではない。」Weinberger v. Romero-Barcelo, 456 U. S. 305, 320.  Nothing in the Act indicates such a departure. Pp. 2-6.

 401 F. 3d 1323は破棄され、差し戻される。

 THOMAS裁判官が全員一致の裁判所の意見を言い渡した。ROBERTS首席裁判官は賛成意見を登録し、これにSCALIA裁判官およびGINSBURG裁判官が加わった。KENNEDY裁判官は賛成意見を登録し、これにSTEVENS裁判官、SOUTER裁判官およびBREYER裁判官が加わった。



判        決

裁判所の意見

合衆国最高裁判所

No. 05-130


上告人 EBAY INC., ET AL., PETITIONERS

被上告人 MERCEXCHANGE, L. L. C.

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に対する上告受理申立状に関して


[2006.5.15]

 THOMAS裁判官が裁判所の意見を言い渡す。

 通常、勝利した原告に本案差止救済[訳1]を与えるかどうかを審理する連邦裁判所は、歴史的にエクイティ〔衡平法〕裁判所[訳2]によって使用される4要素テストを適用する。上告人eBay Inc.およびHalf.com, Inc.は、この伝統的なテストは特許法に基づいて提起された紛争に対して適用されると主張する。我々は同意する、したがって、控訴裁判所(CAFC)の判決を破棄する。



 上告人eBayは、個人的な売り手が、オークションまたは固定価格で、売ろうとする品目をリストに載せることを可能とする人気のあるインターネットウェブサイトを運営している。上告人Half.com(現在はeBayが完全に所有する子会社)は、同じようなウェブサイトを運営している。被上告人MercExchange, L. L. C.は、多数の特許を所有しており、その中には、個人間の信用を増進する中央機関を設立することによって個人間の商品の販売を促進するために設計された電子マーケットのためのビジネス方法特許が含まれる。See U. S. Patent No. 5,845,265.  MercExchangeは、それまで他の会社に対して行ったのと同じように、eBayとHalf.comにその特許をライセンスしようとしたが、合意に達することができなかった。その後、MercExchangeは、eBayとHalf.comに対してバージニア東部地区合衆国地方裁判所において特許権侵害訴訟を提起した。陪審は、MercExchangeの特許は有効であり、eBayとHalf.comはその特許を侵害したとして、損害賠償を与えるのが適切であると認定した。[1]

 陪審の評決に続いて、地裁はMercExchangeの本案差止救済の申し立てを却下した。275 F. Supp. 2d 695 (2003).  CAFCは、「裁判所は例外的な事情がない特許権侵害に対して本案差止を命じるという」CAFCの「一般的なルール」(401 F. 3d 1323, 1339 (2005))を適用して、これを覆した。我々は、この一般的なルールの妥当性を決定するために上告を受理した。546 U. S ___ (2005).

II

 確立されたエクイティ〔衡平法〕の原則に従い、本案差止を求める原告は、裁判所がそのような救済を与える前に、4要素テストを満足させなければならない。原告は次のことを立証しなければならない:(1)原告が回復不能の損害を受けていること;(2)金銭的損害賠償のような法[注3]に基づいて得られる救済がその被害を償うには不適切であること;(3)原告と被告間の困難性のバランスを考慮して、エクイティ〔衡平法〕による救済が正当であること;および(4)本案差止によって公衆の利益が損なわれないこと。See, e.g., Weinberger v. Romero-Barcelo, 456 U. S. 305, 311-313 (1982); Amoco Production Co. v. Gambell, 480 U. S. 531, 542 (1987). 本案差止救済を認容または却下する決定は、地裁によるエクイティ〔衡平法〕上の裁量であり、裁量の濫用に対して控訴審において再審理可能である。See, e.g., Romero-Barcelo, 456 U. S., at 320.

 これらのよく知られた原則は特許法に基づいて提起された紛争に対して同じ効力で適用される[訳4]。本裁判所は、「エクイティ〔衡平法〕の運用の長期間の伝統からの大幅な離脱は軽率にほのめかされるべきではない」(Ibid.; see also Amoco, supra, at 542)と長期間に渡り認識してきた。特許法のなかに、議会がそのような離脱を意図していることを示すものは、何もない。逆に、特許法は、エクイティ〔衡平法〕の原則に従い、差止を命ずることが「できる<may>」(35 U. S. C. §283)と明確に規定している[2]

 確かに、特許法は、「特許は動産<personal property>に属するものとする」(§261)、「発明品の製造、使用、販売の申し出、または販売から他者を排除する権利」(§154(a)(1))を含む、とも規定している。CAFCによれば、この制定法上の排他権のみに基づいて、本案差止救済に有利なCAFCの一般的なルールが正当化されるという。401 F. 3d, at 1338.  しかし、権利の創設はその権利の違反に対する救済の条文とは別である。実際、特許法自身が、差止救済は「エクイティ〔衡平法〕の原則に従って」のみ命じることが「できる<may>」(§283)という条文を含む、「本法の規定に従い」(35 U. S. C. §261)、特許は動産<personal property>に属するものとするとしている。

 本アプローチは、著作権法に基づく差止に関する我々の取り扱いと一致している。特許権者と同様に、著作権者は「その財産を使用することから他者を排除する権利」を有する。Fox Film Corp. v. Doyal, 286 U. S. 123, 127 (1932); see also id., at 127-128(「著作権は、非凡な才能によって贈られた恩恵に対して公衆が与える特許と同等なものであると同時に、〔特許と〕同じ重要な目的に向けての更なる努力へのインセンティブでもある」)。 特許法と同様に、著作権法は、「著作権の侵害を防ぐまたは抑制するために合理的と考えることができるという条件で」、裁判所は差止救済を認容することが「できる<may>」と規定している。17 U. S. C. §502(a).  そして、我々の今日の判決と同様に、本裁判所は、伝統的なエクイティ〔衡平法〕上の考慮を、著作権が侵害されたという決定に続いて差止が自動的になされるというルールに置き換えるという誘いを一貫して拒絶してきた。See, e.g., New York Times Co. v. Tasini, 533 U. S. 483, 505 (2001) (citing Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U. S. 569, 578, n. 10 (1994)); Dun v. Lumbermen's Credit Assn., 209 U. S. 20, 23- 24 (1908).

 下級審の地裁もCAFCも、被上告人の本案差止の申し立てを決定する際に、これらの伝統的なエクイティ〔衡平法〕上の原則を公平に適用していない。地裁は伝統的な4要素テストを列挙したが(275 F. Supp. 2d, at 711)、地裁は、差止救済は事件の多くにおいて命じることができないことを示唆するある拡張的な原則を採用しているようにみえる。最も注目すべきなのは、地裁が、「原告がその特許を喜んでライセンスすること」および「原告がその特許を実施する商業活動をしていないこと」により、差止が命じられない場合に特許権者が回復不能の損害を被らないであろうことが十分に立証されたと結論したことである。Id., at 712.  しかし、伝統的なエクイティ〔衡平法〕の原則はそのような広範囲な類型を認めてはいない。例えば、大学の研究者や独立独行の発明者のような特許権者は、彼ら自身で発明品を市場に出すために必要な資金を集める努力をするよりも、彼らの特許をライセンスすることを選ぶのが合理的であろう。そのような特許権者は伝統的な4要素テストを満足させることができるだろう、そして、類型的に彼らにそうする機会を与えないとすることに根拠はないと我々は理解する。地裁がそのような類型的なルールを採用した限りにおいて、地裁の分析は議会によって採用されたエクイティ〔衡平法〕の原則に適合していない。地裁の類型的ルールは、エクイティ〔衡平法〕裁判所は特許の使用を不合理に拒否する特許権者に対する差止救済を認容するための管轄を有さないという主張を退けたContinental Paper Bag Co. v. Eastern Paper Bag Co., 210 U. S. 405, 422- 430 (1908)事件とも緊張関係にある。

 地裁判決を覆す際に、CAFCは4要素テストから反対の方向に外れた。CAFCは、「侵害と特許の有効性が判決されれば、本案差止が命じられるだろう<will>という」特許紛争に独特な「一般的なルール」を明確に述べた。401 F. 3d, at 1338. CAFCはさらに、差止は、「普通でない」事件において、「例外的な状況」に基づいて、および「『公益を保護する…まれな事例において』」のみ否定されるべきであると述べた。Id., at 1338-1339.  地裁が差止救済の類型的な拒絶において誤ったのと丁度同じように、CAFCはそのような救済の類型的な認容において誤った。Cf. Roche Products v. Bolar Pharma-ceutical Co., 733 F. 2d 858, 865 (CAFed 1984)(「ある状況についての事実が地裁に差止を命じるよう要求するかどうかを決定することに関して」地裁が有する「かなりの裁量」を正当なものとみなしている)。

 どちらの下級裁判所も差止救済の認容を律する伝統的な4要素の枠組みを正しく適用していないから、我々はCAFCの判決を破棄する、その結果、地裁は最初の裁判としてこの枠組みを適用することができる。そうすることにおいて、我々は、この特定の事件において、それどころか特許法に基づいて提起される他の紛争の事件すべてにおいて、本案差止救済を命じるべきか命じないべきかに関して、いかなる立場も取らない。差止救済を認容または却下するかどうかの決定は、地裁のエクイティ〔衡平法〕上の裁量にかかっており、その裁量は、このような基準によって律せられる他の事件と同様に特許紛争において、エクイティ〔衡平法〕の伝統的な原則と一致して行われなければならない、と我々は判示する。

 したがって、我々はCAFCの判決を破棄し、この意見と一致した更なる手続きのために差し戻す。

そのように命じられる。



ROBERTS首席裁判官の賛成意見

合衆国最高裁判所

No. 05-130

上告人 EBAY INC., ET AL., PETITIONERS
被上告人 MERCEXCHANGE, L. L. C.

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に対する上告受理申立状に関して

[2006.5.15]


 ROBERTS首席裁判官は賛成し、これにSCALIA裁判官およびGINSBURG裁判官が加わる。

 私は、「差止救済を認容または却下するかどうかの決定は、地裁のエクイティ〔衡平法〕上の裁量にかかっており、その裁量は、このような基準によって律せられる他の事件と同様に特許紛争において、エクイティ〔衡平法〕の伝統的な原則と一致して行われなければならない」(ante, at 5)という裁判所の判示に同意し、私は裁判所の意見に加わる。この意見は、「エクイティ〔衡平法〕の運用の長期間の伝統からの大幅な離脱は軽率にほのめかされるべきではない。」(Weinberger v. Romero-Barcelo, 456 U. S. 305, 320 (1982); see ante, at 3)という命題に適切に基づいている。

 少なくとも19世紀初頭から、裁判所は大多数の特許事件において侵害の認定に基づいて差止救済を認容してきた。この「長期間のエクイティ〔衡平法〕の実践」は、特許権者の意志に反して侵害者に発明の使用を許容する金銭的救済を通じた排他権の保護の困難性(伝統的な4要素テストの最初の2つの要素にしばしば関係する困難性)を考えれば、驚くべきものではない。この歴史的な実践は、本裁判所が判示するように、特許権者に本案差止を受ける権利を与えるものではなく、本案差止が命じられるべきであるという一般的なルールを正当化するものではない。CAFC自身、Roche Products, Inc. v. Bolar Pharma-ceutical Co., 733 F. 2d 858, 865-867 (1984)事件において、そのように認めている。同時に、確立された4要素テストに基づくエクイティ〔衡平法〕上の裁量を実践することは、白紙に記載することとは違う。「裁量は気まぐれな考えではない、そして、法的基準に基づいて裁量を限定することにより、同じような事件は同じように決定されるべきであるという基本的な公平の原則が促進される。」Martin v. Franklin Capital Corp.,546 U. S. ___, ___ (2005) (slip op., at 6). 他の領域と同じようにこの領域において、これらの基準を見つけ適用するようになったとき、「1ページの歴史が1冊の論理の本の価値を持つ。」New York Trust Co. v. Eisner, 256 U. S. 345, 349 (1921) (opinionfor the Court by Holmes, J.).



KENNEDY裁判官の賛成意見

合衆国最高裁判所

No. 05-130

上告人 EBAY INC., ET AL., PETITIONERS
被上告人 MERCEXCHANGE, L. L. C.

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に対する上告受理申立状に関して

[2006.5.15]

 KENNEDY裁判官は賛成し、これにSTEVENS裁判官、SOUTER裁判官およびBREYER裁判官が加わる。

 裁判所は、特許事件において差止救済を認容するかどうかを決定する際に、類型的なルールに基づくことなく、十分に確立された4要素テストを適用すべきであると判示した点において、本裁判所は正しい。このテストを適用するにあたって歴史が有益であるという点において(Ante, at 1-2 (concurring opinion))、首席裁判官も正しい。しかしながら、特許侵害者に対して差止を命じる伝統的な実践が「特許権者の意志に反して侵害者に発明の使用を許容する金銭的救済を通じた排他権の保護の困難性」(Ante, at 1 (ROBERTS, C. J., concurring))に基づいているようにはみえない。特許法の規定および差止救済の伝統的な見方の両方からみて、排他権の存在がその権利の違反に対する救済策を指示するわけではない。Ante, at 3-4 (opinion of the Court). 以前の事件が特許侵害者に対して差止を当然のこととして認容するパターンを確立している限りにおいて、このパターンは単にそのときの一般的な状況における4要素テストの結果を例証しているに過ぎない。それゆえ、歴史的な実践の教訓は、ある事件の状況が、裁判所が直面する訴訟に本質的に類似する時に、最も助けになり、また有益である。

 最近提起されている事件については、多くの事例において、行使される特許権の性質および特許権者の経済的機能が以前の事件とは全く異なった事情を提出していることを、裁判所は心に留めておくべきである。企業<firms>が特許を商品の生産および販売の基礎としてだけでなく、その代わりに、主にライセンス料を得るためにも使用しているなかで、ある産業が発展してきた。See FTC, To Promote Innova-tion: The Proper Balance of Competition and Patent Law and Policy, ch. 3, pp. 38-39 (Oct. 2003), available at http://www.ftc.gov/os/2003/10/innovationrpt.pdf (as visited May 11, 2006, and available in Clerk of Court's case file). これらの企業にとって、差止、およびその違反から生じる潜在的に重大な制裁は、その特許を実施するためにライセンスを購入しようとする会社<companies>に法外な料金を課すための交渉の手段として使用され得る。See ibid. 特許された発明がその会社が生産しようとする製品のほんのわずかの部分であり、差止の脅威が交渉における不適当なテコとしてのみ使用されている場合は、法定の損害賠償がその侵害に対する償いとして十分であるかもしれず、差止は公衆の利益にかなうものではないかもしれない。加えて、昔は大きな経済的法的重要性を持たなかった急激に増加するビジネス方法に関する特許に対しては、差止救済は異なった結果を有するかもしれない。これらの特許のいくつかにおける潜在的なあいまいさおよび疑わしい有効性は4要素テストに基づく計算法に影響を与えるかもしれない。[訳5]

 特許法によって与えられた差止に関するエクイティ〔衡平法〕上の裁量は、特許制度における急速な技術的法的発展に裁判所を適合させるのに十分に適している。これらの理由により、地裁は、過去の実践が審理中の事件の状況に適合しているかどうかを決定しなければならないことを認識すべきである。このような所見と共に、私は裁判所の意見に加わる。


脚注
(1)eBayとHalf.comは、合衆国特許商標庁に継続中の手続きにおいて、MercExchangeの特許の有効性に対して異議を申し立て続けている。

(2)特許法283条は「本法に基づき事件の管轄を有する裁判所は、特許によって保証された権利に対する違反を防止するためにエクイティ〔衡平法〕の原則に従い、裁判所が合理的と考える条件で、差止を認容することができる。 」と規定している。


訳注
(訳1)本案差止救済<permanent injunctive relief
>は、仮差止ではなく、本案訴訟における差止救済である。

(訳2)アメリカはイギリスからの移民によって建国された国であるから、アメリカの法制度はイギリスの法制度を受ついている。英米私法には、コモンロー〔普通法〕とエクイティ〔衡平法〕の二つの判例法の体系があり、かつては、それぞれコモンロー〔普通法〕裁判所とエクイティ〔衡平法〕裁判所において審理されていた。コモンロー〔普通法〕裁判所は金銭的な救済を行い、エクイティ〔衡平法〕裁判所は差止による救済を行う。現在では、これらの裁判所は統合され、一つの裁判所でコモンロー〔普通法〕とエクイティ〔衡平法〕の審理を行うが、本判決では差止救済を行う裁判所をエクイティ〔衡平法〕裁判所と述べている。なお、アメリカでは、どちらかの当事者が陪審裁判を希望すれば、陪審裁判が行われる。陪審裁判の場合、特許権侵害かどうかと損害賠償額の事実認定は陪審が行うが、差止を命じるかどうかは、裁判官が裁量により判断する。(英米法についての参考文献:田中和夫、「英米法概説〔再訂版〕」、1981年3月20日再訂版初版第1刷発行、1989年8月30日第13刷発行)

(訳3)この「法」は原文では「law」であり、コモンロー〔普通法〕や損害賠償を規定する制定法を意味すると考えられる。特許に関しては、米国特許法284条に損害賠償の規定がある。

(訳4)日本においては、差止仮処分事件における仮差止については、民事保全法23条2項に「債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」と規定されており、これはアメリカの4要素ルールの一部と類似している。しかし、日本においては、本案訴訟における差止(本判決では本案差止と述べている)については、このような要件はなく、侵害が認定されれば、差止が命じられる。これに対して、アメリカでは、差止はエクイティ〔衡平法〕に基づく救済であるから、侵害が認定された場合、裁判官が裁量に基づいて差止を命じるか命じないかを判断する。これまで特許権侵害事件においては大多数の場合について差止が命じられてきたようであるが、今後は、本判決により、特許権侵害事件においても、他の法領域の差止と同じように、4要素ルールを適用して、差止を命じるか命じないかを判断することになる。この最高裁の判断は、米国特許法283条[2]の規定からすれば当然のことであり、むしろ特許を専門とするCAFCが米国特許法を文言どおり解釈しなかったことの方が驚きである。

(訳5)ここでKENNEDY裁判官が述べていることは、私が「一太郎事件知財高裁大合議判決について」の「9.差止と損害賠償」において述べたことと類似しているようにみえる。日本にはエクイティ〔衡平法〕はないのであるから、日本の裁判所は、差止請求事件において、侵害を認定すれば、自動的に差止を命じることになる。差止を命じるかどうかに裁判官の裁量が入る余地はない。しかし、前記の「9.差止と損害賠償」で述べたように、特許法1条の目的と民法1条3項の権利の濫用の規定に基づいて被告が主張し、もし、裁判所がこれを認めるとすれば、ある程度、アメリカと類似した結果となるのではないだろうか。
 


トップページhttp://www.venus.dti.ne.jp/~inoue-m/ 独禁法 著作権 プログラムの特許権 利用条件 参考文献      

since 2006.06.25