翻訳 井上雅夫 2002.06.05;08.20     ↑UP   ボールスプライン事件へ  MIDCOミーンズ・クレーム事件CAFC判決<NEW

FESTO均等論・禁反言事件最高裁判決

合衆国最高裁判所
No.00-1543

上告人 FESTO CORPORATION
被上告人 SHOKETSU KINZOKU KOGYO KABUSHIKI CO., LTD., etal.

連邦巡回区合衆国控訴裁判所(CAFC)への上告受理申立状に関して

2002.5.28判決

Kennedy最高裁判事が最高裁の意見を述べる。

 本件は、均等論と出願経過禁反言という二つの特許法の概念の関係について、我々にもう一度述べることを求めるものである。本裁判所は、Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17 (1997)事件[訳3]において同じ概念について審理し、特許発明に実質のない変更のみを行うことによって侵害の責務を避けるコピイストの努力に対して、特許は特許権者を保護していることを、再確認した。同時に、我々は、特許の文字通りの用語を超えて保護を広げることによって、均等論は特許の専売権が終わる所の周りに相当な不確実性を作り得ることを、認識した。Id., at 29. もし、均等の範囲が不明確であるとすれば、競争者は何が特許発明に対して許容される代替品であり、何が侵害する均等物であるのかを決定することができないかもしれない。
 
 不確実性を減らすために、Warner-Jenkinson事件は、競争者は特許手続の公的記録である出願経過に頼ることができることを認めた。いくつかの事件において、特許商標庁(PTO)は、クレームが特許性の制定法上の要件に合致しないことを根拠に特許出願のより早期のバージョンに拒絶を通知したかもしれない。35 U.S.C. 132 (1994 ed., Supp. V). 特許権者がクレームを減縮することによってその拒絶に応答した場合、この出願経過が、最初の広いクレームによってカバーされていたもの<subject matter>が均等物以外のものでないと特許権者が後から主張するのを禁じる。競争者は彼ら自身の装置が均等によって侵害と認定されないだろうことを確実にするために禁反言に頼ることができる。
 
 CAFCは、本件の審理の対象である判決で、特許を得るためにクレームを減縮することによって特許権者は補正されたクレーム要素について全ての均等物を放棄していると判示した。上告人は、この判示は二つの点で過去の先例からはずれていると主張する。第一に、CAFCは、より早い発明すなわち先行技術によって先取りされたものを避けるためになされた補正だけでなく、特許法の要件を満たすためになされた全ての補正に禁反言を適用する。第2に、CAFCは、禁反言が生じると、補正されたクレーム要素の全ての均等物に対して訴えを禁じると判示する。CAFCは、この判示が、クレームの均等が出願経過によって禁じられるものを検討した時にフレキシブル・バー<a flexible bar>[訳1]を適用した自身の先例からはずれていることを認めた。CAFCは、フレキシブル・バーをコンプリート・バー<a complete bar>[訳2]に置き換えることによって、自身の判例法がそれほど厳格な基準を適用しなかった時代に出願プロセス中に補正された多くの現存する特許に疑念を投げかけたと、上告人は主張する。
 
 我々はこれらの問題を審理するために上告受理申立を受理した。
 

 
 上告人Festo Corporationは、運搬システムにおけるマグネットによって物品を動かすピストン駆動装置である改良されたマグネティック・ロッドレス・シリンダに関する二つの特許を保有している。その装置は多くの産業的な用途を有しており、縫製装置からディズニーワールドのサンダーマウンテンまで様々な機械に用いられてきた。シリンダの動作の詳細はここでは重要ではないが、出願経過は検討されなければならない。
 
 上告人の特許出願は、よくあるように、出願手続中に補正された。第一の特許出願、Stoll特許(米国特許No.4,354,125)、は特許審査官が最初の出願に、正確な動作方法が不明であり、いくつかのクレームは許すことができない方法(複数項従属請求項、米国特許法112条(1994年法))で記載されているという拒絶を通知した時に補正された。発明者のStoll博士は審査官の拒絶に対処すると考えた新しい出願を提出し、ある先行技術文献の追加も行った。37 CFR 1.56 (2000). 第2の特許、Carroll特許(米国特許No.3,779,401)、も再審査手続中に訂正された。そのうえ先行技術文献がこの訂正された出願に追加された。補正された両方の特許には、発明が一対のシーリングリングを含むように新しい限定が付加された。それぞれのシーリングリングはピストン・アセンブリ上に不純物がつくのを防ぐリップを一方の側に有している。補正されたStoll特許はその装置のアウターシェルであるスリーブが磁化可能な材料で製造されるという更なる限定を付加している。
 
 Festoがそのロッドレス・シリンダを販売始めた後、被上告人(以下、SMCという。)はFestoの特許によって明示されたものと同様であるが全く同じではない装置でそのマーケットに参入した。SMCのシリンダは、二つのワンウェイ・シーリングリングを用いるのではなく、ツーウェイ・リップを有する一つのシーリングリングを用いている。さらに、SMCのスリーブは磁化されない合金で製造されている。SMCの装置はどちらの特許のクレームの文言内にも入らないが、上告人は、非常に類似しているので均等論に基づいて侵害であると主張する。
 
 SMCは、Festoがこの主張を行うのはその特許の出願経過により禁じられている、と主張する。Festo製品のシーリングリング及び磁化可能な合金は補正された出願において初めて明示された。SMCの見解では、これらの補正がより早い出願を限定し、競い合う装置における正に相違点(シーリングリング及びスリーブを製造する時に使用される合金の種類)である代替品を放棄している。SMCによれば、Festoは特許を得るためにこれらの方法でそのクレームを減縮したのであるから、Festoは、これらの特徴が重要でなく、SMCの装置は均等物であると今になって主張することは禁じられている。
 
 Massachusetts地区合衆国地裁は意見が異なった。地裁はFestoの補正は先行技術を避けるためになされたものではなく、それ故、その補正は禁反言を生じさせる種類のものではないと判示した。CAFCの合議体は地裁判決を支持した。72 F.3d 857 (1995). 我々は、Warner-Jenkinson v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17 (1997)事件における我々の間に入った判決に照らして、上告受理申立を受理し、CAFC判決を破棄し、差し戻した。差戻審における元の合議体による決定(172 F.3d 1361(1999))の後、CAFCは、Warner-Jenkinson事件の我々の判決後CAFCの裁判官の意見が分かれていた問題を扱うために、大法廷による口頭弁論を命じた。187 F.3d 1381 (1999).
 
 大法廷は地裁判決を取り消し、審査経過禁反言によりFestoは被告の装置が均等論に基づき特許を侵害していると主張することを禁じられていると判示した。234 F.3d 558 (2000). CAFCは、意見を異にする裁判官一人だけを除き、禁反言は、先行技術を避けるためになされた補正だけでなく、特許法に従うためにクレームを減縮する全ての補正から生じると判示した。Id., at 566. CAFCにおいてより議論があったのは、更なる次の判示であった:禁反言が適用される場合は、禁反言は、補正された要素に関するあらゆるクレームの均等に対してコンプリート・バーとなる。Id., at 574-575. CAFCは、自身の判例法はそこまでは行っていないことを認めた。以前の判決は審査経過禁反言はフレキシブル・バーを構成し、クレームの均等の何かを禁じるが、全てではない、補正の目的及びテキストの変更に依存する、と判示していた。しかし、CAFCはフレキシブル・バー・ルールを適用した先例は無効とする、なぜなら、このケースバイケースのアプローチは実行不可能であることが証明されたからである、と結論した。CAFCの見解によれば、禁反言が減縮された要素に関してあらゆるクレームの均等を禁じるコンプリート・バー・ルールは侵害事件の判断に確実性を促進するであろう。
 
 4人の裁判官はコンプリート・バーを採用する判決に反対した。Id., at 562. 4つの別々の意見のなかで、反対意見の裁判官は、先例を無効とする多数意見の判決はWarner-Jenkinson事件に反し、多くの現存する特許権者の期待をぐらつかせるであろう、と主張した。Michel判事は、彼の反対意見のなかで、コンプリート・バーを採用すれば、CAFCは自身の50以上の事件ばかりでなく、8件のより古い最高裁判決も無視しなければならないことを詳細に記述した。234 F.3d, at 601616.
 
 我々は、上告受理申立を受理した。533 U.S. 915 (2001).
 
II
 
 特許法は、イノベーションに一時的な専売権<a temporary monopoly>を与えることによって、「科学と有益な技芸Science and useful Artsの発達を促進する」。合衆国憲法第1編第8節第8項。この専売権は所有権<a property right>である;そして、あらゆる所有権と同様に、その境界は明確であるべきである。この明確性は発達を促進するために欠くことができない、なぜなら、それによりイノベーションにおいて効果的な投資を可能とするからである。特許権者は自分が所有するものを知るべきであり、公衆は特許権者が所有していないものを知るべきである。この理由により、発明を生むために特許法の約束を信頼する発明者と、その発明者の排他的権利を超えるイノベーション、創作、及び新しいアイディアを追求すべき公衆との間に、特許法が維持することを試みる微妙なバランスの一部として、特許法は発明者らに彼らの製品を「完全で明確で詳細でかつ正確な用語」(35 U.S.C. 112)で記載することを要求する。Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc., 489 U.S. 141, 150 (1989).
 
 不幸にも、言語の性質は特許出願に記載された物の本質を捕らえることを不可能にする。発明を秘密裏に利用するのではなく、発明を特許化することを選択し発明を公衆に開示する発明者は、他人が特許の言語の範囲を食い物にする方向の努力に没頭するだろうリスクを負う:
 「発明は最も顕著には有形の構造又は一連の図面として存在する。言語の記述は、通常、特許法の要件を満たすために後から考えて書かれたものである。この装置の言語への変換は思うとおりに出願することができない意図せざるアイディアのギャップの余地を生む。多くの場合、発明は新しく、それを記述するための用語は存在しない。辞書が常に発明者に遅れないとは限らない。それは不可能である。物は用語のために作成されるのではなく、用語が物のために作成されるのである。」Autogiro Co. of America v. United States, 384 F.2d 391, 397 (Ct. Cl. 1967).
 特許クレームの言語は発明の全てのニュアンスを捕らえていないかもしれない、あるいは、その新しさの範囲を完全な正確さで記述していないかもしれない。特許が常に文字通りの用語によって解釈されるとすれば、その価値は著しく減じられるだろう。ある要素の重要でなく実質のない置換が特許を打ち負かし得るであろう、そして、発明者にとっての価値はコピーという簡単な行為によって破壊され得るであろう。この理由により、特許解釈の最も明快なルール、すなわち、文言主義は司法のリソースを浪費させないかもしれないが、必ずしも最も優れたルールではない。特許の範囲はその文字通りの用語に限定されないどころか、記述されたクレームの全ての均等物を含む。See Winans v. Denmead, 15 How. 330, 347 (1854).
 
 均等論が特許の範囲をより確実でなくすることは事実である。発明の特定の要素に均等なものであるかどうかを決定することは難しいかもしれない。競争者が特許の範囲について確信することができなければ、彼らはその限定の外で適法な製造に従事することが妨げられるかもしれない、あるいは、彼らは特許が獲得した競合製品に誤って投資するかもしれない。加えて、不確実性は競争者間で無駄な訴訟、文言主義のルールなら避けられるかもしれない訴訟を行うように導くかもしれない。しかし、均等論に関するこれらの懸念は新しいものではない。それぞれの時代において、最高裁は均等論を考慮し、この不確実性をイノベーションに対する適切なインセンティブを確保する代償として認め、より確かなルールを促す反対意見に対して均等論を支持してきた。最高裁が前記Winans v. Denmead事件の中で、後に均等論になったものを最初に採用し、「もし、公衆がその形又は割合を変えて、実質的なコピーを製造する自由があるのであれば、特許された物に対する排他的権利は保証されたものではない」と説示した。Id., at 343. 反対意見は、「本裁判所は発明の記載における完全性、明瞭性、正確性、詳細性、及び精密性」の目的を犠牲にしたと主張した。Id., at 347 (opinion of Campbell, J.).
 
 その論争はGraver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Products Co., 339 U.S. 605 (1950)事件において続けられ、その事件で、最高裁は均等論を再確認した。Graver Tank事件においては、特許クレームは、特許の文字通りのクレーム内の装置を製造する者からだけでなく、「何も付け加えずに、コピーされたものをクレームの外、それゆえ法の及ぶ範囲の外にするに十分であろう発明に重要でなく実質のない変更と代替を行う」コピイストから、発明者を保護しなければならないと判示した。Id., at 607. Black最高裁判事は、反対意見の中で、均等論のもとでは、競争者は「特許の言語がクレームするものを信頼することができない。彼は、大きな損害賠償額をかけて、特定の技術分野に精通していない裁判所がどれだけ広くクレームの言語を拡張するのかを予想できなけらばならない。」と反対した。Id., at 617.
 
 最近、Warner-Jenkinson事件で、最高裁は、均等物は特許によって保護された確固たる権利のしっかりと確立された部分であり続けることを再確認した。一致した意見は、均等論が放棄されるものであるとすれば、そうすべきなのは最高裁ではなく議会であると結論した:
「特許法が均等論と対立していると認定することをGraver Tank事件において我々が拒否したことを、均等論の長い歴史が強く支持している。議会はいつでも望むときに均等論が存在しないように立法することができる。それゆえ、現在、両方の立場によってなされた様々な政策論争は本裁判所ではなく議会で扱われるのがベストである。」520 U.S., at 28.
III
 
 審査経過禁反言は特許のクレームが出願プロセス中のPTOにおける出願手続に照らして解釈されることを要求する。禁反言はクレームが「取消又は拒絶を通知された」クレームへの引用文献によって解釈されることを保証する「特許解釈のルール」である。Schriber-Schroth Co. v. Cleveland Trust Co., 311 U.S. 211, 220-221 (1940). 均等論は、最初の特許クレームを作成するときには捕らえられなかったが、些細な改変を通して創作できたであろう実質のない変更について権利を主張することを特許権者に許容する。しかし、特許権者が侵害を主張するもの<subject matter>を最初にクレームし、その後、拒絶に対する応答でクレームを減縮した場合は、彼は、放棄された範囲は予期しなかったものであり、発行された特許の文字通りのクレームと均等であるとみなされるべきものを構成する、と主張することはできない。逆に、「補正によって、特許権者は二つのフレーズ間の相違を認識し強調した、それゆえ特許権者が放棄した相違は重要であるとみなされなければならない。」Exhibit Supply Co. v. Ace Patents Corp., 315 U.S. 126, 136-137 (1942).
 
 拒絶は、特許審査官が最初のクレームは特許できるだろうとは信じなかったことを示している。特許権者は審判請求する権利を有しているが、審判請求を差し控え補正されたクレームを提出するという彼の決定は、特許された発明は最初のクレームほど広くないという譲歩であるととられる。See Goodyear Dental Vulcanite Co. v. Davis, 102 U.S. 222, 228 (1880) (「補正からみて、特許権者が特許を受けたと理解したものに疑問はなく、彼及び特許商標庁長官<the commissioner>の両方がその特許を詳細なプロセスによって硬質ゴムのみで製造された製品に関するものであるとみなしたことに疑問はない」); Wang Laboratories, Inc. v. Mitsubishi Electronics America, Inc., 103 F.3d 1571, 1577-1578 (CA Fed. 1997) (「審査経過禁反言は訴訟をとおして特許出願の手続中に放棄したものの範囲を取り戻すことを排除する」)。そうでなければ、発明者はPTOの門番的役割を避け、特許を受ける条件として放棄した正にそのものを侵害訴訟の中で取り戻すことを求めることができるであろう。
 
 審査経過禁反言は均等論がその基礎をなす目的と結びつけられ続けることを保証する。最初の出願が均等物と称されるものを一度含み、特許権者が特許を得るため又は有効性を守るためにクレームを減縮した場合は、特許権者は問題のものを記述するための用語がなかったと主張することはできない。均等論はイノベーションの本質を捕らえることができない言語を前提とするが[訳4]、前の出願に係争点について明確な要素が記載されていればその前提が存在しないことになる。その場合は、発明者が問題のものに注意を向け、広いクレームのための用語も狭いクレームのための用語も知っていた、そして、後者を積極的に選択したことを、出願経過が立証している。
 
 
 本件における最初の問題は禁反言を生じさせ得る補正の種類に関係する。上告人は、禁反言は、補正が特許出願の形式に関する要件に従うためになされた場合ではなく、補正が例えば先行技術を避けるための補正のような特許された発明の内容<subject matter>を減縮することを意図されていた場合に生ずるべきである、と主張する。Warner-Jenkinson事件において、我々は審査経過禁反言は特許出願が補正された全ての場合に生じるのではないことを認めた。我々の「先例は一貫して、先行技術を避けるため、あるいは、クレームされた内容を不特許とするであろうと主張し得る進歩性のような特定の事柄を扱うため」のような、「限られた理由のためにクレームが補正された場合にだけ、審査経過禁反言を適用してきた。」520 U.S., at 3032. 我々は禁反言が「特許性に関連した実質のある理由」のためになされた補正に適用することを明確にしたが、id., at 33、我々はその語句を定義することは意図しなかった、あるいは禁反言を生じさせ得るであろう全ての理由の目録を作ることは意図しなかった。実際、我々は、補正の目的が特許性に関連しないとしても、裁判所はそれにもかかわらず禁反言に頼りを求め得るであろう種類の理由であるかどうかを審理することができるであろう、と説示した。Id., at 4041.
 
 禁反言が先行技術を避けるためになされた補正との関係で最もしばしば議論されてきた点において上告人は正しい。See Exhibit Supply Co., supra, at 137; Keystone Driller Co. v. Northwest Engineering Corp., 294 U.S. 42, 48 (1935). 先行技術に適応させるための補正はWarner-Jenkinson事件における我々の判決においても強調したものである、supra, at 30。しかし、その結果、他の目的の補正は禁反言を生じさせ得ないだろうということにはならない。記載されなかった物は記載できないものであったという推論は、出願経過により反駁することができる。その〔禁反言を生じないことの〕理由付けは、特許を獲得するために提出された減縮補正が先行技術を避ける以外の何かの目的のためであるというだけでは、終わりにはならない<That rationale does not cease simply because the narrowing amendment, submitted to secure a patent, was for some purpose other than avoiding prior art>。
 
 我々は、特許法の何かの要件を満たすためになされた減縮補正は禁反言を生じさせ得るという点でCAFCに同意する。CAFCは次のように説示した、特許が発行される前に、多くの制定法の要件が満たされなければならない。クレームされた内容は、有用であり、新規性があり、かつ進歩性がなければならない。35 U.S.C. 101-103 (1994 ed. and Supp. V). 加えて、特許出願は発明を記載し、実施可能とし、かつベストモードを開示しなければならない。112 (1994 ed.). これらの後者の要件は特許の発行前に満たされなければならない、なぜなら、排他的特許権は公衆に発明を開示することの代償で与えられるからである。See Bonito Boats, 489 U.S., at 150-151. 特許出願によってクレームされたものは明細書に開示されたものと同じでなければならない;そうでなければ、特許は発行されない。また、特許は112条の他の要件が満たされなければ発行されるべきでない、そして、これらの要件を満たすことができなかった出願が発行された特許になることができたとしても、後の訴訟で無効と判示される。
 
 112条に従うためになされた補正は出願の形式に関係するものであり、発明の内容には関係しない、と上告人は主張する。PTOは出願人に不明瞭な用語を明確化すること、外国語の翻訳を改善すること、又は、従属クレームを独立クレームに書き換えることを要求する。これらの場合は、出願人は内容を放棄する意図はなく、均等装置に対する主張が禁じられるべきではないと、上告人は論じる。これはいくつかの場合は正しいかもしれないが、上告人の議論は、補正を行う特許権者の理由とその補正が内容に与える影響を一体にしている<petitioners argument conflates the patentees reason for making the amendment with the impact the amendment has on the subject matter. >。
 
 禁反言は補正が特許を獲得するためになされ、かつ補正が特許の範囲を限定する場合に生じる。もし、112条補正が真に字面を整えるものであれば、特許の範囲を減縮することはなく、禁反言が生じることはないであろう。他方、もし、112条補正が必要であり、かつ特許の範囲を限定する場合は、(よりよい記載とする目的のためであったとしても、)禁反言は適用することができる。補正が先行技術を避けるためになされようと112条に従うためになされようと、特許を得るための条件としてクレームを限定した特許権者はより広い内容のクレームを否認している。我々は特許権者がより広い内容をクレームすることができないことを認めたとみなさなければならない、あるいは、少なくとも拒絶を審判請求する権利を放棄したとみなさなければならない。どちらの場合でも、禁反言は適用することができる。
 
 
 争点となっている限定(シーリングリング及びスリーブの構成物)は、もし、先行技術を避けることに関連した理由ではないとしても、112条に関連した理由によりなされたことを上告人は認めている。クレームが112条に従うために限定されたときに出願経過禁反言が生じるという我々の結論は次に示す第2の問題を生じさせる:禁反言は発明者が減縮された要素のあらゆる均等物に対して侵害を主張することを禁じるのか、あるいは、それでもまだ何かの均等物を侵害し得るであろうか? CAFCは、出願経過禁反言はコンプリート・バーであり、減縮された要素は厳格な文字通りの用語に限定されなければならない、と判示した。CAFCは、経験に基づき、フレキシブル・バー・ルールは、過剰な不確実性に導き、適法なイノベーションに重荷を負わせるから、実行不可能である、と決定した。以下に示す理由により、我々はコンプリート・バーを採用する決定には同意しない。
 
 審査経過禁反言は均等物の幅広い範囲に対する主張を禁じることができるが、及ぶ範囲については減縮補正によって放棄された内容の審理を必要とする。コンプリート・バーはそれ自体ルールを確立することによってこの審理を避ける;しかし、そのアプローチは、第一に、禁反言を適用する目的、発明者を出願プロセス中になされた意見及び補正から合理的に引き出すことができる推論に縛るという目的と合致しない。出願を補正することによって、発明者は、その特許が最初のクレームほど広くないことを認めたものとみなされる。しかし、その結果、補正されたクレームがその記載において誰も均等物を工夫することができないほど完全であるようになるわけではない。補正後、その前と同様に、言語は発明に不完全にフィットし続ける。減縮補正はそのクレームではないものを証明するかもしれないが;そのクレームであるものをまだ正確に捕らえていないかもしれない。減縮補正により、補正の時に予期できず、かつ放棄されたものについての公正な解釈を超えた均等物を放棄した、とみなされるべきであるとする理由はない。補正が提出された理由と末梢的な関連だけを有する発明の側面についてクレームの均等が排除される理由もない。補正は、補正を提出せずに出願が許された発明者よりも、補正した発明者が急にクレームの起案に、より先見性を有することを示すものではない。補正は、発明者がより広いテキストに精通し、二つの間の相違に精通していることを示すだけである。その結果として、均等論を完全に廃止し、全ての特許権者を特許の文字通りの用語に縛ることよりも、発明者を補正されたクレームの文字通りの用語に縛ることに、より大きな理由はない。
 
 出願経過禁反言のこの見解は我々の先例と一致しており、かつPTOにおける現実のプラックティスを重んじている。本裁判所は以前の事件でフレキシブル・バーに対してコンプリート・バーの長所を比較検討したことはないが、我々は一貫して均等論を堅い方法ではなくフレキシブルな方法で適用してきた。我々は、均等物ルールが正にそれを乗り越えようと立案された文言主義に頼るコンプリート・バーを課すよりも、どの均等物が特許の出願手続中に放棄されたのかを検討してきた。E.g., Goodyear Dental Vulcanite Co., 102 U.S., at 230; Hurlbut v. Schillinger, 130 U.S. 456, 465 (1889).
 
 CAFCは、裁判所は発明コミュニティの定着した予想を乱す変更を採用するより前に、注意深くなくてはならない(See 520 U.S., at 28)と命じたWarner-Jenkinson事件の指導を無視した。 我々は、その事件において、均等論及び審査経過禁反言ルールは定着した判例法であることを明確にした。それらを変更する責任は議会にある。Ibid. これらのルールの基本的な変更は発明者の財産に関する正当な期待を打ち砕くリスクがある。Warner-Jenkinson事件における上告人は、禁反言が適用されるときに、より確実性を提供するであろうが、無数の現存する特許権者の期待を破壊することを犠牲にする、もう一つの目立ったルールを要求した。我々はそのアプローチを拒絶した:「今、それほど重要なゲームのルールを変更することは、まだ満了せず、我々の決定によって影響を与えるであろう莫大な特許を発行するときにPTOがそれを目指して努力した様々なバランスを極めて十分に崩し得るであろう。」Id., at 32, n.6; see also id., at 41 (Ginsburg, J., concurring) (「新しい解釈は、もし、ぎごちなく適用されるなら、いくつかの事例においてそのような推定が適用されることを特許出願の時に知らされなかった特許権者の期待を不公正に値切るかもしれない」)。Warner-Jenkinson事件で認めたように、特許出願手続は我々の判例法に照らして行われる。以前の制度に基づいてクレームを補正した発明者があらゆる均等物を譲歩したと信じる理由はない。もし、発明者がこのことを知っていれば、代わりに、拒絶に対して審判請求したかもしれない。新しいより強固な禁反言を以前の説に頼った者に適用する正当な理由はない。
 
 Warner-Jenkinson事件において、我々は、補正が特許性の目的のためではないことを示す立証責任を特許権者に負わせることによって、適切なバランスを目指して努力した:
 「しかし、説明が何も立証されていない場合、補正によって付加された限定要素を含めるための特許性に関連する実質のある理由を特許出願が有していると裁判所は推定すべきである。このような事情においては、出願経過禁反言によりその要素に関して均等論の適用が禁じられるであろう。」Id., at 33.
 特許権者が補正の理由を説明できない場合は、禁反言が適用されるだけでなく、その要素に関して均等論の適用も禁じられる。Ibid. これらの言葉はコンプリート・バーを命じない;これらの言葉は「説明が何も立証されていない」という事情に限定されている。しかし、これらの言葉は、裁判所が、減縮補正の基礎をなす目的を決定できず、このゆえに、禁反言を特定の均等物の放棄に限定する理由付けを決定できない場合は、裁判所は特許権者がより広い言語とより狭い言語の間の全てのものを放棄したと推定すべきである、ことを定めている。
 
 特許権者は補正が禁反言を生じさせる理由のためになされたのではないことを証明する責任を負うと判示したWarner-Jenkinson事件とちょうど同じように、我々は本件において特許権者は補正により問題となっている特定の均等物を放棄したのではないことを証明する責任を負うべきであると判示する。これは合衆国によって主張されたアプローチであり、see Brief for United States as Amicus Curiae 22-28、我々はこれを妥当であると考える。特許権者は、クレームの言語の作者として、既に知られた均等物を含むクレームを起案することを期待されてよい。クレームを補正をとおして減縮するという特許権者の決定は、最初のクレームと補正されたクレームの間の領域の一般的な放棄と推定されてよい。Exhibit Supply, 315 U.S., at 136-137 (「補正により、特許権者は二つのフレーズの間の相違を認識し強調し、その相違の中に含まれる全てを放棄することを宣言した」)。しかし、補正が特定の均等物を放棄したことと合理的に見ることができないいくつかの場合がある。その均等は出願の期間には予測できなかったかもしれない;補正の基礎をなす根拠は問題となっている均等物とほとんど無関係以上のものではないかもしれない;あるいは、特許権者が問題となっている実質のない代替物を記載することを合理的に期待され得なかったであろうことを示す何かの他の理由があるかもしれない。これらの場合、出願経過禁反言が均等の認定を禁じるという推定に対して特許権者は打ち勝つことができる。
 
 この推定は、それゆえ、コンプリート・バーの別名ではない。むしろ、この推定は、特許の解釈は文字通りのクレームで始まらなければならず、審査経過はクレームの解釈に関連しているという事実の反映である。特許権者がクレームを減縮することを選択した場合は、補正されたテキストがこのルールを知って作成され、放棄された領域はクレームされた領域と均等ではない、と裁判所は推定することができる。しかし、この場合、まだ、特許権者は禁反言がクレームの均等を禁じるという推定を反駁することができるだろう。特許権者は、均等物と主張するものを文字通り含むクレームを補正の時に当業者が起案することが合理的に期待され得なかったであろうことを、証明しなければならない。
 
IV
 
 本件記録によれば、我々は、禁反言が適用され問題となっている均等物は放棄されたという推定を上告人が反駁したと判断することはできない。上告人は争点となっている限定(シーリングリング及びスリーブの構成物)が、先行技術文献にもよるのではないとしても、112条に基づく理由の拒絶に応答するなかでなされたことを認めている。補正が特許性に関係する理由のためになされたから、問題は禁反言が適用されるかどうかではなく、どの領域を補正が放棄したかである。禁反言はコンプリート・バーをもたらさないが、減縮補正により争点となっている特定の均等物を放棄しなかったことを上告人が立証できるかどうかの問題が残る。これらの問題に関して、シーリングリング及びスリーブの構成物の両方が出願経過の中に明確に書き留められていたから、被上告人は十分に打ち勝つことができる。しかし、これらの問題はCAFC又は地裁における更なる手続きによって最初に決定されるべきことである。
 
 CAFCの判決は破棄され、本件は本意見と一致する更なる手続のために差し戻される。
 
そのように命令される。
 

訳注
(訳1)フレキシブル・バー<a flexible bar> barは障害物。この場合は、均等論の主張に対して禁反言は柔軟な障害物であり、均等論の主張に対して禁反言の適用を柔軟に行う。補正した要素についても場合によっては均等論の主張が認められる。
 
(訳2)コンプリート・バー<a complete bar> この場合は、均等論の主張に対して禁反言は完全な障害物であり、均等論の主張に対して禁反言を厳格に適用する。補正した要素については均等論の主張は全く認められない。
 
(訳3)Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17 (1997)事件の概要とコメントが1997年度法学部英米法演習(東北大学法学部芹澤英明教授、担当小川史木氏)に掲載されています。
 
(訳4)本判決は均等論と出願経過禁反言の関係を明らかにしたものであるが、「均等論はイノベーションの本質を捕らえることができない言語を前提とする」という最高裁の判示は、均等論について一般的に述べたものであるから、補正されず出願経過禁反言と無関係なクレーム要素について均等論を考える場合についても、適用可能な判示であると考えられる。

 「米国判例の翻訳と日米判例の対比」というタイトルで9月28日(土)に明治大学で講演を行い、このFESTO事件と日本のボールスプライン事件を対比しました判決情報論研究会)。そのときの講演録です。

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