翻訳 井上雅夫 1999.08.24; 2000.02.16   ↑UP  

Sun v. Microsoft Java事件
99.08.23

合衆国第9巡回区控訴裁判所
SUN MICROSYSTEMS v MICROSOFT
9915046

原告−被控訴人 SUN MICROSYSTEMS, INC.、DELAWARE州法人
被告−控訴人  MICROSOFT CORPORATION、Washington州法人
No. 99-15046
地裁CV-96-20884-RMW

  
意     見

 目次
大  要
事実のバックグラウンド
分    析
 I.著作権侵害の請求
  A.勝訴の可能性
  B.回復不能の被害の推定
 II.不公正競争の請求
(訳注)

カリフォルニア北部合衆国地方裁判所(Ronald M. Whyte地裁判事)からの控訴
口頭弁論及び提出 1999年6月15日−San Francisco, California
1999年8月23日判決登録
Mary M. Schroeder、Robert Boochever、及びCynthia Holcomb Hall巡回判事による審理
Schroeder判事による意見

被告−控訴人代理人 Barbara A. Caulfield, Orrick, Herrington & Sutcliffe, Menlo Park, California
原告−被控訴人代理人 Lloyd R. Day, Jr., Day, Casebeer, Madrid, Winters & Batchelder, Cupertino, California

意見
SCHROEDER巡回判事
    

大  要

 本件は技術がいかに早くコンピュータソフトウエア・ライセンス契約の条文を規定する契約起草者達の能力をはるかに引き離すことができるのかを描き出している。争点のライセンスは原告−被控訴人Sun Microsystemsから被告−控訴人Microsoftへのものである。そのライセンスは、あらゆるコンピュータ・オペレーティングシステム上で働くプログラムを書くことを可能とするSunが開発したコンピュータプログラミング言語、Javaが関係している。ライセンス契約は1996年に急いで交渉され、そして1997年までにMicrosoft及びSunの両方が彼らがJavaに対する重要な進歩であると信じるものを開発した。

 Sunは本件訴訟を著作権侵害事件として提訴し、Microsoftが、Microsoftのオペレーティングシステムだけで完全に作動できるJavaのエンハンス・バージョンを作成したことによって、さらに、「Java Native Interface(「JNI」)」として知られるSunが追加したJavaのコンポーネントと互換性を持つようにJavaインプリメンテーションを適合させないことによって、そのライセンスの範囲を超えたとSunは主張する。SunはMicrosoftが製品の中に非互換Java技術を含ませることを禁じる差止を請求した。地裁はSunに仮差止を認め、Microsoftは控訴した。基礎となる事実、交渉の詳細、及び関係するソフトウエアの性質は全て地裁の詳細な意見の中により十分に記述されている。Sun Microsystems v. Microsoft Corp., 21 F. Supp. 2d 1109 (N.D. Cal. 1998)参照。

 地裁において、両当事者はライセンス契約の条件の適正な解釈を激しく争った。Microsoftは、その契約はSunが侵害と主張する全ての行為を完全に許容していると主張した。Sunの解釈は、もちろん、その逆である。両当事者の主張の注意深い分析の後に、地裁はMicrosoftがライセンス契約に違反したという請求において本案訴訟でSunが勝訴する可能性が高いと判示した。[訳1]

 また、両当事者は、Sunが主張するようにSunの訴訟は著作権侵害事件として審理するのが適切なのか、あるいはMicrosoftが主張するように契約違反事件として審理するのが適切なのかを争った。地裁は、請求は侵害訴訟として適切に審理でき、それにより、Sunは回復不能な被害の推定を受ける権利があると結論した。[訳2]Cadence Design Systems v. Avant! Corp., 125 F.3d 824, 826-27 (9th Cir. 1997), cert. denied, 118 S. Ct. 1795 (1998)(本案訴訟で勝訴の可能性を立証した著作権の原告は回復不能の被害の推定を受ける権利がある)。地裁は、なぜ本件が契約解釈紛争ではなく著作権侵害であるのかを詳しく述べておらず、この点にMicrosoftは本控訴における攻撃の大部分を費やしている。Microsoftは、ライセンス契約の争われた互換性要件はライセンスの範囲の制限<limitations>ではなく肯定的な契約条項<affirmative covenants>であると主張し、したがって、もし契約違反があったとすれば、著作権上の救済ではなく契約上の救済が適切であると主張する。地裁は明らかにこの争点に関して明確に判断していない。

 一般に我々は自由裁量を乱用する仮差止の認容について再審理する、そして「その自由裁量が地裁が法的に誤った観点又は明らかに誤った証拠の評価に基づく判断をしたとき乱用である」。Roe v. Anderson, 134 F.3d 1400, 1402 (9th Cir. 1998)(内部の引用及び脚注省略)。我々は、その契約の文言の解釈においてSunが優勢であり、Microsoftの行為が侵害であることを証明する可能性が高いという地裁の判断を、重要な証拠が支持している点で、Sunに同意する。しかしながら、互換性要件は独立した契約条項ではなくライセンスの範囲の制限であることを決定する前に、地裁は著作権侵害請求に適用できる回復不能の被害の推定を発動すべきではなかった点で、Microsoftに同意する。それゆえ、我々は仮差止を取り消し、更なる手続きのために差し戻す。

 また、カリフォルニア州法に基づく不公正競争の請求がなされている。地裁は過去の行為だけに基づいた請求に対して差止を発した。Microsoftは、カリフォルニア州法により差止は将来の行為の見込みに基づかなければならないと正しく主張している。それゆえ我々は不公正競争に関する差止も取り消し、本争点の審理のために差し戻す。
  

事実のバックグラウンド

 1996年3月、MicrosoftとSunはJavaに関する「技術ライセンス及び配布契約(MS)」(「本件契約」)を締結した。Microsoftはその言語の使用に関する広範囲な権利に対して1年ごとに375万ドルをSunに支払うことを合意した。その代わり、SunはMicrosoftに「ソースコードの形のそのテクノロジーの派生的著作物〔二次的著作物〕を作成し、アクセスし、使用し、コピーし、調べ、表示し、修正し、改作し、創作させる」非独占的ライセンス及び「製品の一部・・・として、そのテクノロジー及びバイナリ形式でそれの派生的著作物を作成し、使用し、インポートし、再製し、ライセンスし、貸し、リースし、販売の提示をし、販売し、あるいはエンドユーザーへのその他の配布をする」非独占的ライセンスを許諾した。Sun Microsystems, 21 F. Supp. 2d at 1113.

 Sunはプログラマがあらゆるオペレーティングシステム上で動作するただ一つのプログラムを書くことを可能とするようにJavaを創作した。SunはJavaがクロス・プラットフォーム互換であり続けることを望んだため、本件契約には互換性要件が含まれている。2.6(a)(iv)条はMicrosoftに6ヶ月以内にJavaの互換インプリメンテーションを作成するよう要求し、SunにJavaの「significant upgrade」を作成することを要求している。2.6(a)(vi)条はMicrosoftが互換インプリメンテーションである製品だけを作ることができることとすると規定している。同at 1113参照。2.6(b)(iv)条は、MicrosoftのJava言語コンパイラは「ツールの顧客がその製品〔顧客が作成する製品〕が」Sunが作成するあらゆるJavaのアップグレードを「伴うJava言語Test Suiteをパスすることを可能とするために使用できるモードを含むこととする」と規定している。同at 1114。互換性を決定するために、本件契約はSunが開発したほとんど自動化された一連のテストについて記載している。

 1997年の遅い時期に、Sunは、MicrosoftがSunの基準では非互換な方法で修正したJavaの「汚染された」バージョンを配布していることを懸念し始めた。Sunは1997年10月7日にMicrosoftを提訴し、とりわけ、商標権侵害、不公正競争、及び契約違反を主張した。1997年11月、SunはMicrosoftがSunの「Java Compatible」ロゴをSunの互換性テストに合格しない製品に使用することをMicrosoftに禁じる仮差止を申し立てた。1998年3月24日、地裁は仮差止を発した。Sun Microsystems v. Microsoft Corp., 999 F. Supp. 1301 (N.D. Cal. 1998)参照。Microsoftはこの仮差止は控訴しなかった。

 その後Sunは訴状に著作権侵害の主張を追加するよう修正し、著作権法(17 U.S.C.)502条に基づく著作権侵害、及びカリフォルニア州ビジネス及び職業法第17200条に基づく不公正競争による仮差止を申し立てた。著作権侵害の申立は、Javaプログラマに開発キットを配布することをMicrosoftに禁じ、90日内にSunの互換性テストをパスしない限りInternet Explorer又はWindows 98を配布することを禁じる、即時の命令を求めた。不公正競争の申立は、JavaのMicrosoftバージョンの使用を条件として、Microsoftの製品をライセンスすることによる、ソフトウエア・マーケットでの支配的な地位の乱用をMicrosoftに禁じることを求めた。

 1998年11月17日、地裁は両方の申立を認容した。地裁は、Microsoftが本件契約の互換性条項のいくつかに従うことに失敗し、不公正ビジネス慣行に従事したというSunの主張に基づいて、Sunが勝訴する可能性が高いと認定した。地裁は両方の申立に関する詳細な差止を命令し、Microsoftにとりわけ次のことを禁止した:(1)JNIをサポートしない限り、Java technologyを含まないオペレーティングシステム又はインターネット・ブラウザを配布すること;(2)JNIを含まず、かつ、Microsoftの非互換修正版を不作動としたデフォルト・モードをコンパイラに含ませない限り、Java開発ツールを配布すること;(3)Javaソフトウエア開発ツールに追加的なMicrosoftのキーワード拡張又はコンパイラ指令を組み込むこと;及び(4)Microsoft製品のライセンス又は「Designed for Windows」ロゴを使用する権利に関して、MicrosoftのJava仮想マシン又はMicrosoftのネイティブコード・インターフェースの独占的使用を条件とすること。Sun Microsystems, 21 F. Supp. 2d at 1127-28参照。Microsoftは控訴した。
  

分    析

I.著作権侵害の請求

 【1】仮差止の基準は原告の勝訴の可能性と相対的な困難性を天秤にかけることである。仮差止を受けるためには、Sunは、「本案訴訟において勝訴する可能性及び回復不能な損害の可能性、又は、本案訴訟に進むことに重大な問題が生じかつ困難性の天秤がはっきりと有利に傾くことのどちらか」を証明する必要がある。Sega Enters. v. Accolade, Inc., 977 F.2d 1510, 1517 (9th Cir. 1992)(引用削除)。これらの二つの基準に代わるものは、二つの別々のテストよりもむしろ「一つの連続体の両端」に代表される。Benda v. Grand Lodge of Int'l Ass'n of Machinists & Aerospace Workers, 584 F.2d 308, 315 (9th Cir. 1978)。したがって、「申し立てた当事者のより大きな相対的な困難性、勝訴の可能性がより低いこと、が証明されなければならない。」National Ctr. for Immigrants Rights v. INS, 743 F.2d 1365, 1359 (9th Cir. 1984).

 【2】しかしながら、連邦著作権法に基づき、著作権侵害請求の本案訴訟での勝訴の可能性を証明した原告は回復不能の被害の推定を受ける権利がある。Cadence Design Systems v. Avant! Corp., 125 F.3d 824, 826-27 (9th Cir. 1997), cert. denied, 118 S. Ct. 1795 (1998)参照。その推定は、「原告が本案訴訟で勝訴の可能性を強く証明した場合に・・・侵害しているものの使用を防ぐ仮差止を発するべきかどうかを決定することにおいて、困難性の問題の天秤が」 − たとえあるとしても − 「調和のとれた意味のある衡法であることはできない」ことを意味している<That presumption means that "the balance of hardships issue cannot be accorded significant"--if any--"weight in determining whether a court should enter a preliminary injunction to prevent the use of infringing material in cases where . . . the plaintiff has made a strong showing of likely success on the merits.">。同at 830。

 地裁は、MicrosoftがJNIをサポートせず、Java言語を拡張し、コンパイラを修正することによって、本件契約の条件に違反したというSunの主張に関して勝訴の可能性が高いことを認定した。Sun Microsystems, 21 F. Supp. 2d at 1119, 1123参照。それゆえ、Sunが回復不能の被害の推定を受ける権利があると判示した。同at 1125(Johnson Controls v. Phoenix Control Sys. , 886 F.2d 1173, 1174 (9th Cir. 1989)を引用している)参照。地裁は著作権の推定なしに回復不能な被害があるかどうかの認定を全く行わなかった。最後に、地裁は困難性について簡単に言及し、Microsoftへの潜在的な被害は「不当な負担」ではなく、求められた救済はサードパーティの利益を害しないであろうと述べている。同at 1126。地裁は仮差止が発せられないとしたときのSunに対する被害の程度について検討していない。

 今度は我々が本案訴訟における勝訴の可能性及び回復不能の被害の推定の適用性について述べる。勝訴の可能性に関しては、問題はMicrosoftの行為が本件契約の条件を侵害したことをSunが証明する可能性が高いという地裁の結論を支持する十分な証拠があるかどうかである。我々はそのような証拠があると結論する。回復不能の被害の推定の適用性に関しては、この問題が、ライセンスの範囲外の行動によって著作権を侵害したことを意味するライセンスの範囲の制限であるか;又は著作権の回復不能の被害の推定を適用できない契約紛争である単なる別個の契約条項であるかどうかを提起するという点で、我々はMicrosoftに合意する。我々は、地裁はSunが回復不能の被害の推定を受ける権利があるかどうかの判断の前に、この後者の問題を決定しなければならない、そして、それゆえ我々は差止を取り消し、本件を差し戻す。
  
A.勝訴の可能性

 地裁は、Microsoftが、本件契約で規定されたSunの互換性テストに合格しない新しい特徴をコンパイラに追加することによって、及びJavaプログラムにプラットフォーム特有の(又は「ネイティブ」)コードを組み込むためのツールであるSunの「Java Native Interface」(「JNI」)をサポートしないことによって、本件契約に違反したことを証明する可能性が高いことをSunが証明したと判示した。

 【3】MicrosoftのJavaコンパイラが本件契約の互換性条項に違反したことをSunが証明する合理的な可能性があるという地裁の判示を支持する十分な証拠がある。本件契約は一般的にMicrosoftにそのコンパイラを修正することを許容している、なぜなら、2.1(a)条がMicrosoftに「Java Technology」を「修正する」ことを許しており、1.25条がJava「Technology」に「Javaコンパイラ」が含まれると定義しているからである。Microsoftは、プログラマがいくつかのWindowsの特徴を使用できるようにし、Windowsの環境で最も効率的なプログラムを作成できる、二つのキーワード拡張及び三つのコンパイラ指令を追加する修正をJavaコンパイラに行った。地裁は、Microsoftの追加されたコンパイラ指令及びキーワード拡張の使用はSunの互換性テストに合格しないプログラムを結果としてもたらし得ると認定した。

 【4】しかしながら、Microsoftのコンパイラはコンパイラ指令及びキーワード拡張を不作動にするモードを含んでおり、コンパイラがそのモードで動作しているときには、互換性問題は起こらない。Microsoftは、このモードがあるから本件契約 2.6(b)(iv)条がこのコンパイラの修正を許容していると主張する。その条文はMicrosoftが商業的に利用可能にする全ての新しいJavaコンパイラは「ツールの顧客がその製品をSignificant Upgradeを伴うJava言語Test Suiteをパスするように使用できるモード<a mode which a Tool Customer may use to permit such Product to pass the Java Language Test Suite>を含むこととする」と規定している。しかしながら、2.6(b)(iv)条は、コンパイラがそこに記述されたモードを備えなければならないことだけを述べており、その記述されたモードを含む全てのコンパイラが許される<allowable>ことを述べているのではない。争点は、コンパイラがJava言語Test Suiteに不合格になると地裁が結論したMicrosoftの拡張モードが本件契約に違反するかどうかである。

 【5】Microsoftの拡張されたコンパイラ・モードが容認できないという地裁の結論を少なからぬ証拠が証明している。Microsoftの拡張されたコンパイラは、Java言語Test Suiteのドキュメンテーションに含まれる要件「貴社のJavaコンパイラ・インプリメンテーションからのアウトプットは(もし適用できるなら)貴社が使用しているJava Compatibility Kitと同じバージョンのJavaSoftの仮想マシンで適正に実行できなければならない」ことに合格していない。さらに、Java言語スペシフィケーションはキーワードの完全なリストを定義し後のために二つのワードをリザーブすることによって、キーワードの追加を暗黙に禁じている。このスペシフィケーションの解釈は、スペシフィケーションが「あらゆる言語構成物のふるまいが明記され、その結果Javaの全てのインプリメンテーションが同じプログラムを受け入れる」ことを保証することを意味していると述べている序文によって強化されている。

 【6】また本件契約がMicrosoftにJNIのサポートを義務づけていることの合理的な可能性をSunが証明したという地裁の判示を支持する証拠もある。地裁において、両当事者はJNIがAAPI(「アプレット・アプリケーション・プログラミング・インターフェース」)の一部であるかどうかを争った。AAPIはMicrosoftの製品が本件契約の1.15条及び2.6(a)(vi)条に基づいて従わなければならないものである。Sun Microsystems , 21 F. Supp. 2d at 1119-22参照。本件契約の1.1(a)条は関連部分でAAPIを「Javaアプレット環境へのパブリック・アプリケーション・プログラミング・インターフェース」として定義している。したがって、地裁における争点はJNIが本件契約が定義していない「パブリック・アプリケーション・プログラミング・インターフェース」であるかどうか、及びJavaアプレット環境へのインターフェースであるかどうかに絞られた。Microsoftの専門家は反対のことを証言したが、JNIが「パブリック・アプリケーション・プログラミング・インターフェース」であるというSunの専門家からの実質的な証拠が記録の中に存在する。さらに、本件契約の2.9(e)条によれば、JNIのようなネイティブコード・インターフェースはJavaリファレンス・インプリメンテーション仮想マシンへのインターフェースである。本件契約の1.25条は、仮想マシンはJavaアプレット環境の一部であると述べているから、JNIはJavaアプレット環境へのインターフェースであるようにみえる。したがって、JNIがMicrosoftが従う義務の中にあることに少なからぬ証拠がある。

 にもかかわらず、Microsoftは、JNIは本件契約をサインした時点で存在しなかったから、本件契約がMicrosoftにJNIのサポートを要求するという地裁の判示は誤りであると強調する。地裁は、JNIの追加は本件契約の1.1(a)条に基づくJavaへの許容されたアップグレードであると結論した。JNIはAAPIの一部であるが、その条文はAAPIを、「(a)Javaアプレット環境へのパブリック・アプリケーション・プログラミング・インターフェース・・・及び(d)OEM Java APIスペシフィケーション、本件契約期間内にSunによって修正されたものとして」、として定義している。同。地裁は、「修正されたものとして」の文言が1.1(d)条ばかりでなく 1.1(a)条にも言及しており、それゆえJNIを含むようにAAPIを修正することを許しているという文法的にもっともらしい解釈を採用したことにおいて誤っていない。したがって、我々はMicrosoftのJavaの修正が本件契約に違反するという主張が本案訴訟において勝訴の可能性をSunが証明したという地裁の認定を十分な証拠が支持していると判断する。

B.回復不能の被害の推定

 連邦著作権法は著作権侵害から回復不能の被害を推定している。Cadence Design Systems, 125 F.3d at 826-27参照。地裁は、本件は著作権侵害事件であり、契約事件ではない、それゆえ回復不能の被害が推定される。Sun Microsystems, 21 F. Supp. 2d at 1125。しかしながら、どのようにして地裁が本件が著作権侵害の基準に基づいて分析されるべきであるという判断に達してたのかは明確ではない。地裁は、「Sunは回復不能の推定を享受しないというMicrosoftの議論は、Sunの主張は著作権侵害ではなくむしろ契約違反によるという裁判所が却下した議論の焼き直しにすぎない」と述べたにすぎない。同。我々は決定することができない、また、両当事者は口頭弁論において記録の中のどこで地裁が以前にこの争点を扱っていたのかを我々に知らせることができなかった。

 【7】著作権か契約事件かどうかによって、互換性条項がライセンスの範囲を定義する助けをするものかどうかが提起される。一般的に、「著作物を使用する非独占的なライセンスを許諾する著作権者は著作権侵害のライセンシーを訴える権利を放棄している」、そして、契約違反に対してだけ訴えることができる。Graham v. James , 144 F.3d 229, 236 (2d Cir. 1998)(Peer Int'l Corp. v. Pansa Records, Inc., 909 F.2d 1332, 1338-39 (9th Cir. 1990)を引用している)。しかしながら、ライセンスが範囲を限定し、ライセンシーがその範囲外で行動したときには、ライセンサーは著作権侵害事件を提起できる。S.O.S., Inc. v. Payday, Inc., 886 F.2d 1081, 1087 (9th Cir. 1989); Nimmer on Copyright , S 1015[A] (1999)参照。

 【8】Microsoftは地裁におけるよりも控訴審においてより強力に、Sunが依存する互換性条項はライセンスの範囲を限定しない契約条項であると主張する。Microsoftは、本件契約の2.2条の広範囲な許諾はSunのソースコードを修正し派生的著作物〔二次的著作物〕を作成する無制限の権利を許容しており、そして2.6条における別個の契約上の約束が互換性要件を与えるためになされていると主張する。Sunは、2.2条の許諾文言及び2.6条の互換性条件はMicrosoftに互換性のある修正と派生的著作物を作成する権利だけを許諾するライセンスとなるように一緒に読まなければならない。地裁はその意見においてこれらの議論を扱っていなかった。したがって、争点の互換性条件がライセンスの範囲を制限する点で地裁がSunに同意したのか、地裁が肯定的な条項と範囲の制限の間の区別が重要でないと信じたのかどうか明確ではない。

 【9】著作権のライセンスのエンフォースメントは、まだ十分には開発されていない法分野の著作権と契約法の交わる位置にある問題を提起する。我々は先例のない問題として、詭弁を弄する二当事者<two sophisticated parties>が著作権ライセンスを交渉し、その範囲を争う場合に、本案訴訟で勝訴の可能性を立証した著作権者は回復不能の被害の推定を受ける権利があるかどうか、を決定しなければならない。争われている条件が独立した契約条項ではなくライセンスの範囲の制限であることを著作権者が立証した後だけであると我々は判示する。他の言葉で言えば、Sunが著作権のエンフォースメントの利益を受けることができる前に、Sunは違反されたと主張する権利が契約上の権利ではなく著作権であることを立証しなければならない。

 この結果に到達するに際して、我々はVideo Trip Corp. v. Lightning Video, Inc., 866 F.2d 50 (2d Cir. 1989)事件において少なからぬ支持を見出した、その事件において第2巡回区控訴裁判所は、回復不能の被害の著作権の推定を適用する前に、著作権の所有のような予備的な契約上の問題が解決されなければならないと判示している。著作権を有する旅行のビデオテープを製作する会社であるVideo Tripがそのテープを販売促進及び頒布のためにLightning Videoに独占的ライセンスを許諾した。その取り決めがうまくいかなくなったときに、両当事者は、Lightningが残った在庫を処分しVideo Tripに精算をするように契約を修正した。Video Tripが精算の金額を借りるか支払いに失敗しない限り、著作権は Video Tripに戻ることになった。 両当事者は借りた金額について合意せず、Lightningはテープを返すのを拒否した。Video Tripは著作権侵害に対する差止を求めて訴え、ライセンスはもはや有効ではないと主張し;LightningはVideo Tripが金を借りているからまだ有効であると主張した。

 本件のように、両当事者はどの仮差止の基準を適用すべきかを争った。第2巡回区控訴裁判所は、「なぜ著作権保護を主張する一方当事者が契約上の論議を無視しようとし、著作権の所有の有効性を当然のこととするのかは理解できる。仮差止を受けるための法則は他の事件よりも煩わしさがより少ない」と述べた。同at 52。その裁判所は、「著作権の保有に関する問題は依然として決定されるべきであるから、我々は、契約上の事件において適用できる法に照らして仮差止の適用を否定した下級審の命令を再審理する」と判示した。同。

 本件契約における互換性の条件が契約であるのかライセンスの範囲の制限であるのかどうかを決定することは同様に契約上の問題である、なぜなら、そのライセンスを解釈することを要求するからである。我々はS.O.S., Inc. v. Payday, Inc., 886 F.2d 1081 (9th Cir. 1989)事件において、これを認めた。S.O.S.事件において、コンピュータプログラムの著作権を有する原告はそのソフトウエアを「使用」するライセンスを被告に許諾しその他の権利を全て明確に留保した。原告は、ソフトウエアを修正することによって被告はライセンスの範囲を超えた、それゆえ著作権侵害である、と主張した。地裁は、ライセンスを解釈するためにカリフォルニア州契約法を用い、契約は起草者に対して解釈されるべきであるという法を適用し、それゆえライセンスは明確に禁止されないあらゆる使用を許容すると判示した。控訴審では、我々は「その規則が連邦著作法又は政策を妨げない」限り「契約の解釈の基準を提供する州法に依存すべきであること」に合意した。同at 1088。

 【10】Video Trip事件とS.O.S.事件で描き出された原理は、本件における争点、本件契約の互換性の条件はライセンスの制限か別個の契約か、がSunが回復不能の被害の著作権上の推定を受ける前に、Sunに有利にカリフォルニア州法に基づいて解決されなければならない予備的な契約上の問題であることを示している。地裁はこの問題を決定していない。両当事者は我々がそれを決定することを求めているが、特に両当事者が地裁において仮差止を争った時にこの問題をほとんど重視していなかったとすれば、我々は地裁に最初の機会を与えるのが、適切であると結論する。それゆえ、我々は仮差止を取り消し、本件を差し戻す。また、我々は差止を取り消すから、地裁の本件契約の以前の解釈に基づいて、Microsoftが意図的に故意に本件契約の互換要件に違反した時だけ、差止が認められるというMicrosoftの主張を最初に検討することも我々は地裁に任せる。

 最後に、我々はSunが回復不能の被害の推定を受けるかどうかの決定が問題の終わりではないかもしれないと見ている、なぜならば、Sunがその推定を受けることがないとしても、裁判所はSunとMicrosoftの相対的な困難性に対して勝訴の可能性を天秤に乗せる仮差止の伝統的な基準に基づいて差止が認められることを証明することができるからである。これも地裁がまだ検討していない問題である。
   
II.不公正競争の請求

 我々はまたカリフォルニア州ビジネス及び職業法に基づく地裁の仮差止の部分も取り消す。Sunは、Microsoftのビジネス・パートナーにJavaの非互換バージョンを強制することによって、また、Microsoftの仮想マシンを独占的に使用するときだけ開発者にMicrosoftの「Designed for Windows95/NT」ロゴを使用することを認めることによって、Microsoftが不公正競争に対するカリフォルニア州法に違反したと主張した、Cal. Bus. & Prof. Code SS 17200以降参照。地裁は、MicrosoftのJava配布及び広告の慣行のいくつかがカリフォルニア州法に違反したことに同意した。地裁は、Microsoftに「MicrosoftのJava仮想マシンの独占的な使用又は配布をMicrosoft製品のライセンスの条件とすること」及び「ネイティブコードを使用する時に、ランタイム・インタープリタにMicrosoftのインターフェースを独占的に使用するようにサードパーティに要求する契約、条件又は取り決めをサードパーティと締結すること」を禁じた。Sun Microsystems, 21 F. Supp. 2d at 1128。

 Microsoftは地裁のこの仮差止を争う。最初にMicrosoftは、地裁がMicrosoftのJava仮想マシンの独占的な配布を「Designed for Windows 95(98)/NT」ロゴを使用する権利の条件とすることを判示したときに、地裁は自由裁量を乱用したと主張する。同id. at 1127。Microsoftは、契約の文字どおりの条件は単にライセンシーにMicrosoftの仮想マシンを使用することを要求するものであり、Sunの仮想マシンも使用することを禁じるてはいない、と正しく主張する。しかしながら、我々はSunに同意する、なぜなら、Microsoftの仮想マシンはSunの基準では非互換であるから、どのライセンシーも両方を使用することはなく、それゆえMicrosoftの政策は独占的使用を要求することと同等であるからである。

 【11】Microsoftのより強い主張は、Microsoftがそれらの慣行を停止したと主張し、Sunが再発する可能性を立証しなかったにもかかわらず、Microsoftの仮想マシン及びネイティブコード・インターフェースの独占条項をMicrosoftに禁じた点で地裁は自由裁量を乱用したというものである。地裁はその行為が再発しないことを証明する責任をMicrosoftに明らかに負わせたが、地裁が依存したPolo Fashions, Inc. v. Dick Bruhn, Inc., 793 F.2d 1132 (9th Cir. 1986)事件において、その裁判所は商標権の事件の被告が不法行為を停止した場合に、「被告の改心が反駁できないほど証明され完全でない限り」差止は発せられるべきであると判示した。同at 1135(内部的引用マークを削除)。しかしながら、Sunの不公正競争の請求は連邦商標法に基づいてなされたものではなく、〔原告が〕その行為がおそらく再発するだろうということを証明しない限り原告は〔被告の〕過去の行為に対して差止を受けることはあり得ないと規定するカリフォルニア州法に基づくものである。People v. Toomey, 157 Cal. App. 3d 1, 20 (1984)参照。地裁はSunの不公正競争の請求に関してこのような認定をすることなしに、仮差止を発した点で誤りを犯した。

 差止は取り消され、本件は地裁の更なる手続きのために差し戻す。

以上

 


訳注

(訳1)本案訴訟とは普通の裁判のことである。本案訴訟は最終的な判決までには時間がかかり、その間に、被告の不正行為によって、原告に回復不能な被害が生じることがある。それを防ぐために、仮差止が行われ、被告の不正行為が禁止されるのである。アメリカの仮差止は、日本の仮処分による差止と同様なものである。

(訳2)通常、仮差止を受けるためには、原告(Sun)は、本案訴訟において勝訴する可能性が高いこと、及び被告の不正行為によって回復不能な被害が生じる可能性があることの両方を立証しなければならない。しかし、著作権侵害事件の場合は、本案訴訟で勝訴する可能性を立証すれば、回復不能な被害があることは推定されるので、Microsoftが回復不能な被害がないことを立証しない限り、仮差止が発せられることになる。これに対して、契約違反事件では通常どおりSunが回復不能の被害を立証しなければならない。
 


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