翻訳 井上雅夫  1998.06.03; 19   ↑UP 

マイクロソフト独禁法事件
98.05.12

DISTRICT OF COLUMBIA巡回区合衆国控訴裁判所

1997年9月期    
DISTRICT OF COLUMBIA巡回区合衆国控訴裁判所    
1998年5月12日(記録に)ファイル         
 
書記官                


District of Columbia地方合衆国裁判所からの控訴
   (No.94cv01564)

 
WALD、WILLAMS、及びRANDOLPH巡回判事による審理

命            令

 控訴人Microsoft Corporationは、1998年5月15日にコンピュータ製造業者に対して最初のリリースが予定されているWindows 98に関係する限りにおいて、本件訴訟の地方裁判所によってなされた仮差止の停止を申し立てている。次に述べる理由により、停止が認容される。

 合衆国は、Microsoftは最初に地方裁判所に(この停止の)申立を行うべきであると、異議を申し立てる。連邦控訴手続規則8(a)は、その手続(地方裁判所に申立を行う手続き)の優先を規定しているが、もし、地方裁判所から求められる救済が「事実上ではない」ときには、その手続が控訴裁判所になされることを許容している。Microsoftの申立について判断するためには、他のものの中で、本案訴訟において、同意判決のIV(E)(i)条によってMicrosoftのWindows 98の販売、配布が禁止されないとの主張が、明白に意図しているという条件に基づいて、勝てる可能性を評価する必要がある。(これらの可能性は、もちろん、合衆国がその条項によってそのような禁止が成り立つことを証明する可能性の逆である。)同意判決の意味は、現在、地方裁判所においてではなく、我々(控訴裁判所裁判官)の前で審理されており、我々はその意味について論争を聞き、審理している。地方裁判所がその判決を停止する権限を保持しているとしても、Windows 98に影響を及ぼす限りにおいて、Rakevich v.Wade, 834 F.2d 673, 673-74 (7th cir.1987), 控訴がこのように解決に近づいている時に、地方裁判所が停止を行うことはかなり実行不可能である<While the district court retains power to stay its judgment, insofar as that may affect Windows 98, it is comparatively impracticable for it to do so when the appeal has progressed so near resolution>。

 合衆国が、地方裁判所で現在進行中のWindows 95に関する永久的差止に勝つ可能性がどうであったとしても、Windows 98に関しては非常に可能性が低いようにみえる。合衆国は、Windows 98が「統合された製品」訳1、従ってIV(E)(i)条の禁止の免除事項に該当しないことを示唆するいかなる証拠も提出していない。(我々が知る限り、Windows 98に関しては全く証拠を提出しておらず訳2、口頭弁論において、Windows 98に仮差止を適用する請求をしているかどうかに関して極めて明確でないようにみえた。)仮差止が合衆国が同意判決に基づく権利を証明する努力をしない合衆国に救済を与えている限り、我々は停止を認容しなければならない。そのうえさらに、合衆国は、Microsoftの技術的統合の主張について争いを提起していない。このような状況のもとで、Microsoftによって明らかに熟考された条件のもとでのWindows 98の配布をIV(E)(i)条が禁止するという解釈は、「コンピュータを設計するという(裁判官及び陪審員にとって)うれしくない立場に裁判官及び陪審員を置く」ことになるであろう訳3<Under these circumstances any interpretation of IV(E)(i) which barred the distribution of Windows 98 under the conditions evidently contemplated by Microsoft would "put [ ]訳4 judges and juries in the unwelcome position of designing computers.">。IX Phillip E. Areeda, Antitrust Law 1700j 15頁(1991)。
 

裁判所のために
Mark, J. Langer書記官

(訳1)Windows 95では、パソコンの内部を調べるエクスプローラと、インターネットブラウザであるインターネットエクスプローラは別々のプログラムであったが、Windows 98では、インターネットエクスプローラ 4.0(IE4.0)がインターネットブラウザでもあり、かつ、パソコンの内部を調べる役割も兼ねるようである。この設計変更は、IE 4.0がWindows 98に統合された製品であると主張するMicrosoftにとって極めてメリットのあるものである。一方、ユーザーから見た場合は、自分のパソコンがインターネットあるいはLANに直接接続されている場合は、パソコンの内外を同じ操作で扱えるからメリットがあるかもしれない。しかし、ダイアルアップでインターネットに接続しているユーザーにとっては、パソコンの内外が区別がつきにくくなることによって、電話の切り忘れによる予想外の電話料金の請求に結びつく可能性はないのだろうか。

(訳2) WALD、WILLAMS、RANDOLPH巡回判事は「我々が知る限り、Windows 98に関しては全く証拠を提出しておらず、・・・」と述べている。しかし、1997.12.11の「メモランダム及び命令」には、「Microsoftは現在インターネットエクスプローラ、IE 4.0の最新のエディションを、別個のスタンド−アローン製品としてのみ提示し、・・・・・。しかしながらMicrosoftは1988年2月始めに(又はたぶんより早い時期に)、IE 3.0で現在行っているようにWindows 95のライセンスの条件としてそれをライセンス又はプレインストールするようにOEMに要求することを目指している。」と記載されているから、Windows 98 に「統合」される IE 4.0 については、証拠が提出されているか、あるいは、上記の事実について両当事者間で争いがないと考えられる。そして、上記事実から、IE 4.0 は、別個のスタンドアローン製品であり、また、Windows 95 と「統合」されてもよいものであることがわかる。実際、98.01.21の「訴訟上の合意及び命令」の「3.」により、 Windows 95 のプレインストールのライセンスを受けたOEMは、IE 4.0 だけを含まないOSR2.5(OSR2.0プラス追加ソフトウエア)のライセンスを受けることができる。一方、最近発売された「できる Windows 98 Preview Program ノートパソコン編」(山田祥平&インプレス書籍編集部編、1998年5月31日発行)によると、「Windows 98 は、Windows 95 からの、完全で、かつ安全な移行をめざしています。アップグレードすることで何を失うわけでもなく、今まで使ってきた周辺機器やアプリケーションはそのまま使い続けられる100%の互換性めざして、最後の調整に入っているようです。・・・・・・実は、Windows 95 から Windows 98 になっても、オペレーティングシステムそのものには、さほど大きな変更が加えられていないのです。」と記載されている。このようなことから考えると、 Windows 95 との関係と同様に、Windows 98 との関係においても、IE 4.0 は、別個のスタンドアローン製品であり、また、Windows 98 と「統合」されてもよいものではないだろうか。そうすると、 仮に、Windows 98 に関して全く証拠が提出されていなかったとしても、地裁のJackson判事はWindows 95 との類推で判断することができたとも考えられ、Jackson判事の判断が全く証拠に基づかないものであるとは必ずしもいえないのではないだろうか。 なお、上記の書籍の「アップグレードすることで何を失うわけでもなく、」という記載は、Windows 95 が既にインストールされているパソコンに Windows 98 をアップグレードするときのことである。しかし、ハードディスクを無駄なく使うために、FAT16 から FAT32 へのコンバートを行うと「古いウイルスチェッカーなどの、FAT32と互換性のないアプリケーション」は使用できなくなるようである。したがって、FAT32に移行する場合は、失うものがありそうである。以上のように7日修正版に記載したが、CNETCNETなどを見ると、Windows 98 からは IE 4.0 を分離することはできないようである訳5。Windows 95用の IE 4.0 と Windows 98用の IE 4.0 が異なったものであるとは思えないから、Windows 95からは分離できて、Windows 98からは分離できないということは、IE 4.0がWindows 98を使用しているのではなく、Windows 98が IE 4.0を使用しているということになる。ということは、IE 4.0 が Windows 98に統合されたのではなく、、Windows 98が IE 4.0 に統合されたのではないだろうか。「ウインドウズのトラブル解決集、ソフト編」(日本実業出版社)には、「IE 4.0 は単なるWWWブラウザではなく、ウインドウズの機能を拡張するさまざまな機能が盛り込まれたソフトです」、「(Windows 95上で)IE 4.0の全機能を快適に動作させるためには、パソコンには64MB以上のメモリを搭載することが望ましいといわれています」と記載されており、本来OSが持つべき機能を IE 4.0 に持たせ、その結果、IE 4.0 がかなり大きなプログラムになっているのではないかと推測される。 Windows 98 では、本来OSであるはずのWindows 98 がその一部の機能については、IE 4.0をOSとして使用しているのではないだろうか。そのようなことが技術的に意味があるとは思えないし、ユーザーが望んでいるとも思えないが、Microsoftにとっては、ファイナルジャッジメントの但し書きにある「統合された製品」にしなければならないという法務上の要請からくる極めて重要な設計変更であると考えられる。

(訳3)アメリカの場合は、地裁だけが事実審で、控訴審は法律審であるから当然のことであるが、この命令は法律論によって地裁の命令の停止を決定している。しかし、最後に記載された著書を引用した文章は「コンピュータを設計するという(裁判官及び陪審員にとって)うれしくない立場に裁判官及び陪審員を置く」というものであり、これは法律判断というよりも、控訴裁判所のWALD、WILLAMS、RANDOLPH巡回判事の心境を述べたものでものではないだろうか。つまり、WALD、WILLAMS、RANDOLPH巡回判事は、コンピュータはできれば避けたいタイプではないだろうか。一方、地裁のJackson判事は、その命令文を読めば明らかなように、コンピュータに詳しそうなタイプである。Jackson判事は、法的に許されるとすれば喜んで、独禁法に違反しないOSの設計をやりたいタイプであるようにみえる。(Jefferson Parish事件に基づけば、買い手(ユーザー)の目によって区別できるかどうかが基準だから、「独禁法に違反しないコンピュータを設計すること」は裁判官にも陪審員にもできることなのである。控訴裁判所のWALD、WILLAMS、RANDOLPH巡回判事はコンピュータに対する苦手意識がわざわいして、最高裁判例を冷静に読めなかったと推測する。)そのJackson判事が、自分よりサイバーテクノロジーに詳しいとして特別補助裁判官に指名したLessig教授を、Microsoftは避けようし、また、この停止命令は通常は地裁に申し立てるもののようだが、地裁を避け、控訴裁判所に直接請求している。両方とも、控訴裁判所によってMicrosoftの主張が法的に正当であると認められたが、Microsoftはコンピュータに詳しい裁判官をできるだけ避け、コンピュータが詳しいとは思えない控訴裁判所の裁判官を選択しているのである。一般に、Microsoftはコンピュータに関する技術力で最先端企業であるように見られているが、この訴訟でのMicrosoft自身の選択は、この会社が技術力よりも法務力を重視していることを物語っている。

(訳4)アメリカの判決では、判例等を引用するときに改変を行ったときは、その部分を[ ]で挟むのが慣例である。ここでは[ ]内に何も記載されていないから、原文には[ ]内に何かが記載されていたが、引用するときに削除したことを意味している。したがって、[ ]を無視すればよい。
 
(訳5)一連の判決・命令及びインターネット上の情報を総合すると、Windows と IE は次のような関係にあるのではないかと考えられる。Windows 95 と IE 3.0 が「統合」された状態から、IE 3.0を取り除くことができる。OEMが、1月21日の「訴訟上の合意及び命令」(「合意」)のオプションa、bを選択すれば、IE 3.0の無い又は見えなくしたWindows 95(OSR2.0)をプレインストールすることができる。OEMが、合意の「3」を選択すれば、IE 4.0の無いWindows 95(OSR2.5)をプレインストールすることができる。Windows 95 と IE 4.0 が「統合」された状態から、 IE 4.0を取り除くことはできない。Windows 98 と IE 4.0 は「統合」された状態で販売され、IE 4.0を取り除くことはできない。ただし、Microsoftが、合意の「3」と同様に IE 4.0の無いWindows 98を保有しているかどうかは不明である。



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