竜の眠る地
竜の眠る地

「何の用ですか?」
 ノックもせずに部屋へと入ってきた男に、ローブを着た部屋の主
がそう尋ねる。
「ジルってのは、あんただな?あんたが最後の竜の居場所を知って
いると聞いた」
 男が挨拶もせずに、そう聞く。
「竜……、ですか?」
 ジルと呼ばれた男がそう、聞き返す。
「そうだ」
「何の為に、そんな事を知りたいのですか?まさか、竜に食べられ
たいとでも?」
 ジルがそう微笑を浮かべ、聞く。
「それも良いかもな」
 男が苦笑する。
「良いでしょう。準備をして下さい。その格好では、少々、寒いで
しょうから」
 ジルはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「まだ、なのか?」
 冷え切った洞窟の中を歩きながら、男が前を歩くジルに問い掛け
る。
「もうすぐですよ」
 ジルが手元の魔法の明かりを弄びながら、答える。
「そう言えば、名前を聞いてませんでしたね?」
 ジルが歩きながら、男に聞く。
「ガノスだ。それよりも……」
 そこまで言いかけ、ガノスは口を噤んだ。突然、広い場所へと出
たからである。
「ここです」
 ジルがそう、静かに言う。と、ジルの手元の明かりが頭上へと上っ
ていき、その空間全体を照らした。
「本当に、こんな所にいるのか?」
 ガノスが周囲を見回す。が、竜の姿は見えない。
「見えませんか?では、もう少し、明かりを強くしてみましょう」
 そうジルが言うと、頭上の明かりが強まった。と、ガノスは思わ
ず、その光から目を逸らした。
「な……!?」
 次の瞬間、ガノスは思わず、驚きの声を上げた。
 二人の足下は地面ではなく、氷の床であった。そして、そこに眠
るのは巨大な竜の姿であった。
「生きている……、のか?」
 唾を飲み込み、ガノスがそう尋ねる。
「もちろん。これで、満足ですか?」
「ああ」
「そうですか。では、帰りましょう」
 ジルがそう、出口へ向かう。
「いや。俺はここに残る」
 そう、ガノスが首を左右に振る。
「俺の故郷は、滅ぼされた。そして、その中で唯一、生き残ったの
が俺だ」
 独り言のように、ガノスが呟く。
「何もかも、失った。俺にはもう、守るべき物が無くなった。だか
ら、俺は……」
「同じように、ただ一体生き残った最後の竜に会いに来た、と?」
「竜に話を聞けば、何かを得られると思った。だが……」
「好きにするんですね。では、私はこれで」
 ジルは首を振ると、外へと出ていった。

 残ったガノスは頭上を見上げると、大きく息を吐いた。その白い
息はまるで、魂のようであった。

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