狩人
狩人

 魔物退治の賞金だけで生活の糧を得る者、または、魔物との戦い
に秀でた能力を持つ者の事を、人は「狩人」と呼んだ。

 月の光が暗雲に遮られた夜闇の中、屋根伝いに町の外へと音も無
く駆ける影があった。その影は町の外へと差し掛かると、ふわりと
屋根から舞い降りた。
 と、暗雲の隙間から、月の光が姿を現し、その影の姿を露にした。
その影は黒いマントを羽織った、一人の男であった。
 男は真夜中であるにも関わらず、無謀にも町の外へと歩き出した。
そして、しばらくすると、突然、男は立ち止まった。
「結界か……」
 男が呟く。その言葉には、憎しみが込められていた。
「残念だったな。前もって、用意してたのさ。これでも、狩人を名
乗ってるんでね」
 と、町の中から、新たな男が姿を現す。その男は傭兵風であり、
一本の剣を腰に吊るしていた。
「逃げ道は無いぜ。雄鶏の血を浴びて、変身能力も封じられた以上、
黙ってこの銀の剣の錆になるんだな?」
 狩人を名乗る男がそう、勝ち誇るように言う。
「人間如きが、吸血鬼たるこの私を見縊るな」
 そう言い、吸血鬼と名乗る男が、その男に飛び掛かる。と、男は
すかさず、腰の剣を引き抜き、難なく吸血鬼の体を貫いた。
 が、次の瞬間、吸血鬼が男の顔目掛け、血を吐きかける。
「なっ?」
 男は思わず、左手で顔を覆う。と、男は右の首筋に刺すような痛
みを感じた。
「くっ!」
 剣を離し、男が首筋に食らいついた吸血鬼を両手で引き剥がす。
 引き剥がされたその吸血鬼は、口から滴り落ちる男の血を拭うと、
満足そうな笑みを浮かべた。
「これで、貴様も私と同類だ。せいぜい、闇の住人の生活を楽しむ
事だな」
 吸血鬼はそう言い残すと、力無く倒れた。と、その吸血鬼の姿が
見る見る内に、煙と化して消えていく。

「わかってねぇな。言ったはずだろ、俺は狩人だって」
 男が地面に落ちた剣を拾い上げる。


 喉が渇く。


「狩人ってのはな。間違っても、狩られる側になっちゃいけねぇん
だ。」
 男が剣を逆手に持ち、ゆっくりと頭上に振り上げる。


 生き血を欲する、どす黒い欲望が胸の内に広がる。


「そして、万が一、狩られる立場になった時、何の躊躇いも無く」
 と、男が勢い良く剣を振り下ろし、自らの胸を貫く。
「じ、自分を狩る事ができる。それが、狩人を名乗る……、最低限
の……、覚悟って物だ」
 男がその場に崩れ落ちる。

 やがて、その体も先の吸血鬼の如く、煙と化していった。

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