電脳女王
電脳女王

 時計の音が、十一時を告げる。
 座り心地の良さそうなソファで読書をしていた女性は、本を閉じ
ると机の上へと置いた。
「爺」二度、手を叩く。
「何で御座いましょうか、女王様?」しばらくして、執事風の老人
が姿を現す。
「わらわはこれから、インターネットにアクセスしたいと思う。音
響カプラを持て」
「そうおっしゃられると思い、懐にて暖めておきました」そう、執
事が懐から、音響カプラを取り出す。
「うむ。ご苦労」そう言いながら、音響カプラを受け取ると、女王
はそれを耳と口に当てた。
 その後、女王の口からダイヤル音が発せられ、暫くの無言の後、
再び、口を開く。
「ピーーーー、ガガッガリガリ、ピガッガガッ……」
 と、突然、女王は顔から音響カプラを離すと、執事に手渡した。
「如何なさりましたかな?」
「コネクションの確立に失敗してしもうた」そう言うと、女王は一
つ咳払いをした。
「喉の具合が御宜しくないようですな?」執事がそう、心配そうな
表情を浮かべる。
「先週のスキーで喉を傷めようじゃ。今日は早めに寝るとしよう」

 そう言う訳で、電脳女王はチャットに来たり、来なかったりする
のであった。

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