ムジカ・マキーナ 高野史緒 ハヤカワ文庫JA 2002.06.17

 紹介文には「音楽SF」とあるこの作品、何がこんなに読みにくいのか、不協和音を感じるのか、読みながら随分と悩んだ。そして、どこかで見たようなこのノリは何だろう?と、暫し悩んだ。そしてそれが解った時、不協和音の原因も解った。

 これは「サイバーパンク」なのだ。近未来的装置と、それに繋がる人間達、新しく見出される超感覚と、そしてドラッグ。これらは正にサイバーパンクそのものではないか。しかし問題は、その時代背景と舞台にある。1870年のヨーロッパ貴族達の社交場が舞台だ。勿論出てくる音楽はクラシック…の筈である…。が、そこにいきなり極めて“現在”的な単語がガンガン出てくる。これがどうにもヨーロッパのナポレオン時代の雰囲気とそぐわないのだ。

 サイバーパンクの旗手ギブスンの「ニューロマンサー」は、チバシティという東洋的なセットの中にサイバースペースへの入り口を作り、機械的生物的薬品的造語の数々でサイバーパンク世界をドライブさせてくれた。が、それは、近代社会のコンピュータ技術の前提あっての近未来であって、ナポレオン時代のヨーロッパにミキシングだのDJだのの単語は、どうにも座りが悪い。これはサイバーパンクなのだ…と気が付いてからも、ドップリとハマリ込んでしまう事ができなかった。1870年代において“現代”は確かに“未来”であろうが、“現代”に居てその単語達を眺める時、それは飽く迄も“現代用語”なのだ。“現代用語”をそのままの形でタイムスリップさせても、その時代を生きる者が感じるであろう異様さ、不可解さ、そして崇高なまでの高揚感には共鳴できにくい。1870年代のアンティークでクラシックな世界の中で近未来的ガジェットを描くなら、もう少しレトロでセピアがかった造語を羅列した方が効果的ではなかったか。そんな事をふと思った。背景と小道具が上手くマッチしてこそ、その世界にシンクロして思いっきりトリップできるのだ。

 これが不協和音の最たる理由であった。そして、この問題点さえクリアできれば、ミステリとしては非常に面白いものだったと思う。題材といい素材といい、斬新なものを持ってきていると思う。この作品を読んで思い出したのが、第10回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品「オルガニスト」(山之口洋、新潮文庫)なのだが、「ムジカ・マキーナ」は第6回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作品なのだ。そういう観点からも、作者がこの方向性を新規開拓したのかもしれないなぁと、思ってもみた。

 要は書き方の問題なのだろう。一ヶ所、どうにも我慢ならない箇所があった。あからさまな「パクリ科白」というヤツなのだ。最初からパロディを狙った作品なのなら別だが、しっかりした時代背景を設定した中に紛れ込んだこれは、読み手を一気に“今”と“日常”に引き戻し、折角のドライブ感覚を全て消し飛ばしてしまう。この辺りを本当にもっと巧く創り上げて書いてくれれば…と…、残念でならない。