2002年のベスト10 |
「グラン・ギニョール城」 芦辺拓(原書房) 山の上にある古城の中で巻き起こる人々の思惑から発するミステリの、現実と虚実の揺らぎと融合が、非常に巧みに描き出されています。作中人物の困惑がそのまま自らの困惑になるミステリなんて、初めてでした。 「木曜組曲」 恩田陸(徳間書店) 一人の女流大御所小説家と、それに連なる五人の女達の物語です。物書きの性<さが>みたいなものを凄く感じたミステリでした。舞台はずーっと家の中で、出て来るのも全部女性で、挙げ句その女性達が最初から最後までひたすら食事をしている、というのが非常に印象的です。 「カレーライフ」 竹内真(集英社) ただひたすらカレーを作り続ける旅の物語です。数々のスパイスがそれぞれの個性を殺さずに綺麗に融合してカレーが作られるように、別々の個性がそれぞれを殺さずに融合していく…そんな物語です。読んだら絶対にカレーが作りたくなりますよ。 「六の宮の姫君」 北村薫(創元推理文庫) “円紫さんと私シリーズ”の第四弾なんですが、単独で楽しめます。『六の宮の姫君』というのは芥川龍之介の作品で、写楽の正体を追え!とか、百人一首の秘密とかいう謎解きミステリーと同じようなテイストを持った物語です。日本文学に詳しくなくても充分に楽しめる発見がいろいろとありました。 「ふぶきのあした」 木村裕一作/あべ弘士絵(講談社) 「あらしのよるに」「あるはれたひに」「くものきれまに」「きりのなかで」「どしゃぶりのひに」の5冊に続く絵本の完結編です。嵐の夜、雷に怯えて真っ暗な小屋に逃げこんだヤギとオオカミは、お互いをそれと気付かずに友達の約束をしてしまいます。喰うものと喰われるものの友情は有り得るのか!?という究極の命題に挑んだ絵本は、ここ完結に至って、それまで読み聞かせをしてきたお母さん達を思いっきり悩ませてしまった…といういわく付きのお話です。 「時の密室」 芦辺拓(立風書房) 「グラン・ギニョール城」と同じ作者のミステリです。こちらも同様に目眩を覚えるような不思議な読感でした。単行本の表紙の絵が、そのまま目眩の原因を教えてくれます。大好きなアイテムなのです。 「DIVE!!ダイブ」 森絵都(講談社) 1―前宙返り3回半抱え型、2―スワンダイブ、3―SSスペシャル'99、4―コンクリート・ドラゴンの4冊の児童書です。ダイブとは高飛び込みの事。数ある水泳競技の中でもあまり日の当らない競技です。その競技の頂点に挑む3人の少年達の物語は、あまり身近に居なくなってしまった若々しい苦悩や飛翔を見せてくれて嬉しいです。 「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」 五條瑛(集英社文庫) 前編の「プラチナ・ビーズ」も大好きだったのですが、こちらもシリアスにリアルに極東のスパイ物を楽しませてくれました。北朝鮮は今余りにリアルすぎて、どこまでが物語なんだか解らなくなってしまうのがちょっと怖いですけれど。 「黒と茶の幻想」 恩田陸(講談社) 主人公の存在しない物語…というのを初めて読んだ気がします。恩田陸という作家さんが、人間(関係)を描くのが非常に巧みだからこそできるのかもしれません。他人故に知り得なかった他者の営みや生き方考え方みたいなものを、これ程見せてもらえた物語も少ないと思います。 「どうころんでも社会科」 清水義範 作/西原理恵子 絵(講談社文庫) 昔から社会科の授業がこんなだったら、もしかするともうちょっとは好きになっていたかもしれません。日本地図を見ながら読むと一層楽しめます。昆布の採れないはずの富山と沖縄で、何故昆布の消費量が一番多いか御存じですか? |