マイベストSF |
「愛に時間を」 ロバート・A・ハインライン作 矢野徹訳(ハヤカワ文庫SF581,582,583) 4000年以上を行き続けるハワード・ファミリーの最長老ラザルス・ロングの、昔話と新たな体験の物語。不老不死の男とごく普通の余命を持つ少女の究極の愛の物語、鏡像双子(ミラーツイン)の姉弟の恋の物語、本物の目で虹を見たいコンピュータ ミネルヴァの切ない想い。全てを体験してきたラザルスの求めるものとは。晩年のハインラインの最高峰と言える作品。沢山の愛に時間を費やして下さい。 「ノーストリリア」 コードウェイナー・スミス作 浅倉久志訳(ハヤカワ文庫SF710) 巨大な奇形の羊が住む億万長者の星で、ひとりの落ちこぼれの少年が地球を買った。けれど彼が欲しいものはもっと別のものだった。彼はそれを求めて旅に出る。気高く美しい猫の娘 ク・メルと共に。コードウェイナー・スミス唯一の長編小説。人類補完機構(エヴァの元ネタと言われているが真相は不明)が関わる大きな歴史叙事詩のひとコマとして書かれているが、このひとつだけでスミスの世界は充分堪能出来る。優しく気高い者たちを見つけて下さい。 「クリスタル・シンガー」 アン・マキャフリイ作 浅羽莢子訳(ハヤカワ文庫SF575) クリスタル・シンガー、それは星間通信や宇宙船の推進装置に必要なクリスタルを切り出す者の呼称。しかしそれを目指すためには過酷な訓練と、努力だけではどうする事もできない適正も必要となる。ひとつの挫折を味わった少女が今、クリスタル歌いになるべくマッハ嵐の星へ向かう。クリスタルの様に鋭く厳しく美しい物語に引き込まれて下さい。 「バベル-17」 サミュエル・R・ディレーニイ作 岡部宏之訳(ハヤカワ文庫SF248) 強大なインベーダーとの戦闘の最中傍受される信号“バベル-17”、それが単なる信号ではなくひとつの言語であるということを詩人リドラ・ウォンは突き止める。言語というものは、その言語を操る者を規定する。“家”という単語を持たない者に“家族”を説明するのは難しい。“肩こり”という単語が無い人種は肩が凝らない。所有する牛に全ての所有者を特定する別々の色のリボンをつける遊牧民は、何百という色を見分けられる。あなたはどんな言語の世界に生きていますか? 「竜の卵」 ロバート・L・フォワード作 山高昭訳(ハヤカワ文庫SF468) 遥か宇宙の彼方で誕生したひとつの中性子星が、爆発のエネルギーで太陽系までやってきた。そしてその星には、特殊な磁力と特殊な重力に適応した知的生物が生きていたのだ。一見ナマコの様な形状のチーラというその生物と人類が遭遇した時、その星にひとつの神話が生れる。巻末に30ページもの専門的補遺がついている程、科学的な設定によって描かれた全く体感の違う世界。それを極めてリアルに感じながら人類の目線で客観的にも見る事ができる、その不思議な感覚にドップリ浸って下さい。 「重力が衰えるとき」 ジョージ・アレック・エフィンジャー 浅倉久志訳(ハヤカワ文庫SF836) イスラム世界を舞台にした、ちょっと珍しい電脳ハードボイルドSF。猥雑で殺伐とした都市で探偵をする男は、次第に巨大な影の力に飲み込まれて行く。性転換も肉体改造も自由自在の世界で、酒に溺れ、ドラッグに頼り、言葉も人格も外部記憶で簡単に置き換える探偵、何がリアルで何が虚構なのか判らない現実の中で“己”を繋ぎとめようとする。訳者も苦労したというアラビア語の頻出が、イスラム世界をリアルに描いてくれる。理解を越える言葉と感覚の世界に翻弄されて下さい。 「敵は海賊・海賊版」 神林長平(ハヤカワ文庫JA178) 広域宇宙警察対宇宙海賊課の最強にして最悪のコンビは、黒猫型宇宙人刑事アプロと敏腕刑事のラテル。いつも食い物の事しか考えていないアプロに、ラテルと海賊課は翻弄され続ける。しかし、宇宙随一の孤高の海賊、感情を表に出さず美しい白猫を従えて、非情に仕事を行なって行くヨウメイと渡り合えるのは彼らしか居ないのだ。主人に似てクールな海賊船カーリー・ドゥルガーと、どうにも格好良くなりきれない海賊課の対コンピュータ戦闘用フリゲート ラジェンドラの対照も妙。合言葉は「敵は海賊!」 |