風が冷たくなって来た夕暮れの空には、この間のコウモリ達の姿は見えない。
彼らは寒さをしのぐため、互いに暖を伝え合って、ふるふるとその身を潜めているのだろうか。 その美しい乱舞の代り、今日の空の主役は、東の袖からゆっくりと静かに姿を現わした。
いつもは白金の輝きで温もりを熱唱しているヒーローも、 今日は一日、ぶ厚い雲の緞帳の向こうで、か細い歌を聞かせているだけだった。 それでも場面は変わるのか、厚い幕が少しずつ上がっていく。 ついさっき、白熱のヒーローが去って行った西の袖は、今、橙色のライトで染まっている。
そして、おぉ! 淡いグレーを背景に濃い輪郭で連なる稜線の上に、輝く象牙色のサークルがその破片を見せ始めていた。 それは際立ってくっきりとした輪郭と、意外なほど大きな姿で、 千切れてばらばらになった雲の間を、静々と昇っていく。
その黄みのかかった暖かい象牙色と、丸く豊満な姿は、全てを包み込む聖母の様。 行く手を阻んで群れる雲の向こうにその姿を隠されても、 黄白の光は雲達を輝かせ、いつしか再び真円を取り戻す。
しかしその輝きは形を変える。 暖かな黄みが薄れ、それに代わって、冷ややかな青みが広がっていく。 その大きな姿は濃縮されて、小さな白銀の輝石となる。
やがて夜の薄衣が空の全てを覆う頃、ゆっくりとゆっくりと天頂まで昇った夜の女王。 冷たい空気に白い光の矢を放ち、彼女は今、静かにこの地を見下ろしている。
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