聞える? ねぇ、聞える? あなたには、ほら、聞こえているね。

こっちへ来て。そう、まっすぐ行かないで、その角を曲がって。
こんな道は知らない? そりゃ、知らないでしょう。
でも、大丈夫、道は教えてあげるから。

そこを、左。そこは、右。その坂を降りて、そこで右。
そして、そう、見つけた? その建物よ。

鍵は掛かっていないから、扉を押して、入って来て。
灯は無いけど、薄明かりがあるでしょう?
ゆっくりで良いから、そのまま廊下を進んで。
部屋の扉は、みんな閉まっているの。
表札を読もうとしても無駄。全部劣化して、何も読み取れはしないから。

そう、その角は左。そのまま進んで、そこを右。
階段があるでしょう? それを降りて。
埃だらけで滑りやすいから、一段一段、気をつけて降りてね。
その階の扉は、閉まっているわ。そのまま、降りてきて。
ここにも灯は無いけれど、薄明かりはあるでしょう?
窓はひとつも無いのにね、どうして薄く明るいんでしょう?

その階も閉まっているわ。そのまま、降りつづけて。
そのまま、降りつづけて。
そのまま、降りつづけて。
そのまま、降りつづけて。
そして、そう、その扉よ。押せば開くわ。

廊下はひとつ。迷うことは無いでしょう。
そのまままっすぐ、そこを左。
そこよ、その正面の扉。それを開けて。

ようこそ。
とうとうここまで来てくれたのね。
部屋の両側を見て。棚が並んでいるのが見えるでしょう?
背の高い棚の上には、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶・・・
ガラスの瓶、陶器の瓶、綺麗な瓶、薄汚れた瓶、色とりどりの、瓶、
ラベルの無い、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶、瓶・・・

左の棚よ。上から二十五段目。左から百六十四番目。
ゆっくり数えてね。間違えないように。
一つ、二つ、三つ、四つ・・・・百六十二、百六十三、百六十四。
そう、それよ。色の無い、透明のガラス瓶。
色の無い透明の液体が、口一杯まで入っているでしょう?
その瓶を、取って。

手に取ったわね。そうしたら、蓋を開けて。ゆっくりと、零さないように。
匂いは無いわ、最初から無いの。
味は・・・知らない。

そう、味・・・

わかったでしょう?
飲むのよ、それを、全部、今よ、そう、ここで。
何が起こるかわからないわ。毒か、薬か、単なる飲み物か・・・
それは、わからない。それは誰にも、わからない。
けれど、さあ、飲んで。一気に、一滴残さず。

飲めない? なぜ? どうして? 何が起こるかわからないから?

そうね。それは、そうね。でも、飲まなければ、ここからは出られない。
それでも、飲めない?

なら、

そのまま床に落としなさい。手を離して、瓶を落とすの。
そうすれば、割れて消えるわ。液体も瓶も、消えてしまうから。
そうすれば出られる。その手を離すだけよ。

そう、その手を振り上げて、思いっきり床に叩きつけて。

そうすれば出られる。
そう、消えるから。瓶も、液体も、この声も、記憶も・・・

そう、それは、私・・・