それは、虚無を向いている。
闇でも、光でもない、虚無を。 決して交わること無く、だから、入り込むことも向かうこともできない。 ただ、そこに在るだけ。
あれは、闇を向いている。 闇と光を、共に見ている存在なれど、光を臨む顔を見せることはしない。 ただ深闇を求め、闇を突きつけ、闇を以って切り込んでくる。 だから、そこには、闇しか望むことが出来ない。
だが、お前は・・・ 闇を、見せつける。 虚構ではなく、幻でもなく、確かにそこにある闇を。 手に触れることのできる魅惑の闇を、掌に乗せて、手招きしている。 そのおぞましい歓喜と、その粟立つ陶酔と、心地好い腐敗と、悦楽の恐怖を持つ闇を。
さあ、切り裂いて・・・ その唇を血に染めて・・・ この苦痛の喘ぎを喰らって・・・!!
お前は・・・ 光を、指し示す。 諦めない、諦めたくない、でも、辿り着けるかどうかは判らない光の彼方を、 それでもそこを目指そうと。 荒れた道無き道で躓き、切り立つ岩壁から転げ落ち、立ち塞がるイバラに切り裂かれ、 身体中から血を流そうと、餓えに負けて毒果を食べ、激痛の嘔吐を繰り返そうと、 その暖かき至福の光の元へ、ひたすら這い登ろうと招く。 そして・・・ 囁く、着いて来いと。
さあ、手を伸ばして・・・ 置いていかないで・・・ 焼けつく喉に水を飲ませて・・・!!
お前の中で闇と光とが渦巻き、極彩色の“閃光”を放つ。 その“閃光”はこの目を射て、この目を眩ませる。 目は視力を奪われて、漆黒の闇の中に、極彩色の残像が居座る。 光と闇の悲しみと喜びの感情が、この身を裂いて苦しめる。 闇の誘惑が、抗う気力さえ奪う。 光の叱責が、自責の念を募らせる。
堕落と祝福の抱擁を与えてくれる、初めての存在。 |