つめたい水

 

つめたい水は凍らない

氷点下の流れの中で

身を切る水に晒される

 

溢れる血は止まらないけれど

流れていくから溜まらない

だから身体は白いまま

決して赤くは染まらない

 

溢れる熱い想いもあるけれど

包んでくれる暖かい想いすらあるけれど

温もりを感じる前に

留まらない流れに洗われてしまう

だから心は無色のまま

想いに染まる事はない

 

焦がれる身体を取り巻く水膜は

ただ一ヶ所の隙無く纏わる切っ先の水

柔らかく取り巻いている様に見えるけれど

水滴のひとつひとつが傷を与える

それでも傷は洗われて清々しい肌に見えるだろう

鋭い刃が付けた傷は決して見えはしないだろう

 

つめたい水

 

つめたい水は凍らない

氷点下の流れの中で

凍らない身体は足掻く事すら出来ずにいる

 

決して縛られてはいないけれど

凍らぬ冷度の中で動けずに居る

灰色の脳は生きているけれど

思考は寒さにかじかんでいる

 

取り巻く水は凍らない

全て流れ去ってくれさえすれば

身体は赤く染まろうとも

歩み出る事ができるだろうに

いっそ凍ってくれさえすれば

この身は全て凍結し

思考を眠らす事ができるだろうに

 

凍らない水は全ての血流を洗い流し

全ての体液を洗い流し

切り刻まれた肉体を細かく裂いて流していく

やがて全ての肉体が流れ去った後に

凍えた思考だけが残される

幻の肉体を切っ先に切り裂かれるまま

 

永遠に凍らない

つめたい水の中で

 


カウンタ12000番を踏んでくださった、ドリーさんへ
2001.8.17