親鸞聖人 ご消息(手紙)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝 謹写



 また五説といふは、よろづの経を説かれ候ふに、五種にはすぎず候ふなり。一には仏説、二には聖弟子の説、三には天仙の説、四には鬼神の説、五には変化の説といへり。この五つのなかに、仏説をもちゐてかみの四種をたのむべからず候ふ。この三部経は釈迦如来の自説にてましますとしるべしとなり。

四土といふは、一には法身の土、二には報身の土、三には応身の土、四には化土なり。いまこの安楽浄土は報土なり。三身といふは、一には法身、二には報身、三には応身なり。いまこの弥陀如来は報身如来なり。三宝といふは、一には仏宝、二には法宝、三には僧宝なり。いまこの浄土宗は仏宝なり。四乗といふは、一には仏乗、二には菩薩乗、三には縁覚乗、四には声聞乗なり。いまこの浄土宗は菩薩乗なり。

二教といふは、一には頓教、二には漸教なり。いまこの教は頓教なり。二蔵といふは、一には菩薩蔵、二には声聞蔵なり。いまこの教は菩薩蔵なり。二道といふは、一には難行道、二には易行道なり。いまこの浄土宗は易行道なり。二行といふは、一には正行、二には雑行なり。いまこの浄土宗は正行を本とするなり。二超といふは、一には竪超、二には横超なり。いまこの浄土宗は横超なり。竪超は聖道自力なり。

二縁といふは、一には無縁、二には有縁なり。いまこの浄土は有縁の教なり。二住といふは、一には止住、二には不住なり。いまこの浄土の教は、法滅百歳まで住したまひて、有情を利益したまふとなり。不住は聖道諸善なり。諸善はみな竜宮へかくれいりたまひぬるなり。思・不思といふは、思議の法は聖道八万四千の諸善なり。不思といふは浄土の教は不可思議の教法なり。

 これらはかやうにしるしまうしたり。よくしれらんひとに尋ねまうしたまふべし。またくはしくはこの文にて申すべくも候はず。目もみえず候ふ。なにごともみなわすれて候ふうへに、ひとにあきらかに申すべき身にもあらず候ふ。よくよく浄土の学生にとひまうしたまふべし。あなかしこ、あなかしこ。
 閏三月三日       親鸞

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