そして何も変わらなかった

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 ある新興住宅地のそばに、古いミネラルウォーターの工場があった。経営者が変わり、古い平屋建ての工場は閉鎖され、土地は、デベロッパーに売却された。この土地は工場跡地だから、住宅専用地域のように建物の高さ制限がない。デベロッパーは、これを利用して、高層の分譲マンションを建設しようとしたのである。

 ここでもお定まりの建設反対運動が起こった。当然の事ながら、反対の中心メンバーは、マンション建設予定地に隣接して住む人々である。様々な反対理由が並べられたが、どうせ後からのこじつけで、結局は、損得勘定して、損だと思うから反対しているだけである。

 したがって、反対理由に見るべきものなど無い。例えば、高層マンションの建設は、自然破壊につながるというが、一戸建て住宅の方が、一人あたりが占有する土地面積が広いのだから、より多くの山林を破壊する。また、高層マンションは景観を損ねるというが、それならば、安手のプレハブ住宅も同様に見苦しい。交通渋滞を引き起こすと言うが、反対者もまた車に乗る以上、お互い様である。不法駐車が増えるなどと言うのは論外で、それを言うなら、自分の住む住宅地内の不法駐車を無くしてからのことである。

 話が横道にそれるが、反対者の中には、工場の建物を迎賓館に改装せよという看板を立てる輩もいた。いくら古い木造の建物といっても、所詮は工場である。賓客(大切な客)をもてなす建物に不向きなことぐらいは判りそうなものである。オレは自分もバカだから、結構バカは好きな方だが、自分の馬鹿さ加減を知らないこの手のバカは嫌いである。せめて、あの看板だけは、早々に撤去すべきであった。

 さて、話を戻すと、反対者達は、まず自分達の属する自治会に訴えた。自治会の会長は、分別があったから、初め、法令に違反しない以上、反対運動など無意味だと考えた。しかし、反対者の主張は強硬で、会長の説得に応じないどころか、会長の姿勢を弱腰であると断じた。窮した会長は、役員会議に諮った。マンション建設予定地から遠い役員にすれば、この際、下手に反対者に逆らって悪罵される必要もないので、マンション建設反対を決議した。次に、反対者達は、自治会決議を、自分達が所属する自治会の上部団体、すなわち、連合自治会に持ち込むよう主張した。別に、持ち込んで誰が損をするわけでもないので、マンション建設反対は、連合自治会に提案された。連合自治会は、反対者を抱える自治会長の苦衷を察していたし、これまた、却下する理由もないので、マンション建設反対を決議した。

 かくして、本当の反対者は、マンション建設予定地近隣の僅かな住民だけであるにもかかわらず、高層マンション建設反対は、連合自治会の決議となった。もちろん、こうなれば、例の如くに、ハイエナ、もとい、マスコミも登場する。(この手合いを関西では「いっちょかみ」という。なにかというと、すぐに、オレにも一丁咬ませろといって割り込んでくるヤツのことである。)彼らは、以上述べたような決議までの過程をこそ取材して、反対決議の欺瞞を明らかにすべきであったが、型どおり、地域住民の「民主的決議」を尊重し、マンション建設が不当であるかのごとき印象を与える報道を行うのみだった。

 一部の声高な者に引きずられて全体が誤るという構造そのものは、戦後50年を経た今日でも、少しも変わっていない。