黄鶺鴒(きせきれい)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 降りしきる雨の中で、黄鶺鴒が鳴いている。我が子が死んだことも知らずに、懸命に呼んでいる。
 9日前、まだ羽も生え揃わない鶺鴒の雛を拾った。巣へ戻す術もないので、あわてて鳥篭を求めて飼い始めた。
 雛は順調に育って、大空をはばたく日が近づいてきた。しかし、一昨日、350人の見学者が寺を訪れた。彼らに怯えて、その日、親鳥は我が子に餌を運べなかった。私が虫を捕ってきて食べさせはしたが、親鳥の代わりはできなかった。雛は次第に衰弱して、あくる日に死んだ。
 あの見学者達は、自分達が親鳥を脅かしていたことなど、もちろん知らない。自分達を、結構、善良な人間だと思いながら生きていくのだろう。
 黄鶺鴒よ、鳴いて私を責めてくれるな。お前の子供の墓は、裏の薮の片隅にある。一座の経は、私のせめてもの詫びだと思って欲しい。鶺鴒に合掌。餌になった虫達に合掌。そして、愚かな人間に合掌。