雛人形

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 ある人にひな人形の処分を頼まれた。昔から何かと言い伝えがあるから、自分で捨てたり焼いたりするのが恐かったのだろう。私の寺へ話が持ち込まれた。別に人形供養をなりわいにしている寺ではないが、簡単なことなので、引き受けた。

 焼却炉で焼くと、古い人形だったせいか、思いの外よく燃えた。もちろん、人形が悲鳴を上げたりすることもなかった。

 ただ、燃えた後の灰を掻き出していたら、土でできた人形の首から上が、そのままの形で出てきた。髪の毛も目も眉もなくなった人形の首というのは、不気味である。火かき棒で首をくずしながら、人形を処分するのをいやがる理由が判ったような気がした。

 思えば、これまでにも奇妙な依頼を受けてきた。お墓に人の顔をした苔が生えたから何とかしてくれ、土と混じったお骨を新しい骨壷に移してくれ、等々。そのたびに、タワシで墓をこすったり、お骨を掻き出したりしてきた。

 「人形もお墓もお骨も恐くない。本当に恐いのは人間だよ」とつぶやきながら。