Side Story #6

シャツ……借りたから……



それはまだ

約束の日が訪れる前の

平和な一時のこと

夏の日の朝は早く

窓辺から射し込む光も

暖かな帯となって

少女の微睡みをくすぐる

瞼を開いて

見上げた天井

……いつもと違う……

コンクリートにはない

温かさを感じる

ゆっくりと身を起こす

そこは他人のベッド

他人の部屋

少女の部屋が取り壊されて

命令で泊まらされた部屋

でも、嫌じゃない

……一緒だったから……

その人の姿を探す

床に敷かれた布団

そこにその人の姿はない

……どこに行ってしまったの?……

心によぎる不安

しかし、微かな人の気配に

少女は立ち上がって

その人を求める

ドアに手をかけて

ふと思い出す

……この姿は、ダメ……

パジャマ代わりのブラウスは

皺くちゃで、汗だくで

着替えを持って来てなくて

何か他に……





……リビングには誰もいない

でも、このドアの向こうにいる

微かに聞こえる音

音が聞こえないように

少女を起こさないように

閉じられたドア

そのドアをそっと開ける

……いた……

その後ろ姿に

広がる安心

一歩踏み出す

その気配に

その人が振り返って……



「あ、綾波……」



「……シャツ……借りたから……」



しかしその人は

なぜか顔を背けて

朝食の準備を進めている

……いけなかった?……

……ごめんなさい……

……何も言わずに、借りてしまって……

部屋の壁に掛かっていた

その人のシャツに

袖を通して

一番上のボタンは

首を絞められるようで苦しいから

外したままで

二番目から三つだけ留めて

スカートを穿くのももどかしく

出てきてしまって

……私を、見てくれない……

その優しい笑顔を見たいのに

その人は黙ったまま

もう振り向いてくれない

だから

静かに歩み寄って

その人の後ろに立って

そして小さな声で言う



「……手伝って、いい?……」



「……あ……うん……」



一瞬の沈黙の後

その人が答えた

……怒っているの?……

それを確かめたくて

もう一歩前に出て

その人の背中に身を寄せる

温かさが伝わってきて……



「……ごめんなさい……」



「…………」



「……勝手に、借りて……」



「いや……いいよ……」



そしてその人は振り向いて

いつもの笑顔を見せる

……よかった、怒ってなくて……

そしてその笑顔で

いつも自分を見ていて欲しいと

少女は願う

しかし、少女は知らない

その日の朝も

その前の夜も

その人が少女の寝顔を

優しく見守っていてくれたことを……





……それはまだ

約束の日が訪れる前の

平和な一時のこと

そしてもう訪れない

最後の幸せ……




新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。

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Written by A.S.A.I. in the site Artificial Soul: Ayanamic Illusions