ネコ耳マヤさん



 マヤさんはにっこにこの笑顔で演台のところに立っていた。
 何と言ってもたっぷり15分間、シンジにインタビューをしてネコ耳を堪能したからだ。
 リツコにキータッチを褒められたときでもこんな笑顔を見せたことはなかったのに。
 しかし、泣いたと思えばすぐに笑ってみたり、くるくるとよく表情の変わる人だ。
 ま、そこがマヤさんの魅力でもあるのだが。

 そうそう、忘れるところだった。
 シンジがもらった副賞は、箱根湯本温泉一泊二日の旅、という意外とまともなものだった。
 3位や特別賞とはえらい差である。まあ、1位ともえらい差ではあるけれども。(近場だし)
 主催側としてはたぶん、1位の賞品で出場者を釣ろうとしたのだろう。
 結果、その他の賞品のグレードが落ちてしまったのに違いない。
 この辺りが予算に余裕のない公的組織の実態であろうか。

(後でもう一度シンジ君のネコ耳見せてもらおーっと)

 優勝者の名前の書かれた封筒をもらいながら、マヤさんはそんな幸せな空想に浸っていた。
 これから始まる悲劇も知らずに。

「お待たせしました。それでは、グランプリの発表です」

 鳴り響くティンパニの音。
 さながら、レコード大賞の発表のようである。
 しかし、出場者にも会場にもそれほどの緊張感が漂っていないのが悲しい。

「第1回NERVネコ耳コンテスト、優勝は……」

 暗闇の中、マヤさんは封筒を開いて紙切れを取り出した。
 四つに畳まれたその紙をそっと開く。
 ライトをつけようとした瞬間、一瞬だけ友達のことを思い出した。
 いけない、シンジ君のネコ耳に夢中になっちゃって、すっかり忘れてたわ。
 どうか、私の友達じゃありませんように……
 マヤさんはそう願いながらペンライトのスイッチを入れた。

(……あれ?)

 光の輪の中には何も書かれていなかった。
 裏だったかしら?
 そう思いながらマヤさんは紙をひっくり返す。
 しかし、裏にも何も書かれてはいない。ただの白紙だった。
 まさか、あぶり出しとかいうんじゃ……

 マヤさんは焦って舞台袖を見たが、封筒をくれたADの姿は既にそこにない。
 客席最前列のADも暗くてよく見えない。
 ど、どうしよう……何かの手違いなの?
 マヤさんがオロオロし始めたとき、ティンパニの音がやんだ。
 本当はここで名前を発表しなくちゃいけないのに……ああ、どうしようっ!
 マヤさんの心臓がドクン、と鳴ったその時だった。

『エントリーナンバー零番、技術部第一課の伊吹マヤさんです!』

 突如、天井から声が降ってきた。
 しかも、マヤさんにそっくりの声……
 同時に鳴り響く麗々しいファンファーレの音。(これも他のアニメの流用か……)
 会場を包む万雷の拍手、そして大きな歓声。

(え? え? え? 何? 何がどうなってるの?)

 暗闇の中でマヤさんがどうしていいかわからなくなっていると、ぱっとスポットライトが当てられた。
 眩しい……思わずネコ手になって目の前を覆ってしまうマヤさん。
 何なの、いったい……ここはどこ、私は誰……
 やっと明るさに目が慣れておずおずと手をのけたマヤさんのところに、誰かが歩み寄ってきた。
 ハッとして横を見る。
 そこにいたのは、急病で休んでいたはずの本来の司会者……総務課の長沢さんだった。

「おめでとうございましたー」

 先程のマヤさんに負けないほどの明るい笑顔で、開口一番彼女はそう言った。
 そしてマヤさんの肩を押すようにして一緒に歩いていく。
 どうして……私、歩いてるの? 何のために……
 何が何だかわからないままに、マヤさんは舞台中央まで来ていた。
 会場から大きなマヤさんコールが湧き起こっていた。

「どうですか、今の感想は?」

 長沢さんはそう言ってマヤさんの方にマイクを差し出した。
 しかし、聞けば聞くほど彼女の声はマヤさんにそっくりである。
 きっと同じ人がアフレコをしているのであろう。

「……感想って……あの……」

 マヤさんの頭の中は真っ白だった。
 まるで思考言語を突然ニャントロ語にフィックスされたかのように。
 いや、考える、という行為自体を失っていた。

「……あの……何のことですか……」

 暫しの時間をおいてから、マヤさんはやっとの事でそれだけの言葉を絞り出した。
 見ていて可哀想なくらいにうろたえながら。
 そんなマヤさんの横で長沢さんは相変わらずニコニコと笑っている。
 彼女には何の裏心もないようだった。

「何って、優勝ですよ。おめでとうございます」
「……でも、私……司会者……」
「司会者もコンテスト参加者の一人でしょ?」
「……司会者……参加者……」

 マヤさんにはそれが何のことかわからなかった。
 司会者も、参加者? 何故? どういうこと?
 そんなこと、台本のどこに書いてあったの?
 今日の仕事をする代わりに、何度も読んだはずなのに……

 しかし、マヤさんが知らないのは当然だ。
 そのことが書かれたページをリツコが台本からそっと抜き取ってしまったのだから。

「ネコ耳もちゃんと付けてらっしゃるじゃないですか、ほら」
「……ネコ耳……」

 長沢さんはマヤさんの黄色いネコ耳をつんつんとつついた。
 しかしマヤさんはうわ言のように長沢さんの言葉を繰り返すだけだった。
 完全に意識が飛んでしまっている。
 まるで狐につままれたかのように。
 (そう、金の女狐につままれたのである)

「司会者だけ、ネコの演技をしなくていいんです」
「…………」
「でも、さっきやっちゃいましたね。結構イケてましたよ」
「…………」

 にこやかな笑顔でマヤさんにそう告げる長沢さん。
 だがマヤさんはもう何も言えなかった。
 もうすっかり放心状態だ。

「感激のあまり言葉を失ってらっしゃるようですね。ではとりあえず、表彰状とトロフィー、並びに副賞の授与に参りたいと思いまーす」

 長沢さんはマヤさんが言うはずだった台詞をそっくりそのまま言っていた。
 まるで、本来の司会者のように。
 いや、マヤさんに渡された台本でもそうなっていたはずだ。
 それをわざわざ二本線で消して書き直したのだから。

「表彰状、優勝、伊吹マヤ殿。あなたは第1回NERVネコ耳コンテストに於いて、頭書の成績を……」

 目が点になっているマヤさんの前で、総務課長が表彰状を読み上げる。
 そしてトロフィーと副賞の目録の授与。マヤさんは無意識のままにそれらを受け取っていた。
 高校の時、卒業生総代で卒業証書を受け取ったときの練習が実ったのだろうか。

「では、グランプリの証であります黄金のネコ耳『絢(あや)』の授与です。プレゼンターはネコ耳の権威、赤木博士でーす」

 長沢さんの声と共に、実況席から駆けつけたリツコが舞台袖から現れた。
 その手には先程の長沢さんの言葉どおり、金色に輝くネコ耳付きカチューシャが握られている。
 しかし、どう見ても普通のネコ耳にスプレーがけしただけとしか思えない安っぽい出来ばえであった。

「おめでとう、マヤ」
「…………」

 マヤさんはリツコが声をかけても、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
 リツコはマヤさんが付けていた黄色いネコ耳を外すと、手にした黄金のネコ耳をしっかりとマヤさんの頭に装着した。
 それはまるでマヤさんのために作ったかのように(たぶんそうだが)、ぴったりフィットしていた。
 それを見てリツコは満足げに頷いている。
 一見悪趣味な金色のネコ耳も、マヤさんが付けると妙に似合うから不思議だ。作者も思わず頷きたくなる。

「おめでとうございましたー。見事グランプリを獲得された伊吹マヤさんに、皆さま大きな拍手をお送り下さいー」

 長沢さんの声と共に、再び会場を包む大きな拍手と歓声。
 だが、それらはマヤさんの耳に微塵も届いていないのだった。
 マヤさんの頭の中はまだ『?』マークで埋め尽くされていた。

「それではこれにて、第1回NERVネコ耳コンテストを終了いたします。皆さま最後までご観覧いただき、どうもありがとうございました。第2回をお楽しみにー」

 会場に流れるエンディングの音楽。(ただし「FLY ME TO THE MOON」ではない)
 すっかり司会者になってしまった長沢さんのさよならの挨拶と共に、緞帳が降りていく。
 茫然自失のマヤさんを舞台の上に残したまま。



「ああ、もうっ! 腹が立つわねっ!」

 アスカは怒っていた。心の底から。そして力任せに更衣室のドアを蹴っ飛ばす。
 しかし鉄製のドアはビクともしない。へこみもしない。
 足の痛いのを隠しながら、アスカはずんずんと歩き始めた。
 アスカが着替え終わるのを女子更衣室の前で待っていたシンジは慌てて後を付いていく。

「ア、アスカ、待ってよ」
「うっさい! 付いて来ないでよ!」

 アスカはそう言いながら振り向きもしないで廊下を大股で歩いていった。
 肩で風を切るようにして。

「でも、副賞もらいに行かなきゃ……」

 あまりの剣幕に押されて立ち止まっていたシンジが後ろからぼそっと声をかける。
 受賞者は総務部に副賞を取りに来るように言われているのだ。
 目録はもらったが、あれは熨斗袋だけで中には何も入ってなかったから。
 ま、鰹節やネコ缶など、あんなところに入るわけもないことだし。

「いらないわよ、あんな下らない物!」

 アスカはそう言い放つと、足早にその場を立ち去っていった。
 優勝できなかったこともあるが、それよりシンジに負けたことの方がショックだったのだろう。
 はっきり言って、シンクロテストでシンジに負けたときより機嫌が悪そうだ。
 触らぬ神に祟りなし。シンジはいつもの経験から、これ以上声をかけないことにした。
 一緒に帰るから待ってろと言ってたのはアスカだけど、まあいいか……
 そう思ってシンジが大きくため息をついて肩を落としたとき、更衣室からレイが出てきた。

「あ、綾波……」
「…………」

 シンジが人の気配を感じて振り返ると、真後ろにレイが立っていた。
 そして何も言わずシンジの方を見つめている。
 制服に着替えたというのに、まだネコ耳を付けたままだ。よほど気に入ったのだろうか。

 そうだ、綾波と一緒に行こう。
 シンジはそう思ってレイに声をかけた。

「あの……副賞、取りに行こうか……」
「…………」

 レイは頷いた。しかし、何も言わない。
 黙ってシンジの顔を見たままだ。

「えっと……」

 シンジはまた話しかけようとしたが、何を話していいかわからなかったのでやめた。
 世間話の苦手なシンジであった。
 歩き出すと、レイが後から黙って付いてくる。
 そして二人は総務部に行くためにエレベータに乗った。

 つんつん

 エレベータのドアが閉まった途端にレイがシンジの腕をつついてきた。
 シンジは慌ててレイの方に振り返る。

「な、何?」

 先程の出場者控え室でのことを思い出して、少し赤くなりながらシンジは答えた。
 また何か頼まれるんだろうか……でも、綾波は今は制服着てるし……
 とりあえず、さっきみたいな無茶なことは頼まれないだろう。
 シンジはそう思って少し安心してレイの言葉を待った。(油断大敵)

「碇くん……」
「う、うん」
「キャットフード……」
「あ……」

 そうか、綾波もキャットフードもらってもしょうがないんだよな。
 ネコ飼ってるわけでもないし……
 その相談でもされるんだろうか。でも、どうしたらいいんだろう。何か他のと替えてもらえるのかな。
 僕もわからないから総務の人にきいてみよう。
 シンジがそう考えたときだった。

「どうやって食べればいいの?」
「へ?」

 シンジは一瞬、頭の中が真っ白になった。
 何なんだ、いったい……
 その時のシンジの顔は、先程の驚いたマヤさんの表情に驚くほどよく似ていた。
 まあ、しょうがない。キャラデザインした人の責任だ。髪型以外はパーツがほとんど一緒なんだから。

「あの……キャットフードは人間は食べられないと思うよ……」
「そう……」

 シンジは言ってしまってから別のことに気付いて考え直す。

「あ、でも、今時のキャットフードは高級な肉を使ってるらしいから、もしかしたら食べられないことはないかも……」
「そう……」

 しかし、またまた別のことに気付いてしまうシンジ。
 どこか少し抜けている。
 考えをまとめてからしゃべるのに慣れてないのだ。

「あ、綾波は肉は食べられないんだったっけ。じゃあやっぱりだめだね、残念だけど……」
「そう……」

 レイはそれを聞いてちょっと首を傾げた。
 ほんとに、残念だったね。鰹節の方がまだ良かったかな。
 あ、あれも動物性食品か。だったら、もしかしたら食べられないのかも。
 シンジがあれこれ考えていると、レイがじっとシンジの方を見ながら再び口を開く。

「なら、碇くんに、あげる……」
「あ、うん……」

 うちにもネコはいないけど、ミサトさんのビールのおつまみくらいにはなるかも。
 コンビーフだって言っとこう。あの味覚だ、どうせ気付きゃしないだろう。
 シンジが真剣にそう考えたその時だった。

「その代わり……」
「え?」

 レイから一瞬目を逸らしていたシンジは、慌ててレイの方に向き直った。
 真剣な目をしながらレイはシンジに言う。

「碇くんの副賞、欲しい……」
「あ、でも……」

 欲しいって言われても、僕もキャットフードよりは、温泉の方が……
 以前、使徒を倒したついでに温泉に行ったときから、すっかり温泉好きになってしまったシンジはそう思った。
 綾波はあの時行けなかったから、行きたいのかも……いや、でもなぁ……
 僕だってたまにはミサトさんとアスカの世話を離れて一人のんびりと……
 どうしようかシンジが考え込んでいると、レイがまた小さな声で言う。

「半分だけ……」
「は、半分って……」

 一泊二日だから、一日分? 先の日かな、後の日かな……
 そんなとぼけたことをシンジは考えていたが、チン、と音がしてエレベータの扉が開いたときに、シンジの頭の中でもチン、と音が鳴った。
 そしてレイが何を言っているかようやく気付いた。
 ま、まさか……

「あの、綾波……半分ってことは……その……」
「…………」

 レイは無言で頷いた。
 呆然とその場に立ち尽くすシンジ。
 二人は固まったようにその場でしばらく動かなくなった。
 あんまり長く動かなかったので、エレベータの扉も閉まってしまった。
 いったいシンジは何に驚いているのだろう? 読者の皆さん、おわかりになります?

 じゃ、ヒント。
 シンジのもらった箱根湯本温泉一泊二日の旅は、ペア宿泊券だったのである。



 以下、余談。
 コンテスト出場者が去った更衣室では、ロッカーの一つがボコボコに壊されていたということだ。
 犯人は……言わなくても誰だかわかるでしょう。前科があるし……



 翌日。

 マヤさんの朝は遅い。今日に限って。
 そう、今日はマヤさんは遅番なのである。
 時計の針が8時を回っていても、マヤさんはベッドの上にうつ伏せになったままピクリとも動かなかった。
 顔を横に向けてすやすやと眠っている。枕をぬいぐるみのように抱きかかえながら。
 その表情はまるで夢見る子供のように可愛らしかった。

 ちなみにマヤさんの寝姿はというと、ELLEのTシャツにホットパンツ。
 そう、昨日出勤したときの服そのままである。
 つまり、帰って来たままベッドに突っ伏して、そのまま寝てしまったのだ。
 おかげでカーテンも開いたまま。朝の光がマヤさんの背中に降り注いでいる。
 その日射しも少しずつ熱くなっているのだが、マヤさんは気付きもせずに眠り続けていた。

 マヤさんが眠っている間に昨晩のことをちょっと説明しておこう。
 コンテストの後、優勝祝賀会と称する部の宴会にマヤさんは引っぱり出された。
 閉会後1時間経ってもまだ理性が戻らないマヤさんは、断ることもできないままに飲み屋に連れて行かれていた。
 そしてみんなが注いでくれるビールを、無意識のうちに飲み干していた。
 結構いける口なのである。

 そんなマヤさんが家に帰り着いたのは午前2時を回った頃。
 二次会、三次会でも機械的にグラスを空けているうちにさすがに酔っぱらってしまい、誰かの車で家に連れてきてもらったようだ。
 (もちろん、飲酒運転だが、某女性の運転ほど危なくはなかった)
 だから、マヤさんも起きたら自分がどうやって帰ったのか憶えてないだろう。
 ドアを開けた記憶だってないに違いない。
 鍵を閉めたのも、部屋の電気を点けたのも、エアコンのスイッチを入れたのも、みんな日頃の習慣によるものだった。

 もちろん、昨晩はお風呂にだって入ってない。
 寝室に入った途端、『バタンキュー』だったのだ。
 パジャマに着替える暇さえなかった。
 ホットパンツの前ボタンをはずして、ジッパーを下ろしかけたところで眠りに落ちてしまっている。
 寝返りを打ったせいでTシャツの裾がはだけかけていた。(註:想像してはいけません)
 ただ、うつ伏せに寝ているので、辛うじて醜態をさらさずにいた。

 時計の針は進む。
 1時間ほどして、マヤさんはようやくピクリと身体を震わせた。
 ちょうど、窓から射し込む光が顔の辺りに当たっていた。
 睫毛がふるふると震える。目元が少し険しくなった。声にならない息が口から漏れる。
 もそもそっ、と顔が動いた。無意識のうちに眩しさを避けようとする。
 顔を反対側に向けて、再びマヤさんは眠りに落ちた。安らかな表情に戻って。

 このままマヤさんの寝相を観察するのも面白そうだが、そうもいかない状況になってきている。
 何しろ、前回でマヤさんの運命が決まっているはずなのに、作者の失態によりここまで引っ張ってしまったのだから。
 そういう訳で、もう少し時間を早送りしてみよう。
 マヤさんが起きるのはこの後更に1時間後のことであった。
 その間にいくつか幸せそうな寝言を言ったのだが、それは残念ながら割愛させていただく。

 目覚まし時計は鳴らない。鳴るはずがない。昨晩セットしてないのだから。
 それでもマヤさんは起きた。体内時計が働いているのか、それとも充分睡眠をとれたからか。
 そうっと薄目を開く。それから二度ほど瞬きをした。
 再び目は閉じられたが、約十秒後、ふみゅ、と仔猫のように一声鳴いてからゆるゆると身体を起こす。
 そのままベッドの上にペタリと座り込む。まだ目は閉じたままだ。
 それから両手の指を絡めて腕を突き上げ、大きく伸びをした。また眠たげに声を漏らす。(ちょっと色っぽかった)
 その手を下ろし、ネコ手になって目をこする。それからようやく両目を見開いた。まだ少しとろんとしている。

 しばらくじっとしていてから、おもむろにキョロキョロと辺りを見回す。
 いつもと違う目覚めに違和感を覚えたのだろう。考えるかのようにほんの少しだけ首を傾げた。
 NERVに持っていく鞄がベッドの横に転がっているのを見て、ようやく昨日のことを思い出す。

(そうか……昨日は、飲み会に連れて行かれたのね……どうやって帰ったんだろ)

 ほら、憶えてなかった。
 それでもマヤさんは色々と考えを巡らせる。

(昨日のこと……ネコ耳コンテスト……あれ、夢だったのかなぁ……夢だったらいいのに……)

 しかし、不意にベッドの上に目を落としたマヤさんは、現実を認識する。
 枕の向こうに、昨日もらった金色のネコ耳が転がっていた。
 眠っている間に外れたらしい。
 やっぱり……夢じゃ、なかった……
 ちょっとしゅんとするマヤさんだった。

 そろそろ起きなきゃ……
 何だか頭が重い。二日酔いかしら。昨日、たくさん飲まされたような気がする。
 でも、頭が痛くないから、まだいいか。
 ……そう言えば、昨日はお風呂にも入ってなかったのね。
 シャワー浴びなきゃ……ふわ……まだ眠い……

 マヤさんはもう一度だけ伸びをすると、ゆっくりとベッドから降りた。
 その時になって、ようやく着替えてもいなかったことに気付いた。
 ……Tシャツ、お酒臭くなってるかなぁ。洗濯しなきゃ……

 まだ少し寝惚け眼でバスルームの前に立つ。
 全自動洗濯機の蓋を開けて、服を脱ぎかけたところで、マヤさんは動きを止めた。
 ……まだ頭が重い。髪の毛、跳ねてるのかなぁ……
 そんなことを考えながら、マヤさんが洗面所の鏡を覗き込んだ、その時だった。

(……何、これ?)

 髪の毛が大きく跳ねている……これじゃまるでネコの耳みたい。
 マヤさんは鏡を見ながらその部分を手で撫で付けようとした。

 ふにっ

 それは髪の毛とは思えない、変な感触がした。

(……何、これ?)

 ふにっ、ふにっ

 マヤさんはその部分を撫で撫でと触り続けた。
 ……ネコ耳、はずし忘れた? ううん、さっき、ベッドの上にあったの、見たもの。
 でも、飲み会の時に、2つ付けさせられたとか……最初に付けてたのと、後でもらったのと……
 マヤさんはそんなことを考えて、そのネコ耳らしきものを引っ張ろうとした。

 ふにっ

 そのネコ耳ははずれなかった。
 しかも、単なるネコ耳ではない。ほんとに自分の耳を引っ張っているような、そんな気がする。
 でも、耳はちゃんと顔の横に付いてる……手で触って確かめてみた。うん、間違いないわ。

 それからもう一度ネコ耳を触ってみる。何、これ……
 ふわふわした毛の感触。ネコ耳カチューシャにしては、よくできすぎてる。
 まるで、本物みたい……え? 頭にくっついてる? じゃあ、これって、まさか……

「いやああぁぁーーっっ!!! 何、これえぇーっ!!!」

 朝のマンションに、マヤさんの爽やかな悲鳴が響きわたった……



シャワーシーンを期待した方、残念でした。(笑)
次回、遂にネコ耳なマヤさんの新生活が!


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。

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Written by A.S.A.I. in the site Artificial Soul: Ayanamic Illusions