歯科医、再び 



 

※ このお話は、98年8月19日に公開したお話の続きになってます。








 「おはよー、シンジ君。どぉ、まだ痛む?」

 「あ、ミサトさん、おはようございます。おかげでだいぶ楽になったみたいです。」


 朝のキッチンでは、シンジがいつもどおり朝食の準備をしている。

 歯の激痛も和らいで、シンジにもようやく普段の笑みが戻ってきていた。


 「そっ、良かったわねぇ。」

 「昨日はお休みだったのに、すみませんでした。」

 「あー、いいのよ、そんな事。・・そうじゃなくってぇ、担当が愛しのレイで良かったわねって事。」

 「は?」

 「ほんとはねぇ、リツコがあそこのドクターなのよ。」


 シンジ、何かしら想像。

 ・・・・・

 ・・・・・

 そして背筋に悪寒。


 「だけどぉ、リツコは休診中だったのよね。ま、レイもいい腕してるから心配いらないわよん。」

 「は、はぁ・・・そうなんですか・・」

 「あら〜、もしかしてリツコの方が良かったかしら?・・・なんなら担当変えてもらおっか?」

 「い、いえっ、結構です!」

 「そぉ?2度と通わなくて済む治療してくれんのよ?」


 ミサトの顔が怪しく歪む。


 「ほ、ほんとに結構です!綾波の方がいいですから!」

 「なーんだ、つまんないの。」


 『冗談じゃない!殺されてたまるか!』


 シンジ、心の叫びである。

 ま、多分どっちでもあんまり変わらないと思うのだが・・・









 通院2日目、既にこの建物が悪魔の館に見え始めている。

 玄関をくぐる足取りも重い。


 「あ、あの、お、おはようございます・・」


 受付に行くと、アスカではなくマヤがいた。


 「あ、おはよ、シンジ君。今日からよろしくね♪」

 「・・・はぁ。」


 『・・・僕に愛想振りまいて何の得があるんだろう?』


 シンジ、ちょっと引いてたりする。


 「じゃ、時間だから早速歯磨きのレクチャーしてあげる。私についてきてね(にこっ)」

 「あ、はい。」


 マヤは受付の椅子から立ち上がる。


 『ぶっ!!』


 明らかに誰かの趣味としか思えない、ちょーミニの白衣。  <僕の趣味ではありません。

 しかも、なぜか生足だったりなんかする。  <これは事実です。趣味ではありません。


 「ね、どーしたの?早くいらっしゃい。」


 そう言いながら振り返ったマヤが、シンジの視線に気づく。


 「・・あー!もう、やーらしぃんだぁ。ふふっ♪」

 「いっ、そっ・・ちが・・あのっ!・・・」


 シンジ、何が言いたいんだか、よく分かんなかったりなんかする。


 「えへへ、これね、先輩とお揃いなの♪(いやんいやん)」


 シンジの前で可愛らしさアピールしてどうするんだ、マヤさん。


 『・・・お、お揃いって、リツコさんも同じ格好してるの・・?』


 「そ、そうなんですか・・・」

 「ね、似合ってるかしら?」


 マヤさん、なんだか嬉しそうに、その場でくるっと一回転して見せる。


 「!!・・え、ええ、とってもよく似合ってると思います!」

 「よかったぁ。似合わないなんて言われたらどうしようかと思っちゃった(てへっ)」


 『・・・その純白のほうがですけど・・・』

 今、シンジの頭の中は白衣じゃない白でいっぱいだった。









 「じゃ、はじめるわね。まずはこう持って・・」


 必要以上にシンジに近づいて説明を始めるマヤさん。

 なんだか甘ったるい匂いと、ちらちら見える白い胸元にシンジの視線は釘付けだったりする。

 座ってるのに立ってるシンジは、説明なんて聞いちゃいない。 <しつこいですが僕はこんな外道ではありません。


 「・・・・・・って感じかな。・・・シンジ君?」

 「・・・ふぅ・・・・・・・おぉぉ、・・眩しい白・・・」

 「ちょっと、シンジ君ってば?」

 「・・・うわわわ!!は、はい、なんでしょう!?」

 「今のでだいたい説明は終わったんだけど・・ちゃんと聞いてた?」

 「は、はい!」

 「ふーん・・・じゃあ、眩しい白ってなあに?」

 「そそそそ、それは・・・歯・・・・そう、歯です!眩しい白の歯が目標!なんて・・は、ははは・・・」


 ・・・くどいようですが、この部分はフィクションです。


 「・・ま、いっか。じゃあ実践よ。教えたとおりに動かしてみてね。」


 マヤは歯の模型と歯ブラシをシンジに渡す。


 「え・・・っと、・・・・ごめんなさい。・・・その・・良く聞いてなくて・・だから・・」


 マヤさん、突然目がウルウルし始める。


 「・・・あ、あはは・・・いいの、シンジ君・・・私の教えかたがいけないのよね・・・」

 「ち、違います!そ、その・・・」

 「ううん・・・これも仕事だから・・・シンジ君が分かるまで何度でも教えるからね。」


 さすがにシンジも、今度は真面目に聞くのであった。









 のんびりやってきたアスカは、受付で退屈そうに雑誌なんか眺めてたりする。

 が、暇なものは暇だ。

 退屈しのぎに、歯磨き教室の声をドアに耳をあてて聞いてみる。



 『じゃあ、普段やってるように動かしてみて?』

 『はい・・・・・・こうですけど・・』

 『だめよ、そんなに乱暴じゃ・・・教えてあげるね。』

 『はぁ・・お願いします。』

 『ゆっくり、こう・・・』

 『こ、こんな感じですか?』

 『焦っちゃだめよ・・・そう・・・ゆっくりね。』

 『ゆっくり・・・』

 『奥まで・・・そう、いい感じよ。』

 『はい・・』



 「むぅー、なんか、やらしいわね・・」


 もちろん、歯磨きの指導をしているという事くらい、アスカも知っているがのだが・・






 そうこうしながら約20分、指導を受け終えたシンジが待合室に戻ってきた。


 「それじゃシンジ君、明日もよろしくね♪」


 マヤは役目を終えて、本部へと帰っていった。

 と、それが終わるのを見計らったように治療室の扉が開く。


 「おはよう・・碇君。」


 相変わらずその短い白衣が怪しげだ。


 「お、おはよう、綾波。」

 「・・・磨き方、聞いた?」

 「うん。」

 「そう・・・よかったわね。」

 「で、今日はどうするの?」

 「先にレントゲン撮るわ・・こっちにきて。」

 「うん。」









 治療室の隣にある、ひんやりとした薄暗い部屋。

 シンジは椅子に座らされると、なにやら堅いガムのようなものをくわえさせられる。


 「これ、固定するものだから・・動かさないで軽く噛んで・・」

 「あう。(うん)」


 早くそれを取って欲しかった。

 実は、悲しくもないのにちょっとこみ上げてくるものがあったりなんかする。


 「じゃ、撮るから。・・・・動かないでね。」

 返事をしようとしたが、上手く喋ることができないので、うんうんと頷いてみる。


 「・・・動かないでって言ってるでしょ・・・わざとやってるの?」


 昨日に引き続き、レイの瞳に怒りの炎が・・


 「が、がああ・・ (ご、ごめん)」

 「・・・・・・じゃ、撮るわね。」


 機械の小さな音が一瞬聞こえただけで、撮影は終わったようだ。


 「あと、昨日の続きするから・・・」

 「う、うん。」




 昨日と同じ診療台に大人しく座ってみるものの、やはり嫌なものだ。

 絶対に慣れるなんてことはないだろうなぁ、と思う。別に慣れたいとも思わないだろうけど。

 それよりも、恐ろしいことが一つ。


 『まさか、また物騒な事、言わないよね・・』


 よく見ると、零号機(備え付けのアーム)のカラーリングが、前日のオレンジからブルーに変わってたりする。

 結構芸が細かい。


 『・・・う、嘘でしょ・・』






 そんなシンジのささやかな願いも、数分後、無惨に散った。









 「碇君、これ、レントゲンの結果。」

 「あ・・・で、どうだったのかな・・?」

 「・・・聞きたい?」


 『聞きたい?・・って、普通教えてくれるんじゃないの?』

 「あ・・うん。」


 しっかり返事しちゃうところがシンジなのであった。


 「・・・雑菌に侵入を許してるのがかなり多いわ・・」

 「え?」

 「殲滅には相当日数を必要とするの。」

 「そ、そんなに酷いの?」

 「ええ・・・。」

 「ど、どのくらい通わなくちゃいけないの?」

 「・・・最低で2年・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 レイの顔に、ゲンドウ顔負けの怪しい笑みが浮かぶ。

 対照的にシンジ、絶句。

 そしてとどめ。


 「碇君・・・逃げないでね・・」

 「・・わ、分かってるよ・・」

 「逃げても無駄だから・・・それじゃ。(ニヤッ)」


 すたすたと去っていくレイの後ろ姿を、シンジはまだ呆然としながら見送っていた。









 放心状態のまま待合室に戻ってきたシンジを、アスカが現実に呼び戻す。


 「シンジ!早く支払いしてよっ!」

 「あ・・ご、ごめん。」

 「今日は460円ね。」 <細かいですが、2回目診療のレシートを参考にしています。

 「うん・・・はい。」


 安いので今回はアスカに言われるがままの料金を素直に支払う。


 「毎度ぉ〜♪ これ痛み止めとうがい薬ね。」


 『治療代もらうのに毎度って言うかなぁ・・』 <実際に言われました。


 シンジの疑問をよそに、アスカは素早く身支度を整えると、シンジの背中を押しながら建物の外へと押しやる。


 「帰るわよ!」

 「・・・あ、・・うん。」

 「一段と暗いわねー。なんなのよ、さっきから!」

 「あ・・うん、それが・・さっき綾波に言われたんだけどさ・・・2年は通わなくちゃいけないらしくて・・その・・」

 「自業自得でしょ、そんなの!」

 「そりゃ、まあ・・・そう、・・なんだけど・・」

 「アンタまさか、たった2日で行くの止めた、とか言うんじゃないでしょーねっ!?」

 「ちゃんと行くよ・・・多分。」

 「ならいーけど。・・・あ、そうだ!一つ言うの忘れてたんだ!」

 「何?」


 アスカの顔にも、怪しい笑みが浮かぶ。


 「明日からアンタの担当、リツコだからね!」













 シンジは、ちょーミニで怪しい治療をするリツコを想像し、その場に昏倒した。





〜 つづ・・・かないと思う 〜






<あとがき>

 へんてこな読み物におつきあいくださってありがとうございました。

 そして、30000ヒット記念と言いつつ、随分おくれてしまった事、深くお詫びいたします。

 SSというより、掲示板のらくがきのようなノリになってしまってますが、最近書けない病に陥っておりまして、

 こんなもんしか出来ませんでした。本当にごめんなさい m(_ _)m

 あと、お願いですから、リツコさんがお好きな方、石投げないでくださいね。


 とにもかくにも、沢山の方にご来場頂いていることを、本当にありがたく、そして嬉しく思っております。

 投稿して下さっている皆様、ご来場下さっている皆様、そしてリンクして下さっている皆様、すべての皆様に

 お礼申し上げます。

 これに懲りず、ぜひこれからも当ページにおつきあいくださいませ。


 なお、歯医者さん編は終わりです、多分(^^;;





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一言、文句を言ってやる