歯科医・綾波レイ 外伝 伊吹マヤ編 


Written by みうみう

1998.12.XX






 注意  このお話は、夏から冬にかけて通っておりました歯医者の面々をモチーフにして掲載しました『歯科医・綾波レイ』

      シリーズの外伝です。

      一応キャラクターは流用しておりますが、先述のとおり実在の人物が基となっておりますので、言動その他に違和感が

      ありまくっております。あらかじめご了承下さいませ。








    PiPiPiPiPiPi・・・


    電子音のベルが起床時間を告げる。


    「・・・ふぁぁ・・・・・・・・・・・。」


    ここに誰もいないのを知っていても、欠伸は絶対にその小さな手で隠す。

    気がつかないうちにそれは習慣になってしまっているけれど、エチケットだから、と、むしろそれを良いことだと思う。

    小さな目覚ましを止め、ベッドから上半身を起こして両手を天に突き上げる。いつものポーズ。


    「・・・んん・・・・・・・・・・っふう。」


    可愛らしく息を吐き出すと、明るいチェック地のカーテンをさーっと開いた。

    暖色系統で彩られた室内に、眩しいほどの朝日が射し込む。

    ついでに、出かけるまでの僅かな時間、窓を開けておく。これも日課。


    「わぁ・・今日も良いお天気ねー。」


    ふわっと寝起きの髪を撫でた風に目を細め、心地よさそうに呟いた。

    しなやかな躰をくるっと室内に向け、にっこりと微笑む。


    「おはよう、みんな。(はぁと)」


    それは、所狭しと置かれているぬいぐるみに向けた朝の挨拶。これも日課。

    その大半が、誰の影響なのか猫だったりするのはご愛敬、と言ったところか。


    ちなみに、几帳面な彼女らしく、ちゃんと1匹ずつ名前があるのだ。

    ちなみついでに、昨夜彼女とベッドを共にしたラッキーな猫は、「しんじくん」だった。


    それはともかく。


    「おはようございます、先輩。」


    なぜか机の上の写真立ての中には、彼女の敬愛する金髪黒眉。

    先ほどよりも愛くるしい笑顔に見えるのは気のせいだろうか。



    ・・・・・いや、見なかったことにしよう。



    ご機嫌なのか、鼻歌混じりに少し大きめのパジャマを脱ぎ、いそいそとバスルームへ。


    彼女の朝はバスルームから始まる。



    絶え間無く続くシャワーの音。

    その白い肌に浴びせられる1滴1滴が、半眠りの細胞を覚醒させてくれる。


    「ふぅぅーーーー・・なんだか目覚めも良いのよね、これって。」


    朝のお風呂は美容と健康に良い、と、何かのTVか雑誌で見て以来、毎日かかさない大事な日課なのだ。


    シャワーを止め、湯船に体を浸してみる。


    「・・・・・毎日見てるけど・・もう少し大きくならないかなぁ・・。」



    ???何のことだか筆者にはさっぱり分からない。


    「気にしすぎるのは良くないって分かってるけど・・。」

    「高校のときからあまり変わってないから、気にしちゃうんだもん・・。」

    「だから受験生のポスターに使われちゃったりするのかな、あたしって・・。」



    ますます何のことだか分からない。

    とは言え、たとえ高校の受験生でも通用する容姿だとは思うが・・。


   (注意:ここで言うポスターとは、拙作の第3話で登場した医師国家資格受験案内のポスターのことです。

    ミニの制服姿で出ていただきました(笑))











    早々に風呂を済ませると、びしっと着替えを済ませて、まだ少しだけ濡れた髪を乾かしながらノートパソコンの電源を入れる。

    出勤前にお仕事か・・・と思いきや、メールチェックのようだ。実はこれも日課。

    しかしながら、その全てが開かれることはない。


    まずは、タイトルチェック。



    「・・・・これとこれと・・・これもそうね・・・・・・ぽいっ、と。」


    彼女の独断と偏見により、「不潔」と判断された大半のメールはごみ箱に入れられてしまうのだった。



    さて、無事に第一関門を通過したメールはどうやら5通。

    しかし、今日は大事なことを忘れて、その全てを開いてしまった。

    実は、そのうちの2通の宛先が怪しかった。


    「・・・いやーん・・・・・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・・。」


    1通は単なる広告だったのでごみ箱へ移したが、もう1通は最悪なことに不幸の手紙だった。


    どうしようかとしばらく逡巡した後・・。



    「きゃぁー、ごめんなさい、ごめんなさぁーい・・・・・・くすん・・・・・・。」


    うるうるした瞳で、日向、青葉、ミサトを宛名選択しつつ送信ボタンを押した。


    あまりに純真な彼女は、悪質なSPAMと知りつつも、誰かに送らなければ落ち着かないのであった。



    「ふぅ・・・・・・・もう、散々な朝ねぇ、嫌になっちゃう。・・・・・・ま、いっか。気を取り直して、っと。」


    この際、受取人のことは考えるのを止めたらしい。



    あっさり立ち直ると、残りの3通をチェック。

    送り主を見ると、2通は大学時代の女友達、もう1通が彼女の敬愛する上司。


    その2通には、コーヒー片手に凄い早さで返事を書き終えた。


    残りのもう1通を大事そうに開く。

    そう、大事なメールフレンド。職場だけでは物足りないのか、或いは・・・

    とにかく、彼女が必死にお願いして実現したメール交換。


    ・・・案の定、金髪黒眉。

    何度も読み返して、嬉しそうな笑顔全開。

    言葉を選びながら、ゆっくりと時間をかけて返事を書く。これもまた日課。


    たわいのない話でも、苦笑しつつ返事をしてくれるであろうその存在が何より嬉しい。

    一人っ子の彼女には、頼もしい姉のような存在なのだ。



    で、すっかりコーヒーが冷めてしまった頃、ようやく返事が完成した。


    「えーっと・・失礼なところ、ないかしら・・・。うん、大丈夫ね。」


    「郵便屋さん、先輩の所にちゃぁんと届けて下さいね♪」



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、この際、もう何も言うまい。



    送信ボタンを押して、ふと時計に目をやる。


    「きゃぁーっ、遅刻しちゃうっ!」



    毎朝、後10分早く起きれば、と思いつつもこの繰り返しで、目覚ましのアラームが修正されることはない。











    「らんららんらららんららら・・るるるんるるるん♪」


    すっかり覚えた最近流行の歌を歌いつつ、仕事へと向かう愛用の車内。

    控えめな彼女らしく、愛車は軽自動車である。

    彼女曰く

    「パワーはともかく、小回りが効くのが良いんですぅ♪」


    けれど、ほんとは可愛らしいパステルカラーに惹かれたから。

    とにもかくにも、今の彼女には大事な足であり、可愛いお友達なのだ。



    「えーっとぉ……今日は本部へ行く前に歯磨き指導があるのよね。んとんと……」


    熊さんのプリントされた手帳を開き、時間を確認。

    9時30分。そこにはしっかりとそう書いてある。

    今度は車内のデジタル時計をちらっと見た。



    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



    彼女は歌うのを止めた。

    代わりに、なぜか積んでるターボが、唸りを上げたご様子。











    1台の軽自動車が、その可愛らしい外見に似つかわしい爆音を轟かせて歯科医院に滑り込んだ。

    到着時刻、9時20分。


    「えとえと・・・・・・・あ、いっけない・・・・・・指導用のファイル置いてきちゃった・・・・・・どうしよう。」


    あと10分。

    白衣に着替えてぎりぎりの時間。


    「初日だもん、今日はブラッシングの基本だけで平気よね。持ち時間は20分だし。」

    「・・・・・・・・・・うん、きっとそうよ。」


    とっても前向きな彼女は自分を納得させると、颯爽と歯医者の通用口へ。


    今日からしばらく本部とここの掛け持ちになるが、愛する上司といっしょなのだから、気分はるんるんだったりする。


    「おはようございます♪」


    診療室裏の控え室には既にレイとリツコの姿。


    「おはよう、マヤ。」

    「・・・・・・・・・・・・伊吹二尉、もうすぐ時間よ・・・・・遅れないでね。」


    レイはすたすたとどっかに行ってしまった。


    が、そんなの伊吹二尉は見ちゃいない。もはやその愛くるしい視線は 『せんぱぁい♪』 なのだ。


    ふと、思い出したようにリツコが呟く。


    「・・・・・そう言えばマヤ、あなた今朝、また何かやらかしたわね?」


    リツコの氷のような視線。


    「え・・け、今朝ですか?・・えーっと・・特に何も無かったと思いますけれど。」

    「・・・嘘おっしゃい。」

    「ほんとうです、先輩。・・・ちょっと変わった事と言えば、指導用ファイルを忘れた事・・・・あっ!」


    口に手を当てて、恥ずかしそうに下を向く。


    「そう・・・・・まぁ、それは誰にでもあることだから、まだ良いわよ。」

    「は、はい・・・えっと、あとは・・・あ、不幸の手紙を貰っちゃって・・・・。」

    「そう・・・・それでどうしたの?」


    きらーん、と金髪黒眉の眼鏡が怪しく光る。



    「はい、青葉君と日向さんと葛城さんに出しちゃいましたぁ。(てへっ)」

    「・・・・・・・その3人から伝言よ。今日は生きて本部を出られると思わないでね、ですって。」

    「・・・・くすん・・・・・・・・・・ちゃんと3人に送ったのに、どうして不幸な目に遭うんですか・・・・・・・・教えて下さい、先輩。」



    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



    後に金髪黒眉は、意地でも教えたくなかった、と証言した。











    「すみませんでした、先輩…。」

    「謝るのは私じゃなくて、3人にでしょう?」

    「はい・・とにかく今は仕事ですので・・着替えて、指導行ってきます。」

    「そうね、みんなにも上手いこと伝えておくから、あなたは心配しないで。指導の方、しっかりね。」

    「はいっ!」


    気持ちが軽くなった彼女は、いそいそと着替えに向かった。



    「・・ふぅぅぅぅ・・」


    しかし、それもつかの間、ロッカールームで看護服を広げると、深ぁーいため息がもれてしまう。


    「このコスチューム、本当にどうにかならないかしら・・」


    そう、異常に短いスカート。ミニなのは何の意味があるのか。

    さらにはパンストまで禁止なのだ。

    これ以上の要求がきたら、もはや命令と言えども聞くまい、と彼女は心に誓うのであった。

    現に客の9割は男性なのだから、晒している側にしてみればたまったものではない。


    「これって治療と全然関係ない、過剰サービス・・・よね、絶対。」


    とは言っても、憧れの上司と同じ格好を許される唯一の場でもある。

    こんな格好は嫌いよ、と思いつつも、なぜかロッカーの鏡に向かってポーズをして、その場でくるっと1回転してみる。


    「・・ふ、不潔ですぅ・・」


    ちらっと捲れ上がった裾を抑え、彼女は自分に照れるのだった。











    「おはよう、シンジ君。今日から1週間、私が指導なの。よろしくね♪」

    「あ、はい、よろしくお願いします。」


    どうもシンジは下半身に視線が集中してるご様子。

    短いスカートから、すらっと伸びた脚が見えてるんだから、健康的な中学生なら当然の反応ではある。

    しかも生足だから、刺激も十分といったところだ。 <注意:ここは実話です。


    ・ ・あ、やっぱり下の方が気になってるみたい・・それはそうよね、こんな格好じゃ・・。

    てなことを彼女は思った。


    『でもでも、仕事だし、先輩とお揃いのコスチュームなんだもんっ!』


    そう言い聞かせて、シンジの前でくるっと1回転して見せた。


     「うふふ、これ、先輩とお揃いなの。どう?似合ってるかしら?」

     「ぶっ!・・は、はい!」


    シンジにしてみれば素晴らしいサービス以外の何物でもない(笑)



    その後、説明を受けたシンジが呟いたのは

    「はぁぁ・・し、しろ・・眩しい白・・。」

    の一言だった。


    その言葉の真意は筆者にも不明。シンジ君だけの秘密らしい。


    「ねぇ、シンジ君、白ってなぁに?」

    「いっ!・・いや、あ、あの・・そ、そうだ、眩しい白い歯が目標ってことで、は、ははは・・」


    「・・・・・・・・・・・・・そう?・・・ま、いっか。じゃあ、ちゃんと聞いてなくっちゃ、ね♪ 次はぁ・・」


    なぜか彼女は納得して説明を続け、そのまま持ち時間が終了した。


    ・・・ちっ!シンジ君、上手いこと逃げたな。

    (注意: 見えたことは事実ですが、実際はこんな言い訳はしておりません。)











 さてさて、本部で3人に絞られてしまった彼女は、重い足取りで帰宅した。

 それでもお風呂は欠かさない。


 「イヤなことは流して忘れちゃおーっと。」



 またしてもバスルームから鼻歌が響き渡る。



 そして、いつものように抱き枕ならぬ抱き猫を選ぶとベッドへと滑り込んだ。



 ・・・と、突然、がばっっ!とベッドから飛び起きる。



 「いっけない、忘れてたぁ!」



 ・・・うぃーーーん



 どうやらノートパソコンの電源を入れた様子。


 かたかたかたかた・・・



 「悪戯メール用」と書かれたフォルダが作られた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、中身は見ないでおこう。



 「これでよし・・・っと。」



 ぱたん、とパソコンを閉じると、再びベッドへ潜り込み、室内の照明が落ちた。










 こうして、今日もまた目覚ましがセットし直されることなく、更けていくのであった。




終わり






 あとがき


 すいません、自滅系で書くつもりじゃなかったのですけれど、こんな仕上がりになってしまいました。

 ってゆーか、そもそもマイナーなページでひっそりと書いてた歯医者ネタを知ってる方っていらっしゃるんでしょうか?(^_^;;)

 以前、自ページでの40000ヒット用にと途中まで書いてあったものを書き加えまして、ようやく完成いたしましたので、

 これだけを掲載します。

 ・・・って、ほんとにわたしゃアヤナミストなんかな?(笑)




呆れつつ戻る


哀れみながらメールを送る