『何を、望むの?』


















……無……


















『何を望むの?』












…無へ……無へと還るの…







『あなたは、何を望むの?』




無へと還るの…それが私の…望み…



『あなたは、何を望むの?』


…無へと還るの…それが私の…


『あなたは、何を望むの?』


……無へと還るの…それが……


『あなたは、何を望むの?』


………無へと還るの………


『あなたは、何を望むの?』


……無へと……


『そう?それがあなたの望みなの?』






………





『では、あなたは、何故泣いているの?』



…泣いている?…私が?


『自分の心を偽るのはおやめなさい』

私は泣かない…これが私の望みだもの

『あなたの魂は「消えたくない!」って叫んでいるわよ』

…あなた…誰?…どうして私は消えてしまわないの?

『私はあなたをここに導き、この魂の座を譲った女。
そしてそれがあなたが消えてしまわない理由でもあるわ』



Rei IV + Truth

This is another epilogue of "Rei IV", written by XXXs

電源が落ちて非常用照明に照らされたエントリープラグの中で、シンジは泣いていた。

LCL の中、止め処もなく涙が流れ出していた。

レイが零号機で自爆した時でさえ流さなかった涙が…。

その虚ろな瞳で宙を睨んだまま…。



綾波、どうしてだよ?どうして?どうして?

なぜなんだ?なんで綾波が消えちゃわなきゃならないんだよ!

解らないよ!なんでだよ!

消えないでって言ったのに…行かないでって言ったのに…

どうして、綾波、どうして…



そんな思いが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。


シンジはそうして、長い…長い時間、そのまま、ただ宙を見つめていた。


そのシンジの目の前の LCL 中に白いモヤのような物が現れ、凝縮していく。


だが輝きを失ったシンジの瞳にはそれは写っていても、心には届いていなかった…。




…あなたは…ユイさん?

『そう、シンジの母。そして今までこの初号機の魂だった者』

…そう…私…初号機の…コアの中にいるのね…

『あなたの予備のボディは全て失われてしまった。
失われたはずだった。
でも、あなたはリリスの分身。
そしてこの初号機はリリスのコピー。
予備は最後の一つが残っていたのよ。
このボディに魂が無ければ、あなたの魂はここに入る。
あなたの意思とは関係無しにね。
そして、記憶のコピーもここにある。
機体相互互換テストを延々とやっていてくれたおかげで、
それを行う事ができたわ』

…私に…まだ生きろと言うの?…道具として…

『レイ、あなたはもう用済みよ。道具としてはね』

それなら…どうして…

『…レイ…あの子の声が聞こえる?』

……碇くん?

『あの子、泣いているわ…あなたを失いたくなかったのよ』

でも…私は…

『あの子の心は、今、壊れてしまおうとしている』

でも…でも…私は…

『レイ、あの子を救ってあげて。
これは命令ではなくシンジの母親としてのお願い』

でも……でも……

『レイ、あなたは人として生きなさい。これから…。
あなたはもう、人としての幸せを求めてもいいのよ』

……私は……私は……

『シンジと一緒に暮らしたくない?』

…碇くんと…一緒に??

『あの子もそれを求めているわ』

…でも…私は…ヒトではない…碇くんと一緒には居られない…

『ヒトにしてあげるわよ』

…でも…でも…碇くん…私は…

『自分の心に素直になりなさい』

…私…私……碇くん…

『さ、あなたは、何を望むの?』

…碇くん…

『あなたは、何を、望むの?』

…私は…

『何を、望むの?』






……………………





…碇くん…





…碇くん…




…碇くん…



…碇くん…


…碇くん…


…碇くん…

…碇くん…










…私…


…碇くんと…



……一緒に……




………生きたい………





『お帰りなさい、あなたの帰るべき場所へ、あなたを待っている人の許へ』






シンジの前に現れた凝縮物はゆっくりとヒトの形を取ったかと思うと、次の瞬間、瞬時にして見馴れた人の姿を成した。

それまで呆然とそれを眺めていたシンジはハッと我に返る。

「!!あっ…綾波ぃっ!!」

インテリアシートに座ったシンジの目の前には、左手側をシンジに向け、仰向けに浮かぶ白いレイの裸体が有った。

「あああ…あや…なみ…」

ゆっくりと沈んで行くその身体をシンジは両手で受け止め、左手で膝の裏を支え、右手でその身体を抱く。

レイは穏やかな表情で目をつむっているが、はたして生きているのか?

震える手で脈を診るのももどかしく、シンジは思わずレイのその柔かな胸に自分の耳を押し当てていた。

トクッ…トクッ…トクッ…

暖かな体温と、静かだが確かな鼓動と同時に緩やかな呼吸に胸が上下するのを感じると、シンジはホッとしてそのままレイを抱く腕の力を強める。

(生きてる…生きてる…生きてる…綾波は…生きてる…)

シンジは、また涙を流していた。

今度は、嬉しさの涙を…。


その時、シンジは自分の髪に触れる物に気付き、ハッと顔を上げる。

そこには紅い瞳でシンジを見つめるレイの顔があった。

レイは自分の胸に顔を埋めるシンジの髪に、その右手で慈しむように触れていた。

シンジは一瞬躊躇するが、恐る恐る言葉を絞り出す。

「あの…綾波…だよね?」

その問い掛けにレイは視線を落とし、目を逸らすと、小さな声で途切れ途切れに言う。

「…碇くん…私…ここに…居ても…いいの?…私………4人目…なのに…」

だが、そんなレイの質問すら、シンジには嬉しかった。

(…なんだ、やっぱり、綾波じゃないか。帰って来たんだ…帰って…)

ホッとしてそう思うと、自然に笑みがこぼれるシンジだった。

「ここに…居て欲しいんだ…ぼくのそばに…」

「でも…私は…」

「綾波は、一人だけだよ。
 ぼくにとっての綾波は、きみ一人だけなんだ。
 容れ物が何人目だろうと、きみの心は一つだけなんだろ?
 なら、それでいいじゃないか」

シンジは理解していた。なぜレイがここにこうやって戻って来たのか…。

(そうか…母さんが…ありがとう…母さん………さようなら…)

「それに、ぼくだって、一度初号機に再生されてるからね。
 だからぼくも身体は2人目だけど、ぼくは、ぼくだろ?
 だから、綾波も、綾波だよ」

「碇くん…」

「きみにそばに居て欲しい。きみの温もりを、きみの全てを感じていたい。
 ぼくは…判ったんだ…ぼくは…きみの事…好きなんだ…。
 だから、そばに居てよ…。
 お願い、どこかへ行っちゃうなんて、消えちゃうなんて、やめて…」

最後は涙声になっている。

「…好き…?…碇くん…私の事…好き?」

「…うん…好きなんだ…」

「私も…碇くんの事…好きなの?…この気持ち…
 碇くんのそばに居たい…碇くんの温もりを感じていたい…
 碇くんの全てを感じていたい…
 これが…好きということ?」

レイは、ついに、その言葉を、見つけた…。

「…私…碇くんの事が…好き…」

「…ありがとう…綾波…」


しばらくそのまま見つめ合っていたふたりだったが、その時通信が回復する。

『(ザッ)ジくん?…シンジくん?聞こえる?応答して!』

「ミサトさん!」

『シンジくん!…良かった…無事だったのね』

「…みんなは…みんなは無事だったんですか?アスカは?」

『みんな無事よ、アスカもね。
 …ところで、シンちゃん、なんでそこにレイが居るの?
 しかも裸で』

「えっ!!…あっ、いや、これは、違うんです。その…」

『ま、いいわ。今、回収班を向かわせるから上がってらっしゃい。
 レイが着る物も用意させるわ』

「…ミサトさん…」

『なに?シンちゃん?』

「綾波が…ぼくのこと…好きって言ってくれました」

おやっ、という表情になるミサト。

(そう…言葉を見つけたのね…レイ…)

『そう、レイ…シンちゃんはなんて?』

「はい…碇くんも私を…好きだと言ってくれました」

『よかったわね、レイ。幸せね…』

「しあわ…せ?」

『そう、幸せ。今のあなたの気持ちをそう呼ぶのよ』

「そう…これが…幸せということ…」

そう言うとレイはシンジに持たれかかる…。

「ちょっと、綾波、そんなにくっつかないで…」

「どうして?」

「だって、綾波、裸じゃないか…」

「私は構わないわ」

「ぼくが構うんだよ。お願いだから」

「碇くん…私の温もりを感じていたい、私の全てを感じていたいって言ったのは、
 嘘だったの?」

悲しげなレイの表情に慌てるシンジ。

「うっ、嘘じゃないよ!!ほんとだよ!!だけど…」

『ひゅ〜っ!シンちゃん、なかなか言うわね〜』

「ああっ、ミサトさん、聞いてたんですか、今の?!」

『発令所中がね』

「はぅっ!!」

『アタシも聞いてたわよ。バカシンジ!』

「あっアスカ!!そっ、その…回復したんだ。よかったね」

『な〜んか、気がついたらエヴァに乗らされてるし、何がなんだか解らないうちに
 何もかも終わっちゃってるし、アンタとファーストはよろしくやってるし。
 アタシって、何なのよ!!まったく、バカにしてるわ!!信じらんない!!』



ありがとう…碇司令…

…私に生をくれて…


ありがとう…ユイさん…

…私に希望をくれて…


ありがとう…私と碇くんを出逢わせてくれて…


ありがとう…葛城三佐…

…私に温もりを教えてくれて…


そして…ありがとう…赤木博士…



私は…生きる希望を見つけた…


私に…温もりをくれる人…


私に…絆をくれた人……



それは…碇くん…




あなたは…私の…望む…全て…




…ありがとう……碇くん……私をくれて…






………碇くん………









……好き……












…END…



あとがき
や〜、理屈っぽいねぇ…。
結局、形は少しばかり違うものの、『エヴァ+』になってしまった…。
自分にとっての真実は、ただひとつだということか…。
などと書くとかっこいいが、実は単に想像力が足りないだけなのかも…(^_^;)。

ええっと、これは何かと言うと『Rei IV』最終日直後に、あまりの切なさに自己補完の為に書いていたテキストです。
いろいろ伏線が張られたままだったし、エピローグにまだ希望があると信じて、このテキストを心の支えに、その時を待っていたのです。

結果は、皆さんご存じの通り、大団円(おめでと〜!パチパチパチ!!^_^)。

で、せっかく書いたからという事で、A.S.A.I.さんへ送ったところ、ほとぼりが冷めた頃に公開しましょうか、と言う話になって、ここに至るわけです。
細かいチューニングはしていますがほぼ原文のまま公開します。
A.S.A.I.さんオリジナルのクオリティには遠く及びませんが(^_^;)。

ちなみにタイトルの「Truth」は『Truth→真実→シンジ2』の意です(くだらなくってすみません^_^;;;)。

ぜひ、あなたの感想をこちらまで>[ xxxs@kiwi.ifnet.or.jp ]


『Rei IV』最終日の展開にショックを受けたXXXsさんが、自己補完(現実逃避?)のためにお書きになりました。
もしあのままで終わっていたら、これを真のエンディングと思い続ける覚悟だったとか……(^_^;)
しかし、エピローグが「(^_^)」だったので、しばらくお蔵入り。頃合いを見計らって公開ということになりました。
それにしても、コアになる部分は驚くほどよく似てる……やはりみんな考えることは同じだった(^_^;)
しかもこちらの方がオチが付いてるし、本物よりかなりイケてますよね(^_^;;)

Written by XXXs thanx!
感想をXXXsさん<xxxs@kiwi.ifnet.or.jp>へ……


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