新世紀 エヴァンゲリオン




第弐話「平和」




第3新東京市。
使徒迎撃用都市として作られた、この街は
「終戦」以後、壊滅的な打撃を受けたまま廃虚と化していた。
公式発表では、「消滅」しており、以後の記録は一切無い。






廃虚と化した街はまるで打ち捨てられた墓地のようだ。
誰も居ないように見え、かげろうだけがこの街のかつての住人の様にゆらゆらとたち上っている。
この街は見捨てられ、忘れられようとしていた。
それは、忌まわしい、恐怖におびえる日々の記憶として、世界中の大人達が背中を向けた歴史だった。
あちらこちらに見える、焼け爛れたアスファルト、割れたガラス、コンクリートの山。
全てが「最終決戦」とそれまでの「防衛戦」の結果だった。
だが、この街、第3新東京市は死んではいなかった。
住人が残っているのだ。
戦争は終わったかもしれないが、ここはまだ戦場だった。
それは残された子供達の、生き残りを賭けた戦い。
冷たく静かでゆっくりとした激しい戦いだった。
子供達−チルドレンと呼ばれた彼らもまた、大人達によって捨てられていた。
「終戦」はこの街と戦争の道具の全てを「不必要」にしたのだ。彼らは道具だった。
敵である「使徒」、「使徒」と闘う為のEVA、EVAを動かすためのチルドレン、戦場となり、チルドレンの故郷となる第3新東京市。
全ては捨てられたが、死んでしまった訳ではなかった。
まだ、生き残りを賭けて戦い続けていた。
表面上、死んだ様に見えるだけ。
大人達はそれで満足した。
真実から目を背けることで、安心して過ごすのだ。
「使徒」はもういない。
EVAは必要ない。
チルドレンは「子供」ではない。
 第3新東京市は「消滅」した。
「最終決戦」で「終戦」した。
「不必要なモノ」は処分した。
世界の大半がそれで満足した。
それほどまでに、大人達は疲れ果てていたのだ。
そして世界は今、目を閉じて安らかに眠る。



EPISODE.2 Peace



瓦礫の山の中、子供達は、新しい街を生みだそうとしていた。
そして、一人の少年が今この街に戻ってきていた。
目の前に広がるのは、崩れた街と抜けるような青い空。
「帰ってきたんだ。またこの街に。」
懐かしさが胸に込みあげる。
それは戦いの記憶でもあったが、彼の生きてきた人生の記憶であり、支えでもあった。
ただ一人、街に立っているとあの日の記憶が甦る。
使徒の襲来、初めてEVAに乗ったあの日、全てがここから始まったのだ。
サイレンのように蝉達が哭いている。
風が吹いた。一瞬誰かの視線を感じて振り向くが、誰もいない。
蝉の声はしない。
「碇、碇シンジ!生きてたんだなぁおまえ。」
「あ、相田、も、元、気そうだね。」
「相変わらずだねぇ、碇は。そうだ、丁度いい来い。」
「ど、何処にいくんだよ」
「いいから、来い。EVAがあるんだ。いいパイロットを探してた処さ。碇なら丁度いい。まだ乗れるだろ。それとも、忘れちまったのかい。」
走り出すケンスケの後をあわてて追いかける。
いくつかの角を曲がり、ふと、横の路地に目をやった時、あの少女がいた。
彼女は路地の奥の、ビルの中へ入ってゆく処だった。
忘れていた、彼女の事は。
いや、そうじゃない、忘れていたかったんだ、僕は。
だからこの街に来たんだ。
彼女の居ないハズのこの街に。
一瞬の幻の様な彼女の横顔が、あの、「血のような赤」と共に、脳裏に焼き付いていた。
そして、心の何処かで彼女に逢いたがっていた。
そんな自分に嘘をついてこの街にきたんだ。
それなのに...。



「僕は、この街に帰ってきた。それは運命だったのだ。僕と...彼女の。」



第弐話「完」








「予告」

シンジとレイの運命の再会。
それは、偽りの平和に浸る街に、再び争いを巻き起こす。
子供の甘えと大人の欲望。
際限なく続く愚かな歴史の繰り返しは、神ならぬモノには止められない。



新世紀 エヴァンゲリオン第参話、「予期せぬ出来事」お楽しみに。



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