『レジェンドオブレリアル』

通りでは流血の大騒ぎ
日暮れ時にはもう死体の山
争いに勝者のあったためしがない
希望の星の見えない夜の闇の中で
                    〜「夜の中」より



『序章』



 ドオッと、音をたてて魔獣カトブレパスが大地に倒れる。
「まあまあの相手やったな。」
金髪碧眼の戦士は、額の汗を拭いながら言った。彼の名前はジオル。この戦いの勝利者の中で彼だけが唯一人の人間であった。返り血に濡れながらも、戦いの興奮冷めぬままに、強敵を倒した満足にひたっている。
「全員生きているな。」
全身黒ずくめのハーフエルフがつぶやく。彼の名前はランチス。ハーフエルフは、人間と妖精族のエルフとの混血種で、様々な理由から差別され、嫌われ、恐れられる。彼はまた、偏見を助長するような、黒い鎧と剣、魔術師の証でもある凶々しい杖を持っていた。
「誰も死ななかったじゃん。楽勝!」
そう言ったのは、こちらも黒ずくめの若いアーラエ。彼女の名前はソニア。彼女も魔術の杖を手にしている。その姿は、髪や翼も黒く、おまけに肌は褐色であり、その瞳は左右の色が異なる、いわゆる「オッドアイ」で、静かに空中で羽ばたく様はまるで「凶事を告げる大烏」である。
「びくとりいー!」
と、叫びながら彼らの頭上を飛び回るのは、やたらとヒラヒラの服を着たフェイ。フェアリーの近縁で性格も似た種族だが、体の大きさは倍ある。とはいえ、小さい事に変わりはなく、両者をあえて区別するのは難しい。大きいのでフェアリーよりも可愛気がない、とか生意気とか言われるがそれは個性の違いだろう。
「大丈夫ですか〜、ジオル。」
 もう一人のフェイが、戦士に近づく。こちらは質素に落ちついた服を着ている。
「頼むで、リリイナ。死にそうや。」
「神よ。彼の者の痛みと苦しみを除きたまえ。」奇跡の輝きと共に、傷が癒される。
「他のみなさんは大丈夫ですか。」
「全然へいき。ほら、このとーり!」と、文字どおりの宙返りをするのはヒラヒラの方。「あなたには聞いてません。」
「Boo!」
 この二人のフェイに共通の特徴は昆虫の様な羽ぐらいだろう。彼女達の名前はエルダマールとリリイナ。
「ジオル以外に怪我はない。離れていたからな。おかげでとどめを刺せなかったが。」
「案外弱かったわねぇ。ファイアーボール取って置くんじゃなかったかしら。」
「エナジーブラストで死ななかっただけでも、強かったとほめてやろう。一応は伝説の魔獣だからな。」
「ナニ言ってんのや、ワイ死にそぉやってんでぇ。エライしんどかったわ。」
「そうだな、私とジオルが前に出ていたら、もっと苦戦しただろう。やはり、呪文で倒して良かったのだ。剣を使えなかったのは残念だが。」
「ファイアーボール使えば良かった。」
 激しかった戦いを思い返しながら、しばしの休息。そのとき、雪が降り始めた。
「あっ雪だー。」
「さあ、みなさん帰りましょう。風邪ひかないうちに。」
「あんたのせいで風邪ひいたんでしょうが!」
ソニアのボディーブローがリリイナに炸裂する。
「あ、あたくしのせぃ、ウブゥッ」
「口答えするのは、この口かぁっ!」
「時間を無駄にするな。村までは遠い。置いていくぞ。」
「れっつごー!」

 騒々しい勝利者達が立ち去り、戦場となった荒野に雪が静かに降り積もる。
 全ての物を生死に関わり無く白く染め、雪はこれからの長い冬の始まりを告げていた。



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