EVA 〜これも一つの世界〜
第壱話 目覚め
Chuptre01 朱鷺色の瞳が見つめる先
蝉の鳴き声が響く、無人の駅。
1両編成の電車がホームに入る。
軽く空気の抜ける音がして電車の扉が開く。
「暑いな」
唯一人の乗客の少年は呟くと、小さなかばんを持ち冷房の効いた電車から外に出た。
無人の街、ただ風がビルの谷間を吹き抜けている。
そこを少年が乗った2台の自転車が走り抜けている。
「すまないなトウジ付き合ってもらって」
眼鏡を掛けた小柄な少年が、黒いジャージを着た少年に声を掛けた。
「ケンスケお前もドンパチ好きやからな」
トウジは諦め顔で、眼鏡を掛けた小柄な少年に答えた。
「そうさ今世紀最大のイベントだぜ、シェルターに居ても死ぬときは死ぬんだ、命を懸けても見る価値はあるさ!」
「目標依然進行を止めません!」
眼鏡を掛けたオペレータが叫びごえが騒然とした発令所に響く。
「少し足止めするだけでいいわ、回せるだけ回して」
指揮官らしい、赤いジャケットを着た若い女性が長髪のオペレーターに命令した。
「駄目です、すでに現在出撃出来る戦力は、全て出ています!」
指揮官は、隣に立っている白衣の女性にヒステリックに叫んだ。
「リツコ、レイと初号機は、まだ準備できないの!」
白衣の女性リツコは、時計を一瞥すると、ショートカットの女性オペレーターに声を掛けた。
「マヤ、初号機の準備は」
「はい、ファーストチルドレンは、エントリープラグに搭乗しました
エントリープラグ挿入後、5分でシンクロ開始、5分で発進準備が整います」
「ミサト、目標到達まで17分、初号機発進まで14分、3分も余裕があるわ」
リツコは、冷静にミサトに報告した。
「各工程2分短縮して」
ミサトは、苛立たしくリツコに命令した。
「マヤ各工程1分短縮、ミサトこれが限界よ」
「それじゃ遅いのよ」
ミサトは、呟くと、苛立ちをを押さえる様に胸の十字架を握り締めた。
「15年ぶりだな、碇」
騒然とした発令所を見下ろす、司令席に座る色眼鏡を掛けた男に、隣に立った初老の白髪の男が話し掛けた。
「ああ、間違いない」
碇と呼ばれた男は、顔の前に組んだ手の下で口を歪ませて笑うと言葉を続けた。
「使徒だ」
金色の水の中、短な銀髪を揺らめかしながら、少女は眠るようにコックピットに座っている。
「レイ、LCL調子はどお」
少女の隣に3Dポップアップが開き、リツコが声をかけた。
「問題ありません、赤木博士」
少女は、目をつぶったまま感情のこもらない声で囁くように答えた。
「初めての初号機で緊張しなくていいわ、基本は零号機となんら変わることないから」
3Dポップアップが閉じると、少女はゆっくりと目を開き、朱鷺色の瞳で一点を見詰め、囁く。
「エヴァンゲリオン初号機、起動」
「迎えの人は、何処だろう?」
少年は、改札口を抜けると駅を出て、無人のロータリーへと歩いて行った。
風が吹いた。
「え?」
少年の動きが止まった。
そして、少年の瞳は、目の前にいる、少女の朱鷺色の瞳に釘付けになった。
Chuptre02へ続く