ありふれた異世界転生〜神様チートでイージーモード〜
 
(※未完/誤字脱字未チェック)
 

【プロローグ】
  
 
出勤中に交通事故に巻き込まれた俺は、真っ白な空間で神様と対面する。
そして神様からテンプレ通りの話を聞かされたのだった。
 
神様側のチョットした手違いで俺は死んでしまった。
前代未聞の出来事で元通り生き返ることは出来ない。
イレギュラーな死だったので輪廻転生の理から外れてしまいこの世界では転生するのは不可能。
だから別の世界で生きてみませんか?
 
別の世界は俺が今まで生きてきた世界よりもチョットだけ変わっているしチョットだけ危険。
雰囲気は中世ヨーロッパ風で剣と魔法とモンスターが跋扈(ばっこ)する世界。
もやしっ子現代人の俺が生活するのに困らないように最大限の協力をする。
魔王なんていないし魔族は人間の敵でもない。
近々世界破滅の危機が訪れる予定もない。
好き勝手自由に人生を謳歌してくれれば良い。
ただ破壊と殺戮の限りを尽くし世界を壊す様なことだけはしないで欲しい。
そういう時は神罰を下して俺の存在そのものを消し飛ばす。
 
そういう訳で選択の余地もなく別の世界で残りの人生を過ごす事になった。
仕方なく神様と話し合って幾つもの妥協の末に最大限の協力を取り付けた。 
車や銃など文明の利器は持っていけなかった。
残念。
 
そうして別の世界へ送り出された。
 
 

【1話】
 
 
「やってきました別の世界」
思わず声に出てしまった。
 
んー、別の世界って言いづらいから、……………異世界でいいか。
 
「やってきました異世界」
 
うん、しっくりくる。 
そう独り言を言ったけど誰の興味も惹かなかった。
だってここは森の中。
人っ子一人いません。
 
「何でこんなところからスタートなんですか神様ーーーー!!」
 
叫んでみた。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
返事はない。
もしかして神様の常時監視サポートがあるかなぁーと期待したけど無かった。
 
もっとこう、いろいろあるでしょ。
人里の近くとか、街道とか、見通しの良い平地とかさ。
出現場所の指定を指定なかった失敗だ…。
早速後悔。
出だしから躓いた。
幸先が悪いったらありゃしない。
 
しょうがない。
とりあえず移動しよう。
移動しながら神様の最大限の協力ってやつをチェックだ。
 
まず体。
小さくなっている。
小人になったんじゃなく若返ってる。
中年太りの35歳の体から12歳のピチピチした体に若返らせてもらった。
身長は150cm程のはずである。
 
次、装備と武器。
 
[シャツとズボン]
 布製のシャツとズボン
 ゴワゴワしていて肌触り良くない
 
[鉄の兜]
 鉄製の兜
 オートバイのバイザー無しジェットヘルみたいな感じ
 
[鉄皮の鎧]
 皮を薄い鉄板で補強した鎧
 
[革手袋]
 革製の手袋
 ゴワゴワしていてちょっと硬い
 
[鉄の腕輪]
 鉄製の腕輪
 何の装飾もない
 
[肘当て]
 皮製の肘当て
 
[膝当て]
 皮製の膝当て
 
[革の靴]
 革製の靴
 
[剣]
 鉄製の片刃の剣
 刃渡り60cm程
 
[短剣]
 鉄製の短剣
 刃渡り20cm程
 
[ナイフ]
 鉄製のナイフ
 刃渡り10cm程
 
[小盾]
 木製で表面に薄い鉄板を貼った盾
 直径20cm程の円形
 
[布のフード]
 布製のフード
 ゴワゴワしていて肌触り良くない
 
[革のベルト]
 革製のベルト
 腰に巻いて装備を吊り下げるのに使用する
 
[ショルダーバック]
 布と革で出来たショルダーバック
 生活必需品が入っている
 
うん、地味。
だがこれでいい。
ミスリル・オリハルコン・ヒヒロカネ・竜皮・竜鱗とかいかにも高価高性能なものは目立つから、あえて地味に見えるように神様にお願いした。
ただし性能は神様製だから頑丈。
たとえば剣は絶対に壊れないらしい。
刃こぼれしないし手入れ不要とチートすぎる。
汚れは落とさないといけないとどね。
 
それからショルダーバックはダミーとして持っている。
メインはアイテムボックス。
そうアイテムボックス!!
異世界転生にアイテムボックスは必須でしょう。
真っ先に、いや2番目、いや3番目に神様にお願いしましたよ。
 
1番目にお願いしたのは若返りと身体強化。
まずこれ。
体が資本。
もやしっ子現代人なんだから丈夫な体がないとすぐ死んじゃう。
 
2番目が魔法。
この世界の人が使えるのだが俺も使いたい。
 
魔法+若返りと身体強化で俺TUEEEEーって、って…、あれ?

……
………
俺って強いのか?
 
それほど重くはないとはいえ装備付けても難なく森の中を移動できてる。
まだ使っていないけど魔法も使えるはず。
でもこの世界の基準だとどうなんだ?
 
しまった!!
世界最強で不死身にしてと神様にお願いするんだった。
ヤバイ
ヤバイかもしれない。
失敗だ。
失敗したー!!
そうだ、やり直し。
そう、やり直します。
やり直したいです。
リセットです。
もう一回お願いします神様ー!。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
だがその願いは叶えられなかった……。
 
そうだよね。
そんな上手く行かないよね。
はぁー………。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
よし。
立ち直った。
頑張ろう。
 
とりあえず自分の力を知らないといけない。
考えなしに移動している場合じゃない。
 
まず身体能力だ。
体は軽い。
装備なんて気にならない。
その場で軽くジャンプ。
おおっ、結構跳べる。
もっとジャンプ。
ゴン
木の枝にぶつかった。
 
「うー、痛ててててぇ、って痛くないな」
 
鉄の兜を外して確認したけど傷一つ無い。
さすが神様製。
 
手足を動かしてみる。
シャドーボクシング風にジャブ・・ストレート・ジャブ・フック、ワンツー。
うーん、動きがシャープになってキレキレかな?
いまいち判らない。
次は足を思いっきり真上へ蹴りあげてみた。
シュっと足が上がり太ももが体に張り付いた。
前の体だとこんなことしたら絶対太ももの裏が攣って大変なことになってたのに!。
結構思い通りに動かせるようだ。
次は樹に向かって軽くケンカキック。
ドン!
もう少し強くキック
ドン!!
樹が揺れる
もっと強く、更に強く、力いっぱい強くキック。
だんだん強く蹴っていったら太さ40cm程の樹が折れた。
はっはっは、キック強力です。
それならパンチは…。
 ・
 ・
 ・
うん、パンチも強力です。
 
よし次は剣だ。
腰に吊るした剣をおっかなびっくり鞘から抜く。
刃渡り40cm程の片刃の剣。
竹刀のように両手で持とうとしたら左手で持つところがない。
柄が短いから片手で持つのか。
とりあえず片手で適当に真っ直ぐ振り下ろしたり斜めに振り下ろしたり水平に振り下ろしたり…って、水平は振り下ろしていないからなんて言うんだ?
振り払う?、振り抜く?、どうでもいいか。
暫く適当にブンブン振り回す。
周りの樹に当たって跳ね返されて焦る。
今度は樹に刺さって抜けなくなってまた焦る。
そんなこんなしている内にたまたま太さ10cm程の木がスパっと輪切りにされた。
 
「おおっ!」
 
同じような太さの別の木を斬りつける。
またスパっと輪切りにされた。
 
「おおっ!!」
 
面白くなってどんどん斬りつける。
最終的に太さ20cm程の木ならスパっと輪切りに出来るようになった。
 
こんなもんでいいだろ。
 
さて今度は魔法だ。
さぁーて、どうやるのかなぁ?、って!!
魔法の使い方を考えた途端、頭の中に魔法がズバァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!っと入ってきた。
いや閃いた。
いや、そうじゃない。
なんていうか上手く言葉で言い表せられないけど、とにかく今現在俺は初めから知っていたかのように魔法の知識がある。
 
「ファイア」
 
突きだした人差し指の先にライターように火が出る。
呪文詠唱も不要だ。
消えるようイメージすると火は消えた。
何度か火を出したり消したりを繰り返していく内に要領が判ってきて火を大きく出来るようになった。
 
「ファイアーボール」
 
ピンポン玉程の火球が空中に浮かぶ。
小さいな。
さっきまでの火と違いこちらはまんまるの球状だ。
近くの太い樹の幹へ飛ぶよう意識したらすっ飛んでいって当たって砕け散った。
樹の幹が少し焦げている。
暫く練習したら火球が出現と同時に目標へ飛ばせるようになった。
 
「ファイアーボール」
 
今度はもっと大きくなるようイメージしてみた。
野球ボール程の火球が現れた。
もっと大きくなるようにイメージする。
どんどん大きくなる。
 
「すごく…大きいです…」
 
ん?
って、気がついたら周りが燃えてる。
木や落葉や草がパチパチ燃えてる。
ヤバイ。
消さないと。
水。
水はどこに…。
見回しても周りに水は無い。
ヤバイ、火事、山火事だ。
どうしよう。
あたふたしてて気がついた。
 
「ウォーター」
「ウォーターボール」
「ウォーターボール」
「ウォーターボール」
「ウォーターボール」
「ウォーターウォール」
「ウォーターウォール」
「ウォーターウォール」
「ウォーターウォール」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
辺りは水浸し、俺も水浸し。
水魔法も出来ました…。
 
「ううぅ、びしょ濡れだぁ」
 
あっ、そうだ。
自分に対して水魔法を使う。
服の裾から水が滴り落ちていき完全に乾いた。
乾燥機いらずだ、魔法凄いな。
 
周りが森が酷い有様なのでちょっと移動。
 
「ウインド」
 
うん普通に風が吹いてる。
なるほどイメージすれば強弱つけたり範囲を調整出来るんだね。
 
「ウインドカッター」
 
草や枝がスパスパ切れていく。
固く大きくイメージしたら樹の幹もスパっと切っちゃった。
樵いらずだね。
竜巻っぽいのも出来そうだけど森の中では大惨事になりそうだから止めておこう。
 
「んで、土魔法だけど」
 
まぁ、別に言葉に出す必要はないので地面に手を当てイメージする。
 
「アースホール」
 
地面にボコっと穴が空く。
深さ50cm程。
もっと深くとイメージするとボコっと深くなる。
深さ1m程。
もっと深くもっと深くもっと深くもっと深くもっと深くもっと深くとイメージする。
暗くて底が見えない。
そうか。
光が出るようにイメージする。
 
「ライトボール」
 
穴の底へライトボールがゆっくり落ちていく。
それでも底が見えなかった。
まぁいいか。
それよりも穴の土は何処へ行ったのだろうか?
穴が埋まるようにイメージしたら元の地面に戻った。
土は何処へ行って何処から帰ってきたのか謎だけど魔法だが深く考えないことにした。
 
「アースウォール」
 
土壁がもりもり盛り上がる。
 
「ストーンウォール」
 
石壁がもりもり盛り上がる。
土の地面なの石壁だってさ。
面白いな。
 
「ストーンランス」
 
石槍がニョキッと地面から突き出てくる。
あれ?
槍ってランスだっけスピア?
ジャベリンも槍だったような気がするけど…、ランスでいいか。
ストーンランスが狙ったところにスパッと突き出るように何度が練習した。
 
「サンダー」
 
人差し指を向けた樹の幹へ電撃が走り命中してパンと音がなる。
樹の幹が微かに焦げている。
 
「サンダー」
 
少し強くイメージする。
さっきより太い電撃が走りバンと音がなる。
結構焦げて傷が付いた。
 
「サンダー」
 
もっともっともっと強くイメージした。
視界が白く光った直後にドーン!!と大きな音が鳴り地響きがする。
 
「うぁっ!!!!」
 
ビックリして尻もちを付いてしまった。
樹は折れて燃えていた。
ヤバイ、ヤバイ。
 
「ウォーターボール」
「ウォーターボール」
「ウォーターボール」
 
調子に乗りすぎた。
魔法の練習はこれくらいにしておこう。
 
 

【2話】
 
 
魔法の練習を終えて移動を再開。
暫くしたら森を抜け川に出たので河原で休憩した。
ここまで昆虫はいたけど動物やモンスターに全く出会わなかった。
昆虫の森なのか?
 
これまで森の木々に覆われていた空がやっと姿を現した。
よく晴れた青空には太陽と月が浮かんでした。
2つの月が…。
うん、異世界だ。
 
小腹が空いたので神様が用意した保存食をアイテムボックスから取り出したら乾パンだった。
乾パンって、マジか!
保存食って他に色々あったでしょ、ビスケットとか缶詰とかさ。
しかもこの乾パンは大量にアイテムボックスに入っている。
毎日3食食べ続けても何年保つんだよってくらい大量にだ。
 
仕方ないので乾パンをボリボリ食べながら川を見ていたら魚が跳ねる。
[ブルーフッシュ/食用]
不意に頭の中に思い浮かぶ。
えっ、何!?

……
………
これ、鑑定魔法か。
便利だな。
 
魚だ。
食料を見つけた。
靴を脱いで川の浅瀬へ入りアイテムボックスから槍を取り出してブルーフッシュ目掛けて突きまくったけど一匹も獲れない。
上手くいかない。
釣り竿は無いし網も無いしなぁ。
暫く獲れないブルーフッシュを見ていて思いついた。
便利なのがあるじゃん。
両手を水に入れてイメージする。
水魔法だ。
水を操ってブルーフッシュを拘束。
そのまま水面まで浮かび上がらせて手で捕まえた。
「獲ったどー!!」
ブルーフッシュを握った手を天に突き出す。
その後調子に乗りすぎて20匹程捕まえてしまった。
2匹だけその場で焼いて食べ残りはアイテムボックスへ収納した。
アイテムボックスの中は時間が止まっているので腐らない。
あっ、腐らないなら保存食じゃなくて乾パンじゃなくてもいいじゃん。
図ったな神様っ!!
 
小腹を満たしたので移動しよう。
川を渡ってまた森を進むか川沿いに進むか。
迷ったけど川沿いに進むことにした。
川上より川下の方が人家あるだろうと思い川下へ向かう。
 
暫く進むと2つの動く物が目に入った。
人?、子供?
違うな。
緑の猿?
それでもない。
[ゴブンリ/魔獣/レベル12]
頭の中に思い浮かぶ。
 
「えっ!?」
 
思わず声を出してしまったのでゴブリン達がこちらを見た。
気づかれた。
そうか鑑定魔法だった。
って、それどころじゃない。
「ギャーギャー」と叫びながらゴブリンがこちらへ向かってくる。
とてもじゃないが友好的には全く見えない。
攻撃しよう。
 
「ファイアーボール」
 
ゴブリン1匹に命中。
 
「ファイアーボール」
 
もう1匹のゴブリンにも命中。
2匹とも倒れて動かない。
楽勝すぎる。
いいのかこれで。
 
これどうしようか?
肉が食べられる?
食用?
売れる?
お金になる?
うーん、とりあえず持って行こう。
何かの役に立つかもしれないしね。
 
少し焦げたゴブリンの死骸に恐る恐る軽く触れてアイテムボックスへ収納した。
イメージすればさっと消えてアイテムボックスへ収納されるのですごく便利だ。
 
そうそう、モンスターじゃなくて魔獣と呼ぶようだ。
 
その後何度かゴブリンに遭遇したので魔法で倒していった。
一度だけ剣で倒したけど力加減がわからず真っ二つに両断してグロ過ぎたので以降は魔法で倒した。
なんだかんだで50匹程アイテムボックスにゴブリンの死骸が入っている。
でも真っ二つに両断したのはグロすぎたので燃やした。
って、この森にはゴブリンしかいないの?
 
結局この日は人家にたどり着かなかった。
 
夕食は乾パンと焼き魚。
ゴブリンの肉は食べようとも思わない。
 
アイテムボックスにテントが入っていたので取り出したが、こちらの世界のテントで組み立てが面倒だった。
支柱を立ててロープを張って布を…、って、ああっもう上手く行かない!!
魔法でこうチョチョイと出来ないのかよ。

ああっ、そうか、土魔法で作ればいいんだ。
 
はじめに普通に三角形のテント型のを作り上げた。
うーん、中は狭いし傾斜した屋根の圧迫感が半端ない。
やり直し。
次は真四角の箱を作り上げる。
何のひねりも無いけど今夜はこれでいいか。
中に入ってから出入り口も塞いだら真っ暗。
暗いよ狭いよ怖いよ。
慌てて出入り口を開ける。
 
「ライトボール」
 
明るくなったので再び出入り口を塞ぐ。
なんか息苦しい気がする。
空気穴を幾つか開けた。
これで窒息しない。
 
寝る前に歯を磨きたかったけど歯ブラシがない。
でも大丈夫、便利な魔法があります。
「クリーン」
さっと綺麗になった。
 
石のベッドの上にアイテムボックスから取り出した布団一式をひいて就寝。
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 
目が覚めた。
一瞬ここが何処だかわからず焦ってしまうが浮かんでいるライトボールを見て思い出した。
そうか異世界だった。
 
今何時?
[6時05分]
頭の中に時間が浮かんだ。
昨夜暗くなってから今何時だろうと思ったら脳内時計が働き出した。
この脳内時計は魔法なのかなんなのかわからない。
 
早いなぁ。
昨夜は陽が落ちてすぐ寝たから普段より早起きしたようだ。
壁の空気穴から外を窺ってから土魔法で出入り口を開けて外て周りを窺う。
よし大丈夫だ。
一応魔法で辺りの気配がわかるようになったけど目で確認しないとまだ安心できない。
 
川の水で顔を洗う。
あっ、そうだ。
昨夜寝る前に外した装備を着けないといけない。
慌ててアイテムボックスから装備一式を取り出し身に付ける。
キューブを出る前に装備すべきだったな反省。
 
朝食は乾パンと焼き魚。
もう飽きました。
でもゴブリンの肉は食べたくない。
 
暫くしたら大便がしたくなったけど紙がない。
葉っぱで拭くか。
柔らかくて拭けそうな葉っぱを何枚か集める。
魔法で掘った穴に用を足して拭き拭き。
穴を埋めてから気がついた。
昨夜歯磨き代わりに使ったクリーンの魔法を使えばよかったよ。
次に試してみよう。
 
真四角の箱を崩して出発。
川下を目指す。
 
 
 
ゴブリン2匹が木から赤の実を穫って食べていた。
人間も食べられるんじゃないかな?
それじゃ邪魔なゴブリンを倒さないとね。
今回は魔法じゃなく別な方法を試すことにした。
2つ石を拾って次々投げる。
2つとも頭に命中して2匹とも倒れて悶えている。
駆け寄って剣の先を突き止めを刺す。
投石じゃ即死しなかったか。
 
赤い実はリンゴに見える。
鑑定魔法も[リンゴ/食用]と教えてくれた。
一口噛じる。
うん、普通にリンゴだ。
やっとこれで乾パンと焼き魚から開放された。
嬉しくてその辺りの木から赤い実だけ根こそぎ収穫した。
 
その後バナナとミカンも見つけたので根こそぎ収穫した。
っていうかリンゴとバナナとミカンが同時に実るっておかしくないか?
異世界だから地球の常識は通用しないのか。
 
結局今日も人家にたどり着かなかった。
 
そして今日もゴブリンにしか出会わなかった。
おーい、他の魔獣は?
鳥は見かけたけど普通というか魔獣じゃなかった。
 
夕食は乾パンと焼き魚と3種のフルーツ。
一気に豪華になった。
 
今夜も魔法で真四角の箱を作って野宿。
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 
何事もなく翌朝を迎えた。
洗顔、食事、排便とルーチンをこなす。
排便後にクリーンの魔法を試して上手くいった。
よしよし。
 
今日も頑張って川下を目指す。
 
 
 
川が森を抜けて暫くしたら、ついに、ついに人工物に遭遇!!
川に木の橋が架かっていた。
異世界で初めて文明に遭遇だ。
「おーっ!。橋だ、橋」
嬉しくて橋の上を何度も行ったり来たりしてしまった。
 
橋に繋がる道は舗装もされていなくて土が剥き出し。
車一台分の幅じゃなくて多分この世界の馬車の幅くらいだろう。
 
やっと道に出たんだけど、どっちに行くかなぁ?
見えるのは森と草原と地平線と遠くの山。
道は森沿いの続いていて森にそってカーブしているので先が見通せない。
 
暫く考えたけど答えは出ず、その場で誰かが通りかかるのを待つことにした。
 
 
 
シャリ、シャリ。
リンゴを噛りながらぼーっと川を眺めている。
暇だ。
誰も通らない。
 
 
モグ、モグ、モグ。
バナナを噛りながらボーっと草原を眺めている。
暇だ。
誰も通らない。
草原に何かの気配を感じるけど脅威を感じないので小動物だろう。
 
 
パク、パク、パク、パク。
ミカンを食べながらぼーっと遠くの山を眺めている。
暇だ。
誰も通らない。
時々空を鳥が飛んでるくらい。
 
あっ、遠くの山の方から黒い点が見える。
だんだん大きくなってきた。
こっちに近づいているようだ。
大きな鳥。
あっもう一羽いた。
こっちは白いから気がつくのが遅れた…、って大きな。
いやデカくね!?
近づいてくる。
うん、デカいね。
いやいや待て待て、デカすぎるって。
って鳥じゃねぇー!!!
恐竜!?
[ブラックドラゴン/神獣/レベル**********]
[ホワイトドラゴン/神獣/レベル**********]
って、ドラゴン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
どんどん近づいてくる。
ヤバイよヤバイよ。
逃げよう。
隠れよう。
周りを見渡し慌てて橋の下へ潜り込み頭を抱えて息を殺す。
「ギャー、ギャー」と叫び声が辺りに響き渡る。
何事かと橋の下から顔を覗かせて窺うと、空中で2匹のドラゴン達が叫び声を上げながらもつれ合っていた。
争っている、喧嘩?
そのうちに何かが地面に落ちてきたので慌てて橋の下へ引っ込み頭を抱える。
 
暫くドラゴン達の叫び声が聞こえていたが唐突に静かになった。
もう行ったか?
待て待て慌てるな。
もうチョット待とう。
念のため暫く橋の下で待機。
そろそろいいか?
いいよね。
そっと辺りを窺いながら橋の下から出る。
ドラゴン達はいなくなっていた。
 
「ふーっ、助かった」
 
なんだよアレ。
あれはヤバイ。
ヤバイってもんじゃない。
神獣ってなんだよ。
魔獣の神様か!?
あんなの絶対勝てない。
勝負にすらならない。
 
ん?
道に何かが落ちている。
というか刺さっている。
近づいてよく見ると白い板状のものだ。
なんだコレ?
[ホワイトドラゴンの鱗]
鑑定魔法が教えてくれました。
ドラゴン鱗か。
デカいな。
約1m四方ある。
ああっ、落ちてたのはこれか。
周りを見渡すと鱗がいくつも落ちていた。
 
コンコンと拳で軽く叩いてみる。
硬いな。
地面に刺さったままのホワイトドラゴンの鱗おもいっきり蹴飛ばしてみた。
衝撃で吹っ飛んでいく。
駆け寄って確認すると傷一つ無い。
丈夫だ。
持ち上げると軽い。
凄いなこれ。
 
そんな鱗がそこら中に落ちてる。
何かに使えるかもしれないので拾っておこう。
鱗は魔力を帯びていたので探すのは簡単だった。
鱗を全て拾い集めアイテムボックスへ収納した。
ブラックドラゴンの鱗が37枚、ホワイトドラゴンの鱗が42枚。
 
 
その後は何事も無く日が暮れたので橋の脇に今夜の寝床を制作。
今回はちょっとひねって雪のかまくらをイメージして石造りのかまくらを作った。
いい感じだ。
 
明日は移動しようかどうしようか考えながら就寝。
 
 


【3話】
 
 
目が覚めた。
室内をライトボールが薄暗く照らしている
何時だ?
[1時13分]
頭の中に時間が浮かんだ。
夜中じゃないか。
ん!?
石造りのかまくらの外に何か気配がする。
囲まれているな。
何かが石造りのかまくらの周りをウロウロしている。
換気の空気穴を通して息遣いが聞こえてくる。
そっと空気穴を覗いて外を見る。
真っ暗です。
そりゃそうです。
暫く見ていると目が慣れてきて動くものが見えてきた。
[フォレストウルフ/魔獣/レベル30]
狼!!。
ちっと大きい野犬って感じ?。
いや魔獣だからそんなチャチなもんじゃないだろ。
どうする。
中にいれば安全だ。
でも気になって眠れない。
うーん……………。
外に出るのは怖いしなぁ。

……
………
そうだ。
槍で突いてみよう。
アイテムボックスから槍を取り出し、タイミングを窺い空気穴の近くにいたフォレストウルフを突き刺す。
「ギャン!」
傷を負わせたが石造りのかまくらから離れてしまった。
他のフォレストウルフも警戒して離れてしまった。
もう槍は使えない。
これで撤退してくれれば……。
 
そんなに甘く無かった。
囲まれて膠着状態。
うーん…………。
魔法だ。
魔法を使おう。
空気穴から適当に「サンダー」を撃つ。
暫く撃ちまくっていたら気配がなくなった。
大丈夫かな?
そっと外へ出てみる。
石造りのかまくらの周りにフォレストウルフが7頭転がっていた。
まだ息があったので槍で止めを刺して全てアイテムボックスへ収納した。
ひと仕事終えたのでもう一回寝た。
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 
目が覚めた。
 
ガンガン!!!!
何の音だ。
石造りのかまくらのが叩かれている!?
外に何かがいる!!
起き上がって外の様子を窺おうとしたら。
 
「おっ、中で何か動いた」
「気をつけろ。離れたほうがいい」
 
人の声だ。
誰か外にいる。
 
「魔獣か?」
「魔獣にこれは無理じゃろ」
 
魔獣じゃなくて人ですよー。
とりあえずアイテムボックスから装備を取り出して身につける。
 
「おい。誰か居るのか。返事をしろ」
 
ガンガンガン!!!
 
ちょっと待ってよ。
今身支度してるから…

ガンガンガンガン!!!!
 
「ええい五月蝿い。ガンガン叩くな!!」
 
出入り口を作り外へ出るとビックリした男が慌てて石造りのかまくらから離れた。
 
眩しい
今何時だ?
[9時34分]
頭の中に時間が浮かんだ。
寝坊した。
何でだ。
あっ、フォレストウルフのせいだ。
 
 
眩しい日差しを左手で遮るようにしながら辺りを窺う。
目の前に男が一人。
少し離れて男がもう一人と馬車が見えた。
 
近くの男が話しかけてきた。
茶髪のおっさんだ。
腰に剣を差している。
 
「小僧、こんなところで何をしている」
「…」
「何をしている」
「野宿」
 
ぶっきらぼうに返した。
 
「野宿?。…野営か」
 
どっちでもいいだろう。
 
「これは何だ」
 
男が石造りのかまくらを指差す。
 
「石造りのかまくら」
「石造りの…かまくらってなんだ?」
「これの名前」
 
俺も石造りのかまくらを指差す。
 
「かまくらってのは何をするものなんだ?」
「…家じゃなくて、テント代わり?」
「これがテント?」
「そう」
「………」
 
男は驚いた顔で石造りのかまくらを見つめている。
 
今度はこっちのターンだ。
  
「それで俺に何か用ですか?」 
「…、いや、別に用ってほどじゃないが…」
「じゃあ何?」
「変な…、いや、見慣れないものがあったので調べようと…。」
「そうですか。これは石造りのかまくらで私がテント代わりにのじゅ…野営で使っていた」
「そ、そうか」
「…」
 
「では、これはどうしたんだ?」
「…どうしたとは?」
「持ってきたのか?」
「こんな大きくて重そうなものを?」
 
わざとらしく小首をかしげてやる。
 
「…」
「…」
 
「これこれ根掘り葉掘り詮索するんじゃないよ」
 
もう一人の男が近づいて来た。
白髪で老人に見える。
 
「でも親父」
 
親子か。
 
「人の前で親父っ呼ぶな村長と呼べ」
「でっ、でも村長こいつ何か怪しいぞ」
 
村長と息子らしい。
 
「でもじゃない」
「いやだっておかしいだろ、これ多分魔法で作ったんだぜ。この前通った時には何も無かったじゃないか」
「たしかに無かったな」
「だろ、だからこいつは怪しい」
 
そう言うと息子は腰の剣を抜た。

えーっ!!
何?
何故?
どうして?
いやいや会話の流れが変。
馬鹿かバカなのか?
 
「やめろダミアン」
 
村長が慌てて叫ぶ。
そうそう止めて。
 
「いや、やめない」 
「やめろと言っておる」
「何でだ親父」
「村長だ」
「だからなんでだよ」
「お前じゃ…、小僧に勝てん」
「はぁ?、おれがこんなガキに勝てないと?」
「そうだ」
「そんな訳あるか。武器を抜いていないガキなんか瞬殺だぜっ!」
「お前は小僧が魔法を使ってそれを作ったとさっき言ったではないか」  
「だから何だって言うのさ。どうせ土魔法だろ。たいしたことねぇーよ。それにこの距離じゃ詠唱している間にバッサリやれるぜ」
「……」
「判ったか親父」
「…村長じゃ」
「どっちでもいいだろ!」
 
剣を収めてくれそうにない。
仕方ない準備しよう。
 
「えーと、ダミアンさん?」
「ああっ、気安く呼ぶんじゃねぇ!」
「じゃあ息子さん?」
「…ダミアンでいい」
「…」
「…」
「出来ればその剣を収めてほしい」
「何言ってやがる。怖気づいたか」
「いやそうじゃなくて火傷しちゃうから」
「はぁ?、何言ってやがるガキが」
「いやだからね。ちょっと上を見てごらん」
 
ダミアンの頭上を指差す。
 
「ああっ!?、そんな手に乗るわけ無いだろ」
「見たほうがいいけどなぁ」
「うるせぇ糞ガキ!」
「ダ、ダミアン。こっ、小僧の言うことを聞いたほうがよいと思うぞ儂は」
 
たまらず村長が声をかけた。
 
「はぁ?。親父まで何を言ってやがる」
「いいらか上を見ろっ!!。それと村長と呼べ」
「ちっ!」
 
舌打ちしたダミアンは仕方なく頭上を見上げ…。
 
「ふあっ!?」
 
変な声を出し手に持った剣を落としてし尻餅をついてしまう。
 
「だからやめろと言っておるのに馬鹿が」
 
呆れるように村長が首を振っていた。
 
「それでどうしますか?。丸焼けになりますか?。今なら骨まで燃やし尽くして差し上げますが?」
「いっ、嫌だ。やめてくれ」
「やめてくれですって?」
 
頭上に浮かんでいたファイアーボールを座り込んだダミアンのギリギリまで降ろしてやる。
 
「や、やめろ」
「やめろですって?。どうやら口の聞き方を知らないようですね。村長さん燃やしますねー」
 
そう村長へ言うとブンブン首を振っている。
 
「おっ、俺が悪かった。負けだ負け。許してくれ」
「だから、ここはくれじゃなくて下さいってお願いするところですよ」
「ダミアン!!。ちゃんとお願いせんか馬鹿もんが!!」
「おっ、お願い、します。許してください。何でしますから助けてください」
「儂からも頼む。許してくだせぇ」
「何でも?。何でもしてくれるの村長さん?」
「そっ、そうじゃな。何でも、何でもじゃなく出来る事ならでよければ…」
「じゃ、それでいこう」
 
ファイアーボールをポイッと川へ放り込む。
ジュワーと水蒸気を上げ消えていく。
 
「てぇめぇ!!。よくもやりやがったな!!」
 
ファイアーボールが無くなったので威勢取り戻したダミアンが剣で切りかかってきた。
動きが遅い。
切りかかってきた剣から身を躱す。
再び切りかかってくる前にこちらも剣を抜き、再度切りかかってきたダミアンの剣を迎え撃つ。
パキンっ!
カラン…
軽く受けたつもりだったけどダミアンの剣が折れてしまった。
唖然と折れた剣を見つめているダミアン。
油断しすぎですよー。
がら空きの体を軽く蹴り飛ばしたらゴロゴロと村長の元へと転がっていった。
 
「あのー、何でもするってのはこういう事だったんですかぁ?」
 
地面に落ちてるダミアンの折れた剣先を俺の剣でカンカン突きながら二人に問う。
 
「えっ!?、あっ!?、いや、そうじゃない。違うんじゃ!!」
 
慌てて村長は俺の前にひざまづいた。
 
「すまっ、もっ、申し訳ない。息子が本当に申し訳ないことをした」
「謝ってすむ段階を過ぎてると思うけどな俺は」
「そ、その通りじゃが、そこをなんとか、なんとか許してもらえんじゃろか」
「俺、殺されそうになったんだけど村長さん」
「申し訳ないと思っとる」
「それは息子さんじゃなくて村長さんがでしょ」
「………」
「おい息子さん、いつまで寝たふりしているんだよ」
 
声をかけるとノロノロと起き上がりふてくされた顔をして地面に座り込む。
 
「俺に何か言うことがあるんじゃないですか?」
「……」
「ありますよね?」
「……………」
「無いのですか。そうですか。わかりました」
 
俺は地面に座り込んだダミアンへ剣を大きく振り上げる。
 
「まっ、待ってくれ!!」
 
村長が慌てて俺とダミアンの間に入り止めようとする。
 
「かっ、金を払う。お金を払います。それで勘弁してくれんか」
「お金かー…」
「今は買い出しの帰りで持ち合わせがほとんど無いが、むっ、村に帰れば…」
「それでいくら払ってくれるの?」
「きっ、金貨10枚で…」 
「………」
「ごっ、50枚!。金貨50枚でどうじゃ」
「………」
 
再び剣を大きく振り上げようとすると。
 
「ひゃっく、100枚じゃ!!。金貨100枚これで限界じゃ!!」
「100枚。それで手を打ちましょう」
 
俺は剣を鞘へ戻した。
 
 


【4話】
 
 
パカパカと二頭の馬に引かれた荷馬車の横を俺は歩いている。
御者台には青い顔の村長が座り、荷台には村長の息子ダミアンが町で買ってきた品々に紛れ膝を抱えて座り込んでいた。
ダミアンに体に先の戦いでダメージは無かったが俺に負けたのが相当堪えた様子。
それと愛用の剣が折れてしまったのもショックだったようだ。
 
はじめは俺が荷台に乗ってダミアンを歩かせていたが落ち込んだダミアンの歩みは遅く、荷馬車からどんどん遅れていくので無理やり荷台に載せて俺が代わりに歩いている。
御者台に乗るスペースは有るのだが爺さんと並んで座るのは嬉しくないので歩くことにした。
強化された肉体だから歩くくらいなんともない。
 
暫くは会話もなく進んでいたが、暇で退屈なので情報収集も兼ねて村長へ話しかけていろいろ聞きだした。
 
今向かっている村はウストビッジといい、ミバス王国の西に位置し25世帯108人が暮らしている小さな村。
300年ほど前に街道を国の西へ伸ばしていったが、国を大飢饉が襲い街道整備どころじゃなくなりその後もそのまま放置されて今にいたっている。
そのせいで村は街道のどん詰まりになり人の往来も無く、そして特に産業も無いため発展する要素の全くない場所になってしまったそうだ。
不憫な村だ…。
 
村長の名はアルバートといい60歳。
妻のイザベルは65歳と姉さん女房。
子供は4人でダミアンは次男で39歳で未婚…。
他3人は既婚。
跡継ぎの長男夫妻は同居し他二人の娘は嫁に行き家を出ている。
長男ハロルドには29歳の長男カイゼルを筆頭に子供が5人。
次々村長候補のカイゼルも結婚していて子供が4人。
村長の屋敷には三世帯が暮らしているそうだ。
 
今日はとなり町のトランへ買い出しに出かけた帰りだそうだ。
ウストビッジ村からトラン町へは荷馬車で片道3日かかり、途中2回野営するそうだ。
村には移動販売の商人が月に1回来るが、それだけではどうしても足りないものが出てくるのでこうして買い出しに出るのだという。
 
いつもは腕の立つ護衛を同行させているのだが、今回はダミアンがどうしてもトランへ行きたいと駄々をこねたので仕方なく護衛代わりに同行させたらしい。
そのせいでこんなことに…。
金貨100枚…。
そう話す村長の顔が更に青くなったような気がした。
 
 
 
そんな話を聞きながら歩いていたら街道脇の森から大量の気配が湧き上がってきた!!
 
「村長!!。森から何か出てくるぞ」
「なっ、なんじゃと!!」
 
森からゴブンリが次々と大量に出てきた。
さっきまで荷台で座り込んでいたダミアンも立ち上がっていた
 
「ゴブンリ!!。いったい何匹いるんだよこれ!!」
「なんて数だ!!。まずいぞ」
 
村長は荷台のダミアンへ振り返り自分の腰の剣を鞘ごとダミアンへ渡す。
 
「ダミアン、コレを使え」
  
ダミアンは受け取った剣を鞘から抜き森を睨みつける。
 
「村長、あんた獲物は?」
「コレがある」
 
荷物の中から短剣を取り出す。
 
「それじゃ駄目だろ」
  
俺はアイテムボックスから槍と弓を取り出して見せる。
 
「コレ使えるか?」
「へぇ!?、それを何処から出したじゃ!?」
「今はそんな事はいい。使えるかって聞いてるんだ!!」
「あっ、ああ大丈夫じゃ。両方使える。これでも元ハンターじゃったからな」
 
ハンターとやらの腕前はわからないけど使えるならと両方渡した。
 
「村長、このまま荷馬車を走らせて逃げきれないか!!」
「無理じゃ、荷が重すぎる」
「荷を減らせば?」
「それに時間が無い。荷を下ろしいてる間に囲まれる」
「そうか。なら仕方ない。二人は荷馬車を守ってろ」
「小僧はどうするんじゃ!?」
「俺はアッチに行く。じゃあ、死なない程度にがっばって」
 
俺は一方的に二人へ言い残してゴブリンの群れへと向かっていく。
 
「ファイアーボール」
 
走りながら次々とファイアーボールを連射する。
もう慣れたものなので次々と倒していく。
しかし数が多いので撃ち漏らしたゴブリンに周りを囲まれてしまう。
こうなると魔法よりも剣で倒すほうが手っ取り早い。
剣を腰から抜き次々とゴブリンを切り倒していく。
気がついたらファイアーボールから草に引火してそこら中が燃えていて煙で視界が悪くなってきた。
失敗した。
慌ててウォーターボールで消火しまくりウインドウで煙を吹き飛ばして視界を確保。
再びゴブリンを切り倒していく。
 ・
 ・
 ・
だいたい倒したかなぁ。
あたりを見回す。
あっ、ヤバイ。
荷馬車がゴブリンに囲まれつつある。
あれ?
ダミアンは?
慌ててウインドカッターを放ちつつ荷馬車へ駆け寄る。
村長に迫っていたゴブリンを背後から剣で切り倒す。
 
「大丈夫か!?」
「すまん、助かった」
 
村長の背後にダミアンが血を流し倒れていた。
 
「ダミアンは!?」
「まだ生きてる。大丈夫のようじゃ」
 
倒れたダミアンを庇うように辺りを警戒しながら槍を構えた村長が答えた。
あまり大丈夫じゃなさそうだ。
 
ファイアーボールだと周りが燃えて視界が悪くなるのでウインドカッターを連射して荷馬車の周りに迫っていたゴブリンを一掃。
荷馬車にゴブリンが寄り付かないようにウインドカッターで倒し続けていくと、生き残ったゴブリン達が次々と背を向けて森の中へ入っていった。
暫く警戒していたが再び森から出てくる様子はない。
どうやら撤退したようだ。
助かった。
念のため周囲を廻って負傷し倒れていた生き残りのゴブリンに止めを刺していった。
一通り廻って荷馬車へ戻ってきたら村長が倒れたダミアンの肩を叩いて呼びかけていた。
 
「おい!、しっかりせんかダミアン!!」
 
うつ伏せに倒れているダミアンに動きがない。
ヤバイか?
二人がかりでダミアンを仰向けにすると重傷だった。
 
「ああっ!、なんて事じゃ!!」
 
村長は両手で自分頭を抱えた。
右腕が二ノ腕から殆ど千切れかかっていた。
痛みと出血のせいなのかダミアンに意識はない。
 
こりゃ酷いな。
 
村長が傷口の上を紐で縛り上げようとしていた。
止血か。
 
「村長、薬はないのか?」
「薬?、こんな酷い傷に効く薬は無い」
「そうか」
「……」
「村に帰っても駄目か?」
「すぐに大きな町へ行けば治療が出来るかもしれんが、こんな田舎じゃどうしようもない」
「……」
 
腕を縛り終えた村長はそのままダミアンの脇に座り込んでしまった。
 
「……」
「腕がないと大変だよな」
「そうじゃな、利き腕を失ったから剣もろくに使えないしな」
「……」
 
「腕は残念じゃが生命があっただけ幸運だと思わんとなぁ」
「そうでもないさ。村長そこをどいてくれ」
 
俺は村長を押しのけて倒れているダミアンの脇に膝をつく。
そしてダミアンの右腕から結んだばかりの紐を解く。
 
「なっ、何をするんじゃ!!。それじゃ血が止まらん!。死んでしまう!!」
「大丈夫だよ。黙って見てて」
 
慌てる村長をよそに千切れかかった腕を切り口と揃える。
俺は右手を傷口へかざし強くイメージする。
 
「ヒール」
 
ダミアンの右腕が強い光りに包まれる。
 
「おおっ!!」
 
脇で見ていた村長から驚きの声が上がった。
やがて光は収まりダミアンの右腕は元のように繋がっていた。
 
「なんて事じゃ!!。戻った。元どおりに繋がっておる」
 
恐る恐るダミアンの右腕へ村長は自分の手を伸ばして確認していた。
 
「ふぅ、上手く言ったようだ」
 
初めての回復魔法は成功だった。
 
暫くペタペタとダミアンの右腕を触っていた村長だったが突然振り返って俺の両手を掴む。
 
「ありがとう。本当に有難う。」
 
涙目でそう言い続けた。
 
 
 
いつまでもここにいてまた襲撃されると面倒なので後片付けをして撤収しよう。 
そこら中に散らばっているゴブリンの死骸をアイテムボックスへ回収する。
ひどく損傷してグロいのはその場で魔法で燃やし尽くす。
アイテムボックスへ収納している分は村長視線だとゴブリンの死骸が次々と消えていく様に見えるはずなんだけど、何も聞かれなかったのは察してくれたのだろう。
 
槍と弓はちゃんと返してもらった。
 
意識を失ったままのダミアンを荷台に載せ再び村へ向けて出発。
その後は何ごともなく陽が落ち暗闇迫る直前に俺たちは村に到着した。
 

【5話】
 
 
ウストビッジ村は丸太を地面に突き刺した塀に囲まれていた。
城壁?
城じゃなくて村の塀だから村塀?、村壁?
 
閉ざされていた門へ荷馬車が近づいていくと塀の上の物見櫓にいた男がこちらに気がつき声を掛けてきた。
 
「おかえりなさい村長。おーい。村長のお帰りだ開門しろー!」
 
閉ざされていた門がゆっくり開き別の男が出てきた。
 
「おかえりなさい村長。暗くなる前に到着しなかったので明日なのかと思っていましたよ」
「途中でゴブリンの大群に襲われてちょっと遅くなってしまった」
「ゴブリンの大群ですか、それは大変でしたね。大丈夫でしたか?、ってダミアンさんは?」
「ああっ!、怪我して意識を失ったので荷台に寝ているよ」
「それは大変じゃないですか!」
「大丈夫じゃ。ちょっと血が出ただけじゃ。暫くすれば目を覚ますじゃろ」
「そっ、そうですか。それなら良いのですが…。ところでこの小僧は?」
「ああ小僧、いやこの子はだなぁ………………」
「…………」
 
息子が襲いかかって代償に金貨100枚を渡す相手なんて言える訳もない 。
説明に困っているので助け舟を出してやろう。
 
「はじめまして、こちらの荷馬車が襲われている時に居合わせて一緒にゴブリンを撃退したんですよ。」
「そうだったんですか」
「ダミアンさんが倒れてしまったので護衛も兼ねて同行しました」
「それはどうもありがとうございます」
「いえいえ報酬もいただけますから御礼を言われるまでのことじゃないですよ」
「そうですか。それはともかく入村するのですから所定の手続きをさせていただきたいのですがカードはお持ちですか?」
「はい、ちょっと待って下さい」
 
ショルダーバックの中から取り出すように装ってアイテムボックスから身分証明カードを取り出し男へ渡す。
男はライトの魔法でカードを照らし確認してからカードを返したくれた。
 
「はいどうぞお入りください」
 
荷馬車と一緒に門をくぐり日も暮れて薄闇に覆われたウストビッジ村へ入った。
 
 
薄暗い中、荷馬車の後を歩いて行くと再び丸太の塀に出くわした。
荷馬車は開いている門をくぐり中へ入って行く。
塀の中はちょっとした広場になっていて両隅には物見櫓まである。
広場の奥にはこの村で初めてみる二階建ての大きな建物があった。
さすがに村長宅だけあってちょっとした屋敷って感じだ。
 
荷馬車が建物に到着する前に中から何人か出てきて、その中の一人が村長へ声をかけてきた。
 
「おかえり親父」
「客人の前じゃ村長と呼べと言っとるじゃろ」
「あっ、おう、すまんすまん。おかえりなさい村長」
 
この人が村長の長男のようだ。
 
「ようこそ。村長の息子ハロルドだ」
「はじめました譲二といいます」
 
差し出してきた手を握り握手を交わす。
 
「こんな田舎へよく来たなぁ。何もないところだけどとりあえず中へ入った」
 
そんなやりとりをしていた後ろでひと騒ぎ起こっていた。
 
「うぁっ!。ダミアンどうした!?」
「えっ、なに?、死んでる!?」
「いや寝ているだけだろ」
「おーい起きてダミアンおじさん」
「あー、そう乱暴にするでない。そやつはゴブリンとの戦闘で怪我をして気を失っておるんじゃ。皆で丁重に部屋まで運んでやってくれ」
「えっ、ゴブリン相手に気を失った!?」
「そう言うな。大群じゃったから大変だったんじゃぞ」
 
皆に抱えられてダミアンは運ばれていった。
 
 
食事を準備するまで休んでくれと部屋に通された。
ショルダーバッグを机の上に置きソファに座り部屋を見渡す。
部屋は6畳間程度の広さでベッド・机・イス・ソファが置かれていた。
質素だけど客間かな?
壁に取り付けられた照明は[照明魔道具]と鑑定魔法が教えてくれた。
木枠の窓にガラスが入っている。
部屋に通される前に案内されたトイレは椅子型便座の下に壷を置いたものだった。
なんと便所紙が置いてあり驚いた。
ガラスと紙は普及しているようだ。
それとこの魔道具ってのも気になる。 
 
暫くしたら食事が出来たとメイドのおばさんに呼ばれ食堂で村長と二人で晩飯を食べた。
屋敷の他の人たちは夕方暗くなる前に既に食べたので村長と二人っきりだった。
ダミアンはまだ目が覚めないのか姿がない。
メニューは硬いパン・スープ・肉野菜炒めでこの世界ではじめてまともな食事だったので美味しく食べられた。
 
 
食事の後に話があると村長の部屋へ呼ばれた。
 
「名前はジョージ君じゃったな」
「呼び捨てでいいですよ」
「そうか、まぁ察しておると思うが金貨の件じゃが…、暫く待ってもらえんかのぉ」
 
やっぱりねぇ。
金貨の価値は知らないけど1枚1万円換算でも100万円相当だもんな。
この村は裕福そうじゃないしこの家だって大きいけど裕福って感じじゃない。
結構築年数が経っていそうだから村の開墾時に建てられたとかじゃないのかなぁ。
 
「暫くってのはいつまで?」
「1週間、いや2週間程待っていただければ…」
「もしかしてお金ないのに金貨100枚って言っちゃったの?」
「いや金はある。あるんじゃが儂の金じゃなくて」
「息子さんの?」
「そうじゃない」
「なら誰のお金?」
「む、村の金じゃ」
「村の金を俺に渡すつもりだったの?」
「いや、あの時は息子を助けたい一心だったんじゃ」
「それで公私混同したと」
「………………」
「どうやってお金を準備するの?。1・2週間で金貨100枚って準備できるものなの?」
「それは家の物を街で売ったりとかして…」
「失礼だけどこの家に売るような高価な物があるのように見えないんだけど」
「………」
 
暫く沈黙していた村長が再び口を開く。
 
「村で養っている子供を口減らしで町で売ればなんとかなるはずじゃ」
「口減らしで子供を売る!!」
 
この世界って人を売り買いするんか!!
 
「そうじゃ10人程かなのぉ」
 
10人も!!
 
「その売られた子供はどうなる?」
「どうなるって、奴隷になるに決まっておる」
「奴隷!!」
 
そうか奴隷か!
奴隷制度か!
うーん…………
 
「それ以外じゃお金は準備できないと」
「そうじゃな」
「そうか」
 
子供を売った金を貰っても全然うれしく無い。
不快だ後味が寝覚めが悪い。
 
「わかった」
「そうか待ってくれるのか」
「子供は売るな」
「えっ!」
「金貨100枚もいらない」
「はぁ!?」
「その替りに別の物をくれ」
「えっ!!!、……替りに別の物?」
「そう」
「それは?」
「うーん…、そうだなぁ…」
 
思いつかない。
何にしようか。
何がいいか。
何なら貰えそうか。
高そうなものだとまた子供を売るとかいいか言い出しそうだし。
うーん、困ったなぁ。
 
「今すぐには思いつかないから暫く考えてもいい?」
「あっ、ああいいぞ」
「そうだ、とりあえず暫くここに泊めてよ。その間に村長が無理なく払えそうなものを考えるよ」
「…………、判った。それなら暫くと言わず好きなだけ泊まってくれ」
「好きなだけって…、こんな得体も知れない子供を信用しすぎだよ」
「いや、金貨だけじゃなくゴブリン撃退と息子の腕の件もあるからな。屋敷に泊める位安いもんじゃ」
「おおげさな」
「そんな事はないぞ。孫と曾孫を差し出しても十分お釣りが来るくらいじゃ」
「いやいや孫や曾孫を簡単に差し出すなよ」
「いらんのか?」
「物じゃないんだからさ」
「そうか?、孫と曾孫を娶ってこの村に定住して欲しかったんじゃがな」
「はぁ!?…」
「儂らが出会ったきっかけは少々アレじゃったが、ジョージはお主は優良物件じゃからな」
「はぁ!?」
「お主に敵う者はこの村にはおらんじゃろう」
「いやいや、そんな事ないでしょう」
「剣の腕は儂より上じゃろ?」
「さぁ?」
「とぼけなさんな」
 
本当にわからないんだって。
戦ったこと無いしね。
 
「魔法なんざこの村どころかこの国でもトップクラスじゃろ」
 
神様チートはそんなに凄かったのか。
 
「あんな風に攻撃魔法を連発してケロっとしているなんざ聞いたこともない。どれほどの魔力じゃか」
 
そういえば魔力を気にしたことなかったな。
 
「ダミアンの腕を治した治療魔法のなんざ教会の神官クラスじゃった」
 
きょうかいのしんかん?
協会の新刊?
 
「しかも無詠唱ときたもんじゃ!!」
 
あー、やっぱり普通は詠唱するんですね。
 
「そういう優れた人材を我が村は欲しておるのじゃ」
「なんか、いきなり話が飛びすぎてついて行けないんですけど」
「孫と曾孫じゃ不満か?」
「いやいや待って!」
「二人じゃ不満か。それなら村からもっと」
「そうじゃなくて、それじゃ重婚じゃないか」
「じゅうこん!?」
「えっ?」
「えっ?」
「あれ?、もしかしてあれかな?、ここ一夫多妻の国」
「そうじゃが」
「そういうことか」
「そういうことじゃ」
「でも話したこと無いし、ほとんど初対面だし」
「問題無いじゃろ」
「いやいや問題有り有り。そういうのは当人同士の問題でしよ。」
「いや親が決めるもんじゃぞ」
「えっ!?」
「それに村の行く末を決める重要案件じゃ誰にも反対させん!!」
 
あれ?
どうしたこうなった!?
 
 

【6話】
 
 
目が覚めた。
今何時?
[5時32分]
早すぎるまだ外は…、明るくなり始めているな。
起きるか。
 
昨夜は逃げるように村長の部屋からここに戻った。
 
部屋から出てトイレへ行き、次に顔を洗おうと思ったけど洗面所は何処だ?
クリーンの魔法でもいいけど普通に顔を洗ったほうがスッキリするので好みだ。
 
とりあえず人の気配のする場所へ向かってみたらキッチンで女性達が忙しそうに働いていた。
朝食の準備をしているのだろう。
そっと近くの女性へ声をかける。
 
「おはようございます」
「昨夜来たお客さんね。おはようさん」
「顔を洗いたいのですが場所は何処でしょうか?」
「それなら水場はこっちよ」
 
そう言うと廊下を先立って歩いて行く。
後を付いて行くと石造りの部屋へ出た。
 
「この水瓶からヒシャクで水を汲んで、洗面器はここのを使ってね。使い終わった水はこっちに流せばいいから」
「わかりました。ありがとうございます」
「それと食事はもうちょっと時間が掛かるからね。準備ができたら部屋に呼びにいくから」
 
そう言うと女性は戻っていった。
 
顔を洗いアイテムボックスからゴワゴワした素材のタオルを取り出して顔を優しく拭いていたらバケツを持った子供達が次々と持って入ってきた。
昨夜の到着時に家から出てきた子供達だ。
 
「おはようございますお客様」
「おはようございます」
 
こちらに挨拶しバケツの中の水をいくつかある水瓶へ移してバケツ持ったまま出て行った。
井戸から水を汲んできたのだろうか。
簡単な仕事は子供達にさせているのだろう。
 
客間へ戻って朝食を待つ。
暇なので窓を開けて外を眺めているとバケツを持った子供達が門の外から入ってきた。
って、井戸は敷地の外にあるのか?
村の真ん中に共同井戸が一つあるって事なのかな。
 
暫く経ってから先ほどの女性が朝食が出来たと呼びに来たので一緒にへ向かった。
 
食堂の大きなテーブルを沢山の人が囲んでいた。
村長にダミアンに長男のえーと名前は何だったかなぁ?
[ハロルド/45歳/レベル97]
おおっ!
人にも鑑定魔法が効いてビックリした。
 
「皆揃ったようじゃな。食事の前に紹介しておこう。この子はジョージ君。屋敷に泊まっている」
「皆さんおはようございます。譲二といいます。暫くこちらでお世話になるのでよろしくお願いします。」
 
暫くだよ。ずっとじゃないからね。
 
そして村長が皆を一人ずつ紹介してくれた。  
全員ファミリーだった。
村長夫妻と子供と孫と曾孫で総勢12名
 
 アルバート/村長/60歳
 イザベル/「アルバート」の妻/65歳
 ハロルド/「アルバート」の長男/45歳
 ダミアン/「アルバート」の次男/39歳
 エリス/「ハロルド」の妻/43歳
 カイゼル/「ハロルド」の長男/29歳
 コゼット/「ハロルド」の四女/12歳
 ウエンディ/「カイゼル」の妻/28歳
 ウィリアム/「カイゼル」の長男/13歳
 シャルロット/「カイゼル」の長女/11歳
 キャメロン/「カイゼル」の次男/7歳
 ジョナサン/「カイゼル」の三男/5歳
 
大家族だ。
それともこの世界じゃこれが普通なのか。
 
「それじゃ食べようか。皆、神に感謝を」
 
皆、村長の言葉で胸の前で手を合わせ
 
「神に感謝を」
 
そう言って食べ始めた。
宗教かな?
俺も手を合わせて小さく同じように言い食べはじめた。
パンは昨夜のより柔らかかった。
朝だから焼きたてで柔らかいのかな。
 
 
食事が終わる村長から逃げるようにさっさと客間へ引っ込み今日の予定を考える。
といっても村を見て回るくらいしかやることはない。
  
アイテムボックスから盾と鉄の兜以外の防具を取り出し装備し外へ出かけていった。
もちろん腰には剣を吊るしてある。
 
メイドのおばさんにちょっと村を見てくると伝えて屋敷の玄関を出る。
門のところまで来たら村が一望できた。
うん、小さい村だ。
この村は山の麓のなだらかな斜面にあるようだ。
村の門から九十九折のなだらかな坂を登り切ったところにあるのが村長の屋敷だ。
村長の屋敷が村の一番奥に位置している。
その先は森でそのままなだらかな斜面は山へと登っていく。
遠くに滝が見える。
 
高さ10m程の丸太の塀は村をぐるっと囲んでいて正面の門以外に2箇所物見櫓がありそれぞれ人が登っているようだ。
 
坂を下ってぶらりと村を廻ってみた。
村の家は村長の屋敷以外は全て平屋だった。
村長の屋敷以外は丸太小屋だ。
だいたいどの家も似たような作りだ。
窓の位置の感じだとロフトというか屋根裏部屋があるように見える。
小売店に食堂や宿屋は無い。
 
昨夜とは違い開け放たれている正面の門に脇には二人の男がいた。
多分門番だろう。
昨夜の人とは別人だった。
[ルーク/31歳/レベル52]
[モーガン/27歳/レベル49]
 
門を出る時に門番に何も言われないのでそのまま外へ出る。
外のなだらかな斜面には畑が広がっていた。
そういえば村の中に畑は無かったな。
住むのは村の中で畑は村の外って決まっているのだろうか?
それ以前に山の斜面じゃなく平地に村と畑を作ればよさそうなのに何でだ?
斜面のほうが収穫が上がるのか?
 
村の脇は急斜面になっていてその下には川が流れていた。
その川で子供がバケツで水を汲んでいた。
えっ!!
もしかして村長の家の子供達もここまで水を汲みに来ていたの?
結構距離あるぞ。
そういえば村を見てまわった時に井戸を見かけなかった気がする。
大変だな子供達。
 
斜面を降りて川を眺める。
ん?
水面に波紋が!!
多分魚がいるのだろう。
ここの魚は獲ってもいいのかな?
水を汲みに来た子供に聞いてみたら。
誰も獲らないらしい。
誰も獲ることが出来ないからだとか。
それなら獲っても大丈夫かな?
いや、一応村長に確認したからにしよう。
子供の知らないルールがあるかもしれないからな。
 
 
村長の屋敷へ帰るとメイドのおばさんから今日は風呂に入れるからと伝えられた。
おおっ、風呂があるのか。
それは楽しみだ。
昨夜は何も言われなかったから無いのかと思っていた。
クリーンの魔法で体は綺麗になるけどやっぱり風呂には入りたいよね。
 
コンコンと村長の部屋のドアをノックする。
 
「どうぞ」
「失礼します」
 
ドアを開けて中を覗き込む。
 
「村長、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが今よろしいでしょうか?」
 
部屋の中には村長とハロルドさんがいた。
 
「下の川の魚って獲ってもいいのですか?」
「よいが、どうやって獲るんじゃ」
「えと、魔法で」
「魔法でか!」
「ええっ、魔法でチョチョイと」
「随分簡単そうじゃな」
「簡単に取れると思いますよ。他の川でやったことありますから」
「そうなのか」
「あっ、もしかして魚があんまりいない?」 
「そんなことないぞ」
 
これまで黙って聞いていたハロルドさんが会話に参加してきた。
 
「上から見ても魚が見えるから、結構いると思いぞ」
「それじぁ美味しくないとか皆食べないとか?」
「いや美味しいし皆食べるはずだ」
「それじゃぁ何で魚を獲らないんですか?」
「獲りたくても獲れんからなぁ」
「竿や網は?」
「何だソレ?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「魚を獲る道具ですが、もしかしてご存じない?」
「あー、そういえば聞いたことはあるがこの村には無いな」
 
自身満々にハロルドさんは答えた。
 
村長いわく、遠くの港町や王都近くの湖では漁をしているらしい。
でも漁具は高価で川魚をちょっと取る程度で買う人はいないということだった。
 
 
「そういえば子供達が川の水を汲んでいますよね」
「子供達の仕事じゃな」
「それを見て不思議に思ったのですが。この村に井戸はないのですか?」
「井戸か、井戸はずい分前に枯れてしまったぞ」
「枯れた!?。それならまた掘れば」
「掘ったんじゃが駄目じゃった」
 
そう言って村長は首を振った。
 
「あちこち掘ったが全然水は出んかった」
「それで子供達が水を汲んでいるわけですね」
「そうじゃな。子供にできる単純労働じゃし体力づくりにもなるしな」
「でも山の方に滝が見えるじゃないですか」
「あるな」
「あそこから水を引けないのですか?」
「それは無理じゃな」
 
再び村長は首を振る。
 
「どうして?」
「あの辺は岩ばかりでそう簡単に水を引く事は出来んよ」
「岩ですか…」
「まぁ、時間と金をかければ出来んこともないと思うが」
「それなら」
「こんな貧乏な村にそんな金はないよ」
「そうですか…。それじゃ川に行って魚を獲ってきます」
 
そう言って村長の部屋を後にした。
 
 
さて居るかなー。
川に両手を入れて魚の気配を探る。
居る居る。
結構いっぱい居るぞ。
この前と同じように水魔法を使いブルーフッシュを手で捕まえた。
暫くそうやってブルーフッシュを獲り続けていたら、後ろから急に声が聞こえてビックリした。
  
「わぁっ!」
「凄い」
「魚だ!」
「あの子魚を捕まえてる!!」
 
振り向くと川岸にバケツを持った子供達が4人立っていた。
川に水を汲みに来たら川の中に俺がいたので見ていたのだろう。
 
両手にブルーフッシュを持ち川岸へ上がる。
子供達の目はブルーフッシュに釘付けだ。
 
「…」
「…」
「…」
「…」
 
視線に耐え切れなくなった。
 
「えーと…、これ欲しい?」
 
子供達は突然話しかけられ一瞬固まっていたが首を立てにブンブンと振りだす。
 
「じゃあハイ」
 
両手に持ったブルーフッシュを子供達の最年長者へ差し出す。
その子は手に持ったバケツを下に置き両手でそれぞれブルーフッシュを受け取った。
他の3人の子供にもそれぞれ2匹ずつ渡してやった。
 
「ありがとう」
 
子供達は御礼を言って、両手でブルーフッシュを持って村へ走っていった。
うん元気だね。
でもその場には4つのバケツが残っている。
水を汲まないで行っちゃったけどいいのか?
よくないと思う。
仕方ないので4つのバケツに水汲みそれを持って村まで戻った。
 
水汲み門と呼ばれている人しか通れない通用門から村へ入るとさっきの子供達がこちらへ走ってきた。
 
「あっ、バケツ」
「4つも持ってる」
「水がいっぱい入っている」
「凄い!」
 
魚をプレゼントした子供達だったのでバケツを地面に置くと子供達は再びお礼を言ってバケツを重そうに運んでいった。
 
 
屋敷に帰ってメイドのおばさんに夕飯にでも使ってとアイテムボックスからブルーフッシュを沢山出すと驚かれた。
夕飯はもちろん魚料理だった。
魚は偶然獲れることはあっても量が少なく、1人1匹ずつ食べられるなんて夢のようだと皆に感謝された。
こんなに喜んでくれるならまた今度獲ってこよう。
 
 

【7話】
 
 
川で魚を獲った翌日、フル装備で屋敷を出ようとしたらお手伝いのお爺さんに声をかけられた。
 
「そんな格好でどこへ行かれるので?」
「ちょっと山へ。滝まで行ってみようかと思いまして」
「滝?、どうしてまたそんなところまで?」
「えーと…、暇つぶし?」
「…一人でですか?」
「一人で」
「それはちょっと無謀かと思うが」
「えっ、山ってそんなに危ないの!?」
「それはもう、魔獣が出るからのぉ」
「コブリンなら平気ですけど」
「いや、それ以外にもオーク・ウルフ・ボア・ベアーなどのゴブリンより危険な魔獣が出ぞ」
「…、何とかなるんじゃないかな」
「いくら君がゴブリンを倒せるからって流石にそれは…」
「うーん…、多分大丈夫ですよ」
「どうしても行くと?」
「うん、行く」
「………、わかった。じゃあ暫く待っとれ」
 
そう言うとお手伝いのおじさんは屋敷の奥へ消えていった。
暫く屋敷の前で待っているとお手伝いのお爺さんはダミアンとハロルドの長男カイゼルさんを連れて出てきた。
3人とも武装している。
 
「待たせたのぉ。それじぁ行こうか」
「えっ、一緒に行くの」
「ああ、儂とダミアン様とカイゼル様も同行する」
「いや、そんな悪いよ」
 
ちょっとした暇つぶしの思いつきなのに大げさになってきた。
ふてくされた顔をしたダミアンが噛み付いてきた。
 
「おいジョージ、いったい何しに滝まで行くんだよ」 
「えーと、ちょっと暇つぶしに」
「はぁ!?、ふざけんな俺は行かねーぞ」
 
屋敷の中へ戻ろうとしたダミアンの肩をお手伝いのお爺さんが掴んで止めた。
止めなくていいのに…。
 
「ダミアン様。旦那様のご命令ですぞ」
「なんでこいつの暇つぶしに付き合わなきゃいけないんだよ」
「旦那様がダミアン様は経験が足ないからゴブリンに遅れをとったと仰っていたじゃないですか」
「あれは数多かったんだよ」
「ジョージ君は大活躍だったとお聞きしておりますが?」
「それはっ…」
「今回はいい機会ですよ。それともお一人で経験を積みに行かれますか?」
「くそっ!、わかったよ。行けばいいんだろ、行けば!!」
「わかれば宜しいのですよ」
 
そんな二人のやり取りをカイゼルさんは苦笑して見ていた。
 
「じゃあ、さっさと行くぞ」
 
そう言うとダミアンは一人で行ってしまった。
 
 
険しい森の中を進んでいたお手伝いのお爺さんことロジャーさんが立ち止まり振り返った。
 
「遅いですぞダミアン様」
 
はじめ威勢のよかったダミアンが息を切らせながら最後尾を遅れて着いて来る。
 
「まっ、待て。早い、早すぎる」
「いいえ、子供のジョージ君が平気な顔で着いて来るのですから早くはありません」
「いやいやジョージがおかしいんだよ」
「ロジャーのペースに平気で着いて来るなんて君は凄いよね」
「いえそれ程でも…」
  
ロジャーさんのレベルは高い。
ウストビッジでは村長のレベル182に次ぐ強さでレベル163。
村長が若いころに一緒のフリーターをやっていてかなり強かったんだとか。
フリーターってのはゲームやラノベでいうところの冒険者の事らしい。
 
ちなみに屋敷の男性陣のスペックは以下のとおり。 
 [アルバート/60歳/レベル182]
 [ロジャー/62歳/レベル163]
 [ハロルド/45歳/レベル97]
 [ダミアン/39歳/レベル59]
 [カイゼル/29歳/レベル51]
 [ウィリアム/13歳/レベル13]
 
ん!?
ダミアンが追いついたので再び歩き出そうとしたロジャーさんに声をかけた。
 
「ロジャーさんあちらから何かが来ます」
 
皆一斉に俺が指差した方向を向く。
暫くして姿を現れたソレは赤茶色のとても大きなイノシシだった。
なんだありゃ!?
牛よりデカいぞ!!
[レッドボア/レベル91/魔獣]
 
「レ、レッ、レッドボア!!」
「嘘だろ!。なんでこんなヤツが村の近くに!」
「落ち着ついて、4人で力を合わせれば倒せます。ジョージ君は下がってて」
 
ダミアンとカイゼルさんに経験を積ませるので俺は戦力外通告。
でもレベル91のレッドボアが相手じゃダミアンとカイゼルさんじゃレベル的に厳しいだろう。
 
ゆっくりとこちらへ近づくレッドボアにカイゼルさんが矢を放つ。
矢はレッドボアの背に刺さったが、それが合図のようにレッドボアがこちらへ突進してきた。
 
カイゼルさんは素早く弓を背負うと腰から剣を抜く。
 
「ほら、ダミアン様も剣を抜いて!」
 
レッドボアに怖気づいて腰が引けてるダミアン。
駄目だコイツ使えない。
 
「仕方ありませんね」
 
そう言うとロジャーさんは前に出てカイゼルさんと共にレッドボアを迎え撃つ。
ロジャーさんは突進してきたレッドボアを躱しながら剣で斬りつける。
カイゼルさんは躱すのが精一杯のようだ。
何度目かの突進でロジャーの剣がレッドボアの首筋を大きく切り裂いた。
レッドボアはそのまま暫く直進して倒れる。
ロジャーさんがレッドボアへそっと近づき様子を見て左手を上げた。
カイゼルさんが大きく息を吐いて剣を鞘へ戻した。
どうやら倒したようだ。
 
倒れたレッドボアへ近寄ると何やら思案顔のロジャーさんのが今日は滝に行けないと言い出した。
 
「えっ、どうしてですか」
「これを持って帰らないと」
 
レッドボアの死骸を指差す。
 
「ジョージ君、水魔法を使えるかい?」
「使えますよ」
「それじゃあ魔法で血抜きをしてくれんか?。大きすぎて吊るせないんじゃ」
 
魔法で血抜き!?
あっ、ああ、そういうことね。
水魔法で血を流し出せって事ね
 
「いいですよ」
 
レッドボアの死骸に手を当ててパックリ開いた傷口から血が流れ出るようにイメージする。
ドクドクと血が流れ出ていく。
 
「よし、それじゃ解体しましょう」
 
ロジャーさんとカイゼルさんはナイフを手にしている。
 
「ちょっと待って下さい。これを今ここで解体するのですか?」
「大きいから急がんとな」
「帰ってからやりませんか?」
「いや、それは無理じゃ。大きすぎて持ち運べん」
「俺が持って行きますよ」
「何を言っとる?」
「こういうことですよ」
 
レッドボアをアイテムボックスへ収納する。
 
「えっ!」
「はっ!?」
「何っ!」
 
3人は一瞬で目の前からレッドボアが消えて驚きあたりを見廻している。
 
「何処へ行った!?」
「消えた」
「そんなバカな!?」
 
驚いてる驚いてる。
探している探している。
 
「ここにありますよ」
 
アイテムボックスからレッドボアを出す。
 
「おわっ!」
「出た!」
「何っ!!」
 
またアイテムボックスへ収納する。
 
「また消えた!?」
「いったいどうなっている!?」
「…」
 
また探している。
 
「えーと、皆さん落ち着いてください」
 
そう言い3人を見回す。
 
「魔法です。俺の魔法でレッドボアを消しました。詳しい説明は省きますが俺の魔法でレッドボアを消して持ち運べます」
 
レッドボアを出す。
 
「いいですか消しますよ」
 
レッドボアを収納する。
少し移動する。
 
「ここに出しますよ」
 
再びレッドボアを出す。
3人とも声もなく固まっている。
 
あー、こりゃ理解してないというか理解できないのか。
魔法で別の空間にとかいっても正直俺も正しくは理解しているわけじゃないからなぁ…
 
暫くしてロジャーさんが再起動した。
 
「ジョージ君、これは君の魔法なんだね」
「そうです」
「…………」
「まぁ、難しく考えないでください。眼に見えないけど俺が運んでいるとだけ理解すればいいですよ」
 
再びレッドボアをアイテムボックスへ収納する。
 
「それじゃ滝に行きましょうか。こっちでしたよね」
 
そう言って俺は滝へ向け歩き出した。
 
途中ゴブリン・オーク・ビッグボアと魔獣に遭遇したが2人又は3人が楽々と片付けていった。
レッドボアに比べたら弱い弱い。
大雑把に数字にすると
 ゴブリン/レベル10
 オーク/レベル20
 ビッグボア/レベル30
 レッドボア/レベル90
レッドボア強すぎです。
 
3人が倒した魔獣も俺が手早く血抜きをしてアイテムボックスへ収納した。
血抜きは楽だし解体はこの場でしなくていいし持ち運ばなくてもいいしと3人は御機嫌だった。
 
 
 
はじめは遠かったドォーっという音の元が見えてきた。
落差50mはあるだろうか?
すごい水量が滝壺へ落ち、辺りいっぱいに水煙を撒き散らしている。
 
「やっと着いた」
 
濡れるのも構わず水煙を全身に浴びながら滝を見上げ立ち尽くす。
 
「ジョージ君、村が見えますよ」
 
ロジャーさんが指差した先にウストビッジ村が見えた。
塀に囲まれた村とその周囲に広がる畑。
それ以外は手付かずの自然が広がっている
見えるのは森と草原と山。
 
暫くその風景をぼーっと眺めていた。
 
目的は果たした。
来たばっかりだけど帰ろう。
帰りは魔獣に会うこともなく屋敷へ帰り着いた。
 
 
屋敷に戻ったら早速レッドボアを取り出した。
いきなり出てきたレッドボアにメイドのおばさんは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
ごめんなさい。
 
解体はグロいので早々にその場を離れて部屋へ戻った。
暫く寛いでいたらロジャーさんがやって来てレッドボアの解体が終わったので残りの魔獣の死骸も出して欲しいと言ってきた。
急がなくても腐らないのにと言うと驚かれたが皆準備して待っているしついでなので今解体するという。
さっきの場所へ行って残りの魔獣の死骸も出してあげた。
 
レッドボアやビッグボアの肉はイノシシだから食べるだろうけど、ゴブリンやオークはどうするのかと聞いたらこちらも食べるという。
肉は固くて不味いけど田舎では十分ご馳走になるという。
人型の魔獣も食べるのか。
 
アイテムボックスにゴブリンの死骸が大量に入っているけど、これも解体して皆で食べるかと聞くと欲しがったので差し上げることにした。
量が多いので村人を集めて後日解体するそうだ。
 
 
夕食は肉祭りだった。
ゴブリンの肉は確かに固くて美味しくなかった。
 
 
夕食後に村長に滝へ行った真意を伝えた。
 
「水路!?。滝の所から村まで水を引くじゃと!?」
「魔法を使えば岩に水路が掘れます。後は森の中を通って屋敷の裏までそんなに難しく無いですよ」
「そんなに上手くいくかのぉ」
「大丈夫ですよ。俺一人でやれますから」
「一人でやるのか!?」
「ええ。なんとかなるでしょう」
「そうか…」
 
暫く考えこむ村長。
 
「よしわかった。明日村の連中に話をする。反対されなければ作っても良いじゃろ」
 
 
 
翌日緊急で招集された会議が屋敷で行われている間、俺は水路の経路を考えながら村を歩いていた。
屋敷の裏から村に入って屋敷の門から馬車道沿いに下るのを基本として詳細は村長と相談だな。
 
村を廻って屋敷へ戻ったら会議は終わっていた。
でも招集された人たちは残っていて、どんな水路を作るのか質問してきたので屋敷前の広場で土魔法を使い地面に10m程の石で出できた溝を作ってやった。
驚く人々をよそに側溝の蓋のようなものを作り出し溝に被せていく。
これでゴミも入らないしメンテもバッチリですよ。
 
結局誰も反対しなかったそうだ。
そりゃ川からの水汲みから開放されるんだから反対する理由がない。
 
夕食後村長の部屋で村長とハロルドさんとカイゼルさんとロジャーさんと俺の5人で水路の経路について話し合った。
 
 
翌日、昨夜の5人で実際に村を歩いて水路の経路を確認していく。
あとの村民との細かいやり取りは4人に任せた。
 
 

【8話】
 
 
水路工事零日目
雨が降って中止。
いきなりつまづいた。
そういえば異世界に来て初めての雨だ。
 
雨が降っているので出歩くわけにも行かず屋敷にあった本を読んで過ごした。
神様チートなので文字が読める。
この国の歴史本はぶっちゃけ面白く無かった。
魔法の本は初心者用で大したことは載っていなかった。
他にはドラゴンを倒す英雄の絵本。
ドラゴンなんて倒せるわけ無いじゃん。
あんなの絶対無理だってば。
これこそファンタジーだ。
 
そうそう、外に器を並べて雨水を貯めていた。
大気汚染ってのがなさそうだから雨水でも平気みたい。
 
 
 
水路工事一日目
晴れたので工事ができる。
工事といっても俺一人が魔法を使うだけ。
いつものフル装備で屋敷の玄関を出たらハロルドさんとカイゼルさんとロジャーさんが待っていた。
護衛です。
はじめは断ったんだけど俺に何かあったら工事ができないからって断れなかった。
ハロルドさんはいつも忙しそうにしているけど今日は初日だから様子が見たいと護衛するそうだ。
 
屋敷裏の裏門を出て森を進む。
途中何度か魔獣に遭遇したが護衛の方々がサクサクと倒していった。
今日はレッドボアはいなかった。
何でもめったに遭遇しないそうだ。
 
今回は足の遅いダミアンがいなかったので前回より早く滝にたどり着いた。
早速護衛の3人とこの辺りの地形と村の位置を確認しながら上手く水が流れるような水路の経路を話し合う。
 
村の方に水を流すにはどうしても大きな岩がというか小山が邪魔なのトンネルを掘る事になった。
水が通る分だけの穴だと何か詰まった時のメンテが大変なので人が通れる大きさのトンネルを掘る。
岩に手を当て土魔法で穴を開け広げていく。
硬い、土より難しい。
それならと岩を切り取るイメージでやってみたらどんどん広がる。
でも切り取った岩が邪魔。
  
「ジョージ、それ同じ大きさで切り取れないかい?」
 
後ろで見ていたハロルドさんが声を掛けてきた。
 
「出来ますよ」
「それじゃこのくらいの大きさで頼む」
 
両手を使って大きさを示す。
 
「四角くていいんですよね」
「そうだ」
 
レンガの大きさくらいに切り取って渡した。
 
「こんな感じですか」
「いい感じだ」
「コレで何するんですか?」
「建材だよ。家の壁とかかまど作りにも使えるな」
 
そのままだった。
その後はトンネル掘りというより建材の切り出しだった。
作り出した建材は即アイテムボックスへ収納。
俺って建材作りで生活出来るんじゃないか?
 
昼食はアイテムボックスから乾パンとフルーツを出し滝壺で獲ったブルーフッシュを焼いて皆で食べた。
この村の人は普段昼食を食べないが俺だけ食べるわけにもいかないので皆の分もアイテムボックスからだした。
 
「このかんぱんって食べ物は凄く美味いな」
「このフルーツもう美味いな。何処で穫ったんだい?」
「こうやって焼いて食べるのもけっこういけるな」
 
大好評だった。
 
昼食後も建材作りじゃなくてトンネル掘りを続ける。
夢中で掘り続けてたらついに向こう側へ貫通。
やったーっ!!
暗いトンネルから出て両手を上にあげて伸びをしようとした時に強い気配を感じて反射的にその場から飛び退った。
俺に飛びかかってきた黒い何かをすんでのところで避けることが出来た。
[ブラックベアー/レベル109]
くまだクマだ熊だベアーだ!!
ってレベル109!!
レッドボアより強いじゃん!!
急いでアイテムボックスから剣を取り出し鞘から抜き構える。
四つん這いのまま前足をブンブンと振り回して襲ってくる。
んー、レベルは高いけどレッドボアよりは素早くない。
素早くないけどこの腕というか足を喰らったら痛そうだよなぁ。
などと思いながら落ちついて攻撃を躱しブラックベアーの右脇をすり抜けながら右後足を剣でスパっと切り落とした。
グガァー!!
ブラックベアーはたまらず吼えてバランスを崩してゴロンと倒れる。
すかさず背後から剣を突き立てて
 
「サンダーソード」
 
ブラックベアーは一瞬ビクっとして動かなくなった。
倒したかな?
ブラックベアーから気配が急速に消えていった。
思いつきの魔法だが上手くいった。 
ブラックベアーの死骸をアイテムボックスへ回収し切り落とした足を拾ってトンネルを戻っていった。
 
 
「トンネル開通したよー」
「早かったねぇ」
「もう出来たのか」
「おっ、向こうに光が見える」
 
護衛の3人がトンネルを覗き込んでいる。
 
「それと向こうに熊がいたから倒してきた」
 
後手に持っていたブラックベアーの足をハロルドさんへ渡した。
 
「くま…」
 
何も考えず受け取ったハロルドさんが固まった。
 
「うあっ!!」
 
手を離しブラックベアーの足をその場に落とす。
 
「熊ってこれ、ブラックベアーの足か!?」
「ブラックベアーはどこだ!!」
「嘘だろおい!」
 
3人は慌てて剣を抜き周囲を警戒し始めた。
 
「あー、もう、大丈夫ですよ。倒しましたから」
「……!?」
「……!?」
「……!?」
 
3人とも顔にはてなマークが浮かんでいる。
 
「ほらこの通り」
 
アイテムボックスへからブラックベアーの死骸を出す。
 
「うあっー!!」
「わぁっー!」
「うおっー!!」
 
急に現れたブラックベアーの死骸に驚いた3人は一斉に後ろへ飛び退った。
 
「大丈夫ですって、もう死んですまからほら」
 
ブラックベアーの死骸の頭をペシペシと右手で叩く。
 
それを見た3人は恐る恐る近寄ってくる。
 
「ブラックベアーだ」
「結構デカいぞこれ」
「4m…いや5m近くあるな」
「いやー、トンネルが開通して向こうに出たら急に襲ってきてビックリしましたよ。思わず反撃して倒しちゃいましたよ」
 
唖然としている3人。
 
「それじゃあトンネルが出来たので次は向こうで水路を作りますね」
 
ブラックベアーをアイテムボックスへ回収しトンネルへ入っていった。
トンネルを抜けると岩肌の斜面が暫く続いて、その先が森になってその向こうが村だ。
間違いなく村の上に繋がるように傾斜を考えながら岩肌に水路を魔法で掘っていく。
トンネルを掘った時と同じように石を切り出し建材を量産していった。
  
周囲を警戒していたハロルドさんが話しかけてきた。
 
「なぁ、もしかして俺たち必要なかったのか?」
「そうですねぇ。あの熊程度なら1対1でも大丈夫ですね」
「熊程度ってあれはブラックベアーだ」
「熊でしょ?」
「レベルが全然違う。俺でも1対1でギリギリ倒せるレベルなのに…」
「あの熊が2頭3頭だと厳しいかもしれないですね」
「それはないだろうブラックベアーは群れないからな」
「そうなんですか。それはよかったです。でも1頭だけならといってもこうやって魔法を使って作業に集中していると周りが見えなくなって警戒が疎かになるので、やっぱり護衛がいたほうがいいですね」
 
会話が途切れたので黙々と作業を進める。
その日の内に岩肌の斜面に水路を掘り終えた。
 
 
 
水路工事二日目
今日は森の中の工事だ。
岩肌の斜面と違い森には木が生えているので水路の進路上に生えている木を切り倒す手間が増えた。
 
「なんだよ。斧いらねぇじゃねぇかよ」
 
ダミアンが文句を言っているのは俺が木をウインドカッターでスパスパと切っているからだ。
今日の護衛はハロルドさんに代わってダミアンが居る。
他の二人は同じだ。
ウインドカッターで切り倒した木はアイテムボックスへ収納していく。
地面に生えたままだとアイテムボックスへ収納できなかった。
出来れば楽だったのに残念。
アイテムボックスへ収納した木は後で村の製材所で吐き出す。
そこで木材か薪に生まれ変わるだろう。
 
森の中は土なので岩肌の斜面よりもすいすいと水路が作れる。
土を石に変換するのは手間だし木の根も邪魔だけど硬い岩に比べたら全然楽ちん。
 
昼食は乾パンとフルーツだけ。
ダミアンが乾パンを美味い旨いと食べるので欲しがるだけ腹一杯になるまで与えてやった。
 
夕方ギリギリになって森の中の水路の作業は終わった。
ああっ、そうだ。蓋を作るのを忘れていた。
 
魔獣は護衛の方々が倒してくれました。
最近屋敷では肉が余り気味なので村民へ配っているそうだ。
 
 
 
水路工事三日目
今日は蓋作りだ。
滝まで行って周囲の岩を使いどんどん蓋を作っていく。
黙々と蓋を作っていく。
作る端からアイテムボックスへ収納していくので蓋は残らず滝の周囲の岩がどんどん減っていくから傍から見たら奇妙な光景だろうな。
 
昼食はいつのもあれとは焼き魚。
ダミアンが一人で5匹も食べやがった。
食い過ぎだ。
 
昼食もひたすら蓋を作ってこの日は終了
今日作った分だけじゃ森の分までしかないだろうなぁ
 
 
 
水路工事四日目
滝の方から順に水路に蓋を被せていった。
やっぱり蓋の在庫は森の中で尽きた。
再び滝へ戻って蓋を量産してこの日も終了。
 
 
 
水路工事五日目
今日から村の中での作業なので護衛はいらないはずなんだけどロジャーさんが付き添っている。
 
なんかずっと見られてる。
村人の誰かが必ず見ている。
大人は短時間で飽きるのか直ぐ居なくなるけど、子供は飽きもせず黙って見ていた。
どうやら事前に邪魔しないように通達が出ていたらしい。
更にロジャーさんが横で睨みを効かせていたから誰も話しかけられなかったようだ。
 
誰も話しかけてこなかったので作業ははかどり村の中から川まで全ての水路が繋がった。
ロジャーさんから村の外の畑の脇に溜池を作れないかと急遽言い出したので作ってあげた。
 
屋敷に帰る途中まだ蓋をしていない水路で子供達が遊んでいたが、それを見たロジャーからここのは人が飲む水が流れる水路になるから入って遊んだら駄目と叱っていた。
村民へ水路に入らないよう通達を出さなければと言っていた。
 
 
 
水路工事六日目
村の中の水路へ上流側から蓋をしていく。
ロジャーさんが子供達に水路に入らないように再度注意していた。
蓋を閉め終わったらロジャーさんと二人で水路を逆にたどりながら最終点検をしていく。
異常無く滝へたどり着く。
いよいよ水を流す時が来た。
滝壺と水路を土魔法を使い繋げると勢い良く水が水路を流れていった。
それを見たロジャーさんが持ってきた枯れ草の束に火をつけた。
モクモクと煙が上がっていく。
狼煙だ。
これが水を流したという合図だった。
暫くその場から村を見続けていると暫くしてから村からもモクモクと煙が上がった。
どうやら無事水が流れ着いたらしい。
よかった。
途中一度も通水テストしていなかったのでぶっつけ本番だった。
無事流れてホントよかった。
ゆっくりと水路を辿って点検しながら村へと下っていった。
 
 
 

【9話】
 
 
水路が完成してから数日はのんびり過ごした。
 
 
 
「ジョージ、そろそろ替り物は決まったかね」
 
すっかり忘れてた…
 
「えーと、そうですねぇ…」
 
水路作るのに夢中で忘れてた。
何かないかなぁ……………
あっ!!
 
「そういえば水路を作っている時に空き家が何軒かあるのに気がついたのですが、あの家って誰かが住む予定とかになっているんですか?」
「空き家は、将来結婚した夫婦が別世帯を構えるときに移り住むな。とりあえず今は宿屋代わりに使ったりしておるが」
「そうなんですか。近々移り住む予定や宿屋代わりに使う予定は?」
「うーん…、暫くはないぞ」
「そうですか。それなら空き家を俺に貸してくださいよ。小さい家でいいです。それを替わり物にしましょう」
「はっ!?、そんなものでいいのか!?」
「いいですよそれで」
「いや、それじゃあ全然金額と釣り合わんが?」
「金額分だけ暫く貸してくれればいいですよ」
「金額分って…、ジョージが死ぬまで借りれるぞ」
「死ぬまで!!」
「それに水路の報酬も渡しとらんしのぉ」
「それはいいです。俺が面白半分に暇つぶしでやったようなものですから」
「いや村としてそれなりの報酬を払わんといかんのじゃ」
「俺が勝手にやったようなものじゃないですか」
「それでもじゃ」
 
とりあえず家を借りることになった。
空き家の手入れにちょっと時間がかかるのでそれまではこのまま屋敷で世話になる。
 
 
 
俺は村長の屋敷前広場に集まった沢山の村民を眺めていた。
今日は俺のアイテムボックスに入っいてるゴブリンの死骸を解体するために村から人が集まった。
 
「ずいぶん沢山集まりましたね」
「そうだな50人程かな。ゴブリンの肉とはいえ無料で貰えるから各家から最低でも1人は来ているはずだ」
 
俺と一緒に村民を眺めてたカイゼルさんが答えてくれた。
村民の半分くらいが集まっているようだ。
 
「それじゃゴブリンを出しますね」
 
石台の上にゴブリンの死骸を次々に出していった。
石台は解体作業がしやすいように人が集まる前に土魔法でいくつか作り出しておいた。
 
これだけの人数で作業したのだから全部で165体あったゴブリンの死骸はあっという間に解体されてしまった。
集まった村民達はゴブリンの肉を貰って嬉しそうに帰っていった。
 
皆が帰った後に石台を土魔法を使って土に戻していたらカイゼルさんから重そうな布袋を渡された。
 
「何ですかこれ?」
「ゴブリンの魔石だよ」
 
袋の中を見たら赤いおはじきの様な物が沢山入っていた。
見たことある。
ゴブリンの額についてたヤツだ。
 
「これはどうすれば?」
「隣町のトランのギルドへ持っていけば1つ200ゼンで売れる。アイテムボックスに入っているブラックベアーも一緒に売ればいいよ」
 
ギルド!?
たぶんゲームやラノベなんかに出てくるアレだろうなぁ…。
 
 
 
ゴブリンの解体祭りが終わった後、ダミアンと森で水路を作る際に切った木を処分するために村の製材所へ行った。
製材所の広い敷地には丸太が何本も転がっていて、端の方に薪が大量に積み上げられていた。
 
「おーい、ロビンソン」
 
遠くで丸太を鋸で切っていた人にダミアンが声を掛けた。
 
ロビンソンと呼ばれた人が鋸をその場へ置きこちらへやって来た。
えっ!?
みっ、耳が!、けも耳が頭に!!
 
「おおっ、ダミアン久しぶりだな。今日はどうした、薪が足りねぇのか?」
「いや、そうじゃないよ。今日はコイツが用があるから連れてきたんだ」
「んー!?。誰だこの坊主は?」
「水路を作ったヤツ」
「おー!!、水路を1人で作ったっていう魔法使いか。ホントに子供だったんだな」
「ゴブリンの肉もコイツさ」
「ああっ!?、ゴブリンはお前と村長が倒したんじゃなかったのか!?」
「倒したけど20匹くらいさ。残りはコイツ」
 
この人アレだ!!
獣人だ。
凄い、この世界には獣人がいる!!
それならエルフとかドワーフとかもいるのか??
 
「って、話聞いてるかジョージ?」
「ん!?。この耳がそんなに珍しいか坊主?」
 
…って、はっ!!
 
「もしかして獣人を初めて見るのか」
「はい!」
「そっか、そりゃそうと今日は何の用だい?」
「はい、あの木を持ってきました」
「木を持ってって、何処に?」
「ここに」
 
アイテムボックスから木を次々に出す。
 
「なっ、何じゃこりゃー!!」
 
驚くロビンソンさん。
無理もない。
 
「魔法ですよ魔法」
「魔法??」
「そう俺の魔法で木を消して収納出来るんです」
「なんだかよくわからんが魔法ってのは便利だな」
「この木は森の中に水路を作るときに邪魔だったので切った分です。まだまだありますよ」
「まだまだってどれ位だ?」
「えーと、太いのと細いの全部で1000本位」
「1000本!!。ちょっと待った。そんなにここに出されても困る。……そうじゃな、外の伐採場にしよう。あそこならここより邪魔にならん」
 
そういう訳でロビンソンと2人で伐採場にやって来た。
ダミアンは用事があるとか言って帰っていった。
 
「ここに出してくれ」
 
ロビンソンの指示で木を次々に出していく。
枝が邪魔だ。
 
「ロビンソンさん枝を切り落としてもいいですか?」
「ああ、どうせ切るから構わんが今ここには道具がないぞ」
「いえ道具はいらないです」
 
ウインドカッターでスパスパと枝を切り落としていく。
 
「……、お前の魔法って凄いな…」
「それ程でもないですよ」
「……………………」
 
全部の木を出したら伐採場いっぱいになった。
 
「なぁ、この丸太を太い順に並べ直せるか?。それでこの細い丸太と切り落とした枝は製材所の方へ運んで欲しいのだが」
「いいですよ」
 
一度アイテムボックスへ全て収納し丸太を太い順に並べ直す。
製材所へ戻り細い丸太と切り落とした枝もすべて出す。
 
「これは薪にするのですか?」
「真っ直ぐなのは農具の柄や杭なんかに使ったりするけど、曲がっているのは薪だな。最近水が遠慮なく使えるから湯を沸かして体を拭く機会が増えて薪の消費が早くなっていたから助かったよ」
「あー、それ僕のせいですね」
「いやいやお前は悪くないよ。皆感謝してるぞ。川からの水汲みは大変だったからな」
 
 
 
屋敷に戻って客間で寛いでいたらハロルドさんが訪ねてきた。
 
「ジョージ、ちょっといいかい」 
「いいですよ」
「この前作ってくれた石材なんだけど商人が売って欲しいというんだが」
 
滝の近くでトンネルを掘るついでに作ったアレは屋敷前広場の片隅に大量に積み置かれていた。
それが移動販売で村を訪れた商人の目に留まったらしい。
 
「売ればいいじゃないですか」
「いやアレは君のものだろう」
「えっ!?、村に差し上げたつもりでしたよ」
「そうだったのかい。それじゃあ売っちゃうよ」
「どうぞ、どうぞ」
 
 
 
暫くしてハロルドさんが戻ってきた。
 
「1個200ゼンで買ってくれた」
「200ゼン…って、えっ!?」
 
ゴブリンの魔石の売値と一緒じゃないか!
廃材で作ったも同然な石材が200ゼンとは!!
 
「ちょっと高すぎやしませんか?」
「形が揃っているし表面が滑らかだと驚いてたよ。それで高く買ってくれたんだ」
「魔法で石材を作り出す人っていないんですか?」
「俺は聞いたことがないな。普通は石切工が切り出すから大きさ形が若干変わるし表面もあそこまで滑らかにはしない」
「アレを全部買ってくれたんですか?」
「全部買うそうだ。今回は馬車の関係で100個買ってくれた」
「200x100だから20000ゼンか」
「金貨2枚だな。銀貨だと20枚で銅貨だと200枚」
 
ん!?
金貨1枚で10000ゼンで……、銀貨1枚で1000ゼン…、銅貨1枚が100ゼンか。
ってことはダミアンの命の値段は金貨100枚だったので100万ゼンだったのか。
安いのやら高いのやら…
 
「残りはどうやって運ぶのでしょうかね?」
「街に帰って折り返して戻って来るって言ってたな。次は馬車じゃなくて力のある牛車で来るそうだ」
「全部で1万5千個位あるはずですけど」
「そうだな、一度に何個運べるか知らんが何十回も往復しなきゃならんだろうな。荷馬車だとウストビッジからトランので片道3日だけど荷牛車だと片道4日から日数も増えるしな」
「大変ですね。俺なら1回で運べるのに」
「……………………………」
「…………」
「それだっ!!」
 
沈黙の後突然ハロルドさんが叫ぶように言った。
 
「ジョージ、運んでくれるか!!」
「えっ、ええ、運ぶくらいは…」
「そうか運んでくれるか!!。じゃあ早速…、いや待て、親父にも相談しないとな。詳しいことはまた後で」
 
そう言い残してハロルドさんは慌ただしく出て行った。
 
 
 
暫くしてまたハロルドさんが戻ってきた。
 
「ジョージ、商人と話してきた。運搬費5万ゼン、金貨5枚で運んでくれるかい?」
「そんなに貰えるんですか。もちろんいいですよ」
「そうか、それなら急な話だけど明日の朝に出発するから準備しておいてくれ」
「わかりました」
 
明日の朝に慌てるのもあれなので今日の内に石材を商人立ち会いのもとアイテムボックスへ収納した。
 
 

【10話】
 
 
俺はハロルドさんと並んで御者台に座り荷馬車に揺られている。
ゴトゴト揺れて乗り心地は最低だ。
道は舗装されていないし荷馬車にはサスペンションなんて無い。
車輪もゴムなんて使っていないから揺れて当たり前。
ショックがダイレクトに体に伝わってくるのにハロルドさんは平気そうだ。
荷台に乗って後方監視しているロジャーさんも平気そうだ。
現地人強しだ。
 
少し前を移動商店の商人の荷馬車と護衛が乗った馬が先行していた。
結局トントン拍子に話はまとまってアノ石材を隣町のトランへ運ぶことになった。
 
 
村を出て2度目の休憩が済んだ後に村長らと出会った橋を通り過ぎた。
その日は結局何事も無く野営することになった。
この前のゴブリン集団の襲撃はなんだったんだ一体?
 
 
「えーと、これから魔法を使うので騒いだり驚かないでくだいね」
 
そう断りをいれて土魔法で石造りのかまくらを作った。
今回は大きく作ったのでかまくらと呼ぶよりドームと呼んだほうがよさそうだ。
各自1個ずつ作ろうと思ったけど、それだと出入口を塞げずに不用心なので全員入れる大きなドームとなった。
 
石造りのドームを皆が口を開けて見上げていた。
 
「こういう魔法です。説明するのは面倒なので質問は禁止します」
 
次に馬車と馬を収納する石造りのドームを作る。
 
「この中に荷馬車と馬を入れてください。」
 
皆言葉もなく荷馬車と馬をドームへ入れていく。
出入り口の閉鎖は寝る前でいいだろう。
 
ハロルドさん商人のリチャードさんが小声で喋っている。
 
「これはなんというか凄いですね」
「凄いだろう」
 
ハロルドさんがなんか偉そうにしている。
 
「水路もあの子が作ったのですよね?」
「まあ、これを見られたら否定しようがないな」
「これだけの事が出来るならアノ石材なんて簡単でしょうなぁ」
「そうかもしれんな」
「あの子は一体何者なんですか?」
「……末娘と孫娘の将来の旦那だ!!」
 
えっ!!
今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
誰が誰の旦那だって!?
村長が勝手に話を進めている。
帰ったらじっくりと話をしないといけない。
って2人の!?
重婚じゃないか!!
いいのか?
あっ、一夫多妻制なのか!?
 
「そ、それは凄いですね」
「ああ、うちの村のホープだからな」
 
なんか祭り上げられている…
 
 
夕食は屋敷で予め作ってくれたものをそのまま出す。
野営の食事は全てアイテムボックスに入っているから食事の準備は不要だ。
 
「野営でこんな食事に食べられるとは」
「準備もしないで一瞬で食事が出てくるんだもんな」
「これを知ってしまうと普通の野営が出来なくなりそうですよ」
「それにこのドームの出入り口を塞げば見張り無しで全員寝ていられるなんて夢のようだ」
 
その後は皆で就寝。
何事も無く夜が明けた。
 
「それにしてもコレは凄いな。この辺の魔獣じゃ壊せそうもない」
「壊せるとしたらタラノクカン平原のマンモスとかのエレファント系魔獣だな」
「それとドラゴンとか」
 
うんドラゴンは無理だ。
それよりもマンモスってあのマンモスか!?
エレファント系って言ってたからそうなんだろうたぶん。
 
「あのー。マンモスって大きくて鼻が長くて牙が2本生えてるヤツですか?」
「おー、よく知っているな。まさか見たことが…」
「いえいえ噂に聞いたことがあったので」
「そうだよな。タラノクカン平原にしかいないもんな」
「そのタラノクカン平原って何処にあるのですか」
「王都西のヒタッチの西側だ。ハンターも危険だから寄り付かないが」
「昔、国が討伐しようとして平原に軍を派遣したけど壊滅的な被害を受けて撤退したらしいしな」
「随分と怖いところなんですね」
「ああっ、マンモスを筆頭にエレファント系や猛獣系魔獣が沢山いるからなアソコは」
 
マンモスは見たいが近寄らないほうがよさそうだ。
 
 
 
2日目はゴブリンやオークが何度が森から出て向かって来たがロジャーさんと商人の護衛デイヴィッドさんがサクサクと倒していったので俺の出番はなかった。
倒した分その人の収入になるそうなので手出しをしないほうがいいのだろう。
危険な時は手を出すけどね。
もっともレベル163のロジャーさんとレベル129のデイヴィッドさんが危険な時ってのはあまり想像出来ない。
 
 
 
3日目
今日の夕方にはトランへ着くらしい。
俺はこの旅の間まったく戦っていない。
ロジャーさんデイヴィッドさんが速攻で魔獣を倒してしまうので出番が無い。
だから油断していたのだろう
魔獣の気配を感じ体に衝撃を受けた瞬間もう俺の体は宙を舞っていた。
俺は何かに両肩を掴まれて空を飛んでいた。
下に見える街道を2人の人間が走っているのが見える。
魔獣に捕まってるのか俺は!?
見上げると大きな鳥が俺を捕まえて飛んでいた。
[サンダーイーグル/レベル63]
ヤバイ
そう思った俺はよく考えずに魔法を使った。
「ウインドカッター」
俺の放ったウインドカッターがサンダーイーグルの首を切断した。
即、俺と首を失ったサンダーイーグルは落下を始めた。
しまった。
落ちる。
死ぬ。
なんとかしないと
なにかないか
魔法だ。
飛べ。
浮け。
「フライ」
ガクンと落下スピードが落ちたが肩を掴んだままのサンダーイーグルの死骸が邪魔しているのか落下が止まらない。
「フライ、フライ、フライ、フライ、フライ」
必死にイメージしたが草原へ落下した。
 
 
何かが草をかき分けてこちらに近づいてくる。
魔獣か!?
急いで立ち上がろうとするが肩に食い込んでるサンダーイーグルの死骸が邪魔で起き上がれない。
必死に肩に食い込んだ爪を引き剥がしているうちに草をかき分けたそれは姿を現した。
 
「大丈夫かジョージ君」
「あっ、ああ、大丈夫ですよ。多分」
「そうか良かった」
 
サンダーイーグルに攫われた俺をロジャーさんデイヴィッドさんが追ってきてくれたようだ。
 
なんとか肩からサンダーイーグルを引き剥がしてその場に座り込む。
肩は鎧が守ってくれたようで無事だった。
 
「体は大丈夫か?」
「骨が折れていないか?」
「ゆっくりと体を動かしてみろ」
 
言われるままゆっくりと手足や首を動かして大丈夫そうなので立ち上がり腰を回してみたりした。
 
「どうやら大丈夫そうだな」
「ずいぶん高い所から落ちたが、途中からゆっくりと落ちているように見えたが魔法か?」
「ええ魔法です。初めて使いましたが上手くいったようです」
「初めてって、よく使えたな」
「まぁ、運が良かったみたいです」
「それにしてもコイツに掴まれると体が痺れて動けなくなるはずだが、よく魔法で攻撃できたな?」
「あー、それたぶんこの鎧が守ってくれたんだと思います」
「凄いなその鎧!」
「貰いもんですけどね」
 
この魔獣は名前の通りサンダーの魔法を使うようだ。
魔獣も魔法を使うのか覚えておこう。
 
「実物を目の前で見るのは初めてだな」
「私もそうですよ」
「サンダーイーグル、別名ゴブリンイーター」
「偶にゴブリンを掴んで飛んでいるのを目撃されるけど、空高く飛んでいるから攻撃しようがない」
「これは高く売れるんじゃないか」
「そうかもしれませんね。めったにギルドに持ち込まれないでしょうし」
「ジョージ君とりあえず血抜きして持って帰ろう」
 
水魔法でサンダーイーグルの血抜きをしてアイテムボックスへ収納し荷馬車へ戻った。
切断したサンダーイーグルの頭ももちろん回収した。
 
 
「おおっ、無事でよかった」
「体は大丈夫だったかい」
「心配かけてすみません。油断してたばっかりに攫われてしまって」
「いやいや、あれは防げないよ。気がついた時にはもう君が攫われた後だったからね。もうダメだと思って村長や娘達に何と説明すればいいか考えちゃったよ」
 
そう言いハロルドさんは苦笑していた。
 
「ところでサンダーイーグルはどうしたんですか」
「一応持ってきましたよ」
 
アイテムボックスからサンダーイーグルの死骸を出す。
 
「デカいな」
「これは凄い。首以外に大きな傷がない。こんな完全に近いのはなかなかお目にかかれないですよ」
 
リチャードさんは興奮した様子でサンダーイーグルの周りを回りながら大きな羽をめくったりしていた。
 
「ジョージ君。これを私に売ってくれないか?」
「えっ、ええ、いいで・」
「ちょっと待ったジョージ君」
 
ハロルドさんが大声で俺を止めた。
 
「リチャード、これの適正価格がわかるのか?。ほとんど市場に出ないんだろう?」
「そっ、それは…」
「こんな完全に近いのはなかなかお目にかかれないって言ってたから市場価格もわからないんじゃないか?」
「……」
「決して君に売りたくないわけじゃないが、ちゃんと適正価格で買って欲しいんだ」
「わかりました」
「すまないな」
 
なんだか2人で話が決まってしまったようだ。
 
「ジョージ、勝手に言ってすまない。ギルドで売って欲しいのだか」
「ええ、いいですよ。村にはお世話になっていますから」
「いや、どちらかと言うとウチの村が君の世話になっているんだが…」
 
 
その後は何も無くトランへ到着した。
 
トランはウストビッジと同じように外壁に囲まれていたが木製ではなく石製だった。
石をいくつも積み重ねた高さ10mほどの外壁が町を囲んでいるようだ。
 
門兵に身分証明カードを見せて町に入った。
街の中は石壁の家と木造の家が混在していて見るからにウストビッジ村より栄えていた。
村は村長の屋敷以外は平屋だったけどこの町に2階建・3階建の家がいっぱい建っていた。
町民は500人程と村の5倍近い。
村と比べたら随分都会に来た感じだ。
 
リチャードさんの荷馬車についてリチャードさんの商店へたどり着く。
ここも3階建てだ1階は店舗で上が事務所と住居なのだろう。
見た感じ店では食料から雑貨までなんでも扱っているようだ。
 
野営の時にリチャードさんに聞いた話だと、この店は王都に本店がある商店のトラン支店で、社長の子供16人全員が各地の支店を任されていて9男であるリチャードさんがこの支店を任されているそうな。
 
「それじゃあジョージ君、石材はこっちに出してください」
 
店の裏へ案内されてその場に石材を全部出す。
裏庭が殆ど埋まってしまった。
1万5千個は結構凄い量だ。
例えるなら大型トレーラーの荷台まるごと1個分。
 
「ここ使えなくなっちゃいましたけど」
「いいです。頑張って売りますから。それじゃ中に入って支払いを済ませましょう」
 
応接室らしい部屋でリチャードさんが麻袋を2つテーブルへ載せた。
  
「石材1個200ゼンで1万5千個だから300万ゼン、大金貨20枚と金貨100枚あります。確認してください。確認できたらこちらの紙にサインを」
 
大金貨は金貨10枚分か。
 
石材を実際数えてみたら1万5千個以上あったのだが端数は村に置いてきた。
向こうでも使うことがあるだろう。
 
ハロルドさんが2つの袋を受け取り袋の中から硬貨を取り出して数え始めた。
大金貨はそのまま1枚ずつ数えて、金貨を10ずつ積み上げて数えていた。
 
「確認しました。間違いありません」
 
硬貨を麻袋へ戻しテーブルの上の紙にサインをした。
 
「それとこちらがジョージ君の運搬費5万ゼン、金貨5枚です。確認してください。確認できたらこちらの紙にサインを」
 
小袋が差し出されたので受け取って中から金貨を出し確認し紙にサインをした。
 
「これで取引終了です。ありがとうございました」
 
 
 
この日はそのまま宿へ直行し夕食を食べた後はベッドが3つ詰め込まれた部屋で就寝した。
 
 

【11話】
 
 
トラン2日目
 
宿で朝食を食べた俺達はギルドへやって来た。
ここはトラン総合ギルド会館といい、各ギルドの支所が集まっている場所。
日本の合同庁舎みたいなものかな。
4階建の大きな建物。
さすが異世界でもお役所は大きいな。
では早速中に入って…、ってあれ?
ハロルドさん荷馬車を建物の裏にまわしました。
ギルド会館の裏は荷捌所のような感じで、どうやらここで売り買いをするようだ。
 
「ここで売り買いするんですか?」
「俺たちはここで獲ってきた獲物などを売る。それらを各ギルドの商人や職人たちが仕入れる。俺達みたいな個人はここでは買うことは出来ないんだ」
「なるほど」
 
市場や問屋みたいなものかな?
 
「それじゃあ、売りに行こうか」
 
4人で買い取りと書かれたカウンターへ向かっていった。
 
「先にデイヴィッドからどうぞ」
「そうか、じゃあお先に」
 
何故デイヴィッドさんがここにいるのかというと、旅の途中で倒した魔獣を全て俺のアイテムボックスに収納しているから。
昨日別れてさっきギルドで待ち合わせて合流した。
 
「買い取りを頼む」
 
そう言いながらデイヴィッドさんは身分証明カードをカウンターへ差し出した。 
カウンター内の職員は身分証明カードを確認して紙に記入しデイヴィッドさんへ身分証明カードを返した。
多分名前とかを記入したのだろう。
 
「はい、それでモノは何でしょうか?」
「解体していないゴブリンが12と解体していないオークが5だ」
「未解体のゴブリン12とオーク5ですね。それじぁこっちへ運んできてください」
「わかった。ジョージ君、ここに出してくれ」
 
俺は指示された場所へゴブリンとオークの死骸を次々に出した。
 
「おっ!!」
 
職員は一瞬驚いたが大して騒ぎ立てなかった。
驚きが小さかったということはアイテムボックスあるいは似たようなものがこの世界にも存在するのだろう。
 
「若いのに凄いな!」
 
やはりそういう事のようだ。
村長達が知らなかったという事はかなりマイナーか最近出来た魔法なのだろうか?
 
「魔石は…、全部付いてますね」
 
ナイフのようなもので額の魔石を職員達が回収してゴブリンとオークの重さを測っている。
そしてソロバンみたいな物をいじりだした。
おそらく計算をしているのだろう
暫くして紙に何かを書き込みデイヴィッドさんへ見せる。
 
「この金額になります」
「…それでいい」
「暫くお待ち下さい」
 
そう言って職員は奥へ行き、直ぐに戻って来た。
 
「お待たせしました」
 
トレイに硬貨を入れてデイヴィッドさんの前に出す。
デイヴィッドさんは硬貨を素早く数えて財布へしまった。
 
これでやり取りが終わったようだ。
 
 
「ジョージ君、魔獣を運んでくれてありがとう。普段は魔石だけ回収して体はほとんど捨てていたので助かったよ」
「いえ、ついででしたし、デイヴィッドさんの戦い方が見れたので俺も勉強になりましたので」
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃ俺は中で護衛の完了報告をしてくるからこれで失礼するよ」
 
そう言ってデイヴィッドさんはギルド会館の表の方へ回っていった。
 
「それじゃあ我々の番だけどジョージのはちょっと騒ぎになるだろうから俺らから先でいいかい?」
「あっ、はい?」
「じゃあ俺からいく」
 
ハロルドさんは村から持ってきた大きな袋を手に先にカウンターへ向かっていった。
レッドボアなどの魔獣の魔石や素材が入っているそうだ。
 
「あのー、ロジャーさん?」
「なんでしょう?」
「騒ぎになるっなんですか?」
「サンダーイーグルだよ。商人も興奮してただろ」
「あー!」
「それにブラックベアーもあるしな」
「それもでしたね」
「もしかして他にもアイテムボックスに入っているのかい?」
「後はこの前のゴブリンの魔石が165個と、そういえばフォレストウルフの死骸が7つ」
「そうか、それなら出す順番はゴブリンの魔石、フォレストウルフ、ブラックベアー、サンダーイーグルの順がいいな」
「わかりました。あっ、そうだ。ドラゴンの鱗ってうぐうぐ・・・・」
 
急にロジャーさんが飛びついてきて俺の口を塞ぎ外に止めてある荷馬車のところまで引きずられるように連れてこられた。
何かロジャーさんの雰囲気が怖い。
 
「騒ぐなよ。いいな?」
「んん、んん」
 
頷く。
 
「口から手を話すから騒ぐなよ」
 
やっと開放してくれた。
 
「急にどうしたんですかロジャーさん?」
「いいから騒がず小さな声で喋れよ」
 
ロジャーが顔を近づけ小声で言った。
目が怖い。
 
「はいわかりました」
 
俺は頷きながら小声で返事をした。
 
「今、ドラゴンって言ったか?」
「はい」
「鱗って言ったか?」
「はい」
「ドラゴンの鱗を持っているのか?」
「はい」
「1枚か?」
「いいえ、ブラックドラ・・・」
「いい!、言うな!!、言わなくていい!!!」
「はい」
「……………………………………」
「あの、何か不味かったですか」
「……………………………………」
「えーと、ドラゴ・・・」
「言うな!、その言葉は…」
「はい」
「……………………………………」
 
ロジャーさは暫く何か考えているようだ。
ドラゴンの鱗は何やらヤバそうな雰囲気だ。
持っているだけで捕まるのか?
それとも呪われるとか病気になるとか?
知っているのだったら教えてほしい。
 
「いいかジョージ君。とりあえずそのドの付くものは暫く忘れろ。今日はそれ以外の物を今日は売ろう」
「はい、わかりました」
「それじゃあ買い取りカウンターへ戻ろうか。ハロルド様が我々を探しているかもしれない」
 
急いで買い取りカウンターへ戻ったら案の定ハロルドさんが俺たちを探していた。
 
「何処へ行っていたんですかロジャーさん、探しましたよ」
「申し訳ございませんハロルド様。緊急にジョージ君と話をする必要があったので少し荷馬車へ戻っていました」
「緊急の話?」
「それについては後ほど宿で話します」
「…そうか、わかった」
「では次は私の番ですね」
 
ロジャーさんは買い取りカウンターへ向かって行き直ぐ戻ってきた。
 
「ジョージ君、アイテムボックスから私の分の魔獣を出してくれないか」
「ああ、そうでした」
「ゴブリン20とオークが9だ」
 
カウンターへゴブリンとオークの死骸を出してハロルドさんのところへ戻った。
 
「ジョージ、さっきの緊急の話って何だ?」
「たぶん俺が不味い物を持っているみたいで…」
「不味い物?」
「ええ、言葉にするのも不味いような雰囲気だった」
「何だそれは?」
「もう怖くて言葉にできない」
「……………」
「ロジャーさんが宿で話すと言ったじゃないか」
「……わかった。宿で話してくれ」
 
ロジャーさんの買い取りが終わったようだ。
 
「さぁジョージ君の番だ。くれぐれもさっきの約束を忘れないようにな!」
「はい、ド以外ですよね」
「そうだ」
 
もちろんこの会話も小声で話している。
ハロルドさんだけは蚊帳の外なので面白く無い顔をしていた。
 
 

【12話】
 
 
「買い取りを頼みます」
 
俺はそう言いながら身分証明カードをカウンターへ差し出した。
 
「おっ、今度は君か」
 
カウンター内の職員は身分証明カードを確認して紙に記入し身分証明カードを返してきた。
 
「はい、それでモノは何かな?」
「ゴブリンの魔石が165個」
「ゴブリンの魔石が165個って随分多いな」
「解体していないフォレストウルフが7つ」
「未解体のフォレストウルフが7つ。これは君が倒したのかい?。まさかねそんなはず無いよね」
「解体していないブラックベアーが1つ」
「未解体のブラックベアーが1つ。って凄い大物を持ってきたねさっきのオジサンたちが倒したんだろ?」
「解体していないサンダーイーグルが1つです」
「未解体のサンダーイーグルが……、サンダーイーグルだって!?」
 
職員の声が辺りに響いた。
 
「びっくりしたなー。急にそんな大声出さないでくださいよ」
「あっ、すまんすまん」
「それじゃあ順番に出していきますね」
 
ロジャーさんの指示通りにゴブリンの魔石、フォレストウルフをカウンターに出す。
でもカウンターが狭すぎてブラックベアー、サンダーイーグルが載りそうにない。
 
「あのー、ここちょっと狭いのでブラックベアーとサンダーイーグルは何処に出しましょうか?」
「あっ、ああ、それじゃあっちに」
 
職員がカウンター内の作業スペースらしき場所を指差したのでカウンター内に入りブラックベアーとサンダーイーグルを出す。
 
周りがシーンと静かになったような気がする。
その場で作業をしていた職員皆がこちらを見ている気がする。
確実に注目を集めている。
 
「おい、やけに大きな熊だな」
「いや熊じゃねーよ。ブラックベアーだよ。しかもデカイぞ」
「俺、ブラックベアーなんて初めて見たよ」
「珍しいし普通は解体されて持ち込まれるしな」
「アレなんだ鳥系か?」
「すげっ!!、サンダーイーグルだぜアレ」
「マジかよ!」
「どうやって獲ったんだよ」
「それよりもあの子のアイテムバックの容量凄くないか!」
 
職員たちがヒソヒソと話しているが全部聞こえてますよー。
神様チートで強化された聴力は意識すれば広範囲の音を拾える。
 
「ははははっ、凄いですね。本当にサンダーイーグルじゃないですか。おい皆ちょっと手伝ってくれ」
 
周りの職員を集めサンダーイーグルを調べ始めた。
 
「首以外が完全な形で残っている。いい状態だ」
 
続いてブラックベアーも調べ始めた。
 
「こっちは足以外には刺し傷が一つだけ。どうやって倒した?。お陰で毛皮が良好だ。それに今獲ってきたかのように新鮮だと!?」
「こっちのフォレストウルフもまるで獲れたてのようです!!」
「どういうことだ!?」
 
なんだか職員総出の勢いで調べているのでカウンターの外に出てハロルドさん達と一緒に椅子に座って待つことにしよう。
 
暫く待たされてから職員に呼ばれてハロルドさん達も一緒に別室へ案内された。
  
「商業ギルド支部長のランドルフだ」
 
ちょっと小太りな支部長はハロルドさんよりちょっと年上かな?
[ランドルフ/49歳/レベル55]
レベル低いな。
事務職みたいだからこんなもんかメタボぎみだし。
 
「ウストビッジのハロルド」
「ウストビッジのロジャーです」
「ジョージだ」
 
俺だけ肩書がない…
 
ジョージ君が持ち込んだ魔獣の買取の見積もりが出た。今回は物がモノだけに買取額が高額になったよ」
 
ランドルフさんが俺に1枚の紙を渡してくれた。
買取の見積書だ。
 
「おおっ!」
 
横から覗き込んだロジャーさんが声を上げた。
その向こうに座るハロルドさんも気になっているようなので見積書を手渡す。
 
「凄いなこれは!」
「こんなにいくものなのか!」
 
二人共、高額金額に驚いているようだ。
もちろん俺も驚いてる。
 
「この金額でよいかね?」
 
ハロルドさんさんから見積書が戻ってきたのでもう一度見つめる。
 
・ゴブリンの魔石/200x165=33000
・フォレストウルフ/30000x7=210000
・ブラックベアー/1000000
・サンダーイーグル/2000000
合計 3243000ゼン
 
結構な金額だ。
でも商人へ売った石材の金額と似たようなものだ。
トンネルの廃材で作った石材と命がけで倒した魔獣の買取価格がたいして変わらないとは…。
 
「ジョージ君?」
「あっ!、はい」
「この金額でよいかね?」
「いいですよ、これで」
「そうか、それじゃあ準備してくるから暫く待っていてくれ」
 
ランドルフさんが部屋を出て行ってからハロルドさんが話しだした。
 
「ブラックベアーが1000000ゼンに驚いたがサンダーイーグルが2000000ゼンとはな」
「サンダーイーグルの方が弱かったのに高いんですね」
「商人が言っていたように希少価値なんだろう」
「そういうものですか」
 
暫くしてランドルフさんが麻袋を2つ持って部屋へ戻って来た。
 
「またしてすまん。買取金3243000ゼンだ。大金貨20枚と金貨124枚と銀貨3枚入っている。確認してくれ」
 
俺は袋から金貨を取り出し数えてる。
 
「はい、間違いなく」
「じぁ、ここにサインしてくれ」
 
指でさされた場所にサインをする。
 
「よし。これで買い取り終了だ。また大物を持ってきてくれよな。期待しているぞ」
「はぁ、頑張ってみます」
 
 
 
無事ギルドで買取りをしてもらった後はハロルドさんに付き添って買い物だ。
まず最初に向かったのは金物を売っている店だった。
鍬などの農具や鋸などを沢山購入していた。
ここでは武器も扱っていて剣を数本と槍の穂先だけを沢山買っていた。
 
「穂先だけ沢山買うんですね」
「柄は村で作るんだ。木製だけどな。柄まで金属の槍は高いからな」
 
その後も何軒か店を廻って塩や砂糖、服や布に生活雑貨、などいろいろと買っていった。
 
買い物が終わった後はちょっと早いけど宿へ行った。
今夜は昨夜よりちょっとグレードの高い宿だった。
理由は荷馬車にいろいろと荷物が載っているので防犯の為ということだった。
安宿では荷馬車の荷までみてくれないのだという。
 
まだ夕食まで時間が結構あるので各自自由行動になったので俺は2人と別れて町をぶらついてみる事にした。
といっても観光地でもないただの田舎町なので見るものはそんなに無い。
さっきハロルドさんと廻った一つの通りに固まっている小売店を1つずつ覗いていく。
服や下着の他にいろいろ興味を引いたものを買っていった。
 
リチャードさんのお店にも寄ってみた。
 
「おっ、ロジャー君じゃないか。何か探しものかい」
「いえ村には店がなかったので珍しくて見て回っているのですよ」
「そうかい。良かったら何か買ってよ」
 
ひととおり棚を見て回っていると、
ん!?
網があった。
棒の先に丸い輪が付いてるヤツ。
これはもしかして?
 
「リチャードさんこれは?」
「それは魚を獲る網だよ。仕入れてみたんだけどこの辺の人はあまり使わないみたいで売れ残ってるんだ」
「これいくらですか?」
「えーとね。5500ゼンだけど2500ゼンでいいよ」
「いいんですかそんなに安くしちゃって」
「いいよ。どうせ売れずに困ってたんだから」
「じゃあこれ買います」
 
銀貨と銅貨を取り出し渡す。
 
「まいどあり」 
「あっ、もしかして釣り針はないですか?」
「おー、あるある。ちょっと待ってて」
 
リチャードさんは奥へ行きあちこち探して目当ての物を見つけ出した。
 
「釣り竿のセットだけど、どうかな?。組み立て式の竿と糸と浮きと針がセットになっているんだ」
「これも売れ残りですよね」
「そうだね」
 
リチャードさんは苦笑しながら応えた。
 
「いくらですか?」
「14000ゼンだけど10000ゼンで」
「結構しますね」
「売れ残って困っているんだよ。買ってよ」
「うーん…」
「それじゃあ、予備の糸と針も付けるからさ」
「じゃあそれで」
 
金貨を取り出して渡す。
 
「まいどあり」
 
網と釣り竿一式をアイテムボックスへ収納した。
 
「そういばあの石材は売れましたか?」
 
昨日の今日だからなー。
 
「それがな」
 
リチャードさんは急にニコニコしだした。
 
「全部売れたんだよ」
「えっ、アレが全部!?」
「そう全部さ」
「凄いですね」
「ああ、朝一で町長さんのところへサンプルを持って行ったら一発で気に入って全部買ってくれたよ」
「それは良かったですね」
「ああ、それでさ。頼みがあるんだけど」
「なんですか?」
「またアノ石材を作ってくれないか?」
「まぁ、いいですけど。同じものでいいですか?」
「大きさを変えられるのか?」
「出来ますよ」
「それじぁ、このくらいの…、ちょっと待ってて」
 
そう言うとまた奥へ行って紙束を取り出し持って戻ってきた。
 
「これが石材のサイズ表なんだけど昨日のアレがこれになるんだけど、コレなんかも作れるかな?」
「ええ、このサイズなら簡単ですよ」
「そうか、じゃあこの2つのサイズをそれぞれ1万個ずつ頼めるかい?」
「いいですけど何時までに?」
「そうだなぁ…、一ヶ月後にまた村へ移動販売で行くからその時までに」
「また俺が運ぶんですよね?」
「出来ればそうして欲しい」
「わかりました。それで価格は?」
「昨日のアレは同じ値段で200、コレは700でどう?」
「んー、いいでしょ」
「よし。頼んだ」
「ところでこの石材を何処に置くんですか?」
「えっ?」
「小さい方は裏庭に置けますが大きい方は絶対に無理ですよ」
「あっ…、それは、考えとくよ」
「お願いしますね」
 
 
宿に戻ったら2人とも先に戻っていて風呂から上がっていた。
俺も風呂に入って3人で夕食を食べた。
宿のグレードが上がっているだけあって食事も昨夜の宿より美味しかった。
 
 
食後は部屋に戻ってドラゴンの鱗の話になった。
 
「これがドラゴンの鱗か」
「凄く軽くて、そして丈夫そうだな」
 
2人はブラックドラゴンの鱗とホワイトドラゴンの鱗をしげしげと見ている。
 
「これが両方あわせて79枚」
「すごい話だ」
「そんなに驚くことですか?。たまたま拾っただけですけど」
「たまたまって…、なかなか拾えるものじゃあないよこれは」
「そうなんですか。この町と村の間にある川のところで2匹のドラゴンが喧嘩みたいにもみ合っててその時にバラバラと落ちてきたのを拾ったんですよ」
「そりゃまた凄い現場に居合わせたもんだな」
「それでこの鱗って何か不味いんですか?」
「うーん、不味くはないけど厄介ではあるかな」
「厄介?」
「ジョージ、この鱗の価値がわかるか?」
「とてもめずらしい物?」
「まぁ、そうなんだが、幾らぐらいすると思う」
「んー、100000ゼン位?」
「残念、その10倍は軽くするだろうな」
「1000000ゼンか」
「それが79枚だから79000000ゼンだ」
「もしギルドで出していたら今日の騒ぎどころじゃなかっただろうな」
「1枚だけなら今日はブラックベアーとサンダーイーグルがあったからそんなに目立たないが、79枚だと大騒ぎになるところだったよ」
「数が数だからな」
「こんな田舎町で扱っていいモノじゃないな。少なくとも領都。出来れば衛星都市。ベストは王都だな」
「どうする?。行くか領都に?」
「えーと、領都ってのは何処にあるのでしょうか?」
「相変わらずというか…、領都サンミツロはこの町から西に2週間くらいかかる」
「結構遠いですね」
「衛星都市ヒタッチへはサンミツロから2週間程。そこから王都までは2日だな」
「遠すぎて行く気にもなれません」
「それじぁどうする?」
「別に今すぐ売らなくてもいいですよね?」
「そうだな」
「それじゃ、このままアイテムボックスに入れておきますよ。今はお金に困っていませんし」
「そうしてくれ。そしてくれぐれも内密にだな。人にバレると面倒の種にしかならんからな」
「わかりました」
 
こうしてドラゴンの鱗はとりあえずアイテムボックスに死蔵されることになった。
 
 

【13話】
 
 
「あっ、見つけた!!」
 
俺は草原向けで飛んで行く。
 
[バイオレンスホース/魔獣/レベル40]
デカくて凶暴そうだな。
暴れられると面倒なので気配を消しながら背後からバイオレンスホースへ近づく。
首を曲げ地面の草を食べていたバイオレンスホースが何かを感じたのか首を真っ直ぐ伸ばして辺りを窺おうとした瞬間を狙って一気に首筋へ剣を振り払う。
ドン!
切り落とされた頭が音を立てて地面へ落ちる。
ドテン!!
頭を失った胴体が首から血を噴き出しながら倒れる。
 
「血抜き血抜きー」
 
水魔法を使って残りの血も押し出してバイオレンスホースの死骸をアイテムボックスへ収納し荷馬車へ飛んで戻る。
 
 
 
「ただいまー」
「おかえり。今度は何だった?」
「またバイオレンスホースでした」
「ホントその魔法は凄すぎるな」
「足音も立てずに背後に廻って、後は剣でバッサリだからな」
「飛んでるから足音しないし、羽ばたかないから羽音もしないし」
「でも感のいい魔獣には気が付かれますよ」
「そうか。でもそろそろいいんじゃないか?」
「そうだな。こちらを襲ってくる魔獣だけにしても良いと思うぞ」
「んー、ちょっと狩りすぎましたかね?」
「数が多すぎて解体が大変だよ」
「ゴブリンの時みたいに村民に頼むってのは無理ですかね?」
「無理じゃないと思うぞ。報酬に肉を渡せば喜んで解体してくれるはずだ」
「じゃあ、それでお願いします」
 
 
 
サンダーイーグルに襲われたおかげで飛行魔法が使えるようになったので、トランを出発し町から少し離れてから飛行魔法を使って狩りを続けている。
この3日間、調子に乗って狩り続けていたらストーンヘッドラビットが245匹、ゴブリン98匹、オーク32匹、ラッシュシープ12匹、ラッシュゴート9匹、ツインテイルフォックス6匹、バイオレンスホース2匹、サンダーイーグル1匹と大漁を通りすぎてちょっとやらかした感じ。
またサンダーイーグルって!!
鳥が飛んでたので面白半分に追いかけたらサンダーイーグルで俺を攻撃した来たのでムカついてサクッと一狩り。
 
懐かしいあの川を通りかかった時に思いつきでサンダーを川へぶち込んだら水面に魚がいっぱい浮いてきたので慌てて回収。
あっ!、これ多分やっちゃいけないヤツだ。
162匹回収。
ブルーフッシュにブラックフッシュにグレーフッシュって単純なネーミングだな。
 
 
 
そんな感じの帰り道は特に何事も起こらず無事にウストビッジ村へ辿り着いた。
 
「ハロルドさん、この魚どうしましょうか?。屋敷じゃ食べきれませんよね?」
「毎日食べればそのうち無くなるけど、流石に毎日じゃ飽きるしなぁ。贅沢なこと言ってるけど」
「それじゃあ村民に配っていいでか?。1人につき1匹ずつ配っても余りますし」
「それでいいんじゃないか。ジョージひとりだとあれだからロジャーさん一緒に廻ってください」
「わかりましたハロルド様」
「じゃあ、俺は先に屋敷へ戻っているから」
 
そう言ってハロルドさんは荷馬車を操って屋敷へ向かった。
 
「前から不思議に思っていたんですが、普通ロジャーさんのほうが御者をしますよね?」
「ああっ、ハロルド様は御者が好きなんだよ。だから儂にはほとんどやらしてくれない」
「へぇ、そうなんですか」
「そんなことよりさっさと魚を配って屋敷に戻るぞ。まずこの家からじゃ。ここは6人家族だから6匹じゃな」
 
そう言いながらその家へ向けて歩いて行くロジャーさんを俺は慌てて後を追った。
 
 
 
魚を全ての家に配り終えて屋敷に戻ってきた。
ロジャーさん村の全世帯の家族構成を暗記していたのでスムーズに配ることが出来た。
 
約一週間ぶりの屋敷は別に変化はない。
あっ、広場の隅に少し残してきた石材が無くなっている。
何かに使ったのだろう。
リチャードさんの注文したのを作るときに余分に作ってまた置いておこう。
 
「ただいま戻りましたー」
「あら、おかえりー」
「お土産にに魚があります。何匹出しましょうか?」
「それなら13…、いや明日の朝の分も合わせて20匹ちょうだい」
「はい…、20匹どうぞ」
 
アイテムボックスから魚を20匹取り出し籠の中へ入れる。
 
「ありがとう」
「あと肉もありますよ。解体しなきゃいけませんが」
「何があるの?」
「ストーンヘッドラビットにゴブリンにオークにラッシュシープにラッシュゴートにツインテイルフォックスにバイオレンスホースにサンダーイーグル」
「なっ、なんだか凄い名前が聞こえたけど…、そうねストーンヘッドラビットがいいわ」
「何匹、いや何羽ですか?」
「そんなに沢山獲ってきたの?」
「245」
「…………、あいかわらず凄いのね。5羽でいいわ」
「はい…、5羽」
「ありがとう。ウエンディ、トレイシーさん行きましょう
 
ストーンヘッドラビットの死骸を受け取ったエリスさんはウエンディさんトレイシーさんを連れて食堂から出て行った。
多分あの解体部屋でストーンヘッドラビットを解体するのだろう。
解体部屋っての俺がそう呼んでいるだけで正式名称は知らない。
 
「コゼット、シャルロット、君たちにもお土産を買ってきたよ」
 
キッチンに残って料理の下ごしらえをしていた2人に声をかけてテーブルの上に2つの袋を置く。
 
「これがクッキーでこっちはキャンディーがはいっている。子供達みんなで分けて食べてね」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それとこれは君たち2人だけにブレゼント。男の子たちには内緒だよ。それじゃあ」
 
2人に小袋を渡してキッチンを後にした。
 
 
 
風呂で旅の垢を落として夕食前に部屋で寛いでいたらエリスさんがやって来た。
 
「ジョージ君、お肉ありがとう。これ魔石。毛皮は干しているからまた後日ね」
 
ストーンヘッドラビットの魔石を5つ受け取った。
 
「それと子供達にお土産ありがとう」
「いえ、お世話になっていますし臨時収入もありましたから」
「そう。でもありがとう」
 
 
 
夕食は魚と肉
ストーンヘッドラビットはゴブリンの肉とは比べ物にならないくらい美味かった。
 
 
「ジョージありがとう。貰った石材のお陰で町から農具や武具などを沢山買ってこれた」
「ゴミをちょっと加工しただけなのに高く売れてビックリでしたよ」
「そのお陰で今年は随分楽になる。それに水路も作ってくれたし君には感謝しておる。それでこの前言っておった家だが準備ができたので明日案内できる」
「待ってましたよ」
 
 
 
「ここ!?」
 
案内された家を見た俺の第一声がこれだった。
 
「どうじゃ、屋敷から近くて便利じゃろう」
 
村長は得意顔だ。
 
「近くって、目の前じゃないですか!!」
 
朝食後に村長に案内された家は屋敷の目の前だった。
 
「この家って空き家でしたっけ?」
「………………」
 
村長を見つめるとすっと目をそらした。
 
「人が住んでいましたよね?」
「……以前は住んでおったな」
「以前って、ついこの間まで住んでいたじゃないですか!!」
「そうじゃったかのぉ?」
 
村長の顔が明後日の方を向いている。
さっきの得意顔は何処へ行った?
 
「住んでいた人は何処行ったのですか?」
「ひっ、引っ越したようじゃ」
「無理やり引っ越させたの間違いじゃないんですか?」
「いやいや無理やりじゃないぞ。この家よりも広い家に喜んで引っ越したようじゃ」
「本当に?」
「もちろん本当じゃ。それにここからだと門外の畑が遠いと嘆いておったから門の近くに引っ越せて大喜びじゃったぞ」
「そうですか、僕のせいで無理強いをさせたんじゃないかと心配ですけど」
「大丈夫じゃ。むしろジョージの為なら喜んでと直ぐに引っ越したぞ」
「なんか釈然としないですが…。まぁ、いいでしょう」
「そんなことよりも中を見てくれ。傷んでおったところも綺麗に直したから気に入ってくれると思うぞ。それと必要と思われるモノも一通り揃えておる」
 
そう言いながら村長は家のドアを開けて俺の背中を押した。
 
玄関ドアを入るといきなり部屋でリビング・ダイニング。
玄関開けたら2歩でゴハンだな。
小さい家だから玄関ホールなんてのを期待しちゃいけない。
4人がけのテーブルセットと壁際には暖炉がある。
あっ、暖炉は例の石材で作られていた。
 
「これ新しく作ったんですか?」
「い、いや。前のが傷んでいたから補修しただけらしいぞ…」
 
嘘だな。
目が泳いでいる。
まぁいいか。
材料費はタダだし。
 
リビング・ダイニングの横にカマドと流しを備えた小さいキッチン
鍋や食器類も一通り揃っているようだ。
そして寝室…
 
「村長、なんだかベッドが大きいと思いますが?」
 
大きなベッド、ダブルベッドが寝室に鎮座していた。
明らかに部屋の大きさに合っていない。
 
「あー、余っているベッドがそれしか無かったようじゃ。すまんがそれで我慢してくれ」
 
また目が泳いでいる。
怪しすぎる。
 
もう一つの部屋のドアを開けたらまたベッドがあった。
 
「村長、この部屋にもベッドがあるんですけど。2つも!」
「あー、そっちは客間じゃな」
「客間って、誰が訪ねてくるんですか!?」
「そのうち誰か訪ねてくるかも知れんじゃろ」
 
またまた目が泳いでいる。
何考えてるんだ?
 
他にはトイレと寝室と客間の上が結構広いロフトになっていた。
残念ながら風呂は無い。
 
「どうじゃ、気に入ってくれたか」
「作為的な何かが感じられるのですが…」
「き、気のせいじゃなかろうか?」
 
村長、今日は汗をかくほど気温は高くないぞ。
 
「んー、まぁ、折角準備してくれたのでこれでいいです」
「そ、そうか気に入ってくれたか」
「ええ」
 
妥協してるけどね。
 
「それじぁ早速今日からここに住みます。長い間屋敷でお世話になってしまいすみませんでした」
「いやジョージには返さなきゃならないものが沢山あるからそれくらい安いモノじゃ。これからも困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「そ、そうですね。困ったことになったらですね」
「それとジョージ、食事はどうするんじゃ?」
「えっ、自分で作りますよ」
「大変じゃし面倒じゃろ。屋敷から朝夕運ばせよう」
「いやいやそれこそ大変で面倒ですよ」
「嫌と言ってもこれはもう村で決まったことじゃから今更変えられん」
「村で決まったった何時?」
「ジョージがトランへいっている間じゃたかな?」
「俺がいない間に何勝手に決めているんですか!!」
「毎回食事を作るのは大変じゃろ。この村には食堂は無いし食材だって手に入れるのが手間じゃぞ」
「まぁそうですけど、そこまで世話になる訳には…」
「もう決まったことじゃから従ってくれ。儂の顔を立てると思って」
「はぁー、わかりました。それでお願いします」
「そうしてくれると助かる」
 
そんな感じで貸家+食事サービス付になってしまった。
 
 

【14話】
 
 
村の横を流れている川の河原で土魔法で岩を石材に加工している。
夏休み宿題は早めに終わらせときたいよね。
リチャードからの注文を忘れないうちに作る。
滝の近くの岩山とこの辺は同じ地質なのでわざわざあんな遠くまで行かなくてもここで作業ができる。
小さい石材を作り終えた頃には夕方になっていたので急いで家に戻った。
屋敷から夕食が運ばれてくるから待たせたらいけない。
 
玄関の扉を開け家に入ったら
 
「おかえりなさい」
「おかえりなさいませ」
 
神妙な顔をしたコゼットとシャルロットが待っていた。
 
「えっ!、あれ?、どうして?」
「夕食をお持ちしました」
「あ、ありがとう」
「準備しますので座ってお待ち下さい」
 
2人はキッチンヘ向かっていった。
 
ビックリした。
てっきりメイドのトレイシーさんが食事を運んでくると思っていたらコゼットとシャルロットが運んできた。
 
コゼットとシャルロットがキッチンから料理を運んでくる。
って、量が多くないか?
あれナイフとフォークが3組って、3人分?
一緒に食べるの?
何で?
 
混乱している俺を他所に準備を終えた2人は向かいの席へ座り胸の前で手を合わせて俺を見つめている。
 
えっ?
あっ!
そうだ!
   
「かっ、神に感謝を」
「神に感謝を」
「神に感謝を」
 
俺は2人が食べる様子を暫く呆然と眺めていたが思い切って切り出した。
 
「き、聞きたいことがあるんだけど」
 
2人は食べる手を止めて俺に目を向ける。
もぐもぐ口が動いている。
なんか可愛い。
 
「何でしょうか?」
「えーと、状況がわからないんだけど、どうして一緒に食べてるの?」
「御祖父様のお言い付けです」
「曾祖父ちゃんが一緒に食べろって」
 
だから何で?
 
「理由を言ってたかい?」
「叔父様がジョージ様に取り返しのつかない事を致してしまったので償いをしなければならないと…」
「ジョージお兄ちゃんを怒らせたら駄目っ言われたよ。怒らせたらみんな殺されちゃうぐうぐ…」
「こ、こら、シャルロット!!」
 
シャルロットの発言にコゼットが慌てる。
 
「あー、大丈夫。大丈夫だよ。怒らないし、誰も殺されないよ」
「ホントに?」
「本当だよ」
「よかったー」
 
何をいっているんだ村長は!!
 
「それと水路、石材、お肉、お魚と数々の施しに十分報いることが叶わないので…」
 
そういう事か。
ダミアンの件は別として水路なんかは俺の暇つぶし思いつきでやったことなのに大げさなことになってしまった。
俺の押し売りに村が返済に困っている状況だ。
 
「この村の未来は私達2人にかかっていると…」
 
そして、この娘たちは生け贄にされたんだ。
まずい。
失敗した。
 
「それは済まなかった」
「いえ…」
「そざ嫌だっただろう」
「いえ、嫌では…。むしろ嬉しかったくらいです」
「私も嬉しかったよ」 
「どうして?」
「村から出て行かなくてもいいから」
 
何で?
 
「私達は13歳になったら隣町へ嫁ぐことになっていました」
「……………」
「私の3人の姉も隣町へ嫁ぎました。叔母様方も嫁いだそうです。全てお祖父様の決めたことです」
 
あれか。
政略結婚ってやつか。
 
「でもこうしてジョージ様に尽くせば村から出ないですみます」
「みんなと、コゼットお姉さまと一緒にいられるの」
 
尽くせって、村長!!
 
「それでね。ジョージお兄ちゃんこの村から逃がさないように女の股で掴まえろって」
「し、シャルロット!。それを言っては…」
「でもシャルロットはまだ子供だから女になるまで待てってお母さんに言われた」
 
何を言ってくれちゃてるんですか!
こんな子供に!!
あっ、ハロルドさんが旅の途中で言っていたのはこの事だったのか!!
 
「あっ、あの…」
「何?」
「わ、わた、私はもう、女ですから、いつでも大丈夫です」
 
コゼットはそう言うと顔を赤らめて下を向いた。
 
 
 
食事もすんで片付けが終わった後、何故か空鍋を持ったシャルロットだけが屋敷へ戻っていった。
 
「コゼットはまだ帰らないのか?」
「ちゃんとお風呂に入ってきました。よろしくお願いします」
 
訳のわからない事を言う。
いや、訳はわかっている。
体は反応して下半身の血流が…
 
「駄目だ。今夜は帰ってくれ」 
「私じゃ駄目なんですか?。お嫌いですか?。シャルロットがよかったんですか?」
 
コゼットはそう言って泣き出した。
 
「き、嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。でも男にも準備が必要なんだ。俺風呂に入っていないし。急に言われたので準備ができていないんだ」
 
適当な嘘を並べて誤魔化す。
下半身の血流もコントロールする。
静まれ。
 
「さぁ、今夜は屋敷まで送っていくから」
 
 
 
目を腫らしたコゼットが自室に走っていくのを尻目に俺は村長の部屋へ怒鳴り込んだ。
 
「村長!!!。どうゆうことですかアレは!!!」
「急にどうした。アレとは?」
 
この野郎すっとぼけやがって!!
 
「コゼットとシャルロットだよ」
「…儂の孫や曾孫は嫌いかね」
「嫌いじゃないけど、好きでもない。そうじゃなくて。俺の気持ちだけじゃなくて相手の気持ちってもんがあるでしょう」
「だからそれは無いとこの前言ったじゃろ。この家に生まれたからには定められた運命なんじゃよ」
 
この前のあれか
 
「それに、そうは言ってもジョージ、お主は2人にネックレスを渡したそうじゃないか」
「えっ、はい、渡しましたけど?」
 
町で見かけたネックレスをお菓子と一緒にお土産として渡した。
 
「ん!?。まさかとは思うが…」
「思うが?」
「意味を知らぬ訳はないよな?」
「意味?」
 
なんのこった?
 
「…………?」
「まさか本当に知らんのか!?」
「何のことやら?」
「あれはプロポーズのネックレスじゃ!」
「え!?……。えーーーーーー!!!!!」
 
ヤベっ
何てこった自分でフラグを建ててたよ。
どうする?
 
「返してもらう訳には」
「そんな馬鹿な話があるかい!!」
「そ、そうですよねー」
「孫と曾孫をよろしく頼んだぞ」
「いや…、はい」
 
 
 
その後、屋敷の人が集められて村長から俺・コゼット・シャルロットの婚約が発表された。
どうせ俺以外は知ってたことだろうけど。
皆の拍手の中、コゼットは顔を赤くし照れて俯き、シャルロットはニコニコと嬉しそうにしていた。
 
 

【15話】
 
 
広いベッドで目を覚ました。
もちろん1人でだ。
 
ドンドンドン
誰かがドアを叩いている。
 
バン!
ビックリして窓を見るとピョンピョン跳ねているシャルロットの頭が見えた。
窓を開けてやる。
 
「おはよう、シャルロット」
「おはよう、お兄ちゃん」
 
婚約したのにお兄ちゃんか。
 
「入り口開けて。コゼットお姉ちゃんが待ってる。朝ごはん持ってきたよ」
「はいはい」
 
部屋を出て玄関の鍵を開けるとバスケットを持ったコゼットが立っていた。
 
「おはようコゼット」
「おはよう御座いますジョージ様」
「ジョージ様はやめようよ」
「ジョージお兄ちゃん?」
 
悪くないな。
 
「同じ歳だから駄目」
「では、ジョージさん」
「さんもいらないんだけどな」
「ジョージさん」
「もうそれでいい」
「朝食をお持ちしました」
 
そう言ってバスケットを少し持ち上げた。
 
 
 
朝食後に今日の予定を聞かれたので河原に行くと答えると待っていて欲しいと言い残し2人共急いで屋敷へ戻っていた。
こりゃ長く待たされるかなと思ったけど意外と早く戻ってきた。
濡れてもいい服に着替えてきたようだ。
3人で河原を目指す。
途中、会う人会う人に"おめでとう"と言われ続けた。
 
「何で皆知っているんだ?」
「朝一でお祖父様が村中にお触れを出しました」
 
余計なことをしやがって!!
そんな事は2人には言えないので我慢。
 
「河原で何をなさるのですか?」
「そのしゃべり方さぁ、何とかならない?」
「何とかとは?」
「普通に喋っていいよ同じ歳だし婚約者だよ」
「そう言われましても」
「シャルロットみたいにさぁ」
「なになにシャルロットがどうしたの?」
「シャルロットは可愛いって話していたんだよ」
「えへっ、ありがとう」
「私は可愛くないんですね」
 
コゼットが拗ねた。
 
「コゼットも可愛いよ」
「本当ですか?」
「ホントだよ」
「じゃあ今夜してくれるんですね」
「…何を?」
 
すっとぼける。
 
「何をって、その、あの、…………をです」
「えっ、なに?」
「わかっているくせに意地悪です」
「それなんだけどさぁ。ちゃんと結婚してからにしようよ」
「えっ!、半年も待つんですか?」
 
結婚は半年後にシャルロットが12歳になってからだ。
 
「そういうのはちゃんと結婚してからするべきだと思うんだ」
「でも、それじゃあ、あの…」
 
村長達のプレッシャーがキツイんだろうなぁ。
 
「大丈夫。俺は逃げないから」
 
もう腹をくくった。
この村を拠点にこの世界を満喫しよう。
 
 
 
河原に着き土魔法で岩を石材に加工する。
今日は昨日のより大きい石材を作る。
黙々と石材を量産していたら横で黙ってみていたシャルロットが、
 
「お兄ちゃん、それどうするの?」
「売るんだよ。いつも村に来る商人さんから頼まれたんだ。これ1個を700ゼンで買ってくれるんだよ」
「700ゼン!!」
「これが700ゼンですか!!」
「こっちの小さい方は200ゼンで買ってくれるんだよ」
 
アイテムボックスから昨日作った小さいの石材を取り出してコゼットへ渡す。
 
「これとコレをそれぞれ1万個ずつ作るんだ」
「1万個!!」
「いちまんこ!?」
「両方合わせていくらで買って貰えるのでしょうか?」
「えっ!?」
「わかんない。沢山!!」
「200ゼンが1万個で…………………」
 
えっ、計算出来ない!?
ゼロを増やすだけだろ。
あっ、この村に学校が無い!?
 
「コゼット、この村って学校なんてないよね」
「はい、ありません」
「じゃあ、皆は文字をどうやって覚えるの?」
「親から教えてもらいます」
「計算も?」
「はい」
「足し算と引き算は出来る?」
「はい」
「掛け算は?」
「…………何でしょうかそれは?」
「2x2=」
「…………」
  
 
 
河原で石材を作り終えて家に戻ってきた俺たちはテーブルを囲んで座っている。
 
「ここに石が2個、こっちにも石が2個。全部で何個?」
「4個」
「どうやって計算した?」
「2+2=4」
「それじゃ更に2個増やそうか。2個と2個と2個。全部で何個?」
「6個」
「どうやって計算した?」
「2+2+2=6」
「さっき河原で言っていた掛け算だとこうなるんだ」
 
紙に2x3=6と書く
 
「2個の集まりが3つで6個という意味だよ」
 
2人共ハテナ顔だ。
 
「足し算でも掛け算でも答えは同じだけど掛け算を覚えると計算が早くなる」
 
2人共ハテナ顔だ。
 
「それじゃ石は足りないけど2個の石が8ヶ所にあるとすると石は全部で何個?」
「えっ、2+2+2+2+2+2+2+2だから4、6、8、10、12…」
「全部で16個だよ」
「計算早いですね」
「暗記しているからね」
「えっ!?」
「2x8=16というのを覚えているんだ」
「2x8=16を覚えているんですか?」
「それだけじゃない1x1から9x9まで覚えているんだよ」
 
2人共ハテナ顔だ。
 
「ちょっと待ってて、いま書くから」
 
俺は紙に九九の一覧を書いて2人へ見せた。
 
「これを暗記すると計算が早くなるんだよ」
「これを全部ですか?」
「そう全部。俺の生まれた国では8歳になるとこれを暗記する」
「8歳でこれを全部!!」
「2人は11歳と12歳だから簡単に覚えられるよね?」
「むっ、無理ですよ!」
「出来ないよー。無理だよー」
「大丈夫だよ。覚えられるって」
「無理です。覚えられません」
 
でも覚えたほうがいいと思うんだよなぁ。
うーん………、そうだ。
 
「覚えたらご褒美をあげよう」
「何をですか?」
「一つだけ何でも言うことを聞いてあげる」
「何でもですか!!」
 
コゼットが椅子から立ち上がって叫んだ。
 
よし、食い付いた。
 
「一つだけ俺に出来ることならね」
「約束ですよ」
「約束しよう」 
「わかりました。頑張って覚えます」
 
コゼットは九九の一覧を見ながらブツブツ言いはじめた。
頑張れ。
 
「シャルロットも覚えようね」
「えー、無理だよー」
「じゃあ半分でいいから。5のところまで覚えればいいから」
「ちょ、ちょっと待ってください。駄目ですよ。卑怯ですよ。シャルロットだけそんなズルいですよ!」
「コゼットはお姉ちゃんなんだからハンデだよ」
「そんなー…」
 
5の段まで覚えれば残りは応用なんだけどね。
必死なコゼットが九九の一覧を独占してしまったのでシャルロット用も書いてあげた。
 
 
 
ドンドンドンドン
 
「朝か」
 
玄関の鍵を開けたらハロルドさんが立っていた。
その後ろにコゼットとシャルロットがいる。
 
「あれ?、おはようございます。なにか用ですか?」
「ジョージこれは何だ!?」
 
ハロルドさんは昨日の九九の一覧を持っていた。
 
「えっ!?、ああ、掛け算九九ですよ」
「お父様返してください。それがないと、早く覚えないと…」
 
ハロルドさんが持つ九九の一覧をコゼットが奪い返そうとしている。
 
 
 
朝食を食べながらハロルドさんに掛け算九九を説明したら、自分も覚えると言い出し九九の一覧を持ったまま屋敷に帰っていった。
残された半泣きのコゼット用に九九の一覧を書いて渡してやった。
 
 
 
その後、村長にカイゼルさんにロジャーさんと次々に襲来し、その都度掛け算九九を説明して紙に九九の一覧を書きだして渡すはめになった。
もういい加減九九は書き飽きた。
コピー機が欲しい。
そう思ったら、そういう魔法が頭に思い浮かんだ。
転写魔法。
もっと早く使えてたら楽だったのに…。
 
 
 
翌日、村長の要請で全世帯数+8歳以上の子供数だけ九九の一覧を転写して配った。
 
 

【16話】
 
 
トランへ魔法で飛んできた。
荷馬車で3日かかるのに飛行魔法では1時間で着いた。
飛行魔法とアイテムボックスを使えば運送業が出来るんじゃないか?
 
 
 
九九騒動で手持ちの紙が無くなったのでリチャードさんのお店"コロピエ商会トラン支店"に買いに来た。
 
「いらっしゃい、何をお探しですか?」
 
少年が声を掛けてきた
[リッキー/15歳/レベル18]
従業員かな?
 
「紙を探しています」
「紙ならこちらの棚にございます」
 
従業員に案内された棚で紙を物色していると声がかかった。
 
「ジョージ君いらっしゃい」
 
いつの間にかリチャードが後ろに立っていた。
 
「村に戻って直ぐこっちに来たのかい」
「はい、そんなところです」
 
リチャードさんは飛行魔法を知らないから誤魔化した。
サンダーイーグルと共に落下するところを見られていたはずだが、あの時は何も言わなかったので気が付かなかったようだ。
遠すぎてよく見えなかったのだろう。
 
「紙を何に使うんだい」
「村の子供達の勉強に使うんですよ」
「へぇ、珍しいねぇ」
「何で?」
「いやね、ああいう村ではあまり教育に熱心じゃないからさぁ」
「ああ、そうみたいですね。子供達に掛け算教えていたらハロルドさんに九九の一覧を見られてしまって予想外に紙を使ってしまったんですよ」
「くく??」
 
ああっまた説明か…。
俺はアイテムボックスから転写した九九の一覧を取り出してリチャードさんへ渡した。
 
「これなんですけど」
「掛け算だね」
「これを丸暗記していると言ったら皆驚いてしまって」
「丸暗記!。ジョージ君はこれを全て覚えているのか」
「はい。8歳の頃に覚えさせられましたね」
「何のために?」
「計算が早くなるためだと思います」
「まぁ確かに暗記していれば早くなるだろうけど…………」
 
リチャードさんが長考している間に従業員からA4くらいの紙束を5つとキャンディやクッキーも買った。
 
「ジョージ君、これ譲ってくれないかい」
 
右手に持った九九の一覧を掲げる。
 
「いいですよ」
「じゃあ幾らで」
「タダで差し上げますよ」
「そうかい、悪いね。おいリッキー、上からエレインを呼んでこい」
「はい父さん」
 
リッキーは店の奥へ入っていった。
従業員じゃなかった。
 
やがてリッキーは女の子を連れて戻ってきた。
[エレイン/13歳/レベル13]
 
「こいつは息子のリッキーで、こっちが娘のエレインだ」
「どうもウストビッジ村のジョージといいます」
 
「リッキー、エレイン、コレを見てみろ」
 
2人に九九の一覧を見せる。
 
「掛け算ですね」
「それも簡単な」
「このジョージ君はこれを暗記しているそうだ」
「はぁ?」
「どうして?」
「計算が早くなるらしい」
「えっ!」
「らしいって?」
「だからお前たちも覚えろ」
「えっ!?、ちょっと待って」
「いなり覚えろって、父さん何を言っているんですか?」
 
あっ、何か面倒なことになりそうだ。
 
「あっ、俺、用事があるのでコレで失礼しますね。これ良かったら使ってください」
 
アイテムボックスからもう一つ九九の一覧を取り出してリチャードさんへ渡して逃げるように店を後にした。
あっ、石材が出来てるから渡せばよかったよ。
今度でいいか。
 
 
 

「買い取りを頼みます」
「き、君か」
 
この前と同じ職員だった。
 
「今日は何を持ってきたのかな?。またブラックベアーやサンダーイーグルじゃないよね」
「ブラックベアーは無いですけどサンダーイーグルはありますよ」
「はぁ!?、またサンダーイーグルだって!!??」
 
また職員の声が辺りに響いた。
 
「だから大声出さないでくださいよ」
「あっ、すまんすまん」
 
この展開はテンプレなのか?
 
「今日持ってきたのはゴブリン98匹、オーク32匹、ラッシュシープ12匹、ラッシュゴート9匹、ツインテイルフォックス6匹、バイオレンスホース2匹、サンダーイーグル1匹、全部未解体です。
「ゴブリン98、オーク32、ラッシュシープ12、ラッシュゴート9、ツインテイルフォックス6、バイオレンスホース2、サンダーイーグル1、全部未解体っと」
  
俺はアイテムボックスから魔獣の死骸を次々と取り出す。 
前回同様に周りが静かになっている。
 
「凄い量だな」
「おい、またサンダーイーグルだよ」
「あれこの前の小僧じゃねーか」
「どうやったら連続で狩れるんだよ!!」
 
狙って狩っている訳じゃないんだけどね。
 
 
 
「やぁ、ジョージ君。久しぶり、でもないか」
「どうも、久しぶりってほどじゃないですね」
 
前回と同じく別室で商業ギルド支部長のランドルフさんとご対面だ。
 
「また今回もサンダーイーグルだって?」
「はい、偶然にも」
「凄い偶然もあるもんじゃな」
「はははは…」
「見積じゃ」
 
ランドルフさんが俺に見積書を渡してくれた。
 
・ゴブリン/2000x98=196000
・オーク/7000x32=224000
・ラッシュシープ/15000x12=180000
・ラッシュゴート/10000x9=90000
・ツインテイルフォックス/20000x6=120000
・バイオレンスホース/40000x2=80000
・サンダーイーグル/2000000
合計 2890000ゼン
 
 
 
ギルドを出た後は屋台で串焼きを買い小腹を満たしてから再び飛行魔法でウストビッジへ戻った。
 
家に戻るとコゼットとシャルロットがカマドの灰を便壺の中に入れていた。
 
「それどうするの?」
「穴を掘って埋めます」
「何処に?」
「畑の端の方です」
 
2人は畑の端まで行くとスコップで20cm程穴を掘り便壺をひっくり返して埋め戻した。
 
「どうして端に埋めるの?」
「えっ、汚いからです」
 
あれ?
肥料じゃないんだ。
 
 
 
「村長、どうして灰と便を肥料に使わないの?」
「ひりょう?」
「そう、肥料です」
「"ひりょう"とはなんだ?」
「畑に撒く肥料ですよ」
「畑に撒く?、種なら蒔くが」
 
あれ?
ここじゃ肥料は撒かない?
 
「畑に肥料を撒けば作物の生育が良くなりますよ」
「良くなる?、収穫量が増えるのか?」
「そうですね」
「その"ひりょう"とやらを撒くだけでいいのか?」
「種を蒔く前に肥料を撒いて土に混ぜるだけですね」
「わかった"ひりょう"とやらを撒いてみよう。灰と便を撒けば良いのか?」
「便も肥料に出来るけど管理が面倒なので止めておいて灰だけにしましょう」
「そうか灰だけじゃな」
「他にも森の黒土や魔獣の骨をすり潰した骨粉も肥料に使えますよ」
 
肥溜めは面倒だからパス。
 
 
 
畑の一角に肥料小屋を土魔法で作った。
見た目は四角い箱に出入り口と窓穴が開いているだけだ。
中は細かく仕切られて壁が多く、壁には灰を入れた壷を置けようになっている。
壷も俺が土魔法で作った。
固く頑丈に作ったので落とした程度じゃ割れない。
 
「何と言ったらいいか、凄いなジョージの魔法は」
「ドアと窓は無理なんで準備してください」
「わかった。今日は無理だが明日までには何とかしよう」
「それとこの壷ですが、まず空の壷を各家に配って、灰が溜まったら各自ここに持ってきて、空の壷を持って帰るという流れで」
「すぐに村中に壷を配って通知しよう」
「魔獣の骨は石臼ですり潰してこっちの黒い壷に入れて灰の壷と分けて管理してください。森の黒土は使うときに取りに行けばいいでしょう」
 
こんな感じで農業改革っぽいのが始まったけど、後は村長たちに丸投げだ。
 
 


【17話】
 
 
まずは風魔法で、
 
「ウインドカッターーーーーーーー!!!」
 
魔力を十分込めてウインドカッターを解き放つ。
草原の草が一気に刈られていく。
続いて、
 
「ストロング・ウインドーー!!」
 
刈った草を強風で吹き飛ばす。
 
そして土魔法
 
「ミックス・アースーーー!」
「フラット・グランドーーー!!」
 
地面をかき混ぜて残った草の根などを土に混ぜ込み地面を平らにする。
 
これで草原に一筋の線が出来上がった。
後はコレの繰り返し。
サクサクやるぜ。
 
 
 
 
夕食後にちょっと話があるといって村長の部屋に集まってもらった。
村長、ハロルドさん、カイゼルさん、ロジャーさんが俺の話を待っている。
 
「村長、道を作ってもいいですか?」
「はぁ!?」
「道!?」
「急に何を言い出すかと思えば、何でまた?」
「滝へ行く近道でも作るのかい?」
 
突然の俺の発言に4人がは口々に疑問を口にした。
 
「この村、ウストビッジからザンスまで」
 
俺は壁に貼られた地図モドキを指しながら4人へ告げた。
 
「なぜザンス?」
「ここに道があったら便利ですよね?」
「便利といえばそうじゃが。別に無くてもそれほど困っておらんが」
 
「カイゼルさん、ザンスの特産品といえば?」
「えっ!?、ザンス?」
「塩です」
「ああ、そうだったな」
 
「ハロルドさん、この村…じゃなくて、トランで塩は価格は幾らぐらいですか?」
「たしか100gで100ゼンくらいだったはず」
「クラモンでは90ゼン、セットラでは80ゼン、ハラセレでは70ゼン、サンミツロでは60ゼンくらいでした」
 
壁の地図モドキを指差しながら塩の価格を言っていく。
 
「いつの間に調べおったのじゃ」
「あっ、この前無断外泊した時だ!」
「あーあ、あの時は娘が心配して大騒ぎだったんだよ」
「ウチのシャルロットはグーグー寝てたけど、コゼットちゃんは心配して一晩中家の前で待っていたんだよ」
「すみません。日帰りで戻ってこれると思ったんですが…。後でもう一度コゼットに謝っておきます。」
 
「話を戻しますね。ではザンスでは幾らで売っていたと思いますか?」
「…………」
「5ゼンで売っていました」
「5ゼン…、トランの……20分の1か!!」
「そう、街道沿いをグルっと回って運ばれる内に20倍になっているんですよ」
「運賃が上乗せされているからなぁ」
「しかたないよ。ザンスから村まで約1ヶ月かけて運ばれて来るんだし換えも効かないしな」
 
「この村の料理って味が薄いですよね」
「まぁ、そうじゃろな」
「塩が足りないんですよ」
「塩が高いから少ししか料理に使わないんだ」
「だからですよ。だからザンスまで道があれば塩が安く手に入るんですよ」
「塩が安く手に入る…」
「そう直接買いに行けばで安く手に入れられます。荷馬車でだいたい5日くらいかかると思いますから往復で10日、隣のトランまで往復6日だから4日余計にかかるだけで塩が安くなりますよ。荷馬車いっぱい買えば差額がいくらになるか…」
「5ゼン、いや10ゼンだったとしても差額は100gで90ゼン、1kgで900ゼン、10kgで9000ゼンか!!」
「それに道が出来れば塩の価格だけじゃなくて街道のどん詰りを解消できます」
「!?」
「村とザンスの間に道が出来れば街道がぐるっと一周繋がるんですよ」
「なんと!?」
「300年の悲願が!!」
「それだけじゃありません。山沿いを北上するヒシカリイへの道も作ります」
 
俺は再び壁の地図モドキを指差す。
 
「はっ!?」
「ヒシカリイ?」
「鉱山…、鉄か!!」
「そう鉄です。鉄が安く手に入ります。ですがそれだけが目的じゃありません。本命は鉄の運搬ルートです」
「運搬ルート?」
「ヒシカリイ、ウストビッジ、ザンス、その先は?」
「シゲトウー!!」
「そう、この国唯一の港。鉄の輸出港です。今まで街道をグルっと回ってヒシカリイからシゲトウーまで約90日かかっていたのがウチの村経由だと約11日。日程が8分の1になります。どっちのルートを通りますかね?」
 
俺は地図モドキの街道を指でなぞって見せる。
 
「そりゃ短い方を通るに決まっとるじゃろ」
「ヒシカリイから鉄を積んだ荷馬車が南下、シゲトウーからは塩や海産物や輸入品を積んだ荷馬車が北上。その中間点がこの村になるんです」
「ゆ、夢の様な話じゃな」
「その夢を叶える為に道を作りたいんですよ」
「そうはいっても…、勝手に道を作るわけには…」
「そうだな領主に話を通しておかないといかんだろう」
「そうですか、そうですよね。でも実は…」
「おい!?」
「まさか!?」
「嘘だろう!?」
「勝手に作ったんじゃ…!?」
「ええっ、もう道はほとんど出来ています」
 
一瞬の静寂が村長の部屋に広がる。
 
「はぁ!?」
「何!」
「いつの間に!!」
「いやー、毎日コツコツ作っていましたから…」
「それで最近村で姿を見んかったのか」
「まずいぞ親父!!」
「領主に話を通さずに勝手をしたらどんなことになるか!!」
「ジョージ、なんとかしろ。そうだ道を壊してこい」
「ああ、見つかる前になんとかしないと」
「えーと…、もう、見つかっちゃてます」
「はぁ?」
「なんだと!?」
「見つからないようにまだ街道と繋げていなかったんですが、ハンターの事をすっかり忘れていました。彼らが狩りの時に見つけちゃったみたいです」
「なんということだ!」
「今から領主に話を!」
「それでヒシカリイとザンスではちょっとした騒ぎになったみたいで、両側とも揃いの格好をした一団が馬でこちらに向かっています」
「揃いの格好をした一団?」
「ハンターじゃないな、おそらく領兵だ」
「どうする親父?」
「どうするったってどうしようもない」
「いや、何か手を打たないと」
 
大変なことになってるけどまだ全部じゃないんだよ。
 
「あのー」
「何じゃい!」
「もう一つお知らせしたいことが…」
「まだ何か隠しておるのか!」
「この村から東の方にも道を作って…」
「東?、この村の東はトランじゃろ?。道はもうある」
「いえ、この地図が変なんですよ。トランはこの村の南東です。この村から西に真っ直ぐ行くとヒタッチです」
 
壁の地図モドキを指しながら説明する。
 
「ヒタッチ?」
「この地図だと村の位置がもう少し上になって、ここからほぼ真東にヒタッチがあります」
 

 
 
「そのヒタッチに向けても道を作ったと言うんじゃないだろうな」
「言いますよ」
「おいおい!」
「ヒタッチでも騒ぎに?」
「なっているようですね」
「ヒタッチからも領兵が?」
「いや、揃いの鎧兜の一団が進軍して…」
「進軍じゃと!?」
「親父、慌てるな。おそらくマンモスや猛獣対策だろう」
「ヒタッチからなら領兵じゃなくて国兵の可能性も…」
「ヒタッチの西側はタラノクカン平原だからな慎重にならざるをえないのでしょう」
「マンモスなら道を作るときに邪魔だったから粗方倒しちゃったけど」
「はぁ!?」
「何と!」
「マンモスを?」
「倒しただと!?」
「ええ、デッカイ象さんでしたね。見ますか?」
 
俺はアイテムボックスからマンモスの取り出そうとしたが、
 
「ここじゃ狭くて無理ですね。外に行きましょうか」
 
 
 
屋敷中の住人がマンモスの死骸を見上げている。
 
「ライトボール」
 
暗くて見づらいのでライトボールを3つ浮かべてマンモスの死骸を照らした。
 
「凄い」
「山のようじゃな」
「初めて見た。この目で見ることがあろうとは」
「大きい」
「重そう」
「この牙すごい」
「これ鼻?、凄くながい」
「どうやって倒したのコレ」
「ジョージ君っ何?、勇者なの?」
「魔石も大きいねぇ」
「お肉は?、食べられるの?」
「これ幾らで売れるんだろう」
 
 
 
マンモス見学も終わり再び村長の部屋で話し合いを再開。
 
「ジョージ、それで領兵や国兵はいつこちらへ出発したんじゃ?」
「ザンスからは昨日、ヒシカリイからは一昨日、ヒタッチからは今日」
「それで到着は何時になりそうだ!!」
「どれだけのスピードで駆けてくるかにもよるけど、ザンスとヒシカリイからは明日の夕方から明後日」
「明日の夕方か、早いな」
「でも直接街道に繋がっていないので村には来ない可能性もありますよ」
「そんな楽観していられないんだよ」
「ヒタッチの方はどうなんじゃ?」
「アッチはいつになるやら?」
「わからんのか?」
「荷馬車で2週間程の道程だから鎧兜の一団はたぶん途中で引き返すと思いますよ。その後準備をして再度進軍すると思うので」
「そうかそれならとりあえずはヒシカリイとザンスの領兵じゃな」
「あっそうだ、街道に立て札を立てておけばザンスからの領兵をトランへ誘導出来ますよ」
 
壁の地図モドキを指して。
 
「ザンスからの道はこの辺りで街道に繋がるんですよ。ここに"トラン→"って立て札を立てておけばトランへ向かいますよ」
「そんなんで上手くいくか?」
「土地勘のない人間は情報のある方へきっと向かいますよ」
「そうだといいがな」
「じゃあ、それでいきましょう」
 
 
 
そしてザンスからの領兵はトランへ向かい、ヒシカリイの領兵は村へとたどり着いた。
 
 
 
「遠いところへようこそおいで下さった。して、ヒシカリイの領兵がこんなところに何用で?」
「我々もこの村を目指していた訳ではないのだが、村長、ここはウストビッジで間違いないんだな?」
「はいウストビッジ村で間違いございません」
「この地図だとココだが?」
 
隊長が地図らしい紙を村長へ見せる。
 
「はいココで間違いございません」
「そうか。我々はヒシカリイからここまで謎の道を南下してきたのだが?」
「おおっ、謎の道!!」
「知っておるのか!!」
「いえ、隊長さん方の通ってきた道は存じ上げませんでしたが我々もおそらく同じような謎の道を見つけたのでございます」
「他にも謎の道があるのか!!」
「はい、ハンターが狩りをしている時に発見いたしました」
「その街道は何処に?」
「この村から真東に一直線に伸びている道と、川沿いに南下している道でございます」
「何!!、2つもあるのか。この地図だと何処になる」
 
再び隊長が村長へ地図を見せる。
 
「この辺りから真東へ真っ直ぐ伸びているのと、この辺りから川沿いに南下しております」
「何処に通じておるのか確認したか!?」
「真東の道は途中で引き返しました。そのまま進むとタラノクカン平原へ入る様子でしたので」
「タラノクカン平原が、それは引き返して正解じゃな。真っ直ぐ進んでいるとなるとヒタッチまで続いておるのかもしれんな」
「もう一つの南下する道はザンスの手前まで続いていました」
「ザンス!?」
「はい、おかげで塩が安く入手できました」
「塩か…、それでその道は馬車が通れそうか?」
「十分すれ違える幅があるそうでございます」
「そうか、こっちと同じような感じか…、それで片道何日かかった?」
「馬に乗って警戒しながら進んだので4日程、帰りは3日で戻って来たそうです」
「ヒシカリイとここまでの距離より1日分短いくらいか。その道を見てみたいが案内を頼めるか?」
「では息子に案内させましょう。ハロルド、馬を取ってこい」
「はい、村長」
 
そう返事をしたハロルドさんは屋敷へ駆け戻ろうとした。
 
「待て待て、ウチの馬を使え。おい、馬を貸してやれ」
「はい」
 
声をかけられた隊員がハロルドさんへ手綱を渡した。
 
「お前はここで待機だ。では行くぞ」
 
隊長は馬を譲った隊員へ命令するとヒラリと騎乗した。
 
「騎乗!」
 
脇に控えていた隊員が号令をかけると全員が騎乗し、ハロルドさんを先導に村の門から出て行った。
 
 
 
「村長、なかなかの役者っぷりでしたよ」
 
一仕事終えてホッとした様子の村長へ声を掛けた。
 
「馬鹿言うな!。冷や汗もんじゃったぞ。まったく誰のせいでこんな事になったと思っとるんじゃ」
「俺のせい?」
「お前のせいじゃ!」
「まぁまぁ、でもちゃんと塩に食い付いてましたね」
「そうじゃな、馬車の話も出たしのぉ」
「鉱夫に塩は必要ですからね」
 
 
 
ヒシカリイの領兵は村に一泊して戻っていった。
 
 

【18話】
 
 
30分程時間をかけて家の裏側に土魔法で2階建ての家を作った。
何の変哲もない四角い石造りの家が出来上がった。
平屋は何度か作ったけど2階建ては初めてだったので慎重に作った。
 
後ろを振り向くと作業を見ていたコゼットとシャルロットが驚いた表情で家を見上げていた。
 
「コゼット、すまないが村長たちを呼んできてくれないか」
「は、はい」
 
我に返ったコゼットが屋敷へ駆けていく。
 
「ねーねー、お兄ちゃん中に入ってもいい?」
「ちょっと待ってね。もうすぐ村長たちが来るから」
  
暫くしたらコゼットが村長とハロルドさんとロジャーさんを連れて戻ってきた。
 
「こんな感じになりました。この規模で作ったのは初めてだったのでちょっと苦労しました」
「これでちょっとか…」
「………」
 
皆唖然とした表情で家を見上げていた。
遠くから村民もこっそりとこちらを伺っているのも見える。
そりゃいきなり2階建ての家が出現すれば見るよね。
  
村長たちを引き連れて家の中を案内する。
1階はリビングとダイニングとキッチンと客間、それとお風呂とトイレに倉庫。
待望の風呂は浴槽を完備。
2階は俺の部屋と嫁達の部屋と空き部屋。
 
「屋根まで石で出来てるのか」
「魔法ですからね」
「お兄ちゃん、これは何?」
「浴槽だよ」
「よくそう?」
 
そうか、屋敷には浴槽がなかったな。
 
「これにお湯を溜めて中に入るんだよ」
「ふーん…、変な事をするんだね」
「すごく気持ちがいいよ」
 
 
「扉や窓は?」
「それは土魔法じゃ一緒に作れません。大工さんに作ってもらわないと」
「じゃあ製材所のロビンソンに頼んでおくよ」
「製材所?、大工じゃなくて?」
「ウチの村は大工もあそこが兼ねているんだよ」
「そうだったんですか。それじゃあお願いします。それで宿屋も基本これでいいですか?」
「そうだな。こんな感じでいいと思う。後は親父の部屋で間取りとか詳細を決めようか」
 
 
 
翌日、村の門を入って直ぐのところに石造りの建物を2つ作り上げた。
ひとつは1階が食堂で2階が個室。
もうひとつは1階が厩で2階が大部屋。
宿屋(仮)である。
扉や窓は無いし内装もできていないが…
 
 
 
「こんにちは」
 
店の奥にいたリチャードさんに声を掛けた。
 
「いらっしゃいジョージ君。噂になっているよ」
「えっ?、何がですか」
「また狩ったんだって?。連続でサンダーイーグルが持ち込まれてギルドじゃ大騒ぎだよ」
「まあ運が良かっただけですよ」
「運が良かったって、そう何度も遭遇する魔獣じゃないけどなぁ」
 
「それはそうと、今日は石材をお持ちしました」
「おお、出来たのかい。わざわざ持ってきてくれてありがとう。明後日には村に向けて出発する予定だったんだよ」
「いえ、町に用事があったのでついでです。それに相談したい事もありましたし」
「相談?」
「先に石材を出しますよ。どこに出しましょうか?」
「じゃぁ、こっちに頼む」
 
そう言って前回と同じ裏庭へ案内された。
おっ、前回の分は無くなっている。
って、広っ!!
 
「随分広くなりましたね」
「そこに立っていた空き家を買い取って更地にしたんだよ」
「奮発しましたね」
「それほどでもないよ。幽霊屋敷って呼ばれていて安かったんだ」
「そ、そうですか…」
 
この世界にも幽霊っているんだな。
 
「それじゃぁ、出しますね」
 
アイテムボックスから石材を次々に出す。
あっという間に裏庭を埋め尽くす。
 
「頼んどいてなんだけど凄い量だね」
「頑張って売ってください」
 
 
 
応接室で受け取った石材の代金をアイテムボックスへ収納する。
 
「ところでさっき言ってた相談って何だい?」
「家具を作る職人を紹介して欲しいのです」
「村にもいたと思うけど?」
「今ちょっと手が足りなくて、この街の職人にも作ってもらおうと思いまして」
「どうしたんだい一体?、村で何かあったのかい?」
「いえ。大した事は起っていないですよ。今、宿屋を作っていて、村の職人だけじゃ時間がかかるのでこの町で作ってもらえないかと」
「宿屋?、今まで使っていた空き家は使えなくなったのかい?」
「一つは私が借りて住んでます。村長の屋敷の前にある家ですね。他の空き家は今までどおり使えますよ」
「それなら何故?」
「新しく街道が出来てこれから人の行き来が増えるので、村営の宿屋を作ることになったんですよ」
「新しく街道?、初めて聞く話だね」
「あー、そうですね。なんかいつの間にか道が出来ていたんですよ。不思議ですよね」
「いつの間にかって、そんな簡単に道が出来るわけ無いはずだけど…」
「とにかく道が出来たので宿屋を作るんですよ」
「そうかい。それで道ってのは何処に通じているんだい?」
「南はザンスまで、北はヒシカリイまで、東はヒタッチまで」
「はぁ!?」
「ザンスとヒシカリイとヒタッチまでですよ」
「いや、それはわかった。3つも道が出来たのか」
「そうですね」
「詳しく教えてくれないか。あっ、ちょっと待って、地図を持ってくるから」
 
そう言ってリチャードさんは応接室を出て行き、暫くしてから地図を手に戻ってきた。
道はちゃんと曲がっているし山や川も記載されている。
村長のものとは比べ物にならない地図だった。
 
「何処にどうゆう風に道ができたんだい?」
 
俺は地図を指で指しながらリチャードさんに新しく出来た街道の説明した。
 
「これは物流が変わる。大変な事だ。親父に報告しないと」
 
リチャードさんは地図を見ながら独り言のように呟いていた。
聞かなかったことにしよう。
 
「それで職人ですけど」
「ああっ、そうだったな。知り合いの職人を紹介するよ」
「ありがとうございます。それともう一つ相談がありまして」
「なんだい?」
「村に小さい店を出す予定です」
「店?、村に!」
「はい、人が増えるのに宿屋だけじゃ足りませんから」
「そりゃそうだな」
「とりあえず村を通る人の必需品だけでも扱う小さな店を出す予定です」
「そうか、最低限の補給物資はあったほうがいいな」
「ですが村にはそういった知識や経験がない」
「……………」
「誰か紹介して…、いえ、この際はっきり言いましょう。この話にリチャードさん一枚噛んでみませんか?」
 
 
 
予定より数日遅れて村にリチャードさんが移動販売にやって来た。
今回は息子のリッキーと娘のエレインも連れてきた。
もちろん護衛のデイヴィッドさんも同行している。
 
 
 
「これが宿屋ですか?」
「まだ中はカラッポですけどね」
「中に入っても?」
「どうぞどうぞ」
 
4人は中へ入っていった。
 
結局リチャードさんは店の話に一枚噛む事になった。
数日到着が遅れたのは領都サンミツロの支店に相談していたのだという。
 
どうやって遠距離通信を?
伝書鳥という伝書鳩のような鳥でやり取りが出来るそうな。
 
サンミツロでも新しい街道のことは噂になっていたらしく、他の商会に遅れを取る訳にはいかないということで小さいながらも支店を出すことになったらしい。
 
「何から何まで全部石なんですね」
「しかも継ぎ目が全く無い」
「これが土魔法だけで作られたなんて信じられません」
 
宿屋(仮)一通り見て回ったの4人が出てきた。
 
「それでリチャードさん、お店なんですけどあの辺に建てようと思っているのですけど」
 
俺は道の向こう側を指差す。
 
「いいと思うよ」
「えっ、父さん。宿の横がいいんじゃないかい?」
「そうよ、そのほうがお客さんは便利よ」
「そうかい、よーく考えてごらん。宿屋がオープンしたらどうなる?」
「お客さんが泊まる」
「お客さんは歩いて来るのか?」
「馬車」
「そう。その馬車がこの辺りに止まると」
「…」
「何台も止まることになるだろうな」
「あっ、店の前にも止まるわ」
「そうだ、邪魔だよね」
 
そういう風に受け取ってくれたか。
俺は今後宿屋を増築する時の為のスペースのつもりだったんだけどね。
 
「お店はどんな感じにしますか?。トランの店と同じような?」
「それじゃ大きすぎるような気もするけどなぁ」
「トランの店はギッチリ商品が詰まっているじゃないですか、ここはゆったりと見やすく陳列すればいいと思いますよ。大は小を兼ねるといいますし」
「そうよ父さん。折角広い建物を準備してくださるのに小さくしなくても」
「そうだよ父さん。僕もトランと同じ広さでいいと思うな」
「そうか、実際使うのは2人なんだからそれでいいか」
 
そうこの村で店を開くのはリチャードさんではなく息子のリッキーと娘のエレインだ。
 
「それじゃあ、店の部分をこれくらいとして他の部分はどうします?」
 
地面に棒で四角を描く。
 
「ここに倉庫を」
「これじゃ大きすぎるから半分にして残りは事務所にしよう」
「こっちにキッチンとダイニングとリビング」
「トイレも」
「2階建てでもいいですよ」
「そうか、それならリビングと寝室は2階にして」
 
3人でああだこうだと地面に線を描いていく。
 
 
 
「こんな感じになりましたけど」
 
翌日、コロピエ商会ウストビッジ支店(仮)の建物を見て4人は唖然としていた。
 
「えっ!?」
「もう建っている!?」
「昨日は何もなかったのに!?」
「この大きさのものまで土魔法で一気に作り出せるのか!!」
 
朝一で昨日3人が地面に書いていた平面図モドキを元に建物を土魔法で作り上げた。
 
 

【19話】
 
 
ゆさゆさゆさ
 
「起きてくださいジョージさん」
「うん?」
「おはようございます。朝です」
「おはようコゼット」
「朝食の準備出来てますよ」
「ああっ」
 
俺が起きたのを確認したコゼットが部屋を出て行く。
 
コゼットが九九を覚えて要求したのは子作りだった。
それは結婚してからという約束だったと断固拒否。
それ以外なら何でも言うことを聞くとなんとか言いくるめた結果、一緒に住むことになった。
シャルロットはまだ九九を覚えていないので屋敷で寝起きしてこの家に通っている。
本人は結婚したら一緒に住めるから九九を覚える気はなさそうである。
コゼットに先を越されるのも気にしていない様子だ。
お姉ちゃんだから当然という事らしい。
 
 
 
宿屋は無事開店した。
でも客はハンターだけだ。
 
新しい街道はまだ輸送路にはなっていない。
今はハンターが荷馬車に乗って行程などをチェックしているようだ。
 
この前やっとヒタッチ方面から軍兵がやって来た。
途中、猛獣系の魔獣に襲われたりしてボロボロだったが死者は出なかったそうだ。
マンモスに出会わなかったのが幸いだったと言っていた。
俺が街道を作る時に付近のマンモスは倒したし、街道へマンモス以下のエレファント系魔獣が近づけないように仕掛けをしたのが功を奏したようだ。
村に2日滞在した軍兵は部隊を2つに分けてザンスとヒシカリイ方面に調査のため進んでいった。
ご苦労さんである。
 
店はまだ開店していない。
あれから何度かリチャードさんたちが来て着々と準備を進めている。
開店するのは新しい街道が輸送路になる頃だろう。
 

 
未完