漁業権てなんだ

私たち遊漁者が遊漁を行うときに、遵守しなければならないものは、漁業法、各都道府県知事が定めた漁業調整規則、そして漁業権が設定してある水面には漁業権者が定め知事が認めた各漁協の遊漁規則があるのです。じゃあ漁業権って何なんでしょう。

長野地方裁判所民事部の判決

長野地方裁判所民事部は、内水面の漁業権の代表、第5種共同漁業権に関連した興味ある判決を2004年3月26日に下しました。

事件番号は、平成10年(行ウ)第9号
事件名は、取水等許可処分取消請求事件
裁判年月日は、平成16年3月26日
裁判の要旨は、建設大臣(現国土交通大臣)が,法人に対し,河川法に基づき,発電用に市内の河川及び湖からの取水を許可した処分に関し,市に居住等する住民らが,同処分が河川法に違反した違法なものであると主張して,その取消しを求めた事案につき,原告適格又は訴えの利益を否定して,訴えを却下した事例

その後、東京高等裁判所に控訴したけど、判決は漁業権に関しては地裁の判断を踏襲した。 事件番号は、平成16年(行ウ)第163号
事件名は、取水等許可処分取消請求控訴事件(原審・長野地方裁判所平成10年(行ウ)第9号)
裁判年月日は、平成17年3月9日

と、平和な渓でのんびりとつりをするのに必要なの?と思えるほど厳ついのですが、それは裁判の世界だからしかたないでしょう。

この裁判で何が争われたかというと、

「建設大臣(現国土交通大臣)が昭和電工株式会社に対し,河川法(昭和39年法律第167号)に基づき,発電用に長野県大町市内の河川及び湖からの取水を許可した処分に関し,大町市に居住等する原告らが,同処分は河川法に違反した違法なものであると主張してその取消しを求める事案である。」
と、書いてあります。なんだ、漁業権を定めた「漁業法」とは関係ないじゃん、と思えますが読んでいくときちんと「第5種共同漁業権」の事にふれています。いちいち読むのが嫌だという方のために、私なりに簡約します。

早い話が、建設大臣(今の国土交通大臣)が長野県大町市内を流れる川(信濃川水系高瀬川本流や支流)から昭和電工が自家発電用の水を取り入れることを2003年1月31日に許可した(取水は1937年7月26日(S12)から許可されていた)。そうしたら、川の水が激減して、魚が棲まなくなるは捕れなくなるは、街の中を流れる水路に水が無くなり火事のときに使う防火用水がなくなるは火事で人が亡くなるは、汚水が薄められないから臭いはするは蚊が発生するは、井戸水が濁って飲めなくなるは、湖(青木湖)の水位が下がってみっともなくなるは、いったいどうしてくれる。と、北安中部漁業協同組合の組合員や大町市の人たちが国を訴えた裁判です。

ほーら、渓魚のにおいがしてきたでしょう。

漁協組合員の言い分

この裁判で漁協の組合員は、漁業法の共同漁業権は,一定の水面を共同に利用して漁業をする権利(漁業法6条1項,2項,5項)だから,水がなくなり,棲息する渓魚がいなくなれば,権利の対象物の渓魚がいなくなり,権利自体もなくなるずら。
だいたい,川はその川の水面を支配・占有する権利つまり漁業権を設定している漁協のものずら。もし、漁業権が河川法上の権利じゃなくても,漁業法で物権とみなされてるから,違法に侵害することはできないし,水利使用で影響を受ける場合が多いのだから,漁業権が水利権の存在によって侵害されることはないという国の言い分はおかしいずら。
「川に水を流せー」と大声を上げたのです。

また、
漁業権は,明治時代以前,うーんと昔から続く慣行漁業権で、今の漁業法をなぜ作ったかといえば,昔の漁業法(古くさい封建的な制度)で網元・船主の支配の重圧と共同体的規制に縛り続けられていた零細漁民を解放するという民主主義的な目的で作ったんずら。それに、慣行の漁業権は,そんな封建的で古くさい制度だけじゃなく,漁村や漁民たちが,自分たちが暮らしていくのに漁場を守り続け,周りの環境まで気を配り続けていたことの積み重ねでもあるんだから,今の漁業法制定で無くなった権利は,封建時代に支配者がご褒美のために漁業者からだまし取った漁業権や支配のための道具としての漁業権部分だけで,本来の漁業者に受け継がれてきた慣行漁業権は,今でもあるずら。

それに、今の漁業法が補償でなくそうとしたのは、海の漁業権で,川の漁業権じゃないのは,漁業法施行法5条が,昔の漁業会から今の漁業協同組合に川の漁業権を譲ってもいいって言ってるし、第一この法律を作る時の国会での理由説明から簡単に解るずら。

だから,漁協の組合員がいう漁業権は,1993年(H5)に初めて設定されたんじゃなく,昭和電工に対する今までの取水の許可で水利権が設定された1966年(S41)よりうーんと昔からあるもんね。

もし万一、今の漁業法ができたからといって昔の漁業権がなくなったとしても,漁協は,1949年(S24)に設立されてるし漁業権の免許をもらっているんだから,漁業法21条所定の存続期間が終わっても特段の変更事由がない限り存続されるものなんだから,漁協の組合員の持ってる漁業権も1949年(S24)からずっと続いているんだ。
と漁業権に関して主張しました。

でも、裁判所は

「(2) 第1原告らの漁業権の取得時点」のところで

漁業権は都道府県知事の免許で設定される(漁業法10条)んでしょう。漁協は,前提事実(5)に記載したとおり,1993年12月20日(H5)に長野県知事から免許をもらっているのだから,漁協の漁業権の範囲内で漁業を行う権利をもっている組合員の権利も同じ日に発生したものだよ。

今の漁業法の改正経過と昔の漁業法での漁業権者等に対する補償経緯からすと,今の漁業法が施行されて2年後(1951(S26))には,川に関する慣行漁業権も含め(漁業法施行法5条参照)それまでの漁場の権利関係と、慣行漁業権も内容に関係なくみんななくなちゃたんだ。そしてその後は,今の漁業法で設定された権利関係だけが続いていると考えるべきだから,漁協の組合員が主張している明治時代以前からの慣行漁業権を持っているといっているのはおかしいのよ。

それに,漁業権は,都道府県知事の免許によって設定(漁業法10条)されるんだし,漁業権の存続期間は法律できめられていて,その存続期間の更新はできないんだ(漁業法21条)。だから、漁業権は,法律できめられた存続期間が過ぎれば無くなるわけ(最高裁平成元年7月13日判決)。つまり、1949年(S24)から漁協の組合員の漁業権は続いてないのよ、みんなが言うことは的はずれだよ。

と、きめてしまいました。

つまり、

今の漁業法で漁協が持っている漁業権は、

1.昔からの慣行漁業権でなく

2.川での独占的な権利でもなく

3.法律できめられた存続期間の範囲で

4.知事がきめた規則や認めた漁協の漁業規則や遊漁規則の範囲で
認められるらしい。

じゃあ、 最高裁平成元年7月13日判決って何なのよ。

実は、判例 H01.07.13 第一小法廷・判決 昭和60(オ)781 総会決議無効確認(第43巻7号866頁)
判示事項:共同漁業権放棄の対価としての補償金の配分手続
要旨:共同漁業権放棄の対価として漁業協同組合が取得する補償金の配分は、当該漁業協同組合の総会の特別決議によつて行うべきである。
参照・法条:漁業法6条1項,漁業法8条,水産業協同組合法48条1項9号,水産業協同組合法50条4号
内容:
件名  総会決議無効確認 (最高裁判所 昭和60(オ)781 第一小法廷・判決 破棄差戻)
原審  S60.03.20 福岡高等裁判所

なーんだ、福岡で起きたことなんだ。

最高裁平成元年7月13日判決

大分の、漁協の組合員が「大分県の別大国道」の拡幅に伴い、漁協が決めた漁業権を放棄した補償金の分配方法が、おかしかです、と訴えた。

そのとおりおかしいよ、漁協はちゃんと分配しなきゃいけないじゃん。と、福岡高等裁判所で言い渡され、漁協が負けちゃった。

でも、漁協はちゃんと分配したとに 「おかしいよ」と言うのは、おかしかです、と最高裁判所に訴えました。

すると、最高裁判所は

主文  原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

と、漁協が正しいと決めてしまいました。

理由  上告代理人の上告理由第一点について

1.福岡高等裁判所が確定した事実関係は、次のとおり。

1)上告人は、1949年12月10日(S24)設立された漁業協同組合で、被上告人は、1967年4月1日(S42)以降上告人の正組合員さ。

中略

3.でもね、福岡高等裁判所の判断は簡単には正しいとは認められないね。

なぜって、

(1)今の漁業法での共同漁業権は、昔の漁業法(明治43年法律第58号)での専用漁業権と特別漁業権をつぶして、今までの定置漁業権の一部と、第1種または第5種の共同漁業権に組み替えたものじゃん。 沿革的には、入会的権利と解されていた地先専用漁業権や慣行専用漁業権にその源があるのは間違いないと思うよ。

(2)でもね、今の漁業法の漁業権は都道府県知事の免許で設定されるものだし(10条)、しかも、昔の漁業法が早い者勝ちで免許していたのを、「都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきき水面の総合的利用、漁業生産力の維持発展を図る見地から予め漁場計画を定めて公示し(11条)、」免許を希望する申請人のうちから、適格性があって、各漁業権にきめられた優先順位で免許を与えるんだし(13条ないし19条)、漁業権の存続期間は法律で決まっているから、更新は認められていない(21条)のさ。

(3)それに、昭和37年法律第156号による改正後の規定は、関係地区内の漁業者等の利益保護の見地から組合意思の決定に制約を加えているし、漁業権行使規則は、都道府県知事の認可を受けなければ有効じゃないのよ(8条4項)。

(4)省略

(5)省略、 しかも、共同漁業権の主体の漁業協同組合は、法人だし、加入や脱退の自由が保障され、組合員の三分の二以上の同意があるときには組合が漁業をすることもできるし、総会の特別決議があるときには、漁業権の放棄もできるんだ。だから、こんな制度の共同漁業権というのは、うーんと昔からの入会漁業権とは全くちがって、法人の漁業協同組合が管理権を持っていて、組合員を構成員とする入会集団が収益権能を持っている関係なんかじゃ絶対なくって、共同漁業権を法人の漁業協同組合が持つのは、法人が物を持つのと全く同じで、組合員が漁業をする権利は、漁業協同組合という団体の構成員としての地位に基づき、組合の制定する漁業権行使規則に従つて行うことができる権利だと考えるのが普通じゃん。

(6)だから、共同漁業権は今までの入会漁業権の性質を失っていないんだ、という考え方で、総会決議が無効だと決めた福岡高等裁判所の判断は、法令の解釈適用を誤つた違法があるというしかないし、この違法が判決に影響を及ぼすのは当然じゃん。

4.福岡高等裁判所の判決中の漁協敗訴部分を破棄

して、もう一度きちんと判断しなって、福岡高等裁判所に差し戻すことにしたんだ。

以上の理由で、民訴法407条1項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決しちゃうのさ。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 佐藤哲郎

裁判官 角田禮次郎

裁判官 大内恒夫

裁判官 四ツ谷巖

裁判官 大堀誠一

それぞれの判例

それぞれ、全文のPDFファイルがダウンロードできます。

あなたは、どのように解釈しますか

たとえば、鹿川にある禁漁区の看板

漁協が県知事から受けた免許や、遊漁規則に書いてある禁漁区とちがっていませんか

たとえば、無くなってしまった、椎葉村役場HP 渓流釣りのページにかかれていた一ツ瀬川水系の遊漁期間

内共第12号の遊漁規則では「やまめを採捕できる期間は、3月第1土曜日から9月30日までの間で組合が公表する期間内とする。」となっています

当方一切の責任は負えません。詳しくは各県の担当にご確認の上、釣りを楽しんでください。詳細は九州各県のやまめ(えのは、あまご)禁止期間に記載しています。