親鸞聖人 ご消息(手紙)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝 謹写


三十

 尋ね仰せられて候ふ摂取不捨のことは、『般舟三昧行道往生讃』と申すに仰せられて候ふをみまゐらせて候へば、「釈迦如来・弥陀仏、われらが慈悲の父母にて、さまざまの方便にて、われらが無上信心をばひらきおこさせたまふ」(意)と候へば、まことの信心の定まることは、釈迦・弥陀の御はからひとみえて候ふ。

往生の心疑なくなり候ふは、摂取せられまゐらするゆゑとみえて候ふ。摂取のうへには、ともかくも行者のはからひあるべからず候ふ。浄土へ往生するまでは不退の位にておはしまし候へば、正定聚の位となづけておはしますことにて候ふなり。

まことの信心をば、釈迦如来・弥陀如来二尊の御はからひにて発起せしめたまひ候ふとみえて候へば、信心の定まると申すは摂取にあづかるときにて候ふなり。そののちは正定聚の位にて、まことに浄土へ生るるまでは候ふべしとみえ候ふなり。ともかくも行者のはからひをちりばかりもあるべからず候へばこそ、他力と申すことにて候へ。あなかしこ、あなかしこ。
  十月六日       親鸞
 しのぶの御房の御返事

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