親鸞聖人 ご消息(手紙)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝 謹写


二十四

 仏智不思議と信ずべき事
 御文くはしくうけたまはり候ひぬ。さては御法門の御不審に、一念発起のとき、無碍の心光に摂護せられまゐらせ候ふゆゑに、つねに浄土の業因決定すと仰せられ候ふ。これめでたく候ふ。かくめでたくは仰せ候へども、これみなわたくしの御はからひになりぬとおぼえ候ふ。ただ不思議と信ぜさせたまひ候ひぬるうへは、わづらはしきはからひあるべからず候ふ。

 またある人の候ふなること、出世のこころおほく浄土の業因すくなしと候ふなるは、こころえがたく候ふ。出世と候ふも、浄土の業因と候ふも、みなひとつにて候ふなり。すべてこれ、なまじひなる御はからひと存じ候ふ。仏智不思議と信ぜさせたまひ候ひなば、別にわづらはしく、とかくの御はからひあるべからず候ふ。

ただひとびとのとかく申し候はんことをば、御不審あるべからず候ふ。ただ如来の誓願にまかせまゐらせたまふべく候ふ。とかくの御はからひあるべからず候ふなり。あなかしこ、あなかしこ。
  五月五日     親鸞[御判]
 浄信御房へ
 袖書にいはく
 他力と申し候ふは、とかくのはからひなきを申し候ふなり。

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