四国旅行記(その1 愛媛編)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

2003年11月26日(水)

 神戸淡路鳴門道を使って徳島入りする。以前、高松道は通っているので、今回は、徳島道を通って愛媛を目指す予定である。鳴門で、一旦、高速道路を降りなければならぬ。9時半頃ということで、徳島道入口までは、渋滞に近い状態である。

 休憩を兼ねて、沿線のマクドナルドで遅い朝食。朝、コーヒー1杯しか飲んでいないので、さすがに腹が空いてきた。私は、パンケーキとソーセージ、ムカデ妻とポン子が何を食べたかは覚えていない。
 パンケーキ(ホットケーキ)は、私の大好物である。子供の頃、喫茶店で、生まれて初めてホットケーキを食べさせてもらった。こんなに美味しい食べ物があるのだと、子供心に感動したのを、まだ、覚えている。特に、本物のバターとメープルシロップに感動した。その頃、我が家では、バターなどは高嶺の花、マーガリンが普通だった。それも、今と違って、魚油のマーガリン。お世辞にも美味しいとは言えなかった。
 その後、我が家でも、ホットケーキミックスを買うようになって、ホットケーキが食べられるようにはなったが、相変わらず、バターではなくマーガリンのまま。しかも、ホットケーキミックスについてくるメープルシロップは粉を溶いて作る偽物だった。
 現在、我が家では、決してマーガリンを使わぬ。植物性になり、味も格段に良くなったが、それでもマーガリンは使わぬ。一時期、健康のためにマーガリンに切り替えたことがあったが、ある日、祖母は、千円札を渡して、バターを買ってきて欲しいと、私に頼んだ。祖母にとっても、マーガリンは貧しさの象徴だったに違いない。それ以来、祖母が死んだ後も、我が家では、マーガリンは使わぬのである。マーガリンを食べてまで長生きしたいほど、性根は腐っておらぬ。

 それにしても、最近は、マクドナルドへ行かなくなった。マクドナルドの売り上げは、長期低落傾向にあるというが、私の場合、マクドナルドの客層が嫌いで、足が遠のいている。客席の間を走り回る子供とそれを注意しない母親、金銀茶髪頭の高校生の群れなど、明らかに、他のファーストフード店に比べて、客のレベルが下がっている。徳島郊外の店でも、アホそうな小娘二人が、人目も憚らず、大声で喋りながら化粧をしていた。これを何とかしないと、マクドナルドの復活は無いだろう。 

 食後、徳島自動車道に上がる。この道路は、片側1車線、インターチェンジ付近と急勾配の上り坂のみ追い越し車線のある高速道路である。地方で利用者の少ない高速道路は、こういう仕様で充分だと思う。当然のことながら、前に遅い車がいると、低速走行を余儀なくされる。淡路島を時速「ぬうわ」kmで走り抜けてきたのに比べると、笑い出したくなるような速度である。なお、「ぬうわ」というのは隠語で、キーボード上のカナキーで、該当するキーを押すと数字が表示される。大っぴらに書くのが憚られる場合は、このように表示する。
 今年は、四国の紅葉も、あまり美しくない。徳島道は、吉野川に沿って東西に延びているので、道の左右は山又山だが、天候の悪さも災いして、感動できる風景ではない。

愛媛県立砥部(とべ)動物園

 松山で高速道路を降りて、最初に立ち寄ったのが、愛媛県立砥部動物園である。松山市の南隣の砥部町にある。なぜ、四国まできて動物園かなどと、真っ当な疑問を抱いてはならない。私が立ち寄りたいと思った。ただ、それだけの理由である。
 大体、観光名所などというのは、パック旅行や団体旅行で網羅されているから、歳をとってからでも行けるところばかり。わざわざ、自分の車で走るなら、そういうところは避けるのが賢明な旅行だろう。更に言えば、観光名所の二つに一つはつまらないところである。行って愚痴をこぼす位なら、行かぬ方がマシというもの。

 この動物園の特徴は、敷地面積の広さにある。敷地面積が広いということが、どういう意味を持つかは、行ってみて、初めて判る。動物たちの毛並みが良いのである。敷地面積の広さが、動物たちの精神に良い影響を与えているのだろう。都会の矮小な動物園だけが、動物の飼育を手抜きしているはずがない。

 最近、動物園について、野生動物を見せ物にするのは良くないなどと、否定的な意見を吐く馬鹿がいるが、私は、私企業が利益追求のみを目的にしないならば、動物を見せることを悪いと思っていない。私自身、アフリカで野生動物を見て育ったからゾウが好きなのではない。動物園でゾウを見て、ゾウが好きになり、野生動物の保護についても、共感するようになったのである。動物園に、野生動物保護基金の募金箱があれば、僅かながらも、金を入れ続けている。

 頭でっかちの左翼崩れのプロ市民の屁理屈など、糞の役にも立たぬ。むしろ、動物園を通じて、人間以外の生き物について考える方が、建設的である。動物園も、つまらぬ言辞に惑わされることなく、より良い姿で動物を見せるように腐心してもらいたい。

 この動物園では、動物の餌の自動販売機が、比較的多く、設置されている。これも、良いアイデアである。但し、売り切れの販売機には、速やかに餌を補給しておくように望みたい。
 面白かったのは、猿山である。ここの猿山では、猪と猿を、一緒に飼育している。猿の方は、餌を求めて動き回り、猪の方は、昼寝をしていた。この猪の昼寝をしている辺りに、餌を投げ入れる。すると、猿が猪の昼寝を邪魔して餌を拾いに来る。猪が怒ると、猿が逃げる。もちろん、猪も、猿と同じ餌を食べるので、猪に気づかれれば、猿の負けである。両者の間に、小さな葛藤が起こる。これが見たさに、結局、500円も、餌を買ってしまった。
 動物園反対論者が読めば、頭から湯気を噴くほど怒るだろうと思うので、あえて書いておく次第。

 動物園内の食堂で昼食を済ませる。この食堂は伊予鉄道が経営しているが、赤字だと、職員が話していた。官民癒着と言えば、悪事ばかりが取り沙汰されるが、実は、例外的に、官業の要望に応えて、民間企業が、赤字覚悟で事業を行う場合もある。伊予鉄道には、今後とも頑張ってもらいたいものだ。

 動物園を出て、今夜の宿を予約する。出発当初、松山泊か宇和島泊か迷ったが、夜までに宇和島までたどり着けそうなので、ホテルガイドから、宇和島第一ホテルを予約した。

 動物の大きな写真は、法伝写真館に、別途掲載してある。

道後温泉本館

 愛媛の温泉と言えば、道後温泉。否、四国の温泉と言えば、道後温泉であろう。そして、道後温泉を紹介するときに、必ず使用される写真が、道後温泉本館である。そういうわけで、さすがに、ここに道後温泉本館の写真を掲載する度胸はない。伊予鉄道の坊ちゃん列車のロゴを拝借して貼り付けておく。

 以前、尾道の親戚を訪ねた後で四国に渡った折りも、道後温泉を訪ねている。その時は、本館がいっぱいだったので、同じく立ち寄り湯である椿湯に入湯した。本館を訪ねるのは、これが初めてということになる。別に、私自身は、それほど本館にこだわりはなかったが、ムカデ妻のたっての希望で、入湯することにしたまでのこと。

 さて、入ってみての感想だが、あまり芳しくない。入浴マナーが悪いのである。どういう素性の者か観察していると、旅行者ではなく地元民である。入湯料300円であるから、銭湯と言えば銭湯、地元民が利用するのは当然だが、それにしてもマナーが悪い。一般の銭湯なら、それでも構わないが、観光地の目玉ともなれば、これはいただけない。
 平気で顔を洗う者、陰部を放り出したままで仰向けに寝る者など、かなりの年配者でも行儀が悪い。最早、この国の年寄は堕落してしまった。

 私が寺を継いだばかりの頃は、明治生まれの年寄が、大勢いた。彼らは頑固だったが、精神の背骨を持っている者が多かった。大学を卒業して、右も左も判らなかった私は、彼らから、多くのことを学んだ。彼らが存命中に成人し、学ぶ機会を得たことを、私は今でも感謝している。

 入浴の行儀が悪いのは、男湯ばかりではなかったようだ。ムカデ妻によれば、女湯でも、浴槽の縁で、石鹸の飛沫を浴槽に入れながら身体を洗う者や、湯口に向かって大口を開けて口に湯を流し込む者など、相当な醜態だったらしい。結局、自分で希望しながら、ムカデ妻は、失望して湯から上がった。

 とは言え、、別に、この浴場そのものが悪いわけではない。男湯は、東西、二つの浴室があり、昔は知らず、現在は、湯を循環させている。特に、特徴のある湯ではないが、木造の建物には風情があるし、2階の休憩室を借りて、浴衣に着替えて、温泉情緒を楽しむのなら、それなりに楽しめるだろう。

 ポン子だけは、入湯せず、カメラを持って、近くの神社などを歩き回っていたようである。写真は、その時に撮影した松山神社。1時間後に、本館の出口で落ち合って、ポン子は牛乳、私は、フルーツ牛乳を飲んだ。ムカデ妻は相変わらず遅刻。よって、牛乳は無し。こいつは、約束の時刻に間に合った試しがない。時計だけは、無駄に数多く持っているくせに、愚かな話である。

 

宇和島

 夕方、4時。松山を後にして、宇和島に向かう。松山から大洲(おおず)までは高速道路、大洲から先は、一般道である。途中で眠たくなったので、ムカデ妻に運転を任せ、後席で仮眠をとった。
 普段、小さな車に乗っているムカデ妻は、アコードサイズの車でも車輌感覚が掴み難いと言う。更に、180馬力のアコードは、少し踏み込むだけで加速するので、扱いが難しいとも言う。しかし、毎日、悍馬並のムカデ妻と暮らしている私の苦労に比べれば、他愛のないものである。私の苦労話を始めれば、1GBでも足りないので止めておくが、涙無くしては語れない。

 宇和島第一ホテルは、客室数118と、規模こそ大きいが、内実はビジネスホテルである。三名一室、税サービス料込で、一名あたり5000円は魅力である。壁が薄い、ドアがチャチ、浴室のシャワーカーテンに黴のシミがあるなど、欠点をあげればキリがないが、値段を考えれば、文句を言う方が悪いのだろう。清掃、清潔には、充分、注意が払われていたし、従業員の応対も、充分な水準を確保していた。

 夕食は、かどや駅前本店を選んだ。実は、宇和島第一ホテル内にも、啄木鳥(きつつき)という和食の店があり、定食形式ならば、宇和島の郷土料理なども食べさせてくれる。しかし、あれこれ食べてみたかったので、かどやを選んだ。店には、その日の宴会客の名前が掲示されていて、地元市町村会議長の懇親会の名前もあった。観光客だけを相手にしている店ではないらしい。
 宇和島の郷土料理といえば、「さつま(汁)」が第一だろう。じゃこ天、鯛飯も良い。宇和島港は、松山より観光客が少なく、街の規模も小さく、漁港でもあるので、新鮮な海の幸を、都会に比べて、随分安価に食べられる。親子三人、たらふく食べて、1万円でお釣りが来るのは嬉しいことであった。

 かどやからの帰り、宇和島第一ホテル脇のサークルKで、ゴジラの食玩を見つけたので、お茶と一緒に購入した。これが私の宇和島土産である。

 明日は、四万十川流域をドライブして、温泉に入って、高知を目指すか、それとも、海沿いに走って、足摺(あしずり)岬を回るか。この時点でも、まだ、決めていない。明朝の天気が雨ならば四万十川(しまんとがわ)、晴れならば海沿いということになるだろう。ただ、出発前に、宇和島で、ちょっと行きたいところがあるので、早起きをしなければならない。これは辛いと思ったが、ある事情で、すんなり、早起きをしてしまうことになる。そうとは知らず、ホテルに備え付けの目覚ましを合わせて、寝床についた。