定期借地権付住宅

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 都市部の慢性的な住宅不足から、我が国の借地借家法は、一貫して借り主の味方だった。一度借りれば、借りた者の権利が手厚く保護されてきた。言い換えれば、貸し主には不利な状況が続いてきたのである。例えば、期限20年で土地を貸すと、よほどの理由がなければ、20年後に契約が終了しても、貸し主は、貸した土地を返してもらえぬ。
 しかし、何に限らず、無理な保護政策は、やがて破綻する。借り主の保護を嫌って、土地を貸す人が増えず、土地の供給は頭打ちになってしまった。これでは、かえって地価高騰に拍車をかける。そこで、借地借家法が改正されて、定期借地権という、期限を明記した賃借権が認められるようになった。これで、一度貸したら、借り主が返すと言わぬ限り、土地が返ってこぬ状態はなくなる。土地所有者は、安心して、土地を貸すことができるようになった。

 そこへ、折からの、バブル到来である。地価は高騰し、土地付き一戸建て住宅の価格も高騰した。こうなると、金を借りて、高い土地を買い、元利を返済していくよりは、30年間、借地料を払って、土地を借りた方が出費は少なくて済む。かくして、定期借地権付住宅は、一世を風靡する。何のことはない。政府の土地政策の無策が、定期借地権付住宅を生み出したようなものである。

 数年後、バブルは崩壊し、以後、地価はずるずると下落をつづけた。そして、最近になって、再び、定期借地権付住宅が、随所で販売され始めた。
 ただ、今回の定期借地権付き住宅の登場には、裏がある。バブル全盛の頃、不動産会社は、例えば、1坪100万円で、住宅地を分譲した。しかし、バブルの崩壊後、地価は下落、景気も低迷、1坪100万円では、買い手がない。さりとて、1坪50万円で売れば、1坪100万円で買った先住者が黙ってはいない。そこで、不動産会社は考えた。まず、安く売りたい土地に定期借地権を設定し、定期借地権付き住宅として、販売する。次に、ほとぼりが冷めた頃に、個別に交渉して、定期借地権の付いた土地を、格安で販売する。こうすれば、先住者には知られることなく、土地を安く販売できる。つまり、現在、広く行われている定期借地権付き住宅は、秘密裏に、土地を安く販売するための便法なのである。

 私に言わせれば、心情は察するが、安く売ろうとする業者に、高く買った者が文句を言うのは筋違いである。あらゆる商売は、安いときに買い、高いときに売るを常道とする。何時を高いと考え、何時を安いと考えるか。何時買い、何時売るかは、当事者の判断による。そして、その判断については、自分で責任を負うのが、個人主義の原則である。
 バブルの最中に高い買い物をしたといえども、誰かに強制されたわけではあるまい。自分の判断で買ったはずである。自らの不明を恥じても、旗を立て、公団や住宅供給公社、不動産屋に文句を言うてはならぬ。それは、浅ましき所行である。安く売るのを反対できるのは、自分が安く買ったときに、それでは申し訳ないからと、追い銭をする人間だけである。閉店間際のスーパーで、惣菜や生鮮食品の投げ売りを喜んで買う人間に、反対する資格など無い。

 先般、裁判所は、不動産業者が、マンションを以前の価格以下で売ることを認める判決を出した。当然といえば当然である。仮に、反対したところで、いずれ便法、抜け道を考え出すのは目に見えている。それならば、詰まらぬ反対などで、手続きが面倒になる愚は避けた方がよいだろう。定期借地権付き住宅は、その好例である。

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