アフターサービスについて
最低山極悪寺 珍宝院釈法伝
九州在住の一会社員が、東芝のアフターサービスに業を煮やして、ホームページを立ち上げた。そこには、会社員と東芝の社員のやりとりを録音したデータが置かれていた。事ここに至るまでには、それなりの経緯があったに違いない。外野に事の次第の分かろうはずもなく、よって、いずれに非があるかは問わぬ。しかし、録音された会話を聞けば、東芝に勝ち目はない。応対した東芝の社員の物言いは、それほどに不作法であった。謝罪以外に道なし。私には、そう思われた。
しかし、ダイナブックを始めとして、数多の情報通信機器を製造販売しながら、愚かにも、東芝は、このページの取り扱いを誤った。巨大企業東芝は、当該ページ削除の仮処分申請など、定石にしたがって、この問題を処理せんとした。案の定、インターネットに、轟々たる東芝非難が溢れた。
結局、東芝は、仮処分を取り下げ、副社長自ら、会社員に謝罪することになった。インターネットは、確実に既存の情報流通経路を変えつつある。実際、アメリカでは、クリントン大統領の不倫もみ消し疑惑の調査報告書を、直接、インターネットに掲載することで、スター独立検察官は、民主党びいきのアメリカマスコミに一矢を報いた。酒鬼薔薇事件では、インターネットが、事の是非はともかく、マスコミの情報独占に傷をつけ、犯人の少年のプライバシーを暴いて見せた。今回の全日空ハイジャック殺人事件の犯人の実名も、「マスコミの人権擁護」をせせら笑うかの如く、既に、インターネット上にある。おそらくは、この一件に勢いを得て、今後、インターネットのそこここに、メーカーの不誠実を訴えるページが登場するだろう。別にそれを難ずるつもりはないが、メーカーの非を問うページがあるならば、優れたアフターサービスを行うメーカーを紹介することも、悪くはあるまい。
先日、当寺のＴＯＴＯのウォシュレットから、水漏れが始まった。このウォシュレット、購入当時から調子が悪く、既に、２度に渡る出張修理を受けている。ＴＯＴＯの名誉のために言うが、ＴＯＴＯの責めに帰すべき初期不良は、１回目だけである。２回目の故障は、当寺の配管工事を請け負った業者の責任である。上水道の配管内に小石を残して、これが細管を詰まらせた。
電話連絡を受けて、最寄りの営業所からやってきたのは、１回目、２回目と同じ人物だった。彼は、作業後に交換部品を示しながら、細管の詰まりが水漏れの原因であったことを説明した。細管の詰まりは、ムカデ妻が強力洗剤で洗浄して発生した錆である。もちろん、ムカデ妻の辞書に反省の２文字はない。無理に求めれば、夜叉のごとき形相で、食ってかかるのがオチである。「以後、気をつけるように」とだけ言って、私は、仕事部屋へ戻ろうとした。しかし、ムカデ妻は、あろうことか、件のサービスマン氏に、他の蛇口等の不具合も調べて欲しいと言い出した。おそらく、愚妻の依頼は、彼の昼食時間を削ることになっただろう。それにも関わらず、彼は、何カ所かの不具合を検査して、水道の配管業者に何をさせるべきかを、丁寧に指摘してくれた。そして、短時間の作業は自分でこなした。更に、いざ、支払いの段になると、彼は、修理代は無用と言い出した。確かに、寺と保育園を擁する我が家は、一般家庭に比べれば、大口の顧客ではあろう。しかし、逆に言えば、法人の支払いゆえに、心おきなく受け取れるはずである。請求してもらわねば困ると告げたが、「一度、ケチのついている商品ですから」、と、受け取りを拒んだ。そして、作業終了の確認印だけを求めると、一礼して、次の仕事に向かっていった。
私は、彼の誠実な仕事ぶりを、衷心、誰かに伝えたいと思った。しかし、あれから１週間を経過するも、ＴＯＴＯは、件のサービスマンの修理について問い合わせて来ぬ。つまり、彼の半日仕事は、終了確認印なる形式と、顧客からの苦情なしという消極的評価を受けるのみである。ＴＯＴＯは水回りの製品を作る会社ゆえ、製品の半分は下水に絡む。よって、アフターサービスの半分も、汚れ仕事になる。それを黙々とこなす者を、積極的に評価する手法を、ＴＯＴＯは持ち合わせぬらしい。
日本経済が、低成長時代に突入した以上、会社の賃金体系が能力主義に移行することは、やむを得ぬ面もある。しかし、もし、能力主義を言うならば、能力を正当に評価査定するシステムも用意するべきである。加えて、顧客満足度は、アフターサービスにまで視野を広げるべきである。もし、これを読む者の中に、ＴＯＴＯの関係者がいたら、伝えられたい。あのサービスマンが来てくれる限り、私は、迷わずＴＯＴＯの製品を買い続けるだろうと。そして、あのサービスマンの仕事ぶりを、正当に評価できる人事考課プログラムを早急に策定せよと。誠意は、今以て、企業を支える徳目であると。
ＴＯＴＯのホームページにも、我が思いを伝える場所がなかったので、ここに書き置く。
