割引債券について

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 自民党の幹事長だった故金丸信は、20億円相当の割引債券を貯め込んでいた。割引債券というのは、今、破綻寸前の日本長期信用銀行や日債銀などが発行する無記名債券である。無記名債券だから、債券証書(証券)に名前を書く必要がない。つまり、自分の名前を明らかにしないで、財産を運用できるのである。もちろん、金融商品だから、利息は付く。利息につく税金は、分離課税の十九パーセント。これさえ払えば、他に税金を払う必要はない。実際には、額面百万円の債券を、利息と税金を割り引いた金額で購入する。割引と名付けられる所以である。具体的には、ワリチョー(長銀)、ワリコー(興銀)、ワリサイ(日債銀)などが、無記名で所有できる金融商品である。

 有り体に言えば、これらは皆、隠し財産の運用に好都合の商品である。このような商品が認められるのは、おおよそ、次のような理由による。

 本来、所得のすべてに税金がかけられるはずだが、実際には、そうはいかない。必ず取りはぐれる。税務署員を増やせば、捕捉率は上がるだろうが、今以上にミツギトリが増えるのは、不愉快である。今でさえ、税務署員は、退職すると税理士になれる。しかも、国税局の上級ポストの連中は、退職するときに、いくつかの顧問企業を斡旋されて、税理士を開業している。斡旋とは名ばかりで、税務署の権限を臭わせながら、半強制的に顧問になるのである。これ以上、ミツギトリ上がりの税理士が増えるなど、おぞましいだけである。

 こうして、捕捉されなかった所得は、地下に潜る。世に言うアンダーグラウンドマネー(通称アングラマネー=隠し財産)である。ミツギトリ(税務署員とも言う)を増やせない以上、ある程度のアングラマネーができるのは致し方ない。
 このアングラマネーは、当然のことながら、国家から見えないお金である。ところが、国家が経済政策を立てる場合には、国の実体経済を把握していなければならない。アングラマネーの把握も必要である。そこで考えられたのが、先の割引債券である。

 人間は欲深いから、隠し財産のままで利息が付くなら、タンス預金をせずに、無記名債券を買う。山梨のドン、金丸信も隠し財産で割引債券を買った。こうすれば、アングラマネーは、表に出てくる。つまり、実体経済把握のために、割引債券は、必要な金融商品なのである。
 確かに、隠し財産に利息まで付けてやるというのは、不愉快なことではある。しかし、実体経済を把握するためには、必要なのである。世の中には、必要悪というものが存在すると知るべきである。

 経済政策を誤れば、国家といえども破綻する。具体例が知りたければ、ロシアを挙げる。ロシアの経済当局者だけが、他国に比べて無能なわけではない。彼らとて、もう少し自国の実体経済を把握できていたら、あれほどまでの失敗はしなかっただろう。
 ロシアには、ルーブルによる表経済と、外国貨幣(主としてドル)による裏経済が存在する。ルーブルの価値を疑う者が多いから、金持ちほどドルで蓄財する。当然のことながら、ドルのままで蓄財された財産は、殆ど国家からは見えないアングラマネーである。しかも、ロシアには、アングラマネー(隠し財産)を表に引き出す制度も存在しない。かくして、ロシアの経済当局者は、自国の裏経済についての情報を持たぬまま、経済政策を立てて失敗したのである。

 割引債券を難ずるなかれ。今も昔も、この娑婆は、親鸞の言うとおり、悪世界である。

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