泥 棒

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

 数カ月前に、泥棒に入られた。午前3時から午前7時までの、わずか4時間ほどの間の犯行だった。かなり手慣れた者のようで、硬貨には手を着けず、紙幣だけを持ち去った。
 他の人の警鐘になればと思い、あちらこちらで、恥を忍んでこの話をした。しかし、残念ながら、それからしばらくの間に、当寺以外にも数件の被害が出た。
 先日、この泥棒話が、口伝てに伝えられて、当寺へ還ってきた。話は大きく変えられて、「札だけを取られた」のに、「札束を取られた」ことになっていた。自慢じゃないが、札束を貯め込むほどのお布施はいただいていない。
 悲しいかな、人間の情報を伝達する能力などは、この程度のものである。そして、更に悲しいのは、そのことに気づいている人が、極めて少ないことである。