北海道旅行記(その2)

最低山極悪寺 珍宝院釈法伝

2001年09月26日

八月二十八日(水)

 パック旅行の朝は早い。伊丹空港発八時二十分のJAS661便に乗らなければならぬ。キャンセル待ちでの参加故、七時二十分までに伊丹空港のJTBカウンターへ行って、予約票を航空券と引き替えねば、キャンセル扱いにされる。
 朝六時に起床、簡単な朝食を摂って、すぐに出発。ムカデ妻の車で大阪府池田市の知り合いの駐車場まで行き、そこに車を置いて、タクシーで空港へ乗り付ける。これなら、駐車料金はタダ、お土産だけで済む。

 死ぬほど嫌いなジェット機で、新千歳空港へ飛び立つ。しかも、最近は、国内線全線全席禁煙である。まあ、それが時代の流れなら仕方ない。極力、飛行機になど乗らねば良いだけの話である。別に、飛行機に乗らずとも、死にはせぬ。
 幸い、飛行機はほとんど揺れることもなく、十時十分に、新千歳空港に到着した。機内でゆっくり寝たので、それほど禁煙は苦にならなかった。

 前に書いたが、今回、道内の旅行は、定期観光バスを利用する。この観光バスは、札幌市内で客を拾った後、新千歳空港へ立ち寄って、我々を乗せる。このバスの発車が十二時半なので、約2時間ほどは自由である。当然、早めの昼食と空港ビル探検をする。
 生まれて初めての北海道旅行故、新千歳空港も初めてである。まずは、その規模の大きさに、正直、驚いた。特に、土産物売り場の充実は、東京、大阪の空港に匹敵する。

 これだけの土産物店を巡っておけば、北海道土産のすべてを掌握できるはずである。生鮮食品では、鮭、雲丹(うに)、鰊(にしん)、蟹などの北の魚介類とその加工品。この季節は、秋鮭と毛蟹が主である。
 菓子では、六花亭石屋製菓が、相変わらず強いようだ。なお、「白い恋人」というのは石屋製菓のクッキー、「白い恋人達」というのは、製菓会社は不明だが、ホワイトチョコである。この辺り、少々、ややこしい。
 昔は、北海道の木彫りといえば熊が主流だったが、最近では、梟(ふくろう)が人気のようである。その他、北きつね、クリオネなどがキャラクターとして人気がありそうだ。
 笑うのは、クリエイティブコンパス(North Island)社の「熊出没注意」という文字と熊をあしらった一連の商品である。以前、北海道を旅行した知人から、車載用のステッカーを貰ったが、それ以外にも、暖簾(のれん)、軍手(ぐんて)、Tシャツ、灰皿など、様々な商品を取りそろえている。これを捩(もじ)って、「羆(ひぐま)出没注意」というアーモンドクリーム入りクッキーも売られている。

 土産物店を冷やかした後は、空港ビル1階の「孝四郎ラーメン」で、早い昼食を摂る。孝四郎というのは、日本調理師会会長を務めたこともある職人渡邊孝四郎の味を伝えているという意味らしい。まだ、店内は、それほど混雑していない。
 最近、関西のラーメンは、塩辛くこってりしたものが多いが、このラーメンは、塩分もそれほど強くない。麺は鹹水(かんすい)が多いようで、シコシコ感が強い。少なくとも、私とムカデ妻は、この味を悪くないと評価する。

 集合時刻の十二時二十分が近づいたので、空港ビル内の指定された集合場所へ行く。今回の旅行はムカデ妻が仕切る約束なので、ムカデ妻の後をついて歩いていったところ、どうも、様子が違う。原始人特有の動物的勘である。旅程表を確認すると、案の定、間違っている。おかげで、重い荷物を引っ提げて、広い空港ビル内を、しっかり歩かせてもらった。以後、ムカデ妻の言動は、信用せぬことにする。大体、ムカデ妻の言うことを信じると、ろくな事がないのだ。

 集合場所で待つこと、5分。ニセコバスの定期観光バスのガイドが、「ザ北海道号(札幌、千歳、層雲峡号)」の紙を掲げて登場した。なかなか、恰幅の良いガイドである。名前も記憶しているが、さすがに、恰幅云々と書いた後では、公表できぬ。S嬢としておこう。
 S嬢にバス乗車票を渡して車内に乗り込む。このバス会社、面白い会社で、自社所有のバスを、インターネット上に掲載している。同じ会社のバスが多いので、ナンバープレートを覚え置いたが、それによれば、私の乗ったバスは、これである。
 こういう企画は、是非とも存続させてもらいたい。できれば、廃車したら、その年月日も記録しておいて欲しい。バス会社にとって、バスは大切な物的資源である。その歴史を、留めておいて欲しいのである。

 バスが発車すると、この先、必要な注意事項について、S嬢から説明があった。私自身が、他人様の前で話をする仕事故、話術については、多少、敏感であるが、S嬢のガイドぶりは、充分に及第点。これは、ありがたい。下手なガイドに当たると、旅全体がつまらなくなることは、修学旅行で経験済みである。

 バスは、新千歳空港を出発し、千歳東インターから高速道路に上がった。最初の目的地は、三笠市の人造湖である桂沢湖である。国設野営(キャンプ)場、ワカサギ釣りで有名らしいが、この日は小雨。もちろん、観光シーズンも終わりに近いので、キャンプをする人もなかった。
 湖畔には、高さ数メートルの恐竜の像がある。この桂沢湖周辺は、多数の化石が出土するので、このようなものを建てたのだろう。ゴジラフリークとしては、このような不出来な像は、撤去を希望したい。

 トイレ休憩の桂沢湖を後にして、次に向かったのは、「フラワーランドかみふらの」である。一口に富良野というが、富良野と名が付く市町村だけでも4つある。上富良野町、中富良野町、南富良野町、富良野市である。更に、美瑛(びえい)町、占冠(しむかっぷ)町の一部を加えて、富良野盆地ということになる。
 富良野盆地は、本州人が持っている盆地というイメージとは異なり、広大である。しかも、高圧鉄塔すらない自然の山並みに囲まれている。この広々とした風景こそ、私が憧れる北海道である。雨が降っていたので、遠くの連山まで拝めなかったのが、返す返すも残念である。
 富良野は、ラベンダーで有名だが、典型的内陸性気候で、夏、そこそこ暑くなるので、稲作も行われている。車窓から、既に黄金色に色づいた水田を見ることができた。
 実は、今回、北海道を旅行するにつき、北海道の知人にその旨を伝えておいた。こちらは、自由の全くないパック旅行、会いに来いなどとは言えぬ。しかし、ありがたいことに、こちらの予定に合わせて、フラワーランドまで、わざわざ訪ねてきてくれた。しかも、土地の名産を携えてである。こういう場合、携帯電話は便利である。フラワーランドでの見学時間は、わずか30分ほど故、ゆっくり話すことも叶わなかったが、楽しい再会の時を過ごせた。感謝、感謝。
 したがって、「フラワーセンターかみふらの」については、入口近くの売店しか知らぬ。既にラベンダーの開花時期も過ぎていたので、惜しくはない。ちなみに、ラベンダー祭りが、7月下旬に催されるようなので、富良野のラベンダーのシーズンは、これ以後、数週間と思われる。

 ところで、この知人の土産のひとつが、ラベンダーの石鹸であった。透明な紫色の美しい石鹸である。早速、使用したが、すこぶる気持ちが良い。ただ、この宝石のような石鹸で、我が巨体を洗う姿を、他人様に見せるのは気が引けるので、こっそりと使うことにする。

 フラワーセンターの次に立ち寄ったのは、「美瑛パッチワークの丘」である。要するに、この丘から見える田園風景が、パッチワークの様に見えるということらしい。パッチワークの丘という命名は、いかがかと思うが、その風景は、フランスの風景画のようで、確かに素晴らしい。
 私が訪ねた時は、駐車場を拡張する工事の最中で、足下が悪かった。これ以上、観光客が増えるというのは、この丘近くで営農する人にとって、迷惑であるに違いない。売店から下に降りる道には、立ち入り禁止の看板が立てられていた。今でも、不心得な観光客が立ち入っている証拠である。これ以上の観光客の増加を憂う所以である。

 富良野を後にして、次に向かったのが、北海道アイスパビリオンである。旭川市内は、かするように過ぎただけである。この施設は、石狩川上流ということで上川と名付けられた町にある。私は入場しなかったが、ムカデ妻は、面白がって、零下40度の体験などして遊んだ。私は、学生時代、冷凍倉庫のアルバイトをしたこともある故、氷点下の世界など珍しいとも思えぬ。土産物屋を冷やかして、のんびり煙草を吹かしていた。観光バス内も禁煙故、休憩タイムが喫煙タイムになる。全く、愛煙家には住み難い時代になったものである。

 六時三十分、ようやく、層雲峡温泉に到着した。悪天候のため、既に周囲は暗く、渓谷美は見えなかった。バスの走行距離は約300キロ。歩いた距離は、既に8千歩である。
 今夜の宿は、層雲閣グランドホテル。老舗のホテルである。私の見るところ、層雲峡プリンスホテル朝暘亭の方が、設備が充実している。今回の旅行では、3軒の旅館に宿泊したが、ここは、第3位である。
 到着後、一息ついて、直ちに夕食。風呂に入る暇(いとま)もない。食堂へ行くと、当初の予定と異なり、バイキング形式ではなく銘々膳である。これは話が違う。ただ、慣例で、旅館の夕食は、バイキング形式よりも銘々膳の方が格上ということになっているので、バイキングにしろとは言えない。膳の内容(大雪渓谷膳プラン参照)が、それほど悪くもなかったので、大人しく食べる。私は、原則的には、温厚な性格である。

 夕食後、温泉でゆっくりする。泉質は単純泉で、特に優れているわけではない。それでも、広々とした湯船に浸かって体を伸ばせば、旅の疲れが抜けていく。
 先ほど、この旅館を3位とした理由は、主に、ここの露天風呂である。料理については、金額に依るので、今回のような旅行では評価をしない。サービスは、一般的に求められる水準を充分に満たしている。
 私は、ここの露天風呂の造りは悪くないと思う。しかし、清掃が行き届いていないので、湯に落ち葉や虫が入っている。また、露天風呂のすぐ傍を、車が、かなりの速度で走り抜けていくので、層雲峡の風情にそぐわない。気の毒ではあるが、この音をどうにかしなければ、この露天風呂の評価は上げられまい。
 加えて、この露天風呂の湯温が高すぎる。一般的に言うと、温泉宿が湯温を高くするのは、客の長湯を防ぐためである。せっかく、ふたつの湯船があるのだから、一方は低温にする配慮が必要である。

 駆け足を覚悟した旅行ではあるが、さすがに疲れた。モバイルで、インターネットに接続し、掲示板だけはチェックしたが、書き込む気力はない。この夜は、テレビも観ずに、早々に寝てしまった。

 

gohome.gif (1403 バイト)