寂然法門百首 67
2022.6.14
一向求菩提
入りがたき門とは聞けど錦木の立つる心はただ一筋に
半紙
金文
【題出典】『華厳経』六
【題意】 一向求菩提
一向に菩提を求めて
【歌の通釈】
あなたの家は(仏道は)入ることが難しい門とは聞いているが、錦木を立てる(発心する)、その心はただ一筋に真直ぐである
【語釈】錦木=陸奥の風習で。男が女に思いを伝える際、女の門前に木を立て。女が受け入れる場合はそれを取り、受け入れない場合はそれをそのままにしておく。受け入れられなかった場合、男はさらに木を千束を限りに立て続け、その思いの強さを伝えるというもの。錦木はその立てる木のこと。
【考】
初めて発心する人がひたすらに菩提を求める姿と、恋を告白する若者が一心に錦木を立てる姿を重ね合わせた。この錦木を用いて恋と仏道を詠む歌がこの後散見される。「にしきぎを千束立つるをかずとして南無阿弥陀仏と日々にとなふる」(粟田口別当入道集・恋阿弥陀仏といふ心を・一七九)、「あぢきなしいざこり立つる錦木を法のためにとなひかへてん」(林葉集・恋催道心・八八六)、「さりともと立てし錦木こりはててけふ大原に墨染の身ぞ」(月詣集・恋中・加茂卅講五巻日、重保が家にて恋変道心といふことを人々よみ侍りけるに・四七七・澄憲)。いずれも影響下にあるものであろう。またここに見られる「恋阿弥陀仏」「恋催道心」「恋変道心」などという歌題の流行も、この『法門百首』恋部を受けてのものと考えられる。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)