デュアルパーパスの概念が変化している

『デュアルパーパスモデル』というと、かつてはオフロードモデルをベースに、オンロードユースでもさほど支障を感じないようにアレンジされたマシンの呼称だった。それは、タイヤをややオンロード向けにして、エンジンのフィールをマイルドにするといった程度のモディファイで、オフロードマシンの色合いが濃いものだった。
 ところが最近リリースされるデュアルパーパスモデルは、オフロードとオンロードをデュアル(両方)にこなすというよりも、オンロード使用を主にして、街乗りからツーリングまでデュアルパーパス(もしくはマルチパーパス)に使えるモデルという性格付けに変わってきている。
 自由に走れるオフロードが少なくなったこと、環境問題を反映してユーザーの指向が実用本位に変化したこと、ヨーロッパでの単気筒優遇税制などがそのバックボーンにある。
 このSLR650も、そんな時代の要請に応えたデュアルパーパスモデルの一つといえる。
 エンジンはドミネーターやXR650に使用されているのと同じRFVC644cc。純オフロードマシンであるXR600のエンジンをベースに、50ccあまりスープアップ、圧縮比を落として、十分なパワーとトルクをそのままに、マイルドな味付けになっている。

 

無骨で信頼感のあるラテンモデル

 同様のカテゴリーのモデルとして、ホンダにはドミネーターがあるが、スペインのモンテッサホンダで生産されるSLRはよりワイルドな雰囲気を持っている。モンテッサは古い歴史を持つスペインのオフロードマシンメーカー。ブルタコなどもそうだったが、スペイン製のオフロードマシンの特徴は見た目も作りも無骨なこと。SLRもその伝統を受け継いでいるといえる。
 フロント19、リア17インチのホイールに幅の広いタイヤの組み合わせや、ストロークの短いサスペンションでも明らかなように、オンロードユースとして割り切られている。
 先にも紹介したように、エンジンはベースとなったXRと比べて、ずっとマイルドで、アクセルワークに神経を使うようなことはない。BMWのF650も同じセグメントに属するマシンだが、マルチエンジンのようによどみなく回るF650のエンジンと比べると、SLRは大排気量単気筒の味わいを色濃く残している。とくに低速で地面をしっかり蹴っていることを実感させるトラクションフィールはビッグシングルらしい部分で、個人的にはこのワイルドなフィーリングに好感を持った。
 跨ると、ドミネーターやF650よりも一回りコンパクトに感じられる。取り回しも、SLRのほうが、明らかに小回りが利く。混みあった市街地で車の間を擦り抜けていくようなシチュエーションでは、SLRのほうに分がある。
 F650と比べると、SLRのほうが30kgあまりも軽いが、SLRのほうがどっしりとした趣きがある。たぶんこちらのほうが、重心の低さやマスの集中化の点で、よりロードモデルに近いせいかもしれない。その安定感と、スペイン製らしい無骨な雰囲気が、どことなく『手作り』を感じさせ、乗っていると、なんだかゆったりした気分になる。オートバイに乗るという気構えなしに、ありふれた道具を手に取るような馴染みやすさがあって、どんなシチュエーションでも気軽に使えそうだ。
 650の排気量は、高速走行も容易にこなし、ラバーマウントされたハンドルなどで、うまく振動も減衰されている。
 高速走行では、カウリングが欲しくなるところだが、F650やドミネーターが都会的な雰囲気を持っているのはスタイリッシュなカウリングによるところが大きく、いっぽう、このSLRの無骨さは、飾らないフロントビューによるところが大きいともいえるので、あえてこのままのほうがいいという気もする……。


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