NEWMODEL impression
BMW R1100S

 R1200Cで、アメリカンライクなクルーザーモデルという新境地を開いたBMWが、次に投入したのは、ドゥカッティ916を髣髴させるような、スパルタンなモデル。以前、KシリーズをベースにK1というレプリカ様のモデルを作ったことがあったが、あれが、あくまでもBMWらしさを追求した無骨な、他に類を見ないマシンだったのに対して、今回登場のR1100Sは、あくまでもスタンダードなレーサーライクマシンに仕上がっている。
 従来のBMWモデルを知っている人にとっては、まず、そのコンパクトさが意外に思えるはずだ。シート高は80cmと、RSと変わらないが、スリムに絞り込んであるその形状のおかげで、足付き性はいい。
 トップブリッジより下にマウントされたハンドル、高めの位置にセットされたバックステップなど、またがった雰囲気は、まさに近年トレンドとなっているビッグレプリカ系のポジションで、コンパクトにまとまっている。BMWの他のツアラー系モデルが『欧米人ポジション』と俗称される大柄なポジションなのに比べると、これがかなり毛色の違うマシンであることが実感できる。ただし、まんまレプリカの極度な前傾ポジションではなく、ゆったりと無理な力が加わらずにポジショニングできるのは、さすがにBMWといえる。そのあたりは、同様のフォルムを持つドゥカッティの916がスーパースポーツをうたっているのに対して、「スーパースポーツではなく、スポーツテイストを満喫できるスポーツツアラー」であると定義しているBMWのポリシーがはっきり感じ取れる。
 Rシリーズのエンジンは、ビッグツインでありながら、モーターのような滑らかな回転フィーリングが特徴だったが、このSでは、従来のRシリーズとは一味違った性格が与えられた。エンジンを始動すると、腹にしみる図太い排気音がマフラーから繰り出され、はっきりしたたくましいツインの脈動を感じさせる。BMWのツアラーモデルが、オートバイを運転していることを忘れさせるような、ライダーに極めて優しいインターフェースを持つのに対して、こいつは、「走りの楽しみを引き出してくれ」と、ライダーにねだるような官能性がある。
 圧縮率の高められたエンジンは、極低速での粘り強さと、中速のトルクフルなフィーリング、そして高回転まで吹けあがる気持ちの良さを兼ね備えて、街乗りでも高速でも、ワインディングでも十分にこなし、かつ楽しめる素質を持っている。
 BMWの他のモデルと決定的に違うのは、ハンドリングの軽快さ。ロングホイルベース化に対して、キャスターを立たせ、安定性と機動性の両立が図られ、その効果がはっきり出ている。直進安定性重視で、上体から体をもたれさせるようなコーナリングがBMWマシンのひとつの特徴だったが、このマシンでは、バンクさせてやれば、マシンのほうから旋回しようとする素直な傾向を見せる。
 レーサーレプリカライクながら、そのフォルムもエンジンフィールもハンドリングも、はっきりと質実剛健なBMWらしさが息づいている。闇雲に走りを楽しむのではなく、オートバイというプロダクトの魅力が様々な要素を持っているとわかる大人のライダーにこそ、その価値が理解できるだろう。


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