八丈島のほのんツーリング顛末報告

 噂をすれば影でもないが、先月、ツーパラでもお馴染みの小川修司氏の話しを書いたら、今月は、彼と一緒に取材に行くことになった。
 場所は八丈島。小川氏のお店『アウトドアスペース風魔』の古くからのお客さんで、八丈島の伝統産業『黄八丈』の織り元の若旦那、山下 崇さんが、ディープな八丈島を案内してくれるというのである。
 ノマド(遊牧民)人種の俺としては、どちらかというと、茫洋として果てしない広大な土地が性に合っている。そんなわけで、正直言って島というのは、あんまりピンとこないし、今まで、旅の対象地として島を考えたことなんてほとんどなかった。
 だけど、食わず嫌いは良くないからな。これも何かのご縁と、絶海の孤島?に旅立つことにした。

 

居眠りこくヒマもなく八丈に到着

 いつもアバウトなノリのどんどんの取材だが、今月は、また、輪をかけた状態。なにしろ、決まっているのは八丈島に行くというだけ。この企画の張本人のアバウト・シュージ(小川氏)からして、「山下くんがさあ、なんか考えてるよきっと」てな調子なのだ。現地で足にする原付きは、先に船で先に送ってあるし、ヘルメットぶら下げて八丈島行きの飛行機に乗れば、後は野となれ山となれ…。
 俺が住んでいるところから羽田空港まで2時間あまりかかる。二日酔いのけだるい体を引きずってなんとかたどり着き、飛行機の座席に収まって、「さあ、爆睡したる!」と目をつぶったら、もう着陸。なんと八丈空港まで35分。ほんと、飛行機で移動すると、日本の狭さを実感する。それにしても、35分とは…。
 そんなこんなで、二日酔いが抜けないまま、山下若旦那と合流。港で原付きを受け取って、さっそく島内巡りに出発だ。
 ちなみに、今回のメンバーは、アバウト・シュージにケンチ、それから、バリ島フリークのエピキュリアン・ポン太が「島ならぼくの出番ですね」と、副編集長の権力を乱用して合流した。こんなチンピラ中年カルテットを案内しなければならない山下若旦那こそ、いい面の皮だよなあ。

 

こりゃ〜ぁ「洞窟」じゃねぇゾ!!

 この日はまさに島晴れのいい天気で、走り出すなりアバウト・シュージは、「サンオイル、サンオイル」と叫んで、雑貨屋に駆け込んだ。日焼けを気にしているんじゃなくて、日焼けを促進するオイルを塗って、夏を先取りしようというつもりらしい…じつは、買ったのは日焼けしているように見せるための茶色いドーランみたいなもので、顔を洗ったら一人だけ生白いまんまというオチがつくのだが。
 そんなアバウト・シュージが、突然、「今晩は洞窟に泊まるゾ!」と言い出す。それを聞いたケンチが、「洞窟ですか、俺、稲村ジェーン(映画)に出てきたあんな洞窟に泊まってみるのが夢だったんですよ」なんてノリノリになる。アバウト・シュージのいいかげんさを知っているエピキュリアン・ポン太と俺は、ケンチのように無邪気には喜べない。
 案の定、山下若旦那が案内してくれたのは、鬱蒼としたジャングルの奥に怪しげに開いた穴であった。「なんですか? ここ」と、ケンチが間抜けな調子で言う。「ここが、その洞窟なんだよね。山下くん」と、アバウト・シュージ。懐中電灯をつけて入ってみると、そこは防空壕であった。山下旦那曰く、「戦争の末期に、米軍をこの島で迎え撃とうと、日本軍が掘ったんですよ。でも、硫黄島を攻略した米軍は、そこからB29を飛ばして、ここは素通り。けっきょく、なんにも役に立たなかったんですよね」。だから、兵隊さんの亡霊が夜な夜なうろつくなんてへんな因縁はないという話しなのだが、なんで、明るい島に来てムカデの這い回る真っ暗な穴に潜り込んで寝なければならんのだ?
 もちろん、アバウト・シュージの提案は即座に却下(反対3:賛成1)され、その日は、島の南東にある洞輪沢(ぼらわざわ)温泉の近くにキャンプした。
 山下若旦那がテントやらツーバーナーやらコッヘルやら、すべて用意してくれて、現地の海の幸に、自生のクレソンを彩りに加えてバーベキュー。まさに、大名キャンプだ。「だけど、若旦那、テントは雨に濡れたら、ちゃんと干しておきましょうね。二ヵ月前から育成されたカビは、けっこう強烈でしたゼ」。

 

原付が島のサイズにぴったり!

 ツーリングというと、どうしてもエンデューロマシンとかGTが思い浮かぶが、島という範囲が限定された空間では、ビッグマシンのメリットはあまりない。その点、今回は原付きを用意したのは正解だった。小排気量車のいいところは、どうせ走りなんかに期待はしていないから、風景が楽しめること。ここは、車の絶対数が少ないから、トロトロ走っていても、邪険にもされず、恐い思いをしなくても済む。そういえば、レンタカーは、軽自動車が圧倒的に多い。島には、原付きがベストマッチなのだ。
 今回は、山下若旦那という案内人がいて、取材班は、彼のモンキーバハにへばりついて走るだけ。はじめは、どこにいるのか、どこに向かっているのか、さーっぱりわからずにいたが、二日間走り回ったら、道をほとんど覚えてしまった。
 ここは北に八丈富士、南に三原山をいただく『ひょっこりひょうたん島』のような地形をしている。二つの山に挟まれた平地に市街があり、周囲には良港がある。山に登れば、空気はひんやりして爽やか。その麓には鬱蒼とした原生林が広がっている。また、三原山の南麓には温泉が点在している。なんだか、日本をそのままギューっと凝縮した感じだ。 街には高い建物はほとんどなく、平屋でゆったりした作りの家が多い。人ものんびりしていて、妙に観光ズレしたところもなくて、人間関係の距離感がちょうどいい感じだ。俺は昭和30年代半ばの生まれだが、なんだか、幼い頃の自分の田舎を思い出して、気分がえらくリラックスする。
 ノマドの俺も「たまには、のんびりするのもいいもんだ」なんて気になったが、ふと横を見ると、ケンチが、新婚ボケの緩み顔で、間近に浮かぶ八丈小島をうっとりと眺めながら、「羽田まで35分なら、今より通勤楽だよなぁ〜。一軒家借りてもたいしたことないだろうし、本気で考えようかなぁ〜」なんて、すっかりその気になっている。それを煽るように、「どうせなら、土地買いなよ。家は、みんなで共同して手作りすればいいし、内田君が車を提供するって言うし、野菜と魚は自給できるから生活費かかんないよ」と、アバウト・シュージが、またアバウトなことをのたまう。
 日本中で、果ては海外まで進出して、傍若無人のキャンプ生活を繰り広げている椎名誠氏率いる『怪しい探検隊』が、ここ八丈島には度々訪れるというが、なんだか、それもわかるような気がする。じつは、アバウト・シュージの元ボスの風間氏は件の探検隊の関係だし、俺も昔『山と渓谷』で仕事していたことなどもあって、あの集団に知り合いがいたりするのだけど、考えてみたら、こっちも同じような感性で遊んでいるのだ。
 腰を据えて遊ぶ!?なら、島はけっこうオススメだ。
 てなわけで、いろいろ案内してくれて家族ぐるみで歓迎してくれた山下若旦那に深謝。 島から戻って、俺はすっかり早寝早起きの健康おぢさんになってしまった。遊び癖のついたアバウト・シュージは、戻る間もなく店をほったらかして四国へ行った。ケンチは、山下若旦那に連絡して物件探しを依頼した。ポン太は、今度は家族旅行で行こうと決心して帰宅すると、まずは八丈の味を家族に賞味させようと、お土産のクサヤを焼いた。すると、その悪臭に奥さんが顔をしかめて、「こんな臭いモノのある島なんて、お父さん一人で行って」と、邪険にされた。
 最後までアバウトだったが、こんな旅もたまにはアリということで…。


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