3月号で夢の話しを書いたら、「ほんとにBMWをもらったのか?」とか「松阪牛ってそんなに美味しいの?」なんて真顔で聞くやつがわんさか出てきた。あのねえ、最後まで読んでくれよな。『すべては夢の中のお話でした、ジャンジャン』って、ちゃんとオチつけてあるでしょうが! 人の話しを最後まで聞かん奴も多いけど、文も最後まで読めっての。

 

あんこうのシビレ

 そんなわけで、東名高速を時速350kmで走ったなんて嘘八百を真に受けちゃう人もいたので、今回は、ちゃんとBMWを『借りて』ツーリングレポートすることにした。
 BMWジャパンさんから貸してもらったのは、シルバーとブラックのツートンの渋いK1100RS。BMWって言うと、伝統のボクサーツインの味わいがいいという人が多いけれど、オレは、「トランスポーターとしての2輪の機能を突き詰めて、突き詰めぬいて、もう無駄はどこにもない」といった徹底的非妥協的で、やるとなったらどこまでものこれぞゲルマン魂といった4発のKシリーズのほうが好きなのだ。好きなのだといいつつ、実は乗ったことがなかったりするのが哀しいところなわけで…。今回は、オレが勝手に懐いていた理想形としてのKと本物のKがどんだけギャップがあるか、意地悪く見てやろうなんて意味もこめて、ツーリングすることにしたわけだ。
 でだ、編集部にBMWを受け取りに行ったら、このページの担当でもあるケンチが、先月号でやり玉に上げた賀曽利オヤジと取材の相談をしているのを耳にして、これしかない!! とひらめいた。2人は、「春はあんこう鍋だ!!」、なんて例によっていい加減なノリで相談していたのだが(だいたい、あんこうの旬は冬だろうが!)、その行き先が茨城の那珂湊漁港だというのだ。ここは、オレの田舎に極めて近い。勝手知ったる田舎で歓迎…ならぬ待ち伏せして、いっちょ驚かしてやろうと思いついたのである。「ウチの実家に泊まれば取材費節約できるゼ。そのぶんあん肝たくさん食えるし、酒も飲める」と、甘い餌でケンチを共犯に引き込んで、動静を逐一報告させといて、件の那珂湊漁港で、「バァー!!」っと驚かせてやろうという寸法だ。それにしても、こんな風に小学生のガキみたいなノリで遊んでていいのかねぇ? まっ、オートバイなんて究極の遊び道具なんだから、ろくな教養もねえのにペダンチックにカッコつけて『ゲルマンの鉄馬に跨り、早春の常盤路をクルージング』なんてほざくよりは、『賀曽利オヤジを取材先で待ち受けて驚かしちゃろ』てな実存的なノリのほうが合ってるってもんよ。
 どうでもいいけど、そんな調子で出かけていったわけである。

 オートバイのインプレッションっていうと、すぐに馬力や操作性がどうのこうの、やれ取り回しの重さだ、足つき性だと、おきまりのパターンがあるけど、ことBMWに関しては、そんなことは二の次三の次だ。馬力は、必要にして十分あるし、多少足つき性なんか悪くても走りだしちまえば、下手な運転したってふらつかないし、重さだって、マスが集中してる上に低重心でコンパクトだから実際の重量よりずっと軽く感じられる。
 そんなことより、感動的なのは、このマシンのユーザーインターフェースの完成度だ。まず、跨っただけで、こいつがただものではないのがすぐにわかる。ほとんどのオートバイが、着座位置が決まるまでにしばらくかかるのだけれど、こいつは、跨って座ったとたんにベストポジションにビシッと決まる。そして、走り出すと、たしかに直進性は強いけれど、それは安心感を高めている上に、すり抜けだってスパスパ決まる。そして、なにより素晴らしいのは、メーターからバックミラーまで、すべてがほんの少し視線を動かすだけで全て視認できること。必要な情報は、常に視界の中にあり、それがうまくまとまっているので、神経を運転に集中できる。スイッチ関係も大きさや配置が絶妙で、これに神経を使うこともない。そうそう、それから、ちょこっとカミさんを載せて走ったのだけど、タンデムでも一人で乗っているときと操作性に差がないのもすごい。エンジンの馬力を上げたり、足回りに凝ったりというのは、ある意味でいつでもできる。だけど、こういったマン・マシンインターフェースのノウハウというのは、一朝一夕では確立できないだろう。まず、オレは、思想的にBMWにシビレっちまったのである。
 そして、常磐道を辿って茨城へ。いつも見慣れた肥溜め臭いド田舎風景が、何故かBMWのシールド越しに眺めると、アウトバーン…とまではいかなくても、どこか気の効いた外国のように見える。ただ田舎へ行くだけなのに、思わず旅情が高まってくる。ちなみに、4500rpm〜6000rpm、速度にして100km/hの120〜130%といったところで、エンジンの振動がほとんど消え、ハンドリングもレールの上を行くようにビシッと安定する。やっぱ、アウトバーンを1000kmも平気に移動できるマシンだわこりゃ。

 なんか、前置きが長くなっちまったけど、そんなわけで、あっという間に待ち伏せ先の那珂湊漁港についてしまったわけだ。
 ケンチと密かに携帯電話でやりとりしつつ、オレは「あんこうを一発釣り上げたれ!!」と釣り竿を垂れた。なにしろBMWのおかげで早く着きすぎたので暇をもてあましていたのだ。すると、桟橋には早朝の釣り客を乗せた舟が帰ってきた。「おう、にいちゃん、そんなとこで何釣ってんだ?」と、漁船のおやじさん。「いやあ、あんこうでも釣ろうと思ってさ」、「あんこう? おめえバカじゃねえのか? あんこうったら深海魚だっぺ。こんな桟橋から釣り糸たれたって、釣れるわけあんめえよ」。…考えてみりゃ、そうだわな。
 そんなことをしているうちに、カモがやってきた。
 ケンチを先頭に、賀曽利さん、盛長カメラマン、そして先月も紹介した昭文社の桑原氏が一列で…。オレは、賀曽利さんの前に、釣り竿かざして躍り出た。そして…作戦成功!! 賀曽利さんは鳩が豆鉄砲食らったような顔で驚いているし、桑原氏も、ひと心地ついてから、「いやあ、オートバイ誌って、ほんとに面白いことしますねえ」と喜んでくれた。これでいいのだ。これで今月のどんどんレポートはお終いなのだ。なに? 「カソリちゃんおさかな市場で大暴れの裏レポートはどうした」って。それは、ケンチが勝手に予告しただけで、このページの主導権はオレにあるんだから、関係ないのだ。…な〜んて突っぱねると、またケンチが徹夜開けのメラトニントリップ状態で、「あぁ〜、また、仕事ふえたぁ〜」なんて、嘆くから、一発、キレのいい裏話をしておこう。

 

賀曽利オヤジは、ナマで喰う!!

 昔、賀曽利さんの野人仲間、風魔オヤジ(冒険ライダーの風間深志氏)が主催する“地球元気村”(アウトドアのお祭り)に、仕込んでおいたタンドリーチキンを持って行ったら、ただタレをまぶしただけのそれを賀曽利さんは、なんと生(ナマ)で味見をするではないか!? 一緒にいたカミさんは、それを見て「人間じゃない!」と絶句…。この事象をふまえれば、那珂湊のおさかな市場で、「人間じゃない!」という言葉が喧騒のごとく飛びかったという状況は理解していただけるだろう。桟橋で深海魚を釣ろうという奴もけっこうおバカだけど、生あんこうにかぶりついて味見する人は…。
 と、おさかな市場で狼藉を働いた賀曽利オヤジ一行は、あん肝に七つ道具、マグロの頭(ドッヒャー驚きの300円)やら、手当たり次第に仕入れた。そして、山のような海の幸をバイクに満載し、R51を南下。“狂乱の宴”が催されるオレの実家に到着したのだ。 さて、オレが作ったあんこう鍋は絶品なのは当然だけど、賀曽利さんが包丁ふるってさばいたマグロのカマもこれまたほっぺたボタ落ちの絶品であった!!(※注→カラーページであんこう鍋が“カソリ味”となっているのはページにノリを出すための編集部の策謀である。料理したのはオレなんだから“ウッチー・テイスト”というのが本当だ。編集部の横暴に強力に抗議しながら、どうでもいいけど腑に落ちないから自ら訂正しとくゾ!)
 それにしても、料理をしている賀曽利さんなんて初めて見たが、○○に刃物…じゃなくて、けっこう板についているんで驚いた。
 お見それしました、賀曽利さん!!


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