01/10/22
道具と付き合う
毎週木曜日に「TOURING WAVE」で連載しているコラムがあるのですが、そこで、身近な道具にまつわる話を書きました。
藤枝静雄に『田紳遊楽』という小説があります。
年期を出すために池に沈められた古道具たちに、付喪神が憑いて、話し出すという内容ですが、自分の身近にある道具たちのこと考えて、道具が魂を持って話をしたりしていることをリアルに感じたのです。
「トイストーリー」のように、人が寝静まった頃に、道具たちが一人で動き出して遊んだり、気の合う道具どうしで話しあったりしているんだろうなぁなんて想像すると同時に、長く使い込んで愛着のある道具というのは、道具のほうから話し掛けてくるような気がするものです。
そのコラムでも触れたましたが、しばらくエンジンをかけていなかった愛車のMGFは、セルモーターからエンジンへの伝達系が不調になり、それを直したら、今度は助手席側のウインドウストッパーが破損して、ルーフとウインドウの間に隙間ができしまいました。
じつは、これはこの車の定番ともいえるトラブルなんですが、タイミングが良すぎます。
内張りを剥がして中を見ると、案の定、オレンジ色の安っぽいストッパーの爪が折れて落ちていました。車もバイクも動かさずに置いておくと、可動部品や樹脂製部品の劣化が進んでしまうものですが、そういった理屈ではなく、ぼくには、「たまには、遠くへドライブに連れ出してくれよ!」というMGFからの呼びかけに感じられました。新しいストッパーを付けたら、久しぶりにロングドライブに連れ出してやるつもりです。
それから、先日、コッヘルのことで、問い合わせをいただいたのですが、そのイギリス製のブランド物クッカーについて、ぼくはまったく知りませんでした。
ぼくがメインで使っているのは山を始めたばかりの頃(...ということは二昔以上前のこと)から使っていて、ボコボコになったHOPEのアルミクッカーです。それで不自由なくずっと通してきてしまったので、ことコッヘル(クッカー)については、無頓着でした。
他にも、米軍放出の角型クッカーやテスト用にもらったトランギアのクッカーなどもあるのですが、ソロで山登りやツーリングに出かけるときは、自然に、HOPEのボコボココッヘルをザックに突っ込んでしまうのです。
10年くらい前から、ザックからボコボココッヘルを引っ張り出す度に、「そろそろこいつも引退させて、軽くてアルツハイマーの恐れもないチタンクッカーにしようかな」なんて思うのですが、でも、自分の体の一部のように馴染んでしまっているので、気がつくと、こいつをまたザックに入れているんですね。
最近、気に入りの道具に加わったのは、取材などで使う一眼レフカメラ、CANONのEOS7です。
カメラも、20年近く、手に馴染んだ道具としてモータードライブ付きのF-1を使いつづけてきました。
でも、これに対応したレンズはとうの昔に生産中止になり、メンテナンスなどで不都合が出てきたので買い換えることにしたのです。ほんとうは、F-1も温存しておいて新しい機材を追加したかったのですが、さすがに経済的につらいので、F-1を下取りに出して、新機材に入れ替えることに...。
それで、新宿のマップカメラに、F-1を持って出かけて行きました。すると、これが、最近、マニアの間でプレミアがつくほどの人気ということで、思いのほか高い下取り価格がついたのです。そして、運のいいことに、EOS7とTAMRONの28-200mmという目星をつけていたレンズも、その場にほとんど新古品といってもいいくらいの程度のいいものがあって、なんと下取り価格とほとんど同じ値段で、このセットが買えてしまったというわけです。F-1は山やら砂漠やら、かなり過酷な条件で良く働いてくれた上に、次の道具が買えるようにしてくれて、まったく親孝行...主人孝行な道具でした。ちなみに、EOS7も前任者同様、すこぶる機嫌よく、この夏のツーリングマップルの取材から働いてくれています。
話はちょっと逸れますが、この数日、たて続けにアンディ・マクナブの『リモートコントロール』と『クライシス・フォア』を読みました。
元SAS隊員のマクナブは、文壇デビュー作が内容のリアルさのあまり、危うく発禁処分になりかけ、イギリス国防省との取引でなんとか発行できるようになったという曰くつきの作家。そのフィクション第一作と第二作です。
1999年に発表された『クライシス・フォア』は、今渦中のウサマ・ビンラディンとその活動について克明に語られていて、それも非常に興味深いものでしたが、主人公がプロとして、道具を選び、手入れし、そして使う、一連の道具との関わり方が、妙に共感できて、ついのめりこんでしまったのです。
特殊工作の話なので、とくに、銃が道具として重要な役割を果たしています。銃は、ある意味究極の道具の一つです。使用目的は別にして、徹底的に機能的に作られている軍用銃は、全体のフォルムから細部まで、独特の「美」を持っています。
IRAのスナイパーが日本の豊和工業製の89式という.223口径のアサルトライフルを好んで使うという話がありますが、スイスのSIG製アサルトライフルを参考にして開発された89式は、スイス製品のコピーから、ついに世界を席巻した日本製の腕時計を連想させます。
ちなみに、自衛隊の最新式アサルトライフルでもある89式は、狩猟用という名目で東南アジアに輸出され、それが闇ルートに流れて、IRAの手に渡ったそうです。
もっともポピュラーなアサルトライフルであるAK47が中国製のライセンス生産品で5000円あまり、アメリカ製のM16が3万円あまり(もちろん、日本では買えません。武器取引の末端価格)、そして89式はなんと30万円超(自衛隊への納入価格)。生産数が極端に少ないということを差し引いても、89式の性能の高さが伺いしれます。
軍用銃となると話は別ですが、海外でアウトドアアクティビティを楽しもうとするとき、とくにそこが猛獣の住むウィルダネスだったりすると、防衛のための道具としてライフルやハンドガンを持つ必要が生じることもあります。
また、自分ではやりませんが、ぼくは、ハンティングも健全なアウトドアスポーツ(人によっては生活の手段)の一つだと思っています。そんなわけで、ぼくは、銃も必要に応じて使う道具の一つだと思っています。
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20年来使いつづけているHOPEのアルミコッヘル。樹脂製のストッパーは欠けているし、底も側面もボコボコですが、まだまだ使えるし、何より、いろんな思い出が染み込んでいて、気がつけば、いつも一緒にいるんですよね... |
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今年から新しい相棒になったEOS7。一眼レフはAE-1、F1ときて、こいつが三代目。マグネシウム合金ボディのF1は、20年、そうとう過酷な条件下で使ってもマイナートラブルするないほど堅牢でしたが、プラスチックを多様したこいつはどうでしょう? ボディは一体整形なので、F-1より、砂や水が内部に侵入することは少なそうです。また、非常にコンパクトで軽いのがいいですね |
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いろいろオチャメを見せてくれるMGF。これは、ドアの内張りを剥がしたところ。修理や調整のために、何度も剥がされた防水フィルムは、ガムテープで継ぎ接ぎだらけ。いっそのこと剥き出しのままにしておいたほうがメンテナンスしやすいかな...。下は、爪の折れたウインドウストッパー。出来そこないの部分が多い道具ですけど、それを気にさせない魅力があるんですよね... |
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先月、取材用車両として借りたトライアンフの「タイガー」。車体の下に見える染みはガソリン! 誰かが、タバコをポイッなんてやったら...こういうトラブルは、さすがに「イギリス車はオチャメ」なんて悠長なことは言ってられませんね。だけど、メーカーのほうが対策を施したマシンを用意してくれるというので、仕切りなおしで、次の旅の相棒にしてみるつもりです |
――― uchida
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