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はあ、と息を吐いたら、どうした?とフランスさんに声をかけられた。
「ちょっと、緊張して…。」
「緊張なんてする必要ないだろ?」
そうフランスさんが言えるのは、受付何回もやってるからだと思う。

初体験な僕にとっては本当にどきどきで。何やってもとろい僕だから、お客様に迷惑かけないかな、とか。何かトラブル起こったらどうしようとか。いろいろ考えちゃう。

「大丈夫。…俺がここにいるから。」
な?と笑われて、はい、と苦笑する。
役者、として練習していたフランスさん。…ほんとは、スペインさんの代役だったんだけど…。

「…怒りますよ?きっと。」
何も知らないロマーノのことを思い出して言うと、大丈夫、怒られるのはスペインだから、って……たぶんフランスさんのことも怒ってると思うけどなあ…。
「それともカナダは、俺とロマーノがキスした方がよかった?」
「…いいえ。」
それは素直に首を横に振る。

彼女は、本当に魅力的だから…恋人であるフランスさんは、昔から綺麗な人に目が無いし。
「…俺のこと信用できない?」
「信用はしてますよ。…嫌なものは嫌なだけです。」
そう言ったら、彼は、それはそれで心地いいなあ、と笑った。

「何ですか?」
「カナダのヤキモチ、なんて。」
うれしい限りだよ、なんて笑うから。少し恥ずかしくなってしまった。
「照れたカナダも可愛い…。」
す、と近づいてくる顔に、そろそろ時間じゃないんですか!と慌てて声をかける。

「っと…あー…受付開始の確認にいかないとな…。」
「舞台裏回ってきますから、照明と音響、お願いします。」
きっぱりと言ったら、はーい、と残念そうな顔。…キスできなくて残念なのは、彼だけじゃなくて、僕もそう思ってる、けど。
ちら、と見る。少し離れたところに、スウェーデンさんとフィンランドさん。…人前では、ちょっと。

苦笑して、ふと目に入ったから、フランスさん、と声をかける。
「ん?」
「花が、」

受付みんなが、揃って付けた、薔薇を模した花飾りは、ハンガリーさんと僕が作ったものだ。僕は胸につけているけど、フランスさんはリボンをつけて、ネクタイの代わりにしている。首もとに付けられたそれが、右にゆがんでいた。
近づいて、きゅ、と直すと、いいねえこういうの、と楽しそう、というかでれでれした声。

「はい?」
「新婚さんみたい。」
何言ってるんですか、という前にちゅ、と額にキスされて、顔が熱くなる。
「フランスさん!」
「いってきまーす」
…逃げられた。もう!

油断も隙もないんだから、と呟いて首を振って、舞台裏へ回るために楽屋の方に足を向けた。


もうすぐ、本番の幕が上がる。


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