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「ごめん、なさい…。」
そう謝ると、はああ。とため息。
「逃げ足だけは早いんやな…。」
自慢じゃないけどな!…逃げ足だけは。弟と共に世界一の自信がある。
「ロマーノ。」
だから。…怒られる前にいつも逃げるから。怒られるのは、苦手、だ。スペインは。いつも走り回った後は、諦めたみたいに笑うから。それでおしまいに、なるから。
怒られるのは、怖い。

ぎゅ、と目を閉じて、うつむいたままでいると、もう一度、ため息。
ぺしり。と、軽く、本当に軽く、頭をはたかれた。
「謝ったってことは、悪いことしたって、わかってるんやろ?」
こくん、とうなずくと、やったら、逃げたりせーへんと。と言われる。…だって、もう無意識に近かったんだ!
もう一回、謝った方が、いいかな。とか思いながら、居心地悪くて、手を動かすと、あああ!と大きな声!
びくっとして顔を上げると、ぐい、と手首を引き寄せられた。

「怪我してるやんか!」
「え…。」
あ。ほんとだ。じわりとにじむ、血。痛みはない。熱い、けど。だから気付かなかった。…素手で、破片に触った、ときかな。
「もー…どじやなあ…ほら、手当てせな。」
「別にこれくらい、」
平気、と言おうとするのに、その前に腕を引かれて。きゅ、とハンカチでしばって、応急処置。てきぱきとした手際に瞬いて。
「はい、とりあえず止血。救急箱とってきたら包帯巻くから、」
「そんなする必要ないだろちくしょーが!」
たかが指先、切っただけなのに。大げさなんだよ、と言えば。
彼はきょとんとしてから、くしゃくしゃと頭を撫でてきた。
「!!?」
「…そやなあ。…ロマーノはなんか。一人でがんばろーってしてて、見てて危なっかしいから。」
つい甘やかしたくなるんやけど。何でやろ?そう、言われて。

「…親分だから、じゃないのか。」
「んー…ロマーノやから、な気がするけど」
「!!」
まあええか。とりあえずバンソーコー、と箒取って後片付けやな。手伝うから早くしよ。
そう普通に会話を続けるスペインに、顔が熱くて何もいえなくて、うつむいたままこくん、とうなずいた。
そして気づいた。手の中に、また感触。…これ、は。

『鍵のかけら』を手に入れた!

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