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呆然としていたら、ばっと、手の中からそれが、消えた。
はっとすると、顔を真っ赤にした彼が、目の前にいて。

「…見た、のか…?」
おそるおそるの言葉に、とっさにすみません、と謝る。
視線を落とすと、彼の足先が見えて。
「あ、いや、これは、その、そう!練習で…。」
ああ、やっぱり。では意味を知っていた、わけではないのだろう。

そう思って、一応、と思って尋ねる。
「意味。…いや、わかってないんだが…。」
何かまずい歌だったか?って…ほら。期待しなくて大正解。
それでもどこか落胆してしまう気持ちに叱咤して、いいえ、と笑ってみせる。

「ところでイギリスさん。これ、だ、の形おかしいですよ。点がここじゃ何だかよくわかりません。」
「うっ…だ、だから練習だって言ってるだろう!」
勘違いするなよ、おまえのためじゃないからな、中途半端にしておくのは気にくわないからなんだからな、だそうだ。…わかってますよ。
「…ま、まあ、おまえがどうしてもと言うなら、教えられてやらないこともないけどな!」
友達のよしみで!…らしい。

ああ、友達。…いや。それは、うれしいこと、のはずで。

「ありがとうございます」
笑ってみせると、彼はうれしそうに笑った。…ああ。
ゆっくり目を閉じたそのとき。


扉の閉まるような音がした