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「…枕草子?」

しかも日本語…そのうえ、旧仮名遣い。本自体はわりと新しいけれど、明らかに私の家のもの、だ。どうしてこんなところに?
手にとってめくれば、当たり前だがひらがなが並んでいて。
…久しぶりのそれに、ひどく懐かしい気分になった。
内容はほとんど覚えているそれを夢中になって読み進めて。


「あれ、日本?」
いきなりかけられた声に驚いて振り返ると、イギリスさんの姿!

「びっくりした…どうかされたんですか?」
「いや、資料をな。…あ。」
視線はまっすぐに、私が持っていた本に向けられていて。
「あ、すみません勝手に…」
「ああ、いや。」
彼に渡すと、それをぱら、とめくって。
「やっぱり難しいな…」
最初の方で諦めたんだ、ほら。そう言って彼が見せてくれたページには、しおりが一枚。だいぶ最初の方だ。

「どうしてこれを?」
首を傾げると、あー…と声。
「…一緒に暮らす奴のことは知っておくべきだよな、と思って。」
あ、勘違いするなよ!別におまえのためじゃなくて俺の知識の幅を広げるためにだな。
返ってきた声に、瞬いて。
優しい気持ちに小さくほほえんだ。
彼がこうやって、私のことを思ってくれるのはとてもうれしい。優しい人。そして、照れて言い訳をしているのは可愛らしい。

「…じゃあ、イギリスさん、提案です。」
「ん?」
「それをあなたに教えますので、私に英語を教えてください。」
交換です。にっこり笑うと、彼は柔らかく微笑んで、頷いて。
「それくらいおやすいご用だ。」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。」


まるで公式の場みたいに握手をして、顔を見合わせて2人同時に噴き出した。


仕事に戻る彼を見送って、さて、と預かった本を見下ろして。
…あれ。何かはさまってる?
「…あ。」




『鍵の欠片』を手に入れた!

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