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甘い、香りがした。
「ん…」
ゆっくり、と瞳をあけると、目の前に澄んだ空色の宝石が見えた。見間違いようのない、色。
「…ドイツ、」
思わず頬を緩めると、おはよう、と低い声。ベッドに腰掛けて、顔を覗き込んでくる。
「おはよ。」
腕を伸ばして首を引き寄せると、両頬にキスを一度ずつしてくれた。同じことをし返して、そのむきむきな胸に擦りよる。
当たり前にそれをしてから、はっとしてごめん、と離れた。こっちのドイツにはしないようにしてたのに…!

慌てていると、おかしそうな笑い声。
「何を謝ってるんだ?」
いつものことだろう。さらっと言われて一度瞬く。いつも、の、こと。

ドイツの向こうに、本棚が見えた。…その中に、写真立て、がひとつ。写っているのは、ドイツと俺と、日本。そう、久しぶりに遊んだ時に撮った、…あれ?でも、それは。たしか。…向こうのはず。あれ、ってことは、ここは?

「…俺、帰ってきた…?」

思わず呟くと、何だ、夢でも見たのか?と言われた。
夢。…そうかも、しれない。
思わずほう、とため息をつく。
「怖い夢だったか?」
「…ううん。とってもいい夢だったよ。」
そう答えて、微笑む。もう一度擦り寄ると、髪を撫でられた。
優しいその仕草にうっとりと目を細めて。

ふわり、とまた香る、匂いに気がついた。

部屋の中を見回すと、見慣れない、小さな植木鉢がひとつ。
「…どうしたの、それ?」
昨日まで、長い夢の後だからあんまりよく、思い出せないけどでも。無かったはずだ。窓際に、小さなヘリオトロープの咲いた植木鉢。それが、甘い匂いの元、だった。
「あー…。それ、な。」
そうぼそりと呟いて、ドイツは気まずそうに頬をかいた。どうしたんだろう?
手を伸ばすと、ドイツがとってくれた。近づくとまた、香りが広がる。

「買ってきたの?」
「ついさっきな」
「えっ!?」
「なんとなく、な。こうしないといけない気が、したんだ。」
みていたら、そっと、植木鉢ごと抱きしめられた。…あれ、これ、さっき。夢の中、で。

「…世界で一番好きだ、イタリア。」

夢と一句一字違わない言葉に目を丸くして、思わずなんで、と尋ねる。
「よく、は覚えてないんだが…夢を、見た気がして。」
おまえのことを知らない、俺がいて、けれど毎日一緒にいて、好きになって、告白して。そんな、…幸せな夢を、見たんだ。

耳元で言われる言葉。…ああ、でも。そんな、偶然、偶然?違うかもしれない、けど、ああ、もう!
腕を回して抱きつく。大きな背中。ごつくて、むきむきで…大好きな人の背中!
思わず笑って、でもなんだか泣きそうで、それでも、言わなきゃと思って、深呼吸一回!


「ドイツ大好き!」


甘い香りが、祝福するようにふわりと香った。



『甘い香りに包まれて』End!





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